食料自給議員連盟を全国に

学校給食を核にした「地消地産」へ一歩

いちき串木野市議会議員 吉留 良三

 政府は25年ぶりに食料・農業・農村基本法を見直しました。「強い農業」を目指したはずが、資材高騰や気候変動等で、農畜産業は危機的です。わずか38%に低迷する食料自給率を引き上げ、農家所得確保につながる方策を期待したが、変わりませんでした。
 農家が再生産可能な取引価格でなければ、農業の持続的発展は見込めず、とりわけ中山間地の過疎化・疲弊は続き、地域コミュニティーの危機は深まるばかりです。これからも輸出産業の繁栄の陰で、生かさず殺さずの農業・農民の犠牲が続くと思わざるを得ません。
 このようななか、これまで地域循環型経済構築での地域経済の活性化、学校給食を核にした施策を求めてきましたが、今年4月からその一歩を踏み出しました。

疲弊進む農村

 いちき串木野市は鹿児島県西部に位置し人口約2万6千人。少子高齢化の先端を走る中山間地の現状等に危機感を抱き、市議に挑戦し当選から7年、身近で切実な課題の「買い物難民」問題や交通弱者の通院問題などからスタートしました。社協が移動販売車を貸与しての委託移動販売事業、タクシー業者と連携した「いきいき300円タクシー」として一定の対応ができてきました。また耕作放棄地対策と兼ねた有害鳥獣対策としてツバキ植栽事業にも関わりました。
 過疎・高齢化を防ぎ、地域コミュニティーを守るためには、農業をどうするかが根本的課題です。これまで農業は大企業優先・輸出産業優先の犠牲になって、食料は安い外国産で賄い、工業製品を売りまくるのがわが国の国是とばかりにどんどん食料自給率も低下し、比例して農村の疲弊が深化しました。

地方から自前の努力を

 ウクライナやパレスチナ等の戦争や異常気象等、さらに新興国での爆発的人口増加などによる食糧不足や資材高騰でも、わが国の農業軽視の政策に変化はありません。私たちの「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」も結成後早速、鹿児島県からも上山貞茂・湯浅慎太郎の両県議も参加し、政府申し入れを行い、現下の厳しい農業・食料供給を取り巻く情勢から真の見直しに一縷の望みを託したが変わりませんでした。国が変わらないなら、地方から自前の努力で変えていくしかないとの思いで6月議会に臨みました。
 鈴木宣弘東大教授が指摘されるように農業は公益事業です。「生きる糧としての安心安全な食料の供給はもとより、防災・減災や農村の美しい景観保持、水資源の涵養など中山間地の多いわが国の農村部は大きな役割を持っている。持続可能な農村を築き、農村の役割発揮のために、足元の資源を見直し、地消地産、地域循環型経済が進めるべき施策ではないか」と市長に質しました。市長も「農業農村は公益的側面を持つ中で、営農活動や地域コミュニティーの存続が危ぶまれている。地産地消の取り組みとして直売所での販売や、学校給食でのコメ野菜の活用に取り組んでいる」と回答しました。
 さらに「国は38%まで落ち込んだ食料自給率を上げる方策を基本法の見直しでは示さず、人口減少で需要減が見込まれるので、輸出拡大で供給能力を維持するとしている。国が変わらなければ、自前の努力でしか生き残れない」と主張し、さらに「地域循環型経済の構築、地消地産こそ生き延びる一つの施策だ。それは学校給食を核とする事例が多い」と学校給食を生かした政策の推進を求めました。

無償化と地元産活用へ

 本年4月から学校給食費の無償化が始まり、野菜と果物の地元産活用が施策となりました。地元野菜・果物の活用を求めた昨年の一般質問では「コメを除く地元産の活用は3・3%」と驚くべき回答でした。これでは給食費はほとんど市外へ流れ、地元経済への貢献は無きに等しい現状が明らかになりました。2200食弱の給食はセンター1カ所で作られるため、品ぞろえや供給量など課題です。一昨年公設野菜市場も閉鎖され、供給体制の整備は喫緊の課題です。
 幸いに若い有機農業者が給食センターと連携し、野菜供給の仲間づくりや有機農業塾開講に中心的役割を果たしています。課題である若い担い手確保につなげるチャンスでもあります。いつ耕作放棄地になるかと心配される農地を、「仮称:給食センター協力農業者」として若い農業者を中心に協力して耕作できれば一石二鳥になると思います。

有機給食への一歩に

 今回の地元野菜・果物使用方針にとって、給食費無償化の決断が大きな可能性を持っていると思います。無償化を求めるたびに、市は 「公費の導入はできない」と繰り返していました。無償化事業費8062万円のうち、給食費補助7762万円と地元食材等活用推進補助金300万円が予算化されました。
 限られた給食費ではなく、政策推進費として子どもたちの健やかな育ちと地域農業・産業振興に大きく寄与することを期待します。コメについては、現在地元の有機米農家と供給について協議されています。同時進行で子どもたちに最もふさわしい「有機食材給食」に前進させなければなりません。学校給食無償化が大きな契機になりそうです。

少子化対策につなげる

 学校給食無償化は、少子化対策や東京一極集中是正につなげなければならないと思います。有機農業は、目標設定とは裏腹に、こちらも食料自給率引き上げ目標同様に、国の本気度を疑わざるを得ません。ただ、学校給食無償化の効果は確実に有機給食を進め、有機栽培農家を育てることになると確信します。そしてそれを担う若い農業者・女性にアピールして、一面住みにくい東京一極集中を是正する一つの力・選択肢にしなければなりません。
 さらに効果は、子どもたちの食育として発揮され、生涯にわたる健康づくりの基礎が培われると思います。先進地視察で訪れた愛媛県西条市での学校有機給食での卒業生の追っかけアンケートでは、「食材選ぶポイントは、安さ・値段より中身・品質」との説明で、朝夕の食育の効果が実感されました。

食料自給圏の構築を

 学校給食無償化と地元産野菜・果物活用方針は、もう一つのプラスの側面があると思います。地場産業への影響です。2万6千人弱のいちき串木野市の学校給食提供食数は2200食です。しかし私の近くの弁当業者が担っている社協の福祉弁当も朝夕2食合計120食ほどで、さらに地域販売弁当が50個ほど、食材高騰の影響もあり食材確保に難儀しています。近くの保育園も同様です。これらの地域の需要を合わせて、供給が不足する場合は近隣市などとも連携して、食料自給圏を構築していくことで、地消地産・地域循環型経済で地域を活性化できるのではないかと思います。
 このように地域で努力を重ねながら、「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」のネットワークをさらに広げ、農村の活性化と食料自給率を上げることが喫緊の課題です。時宜にかなった議員連盟の呼びかけに感謝です。