戦争の危険含む歴史的転換期の世界

コロナ禍でのバイデン新政権発足

日本の自主・平和の進路選択は切迫した課題

『日本の進路』編集長 山本 正治

 コロナ禍の中で新年を迎えた。歴史的転換期に 備えを急がなくてはならない。
 全世界の感染者は、新年には8000万人を突破、死者も160万人を超す。なかでもアメリカは最悪である。
 リーマン・ショック以来危機を深めていた世界経済はこの衝撃で失墜、今日、第2次世界大戦の時期以上の危機といわれる。失業と貧困、飢餓が全世界を襲っている。
 アメリカは、トランプ政権からバイデン新政権に代わる。しかし、大統領選で露呈した国内疲弊、貧困と格差、分断と対立は激しい。戦後世界の覇権国アメリカは完全に行き詰まっている。
 世界経済は、アメリカと先進国中心から、中国とアジア新興国中心へと勢力変化が進む。AI・ITなど技術革新も中国が主導し、コロナ禍で劇的に進行している。デジタル人民元も具体化が始まっている。アメリカはこの面でも立ち遅れた。技術優位は早晩、生産と経済、軍事の争奪に反映する。
 急速なデジタル化がもたらす当面の最大の社会問題は、世界的な大失業である。社会不安が避けられないだろう。同時に、最新の技術革新の成果は、産業革命以来の経済社会制度と相いれない。地球温暖化と相次ぐ災害、新型ウイルスも、産業革命以来の経済発展の限界を警告する。
 世界は、文字通り歴史的転換期にきている。
 感染症に対処するうえでも国際協力がますます必要な世界であるにもかかわらず、逆に各国間の対立と分断が進んだ。特にアメリカはドル覇権維持を狙って、中国を抑え込もうと必死である。「歴史の歯車を逆回転」させようともがき、アジア同士を戦わせようとしている。バイデン政権はいっそう狡猾に日本など「同盟国」を前面に押し出そうと画策している。
 どの国でも貧困化と貧富の格差拡大が急で、国内の分断と対立を激化させ、政治は極度に不安定化している。
 こうした歴史的転換期の世界、米中対峙で軍事衝突の危険もあるアジアで、日本の進路が問われる。
 「自主・平和・民主」をめざす政権で、国民総貧困化から抜け出すとともに、アジアの平和・共生の実現をめざす時である。

経済危機は劇的に深まった

 コロナ禍で世界経済危機は劇的に深まった。昨年末の世界的感染拡大が拍車をかける。
 2008年の金融危機以来の世界経済危機は、米日欧、それに中国の中央銀行の莫大な資金供給と政府財政支出拡大、G20のような国際協調に支えられて崩壊を免れてきた。しかし、15年ころからはそれも限界となって世界の成長は急速に鈍化し、19年の世界貿易量は前年比で縮小となった。
 こうした危機の深まりをコロナ禍は襲った。危機は一気に加速され激化し、1930年代の大恐慌以来の状況となっている。国際協調は吹き飛び、世界経済は崩壊的状況である。
 各国政府は、総額12兆ドル以上の財政出動で経済崩壊を辛うじて食い止めている。世界の公的債務は今年、対GDP比100%を超す予測だが、感染の劇的広がりでさらに膨らむだろう。
 各国中央銀行は、国債だけでなく、民間企業の債務も買い取り、日銀などは株式も買い入れて経済を支えている。こうした資金供給の結果、世界の株価時価総額は深刻な実体経済と全く正反対に過去最高水準、バブルである。アメリカGAFAなどを先頭に、巨大企業とごく一部の資産家たちは未曽有の利益を手にした。他方、どの国でも貧困層が激増し、貧富の格差が極度に広がって、各国国内対立が激化している。世界銀行は、1日を1・9ドル(約200円)未満で過ごす「極度の貧困層」が7億人を超し、世界人口の9・4%と推計する。

 債務問題は、いつ世界的な金融危機を引き起こしてもおかしくない。バブルは必ず破裂する。世界は、爆発が近づく休火山の火口の中にいるようなものだ。
 バイデン政権は、「左派」の要求もあって、グリーン・ニューディールということで環境分野への投資を進め需要不足の経済を刺激し維持するとともに、国際競争に対処しようとしている。
 環境投資は欧州が先行しているし、中国の習近平国家主席が昨年9月の国連総会で、「60年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロ」を打ち出して、グリーン投資の標準新技術を巡る国際競争が一気に激化した。菅政権も後追いしている。
 大企業と金持ちの経済には、いくらかのカンフル剤にはなるだろう。しかし、100年前のニューディール政策が危機を解決せず、第2次世界大戦の破局に終わった歴史を忘れることはできない。
 G20のような「国際協調」は過去のことで、むしろ1位2位の経済大国が入れ替わり、激しく争っている世界である。「多国間主義」を掲げるバイデン大統領になろうが、その趨勢は変わらない。どの国も「自国第一」である。そうでなくては政権がもたない。危機は深まり、世界はリスクに満ちている。

世界経済の勢力構図は変わった

 世界経済の優勝劣敗も鮮明になった。国際通貨基金(IMF)の予測では中国は2021年に8%成長に戻り、アメリカとの経済規模の差が25%まで縮まるという。より経済実勢に近い購買力平価GDPではすでに中国が1・16倍である。
 中国は建国100周年である49年までにアメリカを追い越す国力をめざす長期戦を構え、外国勢力の干渉を許さない国内体制強化を進めている。
 こうしたなかでASEAN諸国と日中韓、それにオーストラリアとニュージーランドの15カ国首脳が昨年11月15日、RCEP(地域的な包括的経済連携)協定に調印した。戦後のアジアは政治も軍事も経済もアメリカに牛耳られてきた。そのアメリカを抜きに、中国を含む東アジア・太平洋地域の経済連携が成立するのである。

 世界経済の軸は明らかにアメリカ中心から中国中心に前倒しで変わった。英フィナンシャル・タイムズ前編集長は、これを歴史的出来事としてとらえ、「戦略的自立」と表現した。

時代錯誤のアメリカ、イノベーションでさらに立ち遅れ

 バイデン大統領のアメリカは、クリントン時代のアメリカはおろか、オバマ時代のアメリカにも戻れない。オバマ政権を生み出し、さらに激化しトランプ政権を生み出した経済危機と国内対立はいっそう激しさを増している。
 バイデン政権になってもアメリカの対中経済制裁は変わらない。中国を世界経済から締め出そうというのである。しかし、それは不可能だ。日本も欧州も、アメリカの大銀行や多国籍企業ですら、世界最大の中国市場を無視できない。それでは国際競争に勝てないからだ。趨勢としてのアメリカの孤立は必然である。戦後世界でのアメリカの世界収奪を可能としたドル覇権すらも、デジタル人民元が広がって力を失う時が近づいている。
 急速に進むイノベーションは、米中など各国の経済的力関係をさらに急速に変化させる。

 文部科学省の調査では、自然科学分野の論文数で中国がアメリカを抜いて1位になった。中国は研究開発費でもアメリカを猛追、研究者数は最多。自然科学の基礎研究のところで中国の優勢は特徴的である。米中間の攻防は、軍事や企業活動の根幹をなす科学技術の分野も含めて激しく、逆転が目の前なのである。
 この状況は、遅かれ早かれ「軍事や企業活動」の分野での争奪を規定することになる。ファーウェイ(Huawei)問題に象徴されるアメリカの焦りはここにあり、これを押しとどめようと乱暴に画策を強めている。

各国間対立が激化、戦争の危険が世界の随所に

 危機に直面して、犠牲を他に転嫁しようと各国間の闘争が激化している。
 イギリスが離脱したEUは、ドイツを中心に金融財政面も含めて結束を強め、成長するアジア太平洋にコミットしつつ、対中関係ではアメリカと一線を画している。欧州も「戦略的自立」をめざしている。他の大国、イギリスやロシアやインドも、対中、対米で、それぞれのスタンスを取りながら、「自国第一」の国益を貫いている。
 トランプ大統領にたきつけられた中東も、またもや世界の火薬庫となりかねない。地域大国のイランやトルコ、あるいはイスラエルやサウジアラビアなどは軍拡に余念がなく、さらにロシアも加わって地域覇権争奪が激化している。旧ソ連地域やアフリカなどでも軍事紛争が広がっている。

 軍拡競争が激化する。アメリカは、とりわけ対中国のためにINF条約を破棄して中距離核戦力の配備など東アジア地域での軍備強化を進める。当然にも中国も軍事強国をめざす。インドも加わる。
 この結果、特にインド太平洋地域では、武器輸入が急増している。最大の輸入国はサウジアラビアである。カタールは2010年代の武器輸入が00年代と比べて15・6倍、サウジアラビアは6・6倍に増えた。
 経済衰退が著しいアメリカは、武器生産・輸出で生き延びようとしている。まさに「死の商人」であり、日本もカモにされている。アメリカの対日武器輸出は、2015年から19年の5年間に、前の5年間に比べて85%も増加した。

焦点は米中関係とアジアの争奪

 とりわけ米中間では、衰退するアメリカが覇権を維持しようとする策動を強め、対立が各方面にわたって著しく激化している。貿易や経済から先端技術を巡る争奪も激化し、サイバー空間や宇宙などでの衝突も頻発している。デジタル通貨も絡んで、ドル基軸通貨を巡る争奪が核心である。
 しかし、アメリカには自らが戦争する力すらももはやない。アメリカの「帝国」戦略は、中国を近隣諸国と対立させ、とりわけ日中間の対立を激化させ、軍事衝突を含む混乱の中で、中国を抑え込むことであろう。「日米同盟」に縛られた日本は、極めて危険である。
 当面しては、中国が「核心的利益」と言う「台湾独立」を策動し、中国を引きずり出そうとしている。台湾海峡はすでに危険水域である。
 こうした状況下で、安倍政権を引き継いだ菅政権は積極的に危険な役割を買って出ている。日米印豪の4カ国同盟(クワッド)での軍事的な中国包囲網形成に乗り出している。
 英仏などの大国も介入をくわだてている。イギリスは、同国海軍史上最大の艦艇である空母クイーン・エリザベスと随伴艦数隻からなる空母打撃群を東アジアに長期展開するという。修理補給機能をもつ日本が根城となる。中国を牽制し、力不足のアメリカに協力することで地域覇権の発言力を狙っている。まさに、砲艦外交である。南太平洋やインド洋に領土を持ち、「われわれもインド太平洋国家である」と主張するフランスも、同様の動きを強める。「成長の東アジア」を巡り、時代錯誤にも大国が介入する。昔と何ら変わらぬ帝国主義の世界である。
 日本は、どうするか。菅政権のように、対米従属で中国を敵視し武力でアジア覇権を狙うか、それとも平和な共生のアジアをめざすか。選択の時である。

趨勢を決める各国の国内矛盾

 各国国内は危機的である。国内矛盾が激化し、政治状況は激変しつつある。
 世界経済危機とデジタル化で仕事を奪われ、低賃金化も進み、各国の労働者国民は厳しい状況におかれた。これがコロナ禍で加速し、貧困化が急速に進み、国内対立は激化した。
 国際労働機関(ILO)によると、昨年1~9月の世界の労働所得は前年同期比10%減で、金額換算で3兆5千億ドル(約360兆円)も減った。デジタル化が全世界で失業を爆発的に広げる。社会不安が広がり、各国と世界は不安定化するだろう。
 各国で国内の分断は顕著となり、政治闘争は先鋭化している。それは最大の資本主義国、戦後世界の民主主義を率いたアメリカで集中的に現れている。BLMの大衆行動が続き、左右両勢力の激しい闘争が続く。これまでのアメリカ民主主義の「二大政党」対立は大統領選挙中だけで、終わればノーサイドで4年間の「平和」だった。ところが今は違う。両党それぞれの「右」と「左」が力を持ち、「和解」は不可能である。この状況を中国共産党系メディアの環球時報は「アメリカの政治制度と民主主義というおとぎ話は終焉を迎える」と論断した。あながち否定は難しい。
 今日の世界は、産業革命以来の工場制大規模生産を中心とする経済といわばセットで、「中間層」を基礎に安定した政治体制と見られてきた「民主主義」が機能するかどうかが問われる事態となっている。
 経済の状況が厳しく、貧困化が著しい労働者・国民が各国で直接行動に立ち上がっている。左右のポピュリズム政治も広がっている。
 各国支配層は、分断と対立が激化し、政治が不安定化している中で政権を維持できるか。経済を立て直し、国民全体の生活を維持させられるか。あるいは強権支配か。各国政権には試練である。
問われる日本の進路
 対米従属の菅政権、支配層の主流は、日米同盟強化と「日米豪印」軍事同盟を主導し中国を押しとどめ、アジア地域覇権を握ろうと画策を強めている。菅政権は、安全保障は「アメリカ」、経済は「中国」でと、「戦略的曖昧」路線だそうである。だが、米中衝突はそれを許さない。
 日本には、人口で10倍以上、経済力(購買力平価GDP)が5倍の中国を押しとどめる力はない。RCEPで中国を「巻き込む」(竹中平蔵氏)などは世間知らずの幻想だ。わが国経済は、中国を中心にアジアなしで成り立たない。わが国は、二度と再びアジアに戦火と苦難をもたらしてはならない。
 すでに国民総貧困のわが国である。日中対決となれば国民は経済崩壊と軍事費負担で塗炭の苦しみに沈み、命を奪われかねない。広く国民の中はもちろん、経済界の中にも、自民党の中にも、中国敵視の日米同盟強化路線への不安と動揺が広がる。当然である。
 東アジアの平和・共生をめざすことはますます第一級の政治課題である。

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