ヨーロッパの統合もアジアの分断も、アメリカの世界戦略

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アジアの共同をいかにつくるか?

青山学院大学教授 羽場 久美子

「ツキジデスの罠」

 「権力が入れかわるとき、戦争が始まる」――ハーバード大学教授、グレアム・アリソンは、紀元前431年に始まったペロポネソス戦争以降2000年の体制転換を分析しつつ、『米中戦争前夜』でこう述べている(1)。2020年の新型コロナウイルスの蔓延はさらにそれを推し進めているように見える。20年8月初めまでの6カ月で500万人の感染、16万人の死者を出し、さらに感染を拡大させているアメリカは、経済のみならずコロナ対策においてもリーダーとしての正統性を失いつつある。同盟国欧州や日本でさえアメリカ・トランプ政権の経済的・政治的衰退と同盟国批判に戸惑いを見せている。
 こうした中、東アジアの日中韓の亀裂がこれまでになく深まっている。背景には、「米中貿易戦争」に象徴される米中の覇権争い、現実にはアメリカ経済の衰退と中国がそれに代わる覇権を争う時代という問題がある。
 コロナ禍の中でも20年6月の世界の株価時価総額トップ50で、1位のサウジアラビアを除く、上位2~6位を占めるGAFA・Microsoftに、中国のアリババ、テンセントがぴったりついて追い越す勢いであり、韓国・台湾企業も20位までに入っている(2)。トップ100全体でも米国47、中国24で競っている。日本はようやく46位にトヨタで、100位以内にたった3社しかない(3)。
 アメリカの力の衰退は、01年の9・11、リーマン・ショックから始まり、トランプ政権で価値や倫理のレベルで世界的リーダーシップは大きく後退した。コロナの打撃の中、20年大統領選挙でたとえバイデンが勝利しても、まき直しには相当な時間がかかりそうだ。ましてトランプが再選されれば、アメリカの世界的リーダーシップは修復できないほど後退する。
 ことは経済にとどまらない。18年ボストンでのASEEES(Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies)の国際会議では、アメリカの安全保障幹部の報告で、中国は軍事技術や武器を既にロシアに輸出していることが資料で示された(4)。情報軍事技術のレベルでもアメリカは中国に競争を仕掛けられている。
 そうした中、18年12月、カナダでのHuaweiの幹部孟晩舟CFOの逮捕(5)や米の同盟国における中国のIT使用や部品技術提供の禁止、米英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの「ファイブ・アイズ」による中国包囲網の形成と日本・インド・韓国への協力要請(6)、日本・沖縄・韓国・台湾における軍事化やミサイル防衛の拡大(7)など、アメリカは積極的に中国に攻勢を仕掛け東アジアへの緊張を高めている。他方、コロナ禍の中、日本政府はコスト面や地元の反対などからアメリカのイージス・アショア2基の配備中止を発表している(8)。


1 グレアム・アリソン著・藤原朝子訳『米中戦争前夜──新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社、2017年。
2 World Stock Market Cap, 2020年6月(毎月集計)
3 「『コロナ後』世界100社ランキング、日本は3社のみ」「朝日新聞デジタル」サンフランシスコ=尾形聡彦、2020年6月26日。
4 Convention of ASEEES, December 6-9, 2018, Boston, MA.
5 「中国ファーウェイ幹部、カナダで逮捕 米国に移送へ」CNN News、2018年12月6日。
6 「日本、韓国、インドが米英スパイ同盟『ファイブアイズ』に加盟する 尾を引く日韓GSOMIA問題」―Five Eyesは、対ソ連情報網として1946年に形成、現在、日韓インドを加えて対中国監視網としようと企画。米下院情報特別委員会で報告。木村正人、Yahoo Japan News, 2019.12.20。
7 「日本の安全保障に欠かせない台湾防衛」元東部方面総監・渡部悦和、2019年9月17日。
8 「河野氏『費用は当然負担』陸上イージス計画の違約金」寺本大蔵、2020年6月22日。

アメリカの世界戦略の違い――欧州の統合とアジアの分断

 そもそもアメリカは第二次世界大戦後、欧州と東アジアで異なる戦略をとってきた(9)。
 第二次世界大戦後、欧州は戦争の荒廃を経て、1950年シューマン宣言を出し、52年に西ドイツと他の欧州との資源共有として、石炭鉄鋼共同体ECSCを創設した。それにより共同市場が形成され、輸出入の関税が撤廃された。
 「独仏和解」の象徴となったシューマン宣言は、ジャン・モネの原案と当時のアメリカ国務長官ディーン・アチソンの示唆により行われ、メソジスト教会の反ソ連の文化和解運動「道徳再武装MRA」がそれを支えたとされる(10)。さらに57年にはローマ条約が締結されて、ヨーロッパの経済統合と原子力共同体の創設に踏み出した。その背景には米欧同盟へのドイツの取り込みとソ連の排除があった。
 戦後の国際秩序をつくるため欧州に代わって台頭してきたアメリカが、西欧、特にドイツの統合による経済政治再編を積極的に推進し、49年4月4日、米英のリードによって、「keep the Russians out, the Americans in, the Germans down(ロシアを締め出しアメリカを引き込みドイツを抑え込む)」という英イズメイ卿によって言われたNATO創設の言葉に端を発する戦後欧州の再編と統合、冷戦開始によるソ連と東欧の排除が、新国際秩序の枠組みとして行われたのである。これにより西ドイツは、55年、当初のフランスの反対を超えて再軍備しNATOに加盟した。欧州=西欧の統合は、和解の名の下、アメリカとの共同、ソ連・東欧の分断と排除によって始まったのである。


9 Kumiko Haba, “The United States Different Strategies of “New World Order” between Europe and Asia in the Postwar Period”, 100years of World Wars and Post-War Regional Collaboration and Good Governance: How to Make New World Order?, SCJ Aoyama Gakuin Univ. Kyoto Univ, 2020.3. pp. 80-96.
10 God and the EU: Faith in the European Project, Ed. by Jonathan Chaplin and Gary Wilton, Routledge, London & New York, 2016, p.54.

東アジアの分断

 他方、東アジアでは、1945年7月17日~8月2日のポツダム会談の中で、7月26日にポツダム宣言(11)が発せられたのち、8月6日と9日、広島と長崎にウラン235、プルトニウム239という異なる2発の原爆(12)が落とされ、8月14日に日本はポツダム宣言を受諾し、8月15日に戦争終結宣言、9月2日に調印発効されて戦争は終結した。二つの原爆は果たして必要だったのかが問われるゆえんである。49年、中国では共産党が国民党を追い出し中華人民共和国を宣言し、その後50年に朝鮮戦争が勃発した。
 51年9月8日、ポツダム会談に6年遅れて行われたアメリカでのサンフランシスコ講和会談(講和条約は52年4月28日発効)では、先の「ロシアを締め出しアメリカを引き込みドイツを抑え込む」に倣い、いわば「keep the Russians-Chinese out, the Americans in, and the Japanese down」ともいうべき政策が遂行された(13)。南北朝鮮の分断とともに。
 欧州でも、ヨーロッパの東半分、東欧はソ連の側に追いやられた。西欧の歴史的後背地として存在した東欧、特にソ連軍の占領下にあった東欧は、ヨーロッパの統合の枠組みには組み込まれなかった。47年7月、マーシャル・プランの初期には戦後復興構想の枠内にあった東欧は排除され、欧州統合は、最終的に西欧とドイツの統合とアメリカとの経済・軍事同盟の連携の下に成り立ったのである。
 東アジアでは、米英が西ドイツを取り込もうとした49年から大きく政治情勢が変化した。49年に中華人民共和国が設立されて国民党政府は台湾に逃れ、また50年朝鮮戦争が勃発する中、開催されたサンフランシスコ講和会議では、中国・韓国・ソ連という日本の近隣国は排除されて戦後秩序が形成された。インドもそれに抗議して参加しなかった。故に「片面講和」と呼ばれる。日本が隣国に対して起こした戦争被害について隣国と講和条約を結び得なかったことがポツダム条約の際のドイツとの大きな違いであった。
 現在まで残る歴史問題、慰安婦、歴史認識、徴用工問題をめぐる対立と緊張の激化は、戦後から現代に至るアメリカおよび連合国の、共産圏締め出し、中国・ソ連の孤立化戦略と密接に結びついている。東アジアの主要3地域、中国・朝鮮半島・日本がいずれも分断され、冷戦の二極構造が固定化され、むしろ東アジアでは強化されて現代に至っているからである。
 それに基づき、在日・在韓米軍は冷戦終焉後も残り続けた。これは89年の冷戦終焉によって在ドイツ米軍50万人が撤退し、イラクやルーマニア・ブルガリアに向かったのと大きく異なっている。
 その背景には、(1)日本がアメリカにとって地政学的に極めて有利な位置にあること。ロシアから中国の海の出口を覆う南北3000キロに及ぶ日本列島が、ソ連・中国に対する西側の自然の要塞として重要な位置を占めていること、(2)19世紀から近代化を進め、米欧の理念を吸収していたこと、(3)さらに逆説的には、パールハーバーでアメリカを攻撃した軍部ナショナリストの存在により、同盟国としての日本を十分信じられず、放置しては中国と結ぶ可能性がある、という警戒もあった。また、周辺の社会主義国との共同は日本の右翼にとっても危険な存在であった。故にアジアとの共同を唱え、民衆の人気を博する優れた政治家は暗殺されたり、病に倒れたり、失脚したりした(14)。
 アジアの分断は、日中韓相互の内部からもたらされたというより、アメリカの世界戦略の一環として歴史的にもたらされた点が大きい。
 「独仏でできた和解が、なぜ日中韓でできないのか」の原因は、アメリカの東アジアへの世界戦略が現在まで続いているからこそ、である。そもそも独仏和解は、日本オランダ和解に近い。規模も小さく非対称であり、アメリカが欧州結束のために求めた和解でもあった。ドイツ690万人の死、ポーランド600万人の死に対して、フランスは50~60万人の死。日本200万人の死に対してオランダ30万人(軍人のみでは1・7万人)の死。それに対しては十分すぎる反省が現在まで繰り返されている。ドイツが、2000万人が亡くなったソ連に対する賠償やお詫びを行っていないように、日本も1000万人を超える死者をもつ中国に対し賠償やお詫びを明言できない。ドイツとロシア、日本と中国、いずれも両者が接近することを、アメリカが警戒したといえる。


11 ポツダム会談には国民党政府の中華民国、遅れてソ連が参加した。蔣介石の中華民国は「日本への降伏要求の最終宣言(Proclamation Defining Terms for Japanese Surrender)」において、アメリカ、イギリス、中国の「米英支三国共同宣言」の主要な一国であった。
12 「ウランとプルトニウム」今中哲二、京都大学複合原子力科学研究所、2018年。
13 1945年のポツダム会談では、日本降伏要求の最終宣言として、「米英支三国共同宣言」と呼ばれるほど存在感を示した中国政府は、共産党が政権に就くことによって、サンフランシスコ条約から完全に締め出された。
14 中国を支持しアメリカを批判して右派の青年に暗殺された浅沼稲次郎(1960年)、日中国交正常化を成し遂げた後、ロッキード事件に関与、その後、病に倒れた田中角栄(93年)など。

歴史の転換点、アジアの再編にどう取り組むか

 アメリカの経済的衰退に伴うアジアの緊張の高まりの中で、われわれはどうアジアを再編するか。それはアメリカの世界戦略に対抗して行う、困難な課題である。
 日本は第二次世界大戦期において、世界最強の軍事力と経済力を持っていたアメリカを敵に回した経験から、現在、トランプ政権であってもアメリカを批判したり離れたりすることは許されない。
 しかし今や21世紀のGゼロ(リーダー不在)時代の現代国際関係に立って、日米関係を客観的に見直すと、今、トランプ政権のアメリカとだけ組み続けることは、第二次大戦前の日本の読み違いに勝るとも劣らない、危険な賭けである。
 アメリカの時代は、あと数十年続くにしてもゆっくりと内側から衰退しているように見える。トランプの共和党であれ、バイデンの民主党であれ、アメリカが世界秩序をつくるという生き残りをかけて、中国に積極的な軍事包囲網をつくり挑発する可能性があることは、昨今のメディアに登場するアメリカの安全保障戦略家の言動からも明らかである。民主党も含め、アメリカの世界システムを守るために、戦略的に中国と周辺国の対立を利用し、アメリカが手を出さず、近隣国同士の軍事対立を促す可能性も高い。われわれは局地紛争としてのアジア民族の兄弟殺しをお互いにさせられる可能性を避ける必要がある。
 アジアの不安定化と抗争の時代に重要なことは、勝ち目のない敵との軍事対立ではなく、自国に利をもたらす経済・文化共同、新たな世界秩序を見通す思想や価値、倫理を磨くことであり、共同の若手育成であり、新しい世界秩序をどうつくるかの構想である。
 「日本はどうすべきか」。それを考えた時、コロナ危機という疫病を乗り越えて、「EU復興基金」を提案し、配分をめぐって議論はあるにせよ、コロナ被害の国々や人々を協働で救おうとするEUや、「誰も取り残さない」SDGsの世界を目指す国連・WHOと結び、日本の高い医療技術や経済力、高い文化と深い思想・倫理を掲げて、世界と、また近隣国中国やアジア諸国と結ぶ時代をつくる必要がある。
 日本にとって重要なことは、衰退しつつあるアメリカの世界戦略の先兵となって、中国というさらに成長しつつある巨人に戦いを挑むべくミサイルや軍事力を増強することではなく、隣国たる中国・韓国・ロシアと戦わず、EUやASEANのように、「対立と紛争があるからこそ」、地域の安定と東アジアの安全保障の制度化、安定と平和を、対立国とともにつくり安定と繁栄を生み出す知恵を身につけることである。
 アメリカは自国の衰退を押しとどめるために、QUAD(米・オーストラリア・インド・日本(15))や「ファイブ・アイズ」(米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)というアングロサクソン白人の諜報軍事機関にインド・日本・韓国を引き入れ、中国包囲網を形成しようとしている。インドは独自の立場から、それに対抗していたが、2020年の7月の中印国境紛争再燃で、アメリカ側に傾きつつあるように見える。日本も河野太郎前防衛相が参加招聘を歓迎する旨を述べ、対して中国は日本のファイブ・アイズ参加は中国に大きな影響がないことを述べた(16)が、アメリカの中国包囲網に加担することは、東アジアの不安定化と分断を進める構想に日本が積極的に加担することで東アジアの均衡を大きく変化させる。慎重であるべきであろう。
 日本がやるべきことは、トランプ政権が「自国ファースト」「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again!(MAGA))」を掲げ、同盟国に対して経済や軍事面で負担を肩代わりさせていく戦略に従うのではなく、対立を安定と繁栄に変えたEUと結び、コロナ危機を超えて、世界の医療保険・政治経済・格差の是正に知的戦略を集中すべきであろう。
 第一次・第二次世界大戦後、1世紀間をリードしたアメリカはいつまでも続く先進国ではない。時代の変遷によって次の先進国に置き換わってゆく。ローマ帝国でさえ500年、大英帝国は200年で衰退した。アンガス・マディソンの科学的統計によって立証された、1800年間インドとともに世界の頂点にあった中国が経済を中心に復興しつつある時、それに政治的・軍事的に立ち向かうのは、科学的根拠をもたない無謀な行為である。
 いかなる先進国も時が来れば衰退し、新しい先進国が台頭する。新興国の成長を、封じ込めによって阻むのではなく、それと連携し若者を育て新たな秩序を協働により構築すべきだ。
 歴史的な対立国であった独仏が、第二次世界大戦直後から「若者交流100万人計画」を立て、それが800万人の交流に発展し平和と繁栄を築いた事例に倣い、日中韓の若者の交流やさまざまなレベルでの学術的ネットワーク形成を再構築していくことが、歴史にかなう知的立国日本の道であろう。
 米欧日先進国が、新興国に軍事的に対抗したり封じ込めたりするのではなく、それと連携し、若者を未来に向けて育て、新しい世界システムを共同で構築していくことこそ、成長するアジア、かつ、緊張著しい東アジアにあって、日本が歴史に残る仕事として、実行すべき課題ではないだろうか。


15 庄司智孝(防衛研究所)「『自由で開かれたインド太平洋戦略』とASEAN――不安と期待」 『国際情報ネットワーク分析IINA』笹川平和財団、2018年9月18日。
16 「日本が『ファイブアイズ』に加わっても中国への影響は大きくない―中国専門家」2020年8月2日、Goo News。これは中国にとっても後で後悔する発言となろう。日本は他のアジア諸国が中国封じ込めの諜報軍事網参加に慎重な状況を理解し、日本の経済発展と安定のためにも、慎重で客観的な分析に基づく行動をとるべきであろう。

 本稿は、日本学術会議が編集協力する『学問の動向』(2020年9月1日発行)に掲載された論考を筆者の了解のもとに転載。(編集部)

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