[新しい日本をめざす] 若者気候訴訟

明日を生きるための若者気候訴訟(略称:若者気候訴訟)

全国16人の若者が火力発電事業者にCO2排出削減を求めて提訴

2024年8月6日 若者気候訴訟弁護団

 全国の若者16人が8月6日、火力発電を展開する10社を相手に、二酸化炭素の排出削減を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。このテーマで若者だけが原告になる訴訟は国内初。

 本日、北海道から九州までの全国各地で暮らしている16人の若者が、株式会社JERAなど火力発電事業者10社に対し、科学が求める水準に基づいてCO2排出の差し止めを求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起しました。原告たちと全国の若者が明日を生きるために、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑えるためには、被告ら日本の主要電力事業者は、2030年代にも脱炭素を実現する必要があります。少なくとも、科学が必要とする排出削減を実行することを求める訴訟です。


 「地球沸騰化」時代に入り、世界でも日本でも、気温上昇は1.5℃に近づきつつあります。日本はこの夏、既に40℃を超える熱暑を経験しています。今年7月25日、国連のグテーレス事務総長は、気温上昇はこれからも続き、猛暑は「新たな異常」であり、極端な暑さは経済をますます疲弊させ、不平等を拡大し、人々の命を奪っていると述べ、その原因は化石燃料の使用による人為的な気候変動であると指摘し、排出削減の加速を求めました。もはや、一刻の猶予もありません。

 被告らを含む日本の発電部門のCO2排出量(3億9400万t)は世界第16位の国の全排出量にも相当し、日本のエネルギー起源CO2の約4割を占める最大の排出部門です。国際エネルギー機関(IEA)やG7合意でも、電力部門は35年までのカーボンニュートラルが求められています。日本最大の火力発電事業者であるJERAとその余の被告ら計10社の責任あるCO2排出量(19年度)は3億3740万tに上り、日本のエネルギー起源CO2排出量(10億2900万t)の33%にも及びます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は1.5℃目標の実現(50%の確率)のために、CO2排出を19年比で30年までに48%、35年までに65%削減するよう求めています。危険な気候変動の回避は世界共通の最大の関心事であり、IPCCが求める水準の排出削減は国際社会の公序となっています。先進国日本の大排出企業もこの水準での排出削減義務を負っているものであり、発電事業者で大規模排出事業者である被告らにおいては、最低限の義務というべきです。
 しかしながら、被告らの30年削減目標はこの水準を下回っているだけでなく、水素・アンモニア混焼やCCSといった技術的にも未確立で排出削減効果が乏しい技術に依存して石炭火力などを利用し続けるもので、極めて不十分です。35年目標は、唯一策定しているJERAの目標も19年比で換算すると48%削減に過ぎず、他の被告らは全く定めてもいないもので、到底、1.5℃に整合した計画とはいえません。
 原告たちは、より過酷な気候変動の影響から護られるために、裁判所に、被告らの排出削減は法的な義務であること、そして確実に実行することを命じることを求めて提訴しました。そして、被告会社らが再生可能エネルギー会社へと移行することを期待するものです。

(団のプレスリリース)

「気候危機は人権問題」

名古屋地裁に入る原告の若者たち=2024年8月6日、名古屋市中区

 朝日新聞は9月17日、「若者気候訴訟 温暖化は人権の危機だ」との社説を写真付きで掲げ、以下のように若者たちを激励した。
 猛暑や豪雨が人々の命や生活を脅かしている。個別の災害との関係は簡単には判断できないが、極端な気象が増える背景に地球温暖化の進行があるのは、もはや否定できない。放置すれば、時間が経つほど影響が大きくなる。将来を生きる若い世代の声に、耳を傾けるべきときだ。
 豪雨被災地出身の大学生は「大人が招いた気候変動で失われるはずがなかった命が現実に失われている」と話す。高校生の時から声を上げてきたという学生は「対策が一向に進まない。司法に望みをかけたい」と訴える。
 この裁判の大きな意義は、気候危機を、生命や身体、健康を脅かす「人権問題」と位置づけた点だ。その悪影響は、若者ほど長く受ける。
 国内でも、気候危機は生存基盤を脅かす「重大な人権問題」(日本弁護士連合会)との見方が強まっている。裁判の行方にかかわらず、政府や企業は人権を守る立場から、脱炭素への道筋が具体的で実効性があるかを点検し、対策を強化していくべきだ。
 「あの時、なぜまともな対策を取らなかったのですか」――。将来、子どもたちにそう批判をされることがないように、いまを生きる大人たちが行動しなければならない。