日中不再戦のために ■ 篠原 孝

 中国のめざましい発展

この大国と今後どう付き合っていけばよいのか

衆議院議員 篠原 孝

 7月2日から11日まで10日間、中国(北京・天津・淮安・常州)を訪問した。農水省時代、日中韓農業政策研究所長会議で北京に数日滞在したことがあり、実質的には二十数年ぶりの中国だった。
 日本政商代表団(篠原孝団長)という物々しい(?)布陣。同僚国会議員数人、経済界から若者十数人が参加した。2023年は22年と比べて日本の対中投資が64%も減っている。私はそういう位置づけとは知らなかったが、も
っぱら日本からの投資を呼び込むための視察団歓迎という形だった。
 東洋的なのだろう。視察といい交流会食といい夕食会といい大歓待を受けた。まめな小山展弘衆議院議員が中国側とセットしてくれたもので、少々長旅だったが「中国の今」が手に取るようにわかる貴重な体験だった。

きれいな街に驚嘆

 工業団地が立派になっていることは、2010年にはGDPで日本を追い越していることから、予測できた。道路や家も相当整備されているということも予測できた。しかし、現地を見るといずれも予測をはるかに超えた近代化が進んでいた。
 驚嘆したのが格段に増えた都市の緑と、ゴミが落ちていない道路、公園、街並みだった。08年の北京オリンピックを前に必死で植樹していたことは聞いていたが、それが見事に街の景色に溶け込んでいた。東京もきれいだが、隅から隅までゴミがないという点では北京が最も美しい首都ではないかと思う。
 天津に入るとゴミが多少道路際に見受けられたが、どこの商店街でも食堂街でもパリ、ロンドン、ニューヨークのような大都市によくあるゴミの散乱は見られなかった。これは国民や市民のモラルの向上以外に達成できないことだ。習近平総書記は「質の高い発展」と言い始めているが、国民の質が急速に高まったのである。だからこその見事な経済発展である。もう一昔前の発展途上国の中国ではないと実感した。

中国のめざましい発展

 中国は今やGDPではアメリカの25兆億ドルに対して18兆億ドル。それに対し日本は4兆2300億ドルで、中国はすでに日本の4倍になっている。なかでも工業生産高は約5兆ドル。アメリカは約半分の2兆5千億ドル、日本はさらにその半分の1兆2500億ドル。日本のGDPの成長率は2%にもならないのに、平均5%を超える成長を維持している。
 EV(電気自動車)、リチウム電池、太陽光発電関係機材という新しい3種の分野は世界最先端をいっている。天津港第二コンテナ埠頭では全てが自動化された超近代的なコンテナ船の作業を見学。中国の成長、IT化を象徴するような現場だった。
 30年前、日本の評論家や経済学者は「中国の体制はいずれ瓦解し、もっとひどい状態になる」と言っていたが、そういうことは全く起こらず、日本をしのぐ大発展を遂げた。私はこの手の予測はほとんど信用していないので、中国は目覚ましい発展を遂げることを確信していた。そして今回中国を訪問し、それがその通りになっていることを見て大変に嬉しい。

中国農民と周恩来への
恩義

 個人的なことで恐縮だが、私は中国東北部の農民に深く感謝している。なぜかというと、戦時中私の故郷長野県から多くの貧しい農民が満蒙開拓団として中国に送り込まれた。27万人のうちの3万人が長野県からだった。私の親戚縁者も行き、いちばん北に配置された。1945年8月9日のソ連軍の条約破りの侵攻で大被害を受け、私の地区から行った高社郷は600人が集団自決した。
 逃げ帰る途中、近隣の農民は自分たちの農地を奪われていたにもかかわらず、赤子を抱いていては逃げ帰れないということで、日本人の幼児を預かり育ててくれた。そうして中国残留孤児の帰還が64年からやっと開始された。農民に特別な想いを寄せ、日本開拓民も軍国日本の犠牲者として同情した周恩来首相の英断で始まったと言われている。残留孤児は長野県関係者が圧倒的に多く、長野県は中国人に深く感謝している。これが、私が今回訪中団長を引き受けた秘めた理由である。

中国の経済成長に思う

 中国はG7各国から過剰生産を批判されている。安い中国製品の氾濫は各国に影響を与えているからだ。中国の姿を見ているとまるで日本の1980年代後半から90年代のようだ。特にアメリカからきつい注文を付けられている点もそっくり。ただその当時の日本の対米貿易黒字は500億ドル程度であったが、中国の対米貿易黒字は3361億ドルに上っている。
 日本の場合GDPの6割が国内消費だが、中国はそれが4割にすぎない。そして今、工業化に突き進む東部の都市と農村地域の多い中・西部の格差が問題になっているそうだ。そうしたことを考えると、輸出しすぎて貿易黒字を溜めて外国から嫌われるよりも、自国の中・西部の人たちにいろいろなものが行き渡ることを考えた方が中国にとっては好ましいのではないかと思う。つまり輸出指向型から内需指向型へ方向転換すれば、活路が開けていくのではないか。
 日本も1億2000万人の豊かな日本人の消費があり、その基盤の上で外国に輸出して経済成長していった。最初から外国ばかりに目がいった輸出商品というのはほとんどない。その点、いきなり最先端の技術を持つようになった中国は、どちらかというと国内を忘れて外国ばかりに目がいっているような気がする。
 日本が投資するのは、中国でつくった製品を世界各国、特に日本へ輸出してほしいということではなくて、むしろ中国市場に広まっていくような製品をつくって、そこでうまくやっていってほしいという願いがこもっているのではないかと思う。

日中関係の問題点

 日本と中国の政治的な関係が、日本国民の中国に対する親近感に大きな影響を及ぼしている。外交は政権が変わっても変わらないとよく言われるが、実際は全く逆で、政権が変わると外交関係が大きく進展したり壊れたりする契機になる。
 いま両国間には暗雲がたちこめている。第一は台湾有事である。
 日本のみならず、国連もアメリカも「中国は一つ」と認めており、台湾問題は、理屈上は中国の内政問題に過ぎず、日米とも簡単には口出しできない。武力侵攻の抑止のための外交はいくらでもできるが、直接手を出せない。
 先日、台湾では中国の突然の攻撃を想定して避難訓練が行われたが、中国に対してはあくまでも「台湾問題」の平和的解決を求めることが重要と考える。言うまでもなく「台湾独立」といった動きを煽るようなことは慎むべきだ。
 二番目は尖閣諸島を巡る領土・領海問題である。こちらは当事者同士であり、日本外交の手腕が試されるところである。中国側の「領海侵犯」に軟弱な態度は示してはならないが、だからといって島の突然の国有化といった際どいことを二度としてはなるまい。中国をいたずらに刺激するだけである。
 以上二つの政治外交問題を除けば、あとは経済関係だけだが、どうもしっくりしていない。その一つは、2014年施行の反スパイ法以降、17人もの日本人が拘束されている。次がフランスなど十数カ国に与えたビザなし観光を日本に認めていないことである。ほかに短期商用等一次査証(シングルビザ)も滞っており、障害になっている。
 与党自民党は、台湾の新総統・頼清徳の就任式には30人もが大挙して出席した。これに対して中国は、「一つの中国」原則に違反すると抗議した。コロナで中断した日中関係は冷え切ったままである。しかし、放っておいては一大事である。

関係打開の兆しも

 ここにきてわれわれが帰国した1週間後には森山自民党総務会長が訪中し、王毅外相、劉建超党中央対外連絡部長と会談。2018年以降途絶えている「日中与党交流協議会」の年内再開を準備すると説明した。二階元幹事長が引退を表明し、中国とのパイプ役がなくなってしまったからである。野党側では中国通の海江田万里衆議院副議長が同時期に訪中している。
 3期目の習近平総書記がどのように舵取りしていくかしっかり見定める必要がある。アメリカも太平洋を隔てた隣国ではあるが、中国はずっと近くの国である。経済的には日本との相互依存関係が定着した国であり、日中両国とも相手国なしではやっていけないほど関係が深化している。今後の日中経済的関係は深まることはあっても、薄くなることはあるまい。

石橋湛山の精神で

 数多くある議員連盟の中で私が非常に力を入れているのが石橋湛山研究会だ。彼の思想は現代にも通ずることが多く、私が最も尊敬する政治家の一人である。戦後、非常に短い期間だったが首相を務めた。彼はジャーナリストとして戦前からずっと論陣を張り、「軍事大日本主義に走ってはいけない。分際をわきまえた小日本主義であるべきだ」と説き、「満州開拓」にも反対していた。
 「各国と仲良くしていかなければならない。特にアメリカとはケンカをしてはならないが、従属的にはならず毅然とした態度をとらなければいけない。日本だけが裕福になるべきではなく、東アジア全体で豊かにならなければならない」と主張。国交がない中、強い指導力で中国との民間貿易(LT貿易)再開に取り組んだ政治家である。
 一緒に訪中した衆議院の大島敦議員、緒方林太郎議員も研究会のメンバー。小山展弘議員が事務局長をしており、私が共同代表をしている。私は石橋湛山の精神にのっとって、中国と手を携えてやっていかなければならないという思いでいる。

中国の急成長の光と影

 今回の訪中は中国政府が丁寧にセットしてくれたものであり、当然「表」の部分しか見ていない。GDPの4分の1を占める不動産業の停滞は深刻なようだ。過剰生産は工業製品ばかりではなく、住宅建設も同じようだ。
 各市の共産党幹部が述べていたが、貧富の格差、東部と中・西部の格差と少子高齢化は心配のタネになっているようだ。特に一人っ子施策の余韻が冷めやらないようで、IT化で省力化が進んでいるというのに、14億人の人口大国も人手不足だという。
 日本人学校のスクールバスが襲われた蘇州事件。目覚ましい発展に取り残された者がいるのだろう。今回の事件はそうした不満の表れかもしれない。
 第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)は2029年中国建国80周年(習政権の任期が切れる27年の2年後)までに、改革案を完成させるという新しい目標を設定した。「中国式現代化」(つまり資本主義とは違う仕組み)「新質生産力」といった言葉も盛んに飛び出している。習近平総書記が今後どういう改革をして中国を引っ張っていくのか、興味と心配が尽きないところである。中国には頑張ってほしいと願うばかりだ。
 中国は14億人の隣国である。外交的には尖閣諸島、拘束、ALPS処理水、台湾といろいろややこしいことが多いが、今後は一衣帯水、隣国と友好関係を深めていくとの決意を新たにして、帰国の途に就いた。

 (本稿は、インタビューとブログなどを基に編集部で構成したもの。文責編集部)

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