食料危機と安全な食料の自給  福岡

福岡市で「日本の食と農の未来を考える」つどい

 広範な国民連合・福岡は、グリーンコープ生協ふくおか、福岡県教組や、種子条例制定をめざす市民グループや個人で実行委員会を組織し、4月9日、福岡市で「講演と交流のつどい――日本の食と農の未来を考える」を開催した。「食料の安全保障を考える福岡県民ネットワーク」が後援し、当日は約150名が参加。ネット配信も行われ、約50名が視聴した。


 「つどい」には、JA福岡中央会の農政広報部長ほかが来賓として、また堤かなめ衆議院議員と古賀之士参議院議員、それに14名の地方議員が参加した。福岡県議会議長、同副議長、自民党、立憲民主党、公明党所属の国会議員など12名から寄せられたメッセージが紹介された。
 主催者を代表して実行委員長の久保山教善氏(広範な国民連合・福岡代表世話人)が「食と農の安全保障こそが最重要課題である」と開会あいさつをした。
 続いて東京大学大学院の鈴木宣弘教授による「農業消滅――国家存亡の危機を救う道」と題する基調講演。この後、各界から5名の方が報告。

安全安心な食を届ける

 グリーンコープ生協ふくおか理事長の坂本寛子氏は、生協の象徴的な食品「産直びん牛乳」を例に、母牛の餌、生産者との関係、殺菌方法、牛乳びん、自前の工場などの取り組みを具体的に紹介。遺伝子組み換えやゲノム編集食品を可能な限り排除し、独自のnonGMOマークを制定する取り組みや、自治体に種子条例制定の意見書採択を働きかけるなどの活動を報告した。
 さらに北九州、中部、福岡、南の4つの地域理事会での、学校給食、種子条例、博多港周辺の自生菜種の抜き取りやGM菜種の検査、学校でのグリホサート使用等に関する調査など、地域独自の活動を紹介。グリーンコープの「赤とんぼ米」は、産地との協議のもとに、JAS有機認定の「赤とんぼ有機」、化学農薬不使用の「赤とんぼA」、農薬最低限の「同B」、農薬低減の「同C」の4種類を設定。それぞれに見合う価格で引き取っていることなどを紹介した。

大分から連帯の報告

 二人目は大分から駆け付けた「おおいたいただきます!プロジェクト」共同代表で大分大学准教授の小山敬晴氏。種子条例制定を求める活動している。18市町村のうち9自治体で意見書が採択されている。法的拘束力のある条例は必要で、福岡と協力して九州全体で種を守っていきたい。所得補償のためのベーシックインカム導入などが言われている。労働法が専門だが私の違和感は、仮にベーシックインカムが定着しても、食料がない、水道が民営化されて十分に供給されないというときにどうなのかということだ。勉強したら、恥ずかしながら既に種子法は廃止され、水道法も改定されているということを知った。それでグリーンコープの人たちとこの運動を立ち上げた、などと報告。

学校給食に地場産の食材を

 三番目に、福岡県教職員組合栄養職員部長の牧平美恵氏が、学校給食の現場の取り組みを報告した。「子供たちに安心安全な給食を届けるため、栄養職員の学習会を定期的に開いているが、今日はその一環として6人の栄養職員が参加している」ことを紹介。
 勤務する自治体では、米は町内から、足りない場合は属する郡内産の「ゆめつくし」を使い、果物は郡内の地場産品を使っている。県産大豆の醬油や味噌を、麵類も県産小麦で作られたものを、揚げ物の油は国産菜種のメーカーの菜種油を使っている。町には、食育推進会議の中に地産地消部会があって、町の職員や、JA、漁協なども含めて会議を行い、地場産品を給食に取り入れる取り組みを行っているが、品目数や生産量が限られている課題もある。県内には全て米食というところもあるが、町では週2回がパン食。県産小麦50%のパンとか、米粉を70%使ったパンもあるので、それらを積極的に使いながら、その良さについても子供たちに伝えたいと思っているなどと報告。

有機農業で農福連携

 次に一般社団法人オーガニックパパユニティの八尋健次氏が、有機農業を通じて就労継続支援B型事業所を運営する「農福連携」の実践を報告した。有機農業への新規就農者支援などの活動の中でたどり着いたのが、引きこもりや不登校などの、社会に適合していないとされる人々と農作業をする実践。この人たちは、実は自然に適合しているのではないかと思えるほど、野良仕事の中で元気を回復してパフォーマンスを発揮する。有機農業はこの人たちに適した農業ではないかと思われる。採れた野菜は産直や直売所で販売し、見栄えの悪いB級品は加工して直営レストラン等で使う。そういう形で45人の仲間たちと農業をやっている。学校や幼稚園への有機給食も手掛けるなど事業を拡大して、B型事業所としてはかなり高い賃金(工賃)を支払うことができている。有機給食はおいしいうえに彩りもよく、一般の給食よりも確実にコストを下げることができる。今こそオーガニック給食を広める時期ではないかと熱く語った。

中山間地で無農薬栽培

 最後に大牟田市の農家、いちのたんぼの会の山下公一氏が中山間地の村の状況と自分の生業を報告。約1・5ヘクタールの農地は全て棚田と段々畑で、無農薬無化学肥料で米と多品目の野菜を栽培している。昨年ひどい腰痛で、これからやっていけるのかと悩むことがあったが、20年一緒にやってきたたんぼの会の仲間の存在に救われた。さらに救われたのが、農民作家・山下惣一氏の「農業・農村の近代化の欠陥に気付いてから、世界を訪ね歩いた。そして辿り着いたのが『小農』と近代化以前の農業・農村にあった循環の原理『まわし』の思想」という文だった。自分の集落でも、農家数は激減し、山は荒れ、耕作放棄地も目立つ。ただ明るい兆しはあって、竹林を整備し、耕作放棄地の再生を目指す若者が出てきた。たんぼの会の仲間たちも農福連携に向けて動き始めた。「鈴木先生からたくさんの元気をいただいたので、仲間たちと共に、未来に向けて歩いて行きたい」と決意を述べた。

「つどい」の成果を次の実践につなぐ

 続いて集会アピール案を拍手で採択し、副実行委員長の中村元氣氏(広範な国民連合全国世話人)が閉会あいさつをした。その中で中村氏は、「世界は新型コロナで大変な状況だ。そんな時にロシアがウクライナに軍事侵攻した。『そんなことやっている場合か』と言いたい。軍事や日米安保ではなく、食と農の安全保障を求める声を皆で上げよう」と呼びかけた。
 集会後、鈴木教授はFacebookへの投稿で、「4/9 多分野が渾身の連携で結集した見事な会。『赤とんぼ米』を1俵2万円以上で引き取る生協、種子条例制定に取り組む労働法の教授、有機給食への取り組み、『社会に適合しなくとも自然に適合する』農の達人育成、辿り着いたのは農の持つ循環の原理。各報告が珠玉」と感想を述べてくれた。
 今回の取り組みの一番の特徴は、実行委員会に参加した人たちがそれぞれの地域や職域で、実践に取り組み、その積み上げの上に「つどい」を開催したことであり、この実践は引き続き継続されると確信できる。

 (広範な国民連合・福岡事務局 樋口茂敏)

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