民主主義サミットなるもの

〝米の民主主義〟って、本物?

広範な国民連合代表世話人 原田 章弘

 〝民主主義〟という言葉を聞いた時、それは、18、19世紀の「市民革命」で、封建専制政治を倒し、市民が勝ち得たものというイメージだ。では、アメリカは?
 多くの人が知る通り、アメリカは独立戦争を経て「自由・平等・民主主義」を旗印に建国された。この理念は、アメリカ人にとって誇りであり、国をまとめる力であり、宗教的とも言える大きな意味を持ち、軍隊を外国に派遣する時にも、常に「錦の御旗」とされている。では、アメリカこそが、人類の求める究極の民主社会と言えるのか?


 アメリカの理念と現実の間には、隠しようのないさまざまな乖離がある。
 現実のアメリカ社会は4つの階層からなる。いわば階層社会だ。それは「特権階級」「プロフェッショナル階級」「貧困層」「落ちこぼれ」の4階層だ。上位2階層を合わせた500万世帯前後、総世帯の上位5%未満の層に、全米の60%の富が集中している。メーカーなどで働く中産階級の大半は、「貧困層」への道をたどっている。そして、社会の最下層にいるのが、貧困ラインに満たない世帯や都市のスラムや南部諸州に集中している黒人、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカン、そして違法移民の大半。
 アメリカの5人に1人は医療保険がない。一部の公立学校へ行けば、麻薬やセックス、暴力が蔓延し、危険な環境とも言える。そういう中でも生徒の出席率を高め、何とか卒業させようと、学校の教育内容は際限なく下がり続ける。いまだに「ダーウィンの進化論」を学校で教えるべきでないとか、教えるなら「創造主がすべてを作った」という説も教えるべきだと、激しい議論がある。「原爆投下」についても、いまだ正しく知らされていない所もあるそうだ。
 アメリカ国内では、「効率重視の市場主義」を基盤にした政策で、大企業の競争力を高め経済を上向きにしようと、企業に対する規制を撤廃・緩和し、法人税を下げ、労働者側に厳しい政策を許し、社会保障を削減した。この結果、国内の製造業は、海外の安い労働力に負け、失業者が増加した。
 所得格差が急激に広がり、貧困家庭が増え、「貧困児童」の割合は約20%(2015年総務省)であり、肥満児童の増加が目立つ。「家が貧しいと、毎日の食事が安くて調理の簡単なジャンクフードやファストフード、揚げ物中心」になる。卒業すれば、軍隊に志願する。この悪循環だ。「民主主義の大国」と言われる米社会の「人権」状況の現実がこの格差である。
 逆に成功者として、あるいはアメリカン・ドリーム達成者として思い起こすのは、前大統領のドナルド・トランプだ。そのトランプは今でも大統領に返り咲きたいと考えている。また、それを支持する大勢のトランプ信奉者が米社会には多いと言う。白人が多く「アメリカ・ファースト」を唱え、移民や難民を排除しようとする。「…ファースト」には、差別・排除が伴っている。
 建国以来、米には「成功こそ善であり、最高の徳である」という考え方がある。国民の多くが成功者や実績のある者、学歴のある者は高い道徳性を持っていると信じている。現代の代表的な人物がトランプだった。「アメリカン・ドリームの達成」こそ、最高の価値観なのだ。
 「人権問題」「ウイグル問題」は?と声高に中国を非難するが、米国内の人権状況はどうなのか?と問いたい。人種差別の甚だしい米ではBLM運動が起こっている。

「民主主義サミット」「北京五輪」は?

 今、焦眉の課題としての「民主主義」は、バイデン米政権が世界の主な国を招いて、民主主義国家の結束を促そうと「民主主義サミット」を開催するとしているが、これを巡り、中国、ロシアが激しく反発している。このサミットには中国もロシアも招待されず、逆に台湾が招待された。台湾は、1971年に国連から追放されて以来、国際的な枠組みに参加可能なものは一部に限られ、今回の招待は、「バイデン大統領に感謝したい」と声明を発表し、意義多しとしている。が、外された中国は、「台湾の独立勢力と一緒に火遊びをすれば、自らの身を滅ぼすことになる」と述べ、アメリカに対抗している。
 さらに、中国国務院は「中国の民主」白書を発表して、その中で、「自国の事情に沿った民主制度を実施している」と指摘し、民主主義は一部の国が判断するものではないとの姿勢を強調し、アメリカを念頭に「説教は受けない」と不快感を表している。さらに、「世界の分裂を策し、他の国に米国式改造を進めるためだ」とも述べている。
 ロシアも「冷戦時代の思考の産物であり、イデオロギー対立と世界の分裂を煽り、新たな分断を生み出す」と批判している。
 台湾を訪問した米下院の超党派議員団は、台湾を「活気に満ちた本物の民主主義勢力」とたたえ、さらに、「米議会の超党派による台湾支援は強固だ」と言う。蔡英文総統との会談では、「われわれの台湾に対する関与は盤石だ」と表明したという。米中対立の緊張のさなかにあって、この訪台であり、発言だ。中国への「挑発・煽り行為」ではないのか。
 アメリカは北京五輪を巡っても、「ウイグル問題」を理由に「外交的ボイコット」を主張し、政府関係者を派遣しない。オーストラリアもアメリカに同調した。米中の本格的な対立が始まっている。

日本からアメリカを見れば

 アメリカの民主主義の実現段階を見ると、「人権意識」「アジア蔑視」「植民地意識」の問題等が見えてくる。
 日米地位協定問題について「不平等な協定の見直し」を日本が主張しても、アメリカは少しも日本の人心を理解しようとはしない。日本の法律を無視してまで基地を押し付け、性犯罪、低空飛行を繰り返し、さらには燃料タンクの投棄まで。軍人・軍属の犯罪についても、まるで植民地に対するような人権を無視した行動で、米に帰国してしまえば、逃げ得のような対応。日米合同委員会の運用についても、アメリカが同意せねば開催日さえ知らされないというアメリカ優先で進められる。「日本を守っている」という意識だろうが、「守っている」ということで、不条理が許されるはずはない。いまだに「占領軍」なのだ。アメリカ国民は、外国に「犠牲」を押し付けておいて平然としていられるのか?
 さらに、二点目に「銃犯罪」だ。最近も高校で銃の乱射事件が起き、多くのけが人が出た。「銃規制」ができない=人権を守れない社会は決して許されるべきでない。日本人留学生が巻き込まれた事件もあった。盛んに「銃規制」が言われたが、日本社会だけに終わって米には当事者能力がない。「息子へのクリスマスの贈り物」に銃を買い与える両親がいるような米は、いまだに「西部劇」社会だ。暴力で人の命を奪い合う社会は、決して「民主社会」とは言えない。トランプ集会にも「銃を持った支持者」が多く集まったそうだ。挙げればきりがない。
 アメリカの報道も全国紙約700万部で、あとは地域紙。日本の三大紙1392万部。日経や産経を合わせれば1650万部。三浦半島の全人口も60万超。ロサンゼルス・タイムズの部数と同数だ。NETが盛んなようだが、あまり情報も多くない。国土が広いだけに、隅々まで「手が回らない」のが実態だ。現状、大手を振って「アメリカは民主主義」とは言えないだろう。

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