日中国交正常化50周年記念シンポジウム

日本の進むべき道を議論 台湾有事を回避せよ

 

日中国交正常化50周年記念シンポジウムが2022年12月23日、参議院議員会館でZoom併用で開催された。主催は同シンポジウム実行委員会で、東アジアの平和と発展を実現するために日本が進むべき方向について、活発な議論が行われた。


 基調講演は衆議院議員の海江田万里氏。司会は安河内賢弘氏(ものづくり産業労働組合JAM会長)、パネルディスカッションは海江田万里氏、参議院議員の水岡俊一氏、同じく参議院議員の村田享子氏が登壇した。
開会あいさつで水岡氏は、長い政治経験をもつ海江田氏が基調講演を快く承諾してくれたことを紹介し、50年前の1972年、日本が冬季オリンピックや浅間山荘事件など光と影の部分で揺れ動く中で9月に日中国交正常化、その6年後に日中平和友好条約が結ばれ、両国間の多方面にわたる交流が深まったことを振り返った。続いて、立憲民主党代表の泉健太氏のメッセージが紹介され、緊張が高まる今こそ日中両国の平和と繁栄のために知恵を出していこうとの連帯の呼びかけが読み上げられた。

■台湾有事は
リアリティーあるか

 続いて海江田氏が一衆議院議員の立場から、「台湾有事を回避せよ」とのタイトルで基調講演を行った。海江田氏は「1975年、最初に訪中したとき、これからは中国の時代だと感じた。中国語を勉強し直し、50年間中国をウオッチしてきた。台湾有事の回避を願うのは共通の願い。日本では明日にでも台湾有事が起こるかのような報道だが、それはリアリティーをもつのか」と提起した。
 海江田氏は、中国共産党20回党大会報告で台湾について武力行使という言葉が初めて使われたことについて、「日本のマスコミはその言葉だけを取り上げている。この種の文書というのはまず正確に読まなければいけない。中国の目標は平和統一であり、武力行使の対象は『外部勢力からの干渉とごく少数の台湾独立分裂勢力およびその分裂活動であり、決して広範な台湾同胞に向けたものではない』と書かれている。習近平主席は17年間福建省で仕事をしており、改革開放政策で台湾の人々と仲良くなり台湾企業を呼び込んだ実績がある。習近平主席の原点がここにあることを見ておく必要がある」と指摘した。
 最近の台湾をめぐる動きについて「2021年アメリカのインド太平洋軍司令官が、中国が台湾に武力侵攻する可能性が非常に高いと議会証言したことから火がついた。この証言は海軍の予算獲得のためとも言われている。米軍トップの統合参謀本部議長は、その可能性はまだ低いと言って沈静化したが、ウクライナ戦争で再燃している。台湾の世論調査によると、中国の武力行使を不安に思っている人が37%、不安じゃないと思っているのが57%。中国では56・7%が近い将来武力行使の可能性があると答えている。中国指導部も国民世論を気にしないわけにはいかない。国民世論をどうセーブしていくのか政治家の大切な役割だ」と指摘した。
 「どうすれば台湾有事を回避できるのか。そのためには現状維持がいい。台湾有事で米軍が交戦すれば安保法によって日本も参戦することになる。日本も冷静に考えて台湾独立を煽ったり吹聴したりしてはならない。日中、日韓でも首脳会談をちゃんとやる。日中韓は引っ越しができない。フランスとドイツが1963年に結んだエリゼ条約では首脳同士が年に何回か顔を合わせて話をすることや青年交流が具体的に決められた。立憲民主党もそういう考え方でやっていただけたらと思う。立憲民主党は安保政策の中で戦争は外交が破綻したときに起きると言った。だから平和外交に力を入れていかなければならない」と語った。

■日中が共に繁栄する道を

 続くパネルディスカッションで水岡氏は、「いま日本は大きな岐路に立たされている。米国といっしょに中国との軍事的緊張を高める道に進むのか、平和憲法を生かしてASEAN諸国と力を合わせて外交手段で米中戦争を防ぐのか。政府が安保3文書を閣議決定したが、これは軍事的緊張を高める方向にまっしぐらだ。戦争を回避するための外交努力が重要。信頼を築く人的交流や経済や技術、文化を使った外交をもっとやらなくてはいけない。野党も声を上げてやっていきたい」と決意を述べた。
 村田氏は「私は7月の参議院選挙で、ものづくり労組JAMと基幹労連の支援を受けて当選した。製造業は中国との関係が深い。私は1983年生まれの39歳で、生まれたときにはすでに中国とは国交正常化していた。高校の修学旅行で中国に行き北京の高校生と交流したが、そのとき、『あなたの学校では数学オリンピックで金メダルは何人?』と聞かれた。世界をめざして勉強していることに衝撃を受けた。その後大学で中国語を専攻した。若い世代という意味でも製造業という意味でも、日中の平和外交を私たちの世代からもやりたい」と青年などの民間交流の大切さを語った。
 議論の中では、海江田氏から「ASEANは核兵器問題に関心が高いので、ASEANと共同歩調をとることは核兵器廃絶に向けた突破口になる。日本は核禁条約締約国会議にオブザーバー参加すべきだ」と提言。水岡氏は「G7が世界でどういう位置をもつのか気になる。米国のGDPは25兆ドルで中国は19兆ドル。G7に加入していない中国、インド、ブラジル、インドネシアなどが力をつけてきている。こういう国のパワーを取り込まないと、日本は進む道を間違うのではないか」と指摘した。
 村田氏は、「ものづくりの現場を回ったが中国のロックダウンによって部品供給が止まり、国内の工場のラインが止まった。日中は強いつながりがある。脱中国のサプライチェーンにするには年間コストが14兆円かかる。日本と中国の経済を大事にしていかなくてはならない」と、日中が共に繁栄する道の選択を指摘した。
 会場からは谷野作太郎氏(元駐中国大使)が、「青年交流が大事。内閣の下に東アジア青少年財団をつくってほしいが、外務省は縦割りでバラバラで共通の理念ができてない。政治の力と予算がないとできない。ミサイルの1、2発分の予算をこれに充ててほしいものだ。これまではトップ同士の腹を割った深い付き合いがあった。政財界含めて習近平指導部とまったくチャンネルがない。残念でならない、なんとかしなくては。トップ同士が悩みを語り合うのでもいい。岸田さんも習近平さんと共通の話ができるはずだ」と発言した。
 最後に司会の安河内氏は「安保3文書が閣議決定され、トマホークを買うんだとかというわけのわからない話が出る中で、この会が開かれたのはある意味時宜を得たもので、やってよかったと思う。この問題は今年だけで終わるわけではないので、今後もしっかりと議論して、東アジアの平和と安定のために力を合わせていこう」と呼びかけた。
 日本が進むべき道は米国に従って中国に敵対するのではなく、国交正常化以来50年間培ってきた交流と経験をさらに発展させ、アジアの平和に寄与する道であることを確認し合うシンポジウムとなった。