【日本は温暖化のホットスポット】 アナザーワールドの入口に立つ地球

もう後がない! 今すぐCO₂削減を

三重大学教授 立花 義裕

日本の観測史上ダントツの猛暑

 昨年の日本は観測史上ダントツの猛暑でした。今年はその猛暑をさらに塗り替える勢いです。今年の場合は日本全部じゃなくて特に本州ですね。北海道は昨年に比べて少し低いんですけど、北海道を除けばほぼ全国で昨年よりも猛暑になっています。その理由ですが、大ざっぱに分けて二つあります。一つは大気で、もう一つは海です。

偏西風の蛇行が影響

 大気、つまり気象が理由で暑いということは、偏西風が蛇行しているためです。偏西風というのは、南の熱帯の空気と北の北極の空気のちょうど分かれ目のところで吹く風ですね。ですから、自分のいる場所が偏西風の北なのか、南なのかによって暑さが違います。

 気象の理由がもう一つあります。北半球の偏西風はヨーロッパから、ユーラシア大陸・日本を通ってアメリカへ地球をぐるぐる回ってるんですけど、今年の場合は、その平均的な緯度が昔に比べて北に行っているんです。偏西風は毎日微妙に動くんですけど、平均的位置が北に上がっていれば、それだけ日本が偏西風の南にいる(すなわち熱帯の空気が日本を覆う)確率は上がるわけですよね。

 偏西風が激しく蛇行していること、平均的位置が北に上がっていることが気象面から見た今年の猛暑の直接的な理由といえます。

北極の温暖化で偏西風が蛇行

 どうして今年は偏西風が激しく蛇行しているかということですが、その原因の一つは北極の温暖化です。テレビとかで氷山が崩れるとかシロクマが困ってる映像が出ますけれども、北極はめちゃくちゃ温暖化が進んでいるんです。世界でいちばん温暖化が激しい場所だともいえます。北極の温暖化が巡り巡って、偏西風の激しい蛇行に影響しています。それはなぜかということを説明します。

 偏西風だけでなく、風はスピードが速いと真っすぐに流れていきます。ところがスピードが鈍いとフラフラ蛇行します。それは水の流れもそうで、アマゾン川とかはゆっくり流れているので蛇行しますが、日本の急流は真っすぐに流れますよね。空気の流れも同じで、流れが遅い偏西風は蛇行するんです。

 その偏西風の速さを決める要因は何かというと、それは赤道と北極の間の温度差です。温度差が大きければ大きいほど、風速が強くなる。しかし、北極の温度は温暖化でどんどん高くなっている。赤道は実は少ししか温暖化していないので、相対的に温度差は減ります。

 ということは、温度の差に比例して吹く風の強さも弱まるということなんですね。それで蛇行する。たとえば家の外との温度差がないときに窓を開けても風は吹きません。温度差があると風が吹きやすくなります。つまり北極の激しい温暖化が、日本付近を猛暑にするんです。

 アイスランドとかの北極の温暖化は地球の反対側のことなんで興味がない人が多いと思いますが、実はその影響が日本に出ている。地球は一つですね。それは政治や経済でも地球の反対側の現象が日本に影響があるでしょう。同じように自然現象も地球の裏側の現象が影響しています。物事は常にグローバルで見る癖をつけないと。現象はグローバルです。

海面水温上昇が日本を直撃

 猛暑のもう一つの原因は、海にあります。

 どういうことかというと、日本周辺の海面水温が去年からめちゃくちゃ高いんですよ。10年前に比べて5度ぐらい高いんです。場所によっては、8度ぐらい高いところもあります。例えば東京周辺の水温は10年前の鹿児島沖の水温に近づいています。

 水温が5度高いということは、異常なことなんです。水温は1度、2度高いだけでもたいへんです。5度高いというのは信じられないくらいの数字です。

 そして海の風というのは湿っています。海で湿った風が入ってきますから、ジメジメした熱い風が吹いてくるんです。

 よく二酸化炭素(CO₂)が温暖化の原因だといわれていますが、意外と知られていないのが水分子です。水、つまり水蒸気が多ければ多いほど熱をためて、温暖化を促進します。でも地球は水惑星ですから水蒸気を減らせとは言えません。水がないとわれわれは死にますからね。

 実は今、世界中の海面水温が平年より1・5度ぐらい高いんですが、これまではある場所が高ければ別のある場所は低くて、平均して少し高い状態でした。それが昨年から世界のほとんど全ての場所で水温が上がっています。こんなことは今までなかったんです。それだけ異常なんですね。その中でも日本はダントツで高いんですよ。どうかしてますよね。要するに海の影響が、日本を狙い撃ちするがごとく日本に猛暑をもたらしています。

海面水温が上がる理由

 なぜ日本付近の海はそんなに暑いのかということですね。これには三つ理由があります。一つは、梅雨入りが遅れたことです。以前は梅雨入りが遅れる場合は寒くて遅れたんですけど、今年は春ごろからガンガン太陽が照り付けて、水面の気温が上がりました。

 もう一つの理由はそれに付随するんですけど、昨年も猛暑でした。猛暑の影響で日本周辺の海面水温が上がりました。水はいったん温度が上がると、なかなか下がりません。それが2点目です。

 3点目は日本周辺の海流です。熱帯から日本付近に流れている海流を黒潮と呼んでいます。黒潮は熱帯から来るわけだから、熱いに決まっています。しかもこの海流は、非常にスピードが速いんです。熱帯からゆっくり流れてくれば、だんだん冷えてくるんですけど、冷える間もなく流れてくるんですね。

 通常でしたら、九州にぶつかってその後東に向きを変えて紀伊半島まで来て、そのまま東の八丈島あたりに行く。ところが、去年ぐらいから黒潮がぐにゃぐにゃ蛇行しており、静岡県にぶつかって伊豆半島から房総半島を回って東日本の沿岸をなめるように北に流れているんですね。特に東日本と東北地方の太平洋側に、めちゃくちゃ熱い黒潮が流れているんです。その影響で関東一円が暑いわけです。

 そして今年は関東で豪雨がすごいでしょう。その理由の一つには、黒潮の影響を受けた湿った空気が南からも東からも来るので、その湿り気によって積乱雲が発達しやすくなって、急に豪雨が降るということなんです。

 この黒潮は世界でも一、二を争うくらい流れが速い。この特殊な地球的原因によって海が熱くなります。ですからこれも気象と同じようにグローバルに海洋を見ていく必要があります。

 異常気象の原因は、大気と海洋の異常がマッチしたことです。あちらこちらで40度以上の高温現象が起きた理由がこれです。しかし大気と海の両方の影響で暑い場所は日本だけです。

温暖化で日本の秋がなくなる

 日本近海の海は今もめちゃめちゃ海面水温が高いんです。海面水温は急には下がりません。お風呂だって一回沸かしたら朝までぬるいじゃないですか。だから9月も残暑が厳しいわけで、10月まで暑いでしょう。ですから秋がどんどん消えていく。

 秋が来ない中でも太陽は一段と弱まってきますので、いずれ冬が来ます。ですから長い夏があって急に冬が来る。秋の楽しい季節が減るんです。僕はそのことをよく「四季の国から二季の国」というふうに言っています。

 今後、こういう状態が普通になると思います。異常気象がニューノーマル、新しい状態になる。地球は極端化して豪雨になるか猛暑になる。その原因はCO₂が増えることによる地球温暖化であることは間違いないです。僕は異常気象は大嫌いです。普通の季節変化、美しい日本が好きなので、そういう意味でも温暖化を何とかして食い止める必要があります。

1.5℃の臨界点が迫っている

 温暖化を食い止める必要があると言いましたが、実は大事なことがあって、温暖化を食い止めるんだったらCO₂を徐々に減らせばいいというふうに、多くの人は思っていると思います。でも徐々にでは駄目なんです。

 ある一定の温度を超えてしまうくらい温暖化が進行すると、その後でCO₂をいくら減らしても気温は下がらないってことを、オーストラリアの研究者も言っています。つまり、山があって、その山を越えて違う世界に入ってしまうと、その後いくらCO₂を減らしても、元の場所に帰ってこられないということです。この山のピークのことを、僕らの業界ではクリティカルポイント、臨界点と言っています。

 臨界点を超えたら、どんなにCO₂を減らしても元に戻りません。その臨界点が迫っているんです。国連事務総長は「地獄の門のギリギリ」と言っています。僕はそれを「アナザーワールドの入り口にいる」と言っていますが。その臨界点は研究者によって違うんですけど、厳しく見ている人は産業革命前に比べて1・5度、甘い人は2度気温が上がったらそれが臨界点だと言っています。

 よくコマーシャルで「温暖化に対する1・5℃の約束」と言いますね。これはただ単にきりがいいから言っている数字じゃなくて、これを超えたら元に戻らないということなんです。実は去年の年平均気温が1・4度を超えているんですよ。ということはあと0・1度。もう後がない崖っぷちなんです。

 だから今すぐCO₂を減らさないと、今年のような異常気象が普通になる。そして、コメ不足になる。

 今年もコメがないですよね。日本だけじゃなくよその国も異常気象になりますから当然、食料不足になります。食料問題は国民にとっては大事です。それがもとで紛争や戦争が起きるかもかもしれない。そうなったらたいへんですよね。

温暖化に無関心な日本の政治家

 そういう意味で僕は日本、世界を守るためには、一刻も早くCO₂を減らさなくちゃならないと思ってます。ところが、日本にいる方たちは全然危機意識がないんですよ。無関心な人が多い。一刻も早く真剣になってほしいという思いです。

 僕は職業柄、よその国の大学に出張して思うのは、温暖化問題で先進国の中でいちばん遅れているのは日本だということです。日本が先進国かどうか知りませんけど。ヨーロッパの人たちは、一般の方たちも意識が高いです。アメリカは意見が二つあって、いわゆる民主党を支持する方たちは非常にこういう問題で真剣ですよ。でも、一方のトランプさんの方は否定的。それでもアメリカは国を二分して環境問題が議論されています。

 ところが日本では何もないですね。与党も野党もどちらも興味がない。立憲民主党でも自民党でも総裁選・代表選で候補者はいっぱい出ていますけども、温暖化問題を自分のメインの政策にしている人は誰もいないじゃないですか。いかに日本が遅れているかよくわかります。彼らにとって温暖化問題は票にならないということでしょうか。こういうことは政党に関係ないと言うですかね。

特に政治家というか政策決定権がある人たちには現実を知ってほしいと思います。

 僕は銀行との付き合いもあるんですが、銀行さんに聞くと、「温暖化問題にネガティブな企業にはお金は貸さない」と言うんです。どうしてかと聞くと「銀行の株主さんから怒られる」と。株主は日本人じゃないですからね。株主から何をしているんだと思われるんで、「貸し渋る」みたいなことがあるそうです。

 少しずつですけども、意識が変わっています。そういう兆しがあります。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする