三池争議から60年。見えてくるもの

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映画制作を通したジェンダー考察

岡本 美沙(映画『ひだるか』主演女優・ピアニスト)

 今年は戦後最大の労働争議である三井三池闘争から60年の年である。小泉政権の下で労働市場の規制緩和により非正規雇用が急拡大した2005年、「三井三池闘争」に注目し、この争議の意味を捉え直し、そこから何らかの教訓を引き出すことで、若い世代に引き継ぐものはないだろうかとの思いで映画『ひだるか』(港健二郎監督)が制作された。この映画に主演され、現在も音楽・映像・メディアなど多様な分野で、社会を問う活動をされているピアニスト・岡本美沙さんに現在の活動や思いを書いていただいた。(見出しは編集部)

 15年前の2005年、公開映画『ひだるか』に音楽制作と主演をさせていただいたことで、三井三池や全国で起こった労働争議を深く知ることになった。そして、三池争議が男女のジェンダーを超えた闘いであったことをも改めて知ることができた。
 そして、労働者が歌う作曲家・荒木栄の歌も初めて知り、私は音楽家ということもあり、彼の曲に興味を持った。単純な曲調とともにヨナ抜き音階でありながら古臭さを感じさせない不思議な曲だった。歌詞にも労働者を励ます言葉が温かく並べられていたのであった。
 三井三池での労働争議が一番激しかった1959(昭和34)年1月~3月に、会社側がつくる第二組合ができ、第一組合から第二組合に移ってほしい会社側の説得ポイントが「主婦層を崩す」ことだったことが興味をそそる。「第二組合に移り、再建し、子供の進学など先の見通しがつくようにしよう」といった女性たちへのアプローチで、多くの人が第二組合に移ったそうだ。女性の気持ちを動かすことが、ひいては男性の心も動かすことを会社側は知っていたのだ。第二組合に移った主婦と第一組合の主婦とのにらみ合いも生じたそうで、もはや、会社に対する憎しみよりも第二組合に移った仲間への憎しみのほうが強くなったようである。
 そこで、荒木栄の「地底のうた」の歌詞「スクラムを捨てた仲間 憎まず」という歌詞も納得でき、働く者たちの連帯を訴えている荒木栄という人に魅力を感じる。
 そして、映画『ひだるか』も外資の介入で福岡の放送局の労働組合が前記のように二つに分裂してしまう事態になるという冒頭の展開は、三池の場合と同じである。主人公、ニュースキャスターの陽子がこのような状況でどう生きていくのかがこの映画の主題である。分裂してしまった、働く者を守るはずの組合に振り回されてしまっている自分たちの思いを視聴者に番組内で最後に伝えることで、周りに流されない強い女性を描いている。

女性の視点から現代社会を描きたい

 さて、私は日本においてのフェミニズム問題や、性差教育についての思いを執筆し、それを原作に映画『ひだるか』の監督である港健二郎氏と共に現在、「アンビバレンツ」という映画制作の準備中である。物語の舞台は大阪北新地のクラブである。夜の繁華街、クラブではレギュラーピアニストとして出演させていただいており、ここを舞台にしたのは、良い意味でも悪い意味でも、この日本という国の縮図でもあるのではないかと思っているからである。
 そこで原作本から脚本を立てた港監督から、映画『ひだるか』主人公・陽子が、職場を去らざるを得なくなったその後を、今回の映画の主人公にしてみようという提案をいただき、現在はそのストーリー展開で今年の夏に撮影に入る予定になっている。
 日本ではまだまだ女性は生きにくい社会でもある。いや、同じ働きでも女性の方が認められにくいなどということではなく(もちろん現実問題としてあるが)、もっと根本的な問題として、教育問題、いわゆる男女の刷り込み教育にも問題があると私は思っている。また、家庭内でのジェンダー問題や、夫婦のあり方、妻が夫の母親代わりにならず、パートナーとしてリスペクトし合える環境づくりの大切さも改めて感じている。
 日本の社会は農耕民族ゆえの「つるみ文化」で、男性は仕事が終わってから会社の「つるみ」に参加しないと出世できないという現実もあり、夕食を家族でとる家庭も、サラリーマンでは少ないという統計もある。私の父世代は「それが戦後の日本を復興させた要素の一つだ」と言うが、女性という立場から、そして私の年代の考えからすると、思うところは多い。そういった女性の視点からのストーリーでこの映画「アンビバレンツ」を作り上げていく予定である。

資本主義のほころびに直面

 少し話はそれるようであるが、昨今は郊外での太陽光パネルの問題も耳にするようになった。自然エネルギーが一般的に使われるようになることには大賛成であるが、設置される場所によっては近隣住民が困惑している事例も多い。私の住む大阪府能勢町でも市街化調整区域内の宅地に太陽光パネルが設置され、今まで空き地だった隣の宅地いっぱいに設置された太陽光パネルで、1階の居間からはパネルの裏側しか見えなくなった住宅もある。また、夏にはクーラーが効かないほど気温が上昇しているが、泣き寝入りしている人も多い。そして設置した人は都会に住むこの土地にはゆかりもない人たちだ。本当に心無い。
 とにかく消費させることが第1の目的である資本主義のほころびでもあると私は思っている。どんな社会でも問題は必ず出てくる。また、そのしわ寄せは弱いものへの風当たりとして現れる。それは女性だったり、自然や、山に生きる動物たちでもある。
 その昔、大家族で暮らしていた時代からわずか80年ほどで核家族化し、テレビや電化製品、そして家までもその分が必要になり、揚げ句には一人1台のテレビ、車、電話といった現在、このような消費社会で私たちは暮らしている。「消費させて儲けるのが第一主義」は、もう考え直す時期にきているのではないかと私は思っている。それは相手の苦しみを自分の苦しみとして闘った、前述の三井三池の労働者、彼らの仲間意識ではないかとも感じる。

人の苦しみわかる作品に

 その労働歌を作り続けた作曲家、荒木栄の没後60年記念にあたる2022年完成予定で、音楽家の私からの目線で見たドキュメンタリー映画を制作予定である。今もなお歌い続けられている彼の音楽は何故、それほどまでに引き付けるのであろうか。
 きっと人間が生きるために本当に必要な、人の苦しみをわかろうとするやさしさが詰まっているのだと思う。今年完成予定の女性の視点からジェンダー問題を主題にした「アンビバレンツ」と共に後世に残る作品にしたい。

おかもと Angelitaみさ 3歳でピアノを始め、大阪音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業後、ピアニスト。2005年、映画『ひだるか』に主演、全編音楽制作、音楽プロデュースを手がける。19年、初の監督作品、環境問題や、自然保護をテーマにしたショートドキュメンタリー「Love For All Things」制作。ラジオパーソナリティー「岡本美沙のLove For All Things」FM那覇にて継続中。

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