台湾をめぐる米中対立と日本

第17回全国地方議員交流研修会 ■ PART2 パネルディスカッション

何が心配か?

国際地政学研究所理事長・自衛隊を活かす会代表 柳澤 協二

 よろしくお願いします。
 この3月から急遽高まってきたのは台湾問題なんですね。米中対立の焦点が台湾を軸に繰り広げられています。3月の日米の防衛・外交の閣僚による「2プラス2」では台湾有事における協力が議論され、これを受けた4月の日米首脳会談でも焦点となり、菅首相とバイデン大統領による共同声明でも52年ぶりに台湾への言及があったということですね。

 台湾問題というのは非常にややこしい問題が含まれているように思います。第二次大戦が終わってから、国共内戦があり、1949年に国民党・蔣介石が台湾に逃れ、そこからいわゆる中台の対立が続いている。そして、アメリカは一貫して台湾をサポートしてきているわけですね。
 当時は蔣介石による戒厳令の独裁政治ではあったけれども、体制に関わりなく、アメリカは支援し続けてきた。88年に李登輝が「総統」になり、96年には初めて直接選挙が行われ、台湾が民主化されるわけです。そうなると今度は「極東における民主主義のシンボル」としての台湾をアメリカがサポートする構図になってくる。
 そして、現実にこうした非常に原理的な対立でありながら戦争を回避してきた条件が今まではあったと思います。

戦争を回避してきた条件が失われている

 これが今失われているということをまず申し上げます。
 80年代くらいまでは米中の軍事バランスはアメリカの方が圧倒的に優位でした。そして、中国と台湾を比べても量的にはともかく、質的なものも含めて考えると台湾の方がまだ優位だと認識していましたが、今や完全に逆転している。
 中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)というのは大量のミサイルによってアメリカ軍を中国の領土・領海に接近させないというものです。それによって、アメリカの軍事的優位が揺らいでいるという状況にある。だから、軍事バランスの面では戦争を防いできた条件が崩れてきている。
 アメリカと中国は1979年に国交回復するんですけど、そこに至る、あるいはそのときの大きな政治的な合意は「中国は一つである」という認識、そして「台湾の独立はそれを認めない」というものです。
 「中国が一つ」「台湾は独立しない」という米中が共有する認識があって、何となく微妙な平穏が保たれ続けていた状態だったのが、今や台湾は公式には発言しないけど、「自分たちは事実上の独立国」だと思っている。台湾の世論調査でも、「自分を中国人だと思う人」はほとんどいなくて、皆「台湾人」だと思っているわけですね。
 特に2019年の香港における弾圧を見ながら、「中国の言う、一国二制度は信用できない」という状況になっている。そこにトランプ政権以来のアメリカの姿勢の変化がある。それまでも1979年の米中国交回復のときにアメリカは台湾を支援する法律をつくっているわけですが、さらにトランプ政権の2018年には「台湾旅行法」という法律をつくり、これまで控えていた政府高官間の交流を可能にしました。そして、19年には台湾が国際機関に加盟することを支援するという法律を民主、共和両党で議会を通しました。
 そして今、これまでアメリカは有事の際、台湾をどこまで支援するかということは曖昧にしてきたわけですが、武力行使を含めてもっとハッキリさせろという動きが議会から出ています。今のところバイデン政権はそこまでは踏み切る気がないようですが、アメリカの方から今まで台湾海峡の平穏を保ってきた「一つの中国」という前提を覆すような動きが見られるようになってきているということがあるわけですね。
 そして三つ目には、これは2000年に入ったあたりから、国民党の馬英九「総統」時代に「通商・通航・通郵」という形で、中国大陸と台湾との間の経済交流や人的交流を盛んにすることで、両者の距離を縮めていこうという政策があったけど、それが今途絶えようとしています。高性能半導体の世界における台湾のシェアは9割にもなります。中国大陸と台湾との関係を遮断すれば、中国は困るし、台湾の半導体メーカーがアメリカに工場をつくるとなれば、アメリカは先端技術の面で中国に優位に立てるという考えがあります。中国と台湾との間の経済的結びつきがクッションの役割を果たしていましたが、その相互依存関係が人為的に分断され、政治、軍事、経済の三つの側面でこれまで戦争が回避されてきた条件が変化し、失われてきていると私は見ています。

米中対立は日本を巻き込む

 そして、アメリカは中国に対して、太平洋を挟んで1万キロ彼方にあるわけですから、日本を拠点にしなければ中国と戦えないわけです。当然、米軍は日本の基地から出撃をする。そうなると在日米軍基地は当然、中国の攻撃目標になる。
 日米安保条約には事前協議制度があり、在日米軍基地からの直接の出撃についてはその対象とするとされているわけですが、そのときに日本政府が「NO」と言えるんですか。多分言えないわけですね。そんなことしたら日米同盟は破綻するわけです。
 しかし、「YES」と言ったら、在日米軍基地が中国から飛んでくるミサイルの標的になります。これはどっちに転んでも日本にとってもう究極の選択のような事態になってくるんだろうと思います。
 今日は「ミサイルによる戦争の時代」なので、非常にやっかいなんですね。昔のように例えば国境地帯に大きな軍隊が集結しているから「戦争が近いぞ」ということではなくて、いきなりミサイルが飛んでくるわけです。ミサイルというのは撃ち落とすのが非常に難しいという意味で、攻撃優位の兵器です。だから、「先に撃った方が勝ち」ということがあって、先制攻撃の誘惑にかられやすい兵器でもあるわけです。
 問題はさっきの羽場先生の話にもあったけど、中距離ミサイルの問題なんですね。
 中国の中距離ミサイルの配置と射程を表した図を見ると、いちばん外側にある4000キロのDF26というのは「グアム・キラー」と言われているミサイルです。1500キロの射程のものは「空母キラー」と言われる弾道ミサイルですね。その他、台湾や沖縄の基地に届くようなミサイルを去年のアメリカ軍の報告では中国は1250発持っている。アメリカ軍はこの種の中距離弾道弾は持っていないんです。冷戦末期に当時のソ連との間で中距離核戦力の廃止条約を結んだ結果です。ここに大きなギャップがあるわけですね。
 アメリカの強みは、巡航ミサイル=クルーズ・ミサイル(Cruise Missile)なんですね。ところがクルーズ・ミサイルは海上にいる標的は破壊できるけど、コンクリートで堅固に防護されたようなハードなターゲットについては十分に叩けません。やはり陸上発射の中距離弾道弾というものをアメリカは考えざるを得ない状況になって、今、開発を進めています。
 いずれにしても、アメリカは軍事的優位のために中距離弾道ミサイルが必要になってきており、それを日本に配備せざるを得ないだろうと。そうすると、日本を舞台にした新たなミサイル軍拡競争が起きることになるだろう。安保法制ができて、日米の軍事一体化が進んでいる、自衛隊も参戦することになる、当然アメリカもそれを求めてくることになるわけですね。そうすると、今度は自衛隊基地もミサイル攻撃の対象になる。
 これはどうしても日本を巻き込む戦争になる。

米中が望まなくても戦争は起きる

 「アメリカも中国も戦争するわけない」という見方もあります。確かに米中ともに戦争を望んでないことは間違いないですね。しかし、相互不信が高まるなか、何かすれば相手の反応を起こすという意味でかえって危険になるという「安全保障のジレンマ」が起きやすい状況でもある。すでに現場で米中の軍艦同士がにらみ合うような状況があるわけです。ですから、何かしら意図しない現場でのきわめて小さい衝突があったときに、アメリカはここで自分が引いたら同盟国への信頼性が失われてしまうと思い、中国もここで引いてしまったら、共産党支配の正統性が失われてしまうと考えるでしょう。
 そうすると、お互いの「ここで引けない」という発想のなかで、それが大きな戦争に拡大していく、つまり抑止が崩壊する可能性は非常に大きいと私は思っています。
 総じて言うと、アメリカが本当にどこまでやる気があるのかというのは依然としてよく分からないわけですね。しかし、アメリカの意思が本当に強固であれば、これは確実に日本が米中戦争に巻き込まれる。今、日本が巻き込まれるという意味での「同盟のジレンマ」が日本に降りかかってくるということです。
 だからもう、アメリカに頼っていればいいという状況ではまったくなくなっていると思います。日本の安全保障環境の根本的な変化です。

日本は独自のやり方を進めなくてはならない

 さて、そこで日本独自のやり方を考えなければいけないわけです。
 とにかく日本は自らの外交を展開しなければいけないんですが、そのときに「台湾防衛が最大の目標」という勘違いをしてはいけない。むしろ米中の戦争をどうやって防ぐかということを最大の政策目標にしなくてはいけないと思います。
 そのためには、米中相互の対話を仲介するとか、アジアの中級国、ミドル・パワーといわれる韓国とかフィリピン、ベトナム、そういった国々との連携を図っていくという外交があると思うんですね。そういう外交を車の両輪のように回していかないと、単に力ずくだけでやっていこうとすると、その抑止はどこかで破綻する危険が大きいわけですから。抑止がまったくいらないとは私は言わないけど、抑止と併せて外交がちゃんと機能しなければいけないんだろうと思います。
 最近、麻生財務大臣が「台湾が攻撃されたら、防衛しないといけない」ということを言った。しかし、それは日本が中国と戦争をするということなんですね。「敵基地攻撃」でそれをやるようなことになれば、当然相手もこちらに先制攻撃してくるわけですから。つまり、日本にミサイルが飛んでくるということです。その現実を政治家は全然分かってないと思うんですね。まあ、日本が戦後75年戦争をしていないことはいいんだけど、しかし、それだけに、戦争をするということがどういうことなのか日本人はまったく分かっていないんじゃないでしょうか。

「抑止力」があれば戦争にならない?

 アメリカでは「戦争に勝つ意思と能力」があり、そのプランをキチンと持つことが「抑止」だと思っているんですね。だから、抑止が破綻すれば、「戦って勝つんだ」と考えている。抑止と実際の戦争というのは、連続性、一つながりの思考作業なんです。しかし、日本では防衛大臣が秋田県への陸上イージス配備の問題について、「この陸上イージスを置けば抑止になるから、ミサイルは飛んでこない」という発言をするほど、抑止力があれば戦争にならないという認識です。抑止が破綻したときに、戦う覚悟があって初めて抑止というのが機能するはずなのにです。そこの覚悟がまったくない。
 だから、沖縄の離島に自衛隊のミサイルが置かれるときに、私もNHKのインタビューで申し上げたんですけど、それは日本全体の抑止力かもしれないけど、その置かれたミサイル基地は攻撃目標になるということなんですね。
 台湾の問題というのは、われわれにとって非常に身近でもあるわけです。いざ台湾有事になれば、それは日本にミサイルが飛んでくるということです。非常に分かりやすいことで、想像力をもって考えれば分かることなんですね。
 だから、こういう状況に直面してわれわれは今、日本の安全保障政策を本当に主体的に考えていく一つの機会にしなければいけないと思います。そして、本当の戦争のリアリティーというものについて、われわれ国民はどう受け止めるのか、このことを考えていく大きな機会にしていかなければいけないし、そのことがこれからの運動の大きな目標になるのではと思っています。

 (山本)
 ありがとうございました。次は沖縄の伊波洋一さん、お願いします。