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2021 新春インタビュー 鳩山 由紀夫元総理に聞く

「特異点」を超えた東アジア

独立の気概ある政治が求められる

鳩山 由紀夫 元総理

 新年あけましておめでとうございます。
 昨年は、まさに新型コロナウイルスで明け暮れてしまいましたが、大きく世界が変わってしまった一年であったと思います。
 世界で中国は、徹底した対策によってウイルスを封じ込め、経済が回復しています。しかし、他の地域はどうか。アジアは割と軽微ではあったわけですが、アメリカはひどい状況で、年末には1日に20万人以上の感染者、3千人以上の死亡者が出ています。経済も株価だけは上がっても、混乱が収まらない状況です。
 ヨーロッパやアメリカが最もひどい状況だ、というのは、初動のミスもありますけれども、その後の政権の対応力の問題ではないか。ある意味では自由社会で、自由経済とか自由な生き方というのは重要です。しかし、相当の経験を持ち判断ができるリーダーがいる政権でなければ、うまく機能し得ないし、社会の混乱を抑えられない。そうしたことが現実に明らかになった年だったかと思います。残念ながら日本がその典型的な例でしょう。
大きく一歩踏み出した東アジア
 米中関係は、トランプ政権になって中国敵視が険しくなりましたが、特にコロナ禍の昨一年で対立はさらに激化しました。バイデン政権になっても大きくは変わらないと思います。
 そうしたなかで東アジア諸国が協力して経済を発展させていこうというRCEP発足は、非常に重要な出来事で、大いに前向きな話ではなかったかと思います。私が考えている東アジア共同体構想にとっても、経済面の大きな一歩が記されたと評価しています。
 日本は菅首相が参加を表明しましたが、生煮えの態度を取り続けています。どっちかと言えば、参加していないアメリカの顔色をうかがっている。アメリカが敵視している中国に対してどう向かったらよいか、アメリカに対して抵抗し得ない状況です。
 ただ日本は、経済的にはすでにアメリカよりは中国とより関係が深いわけですから、本来日本は中国を重視こそすれ無視するわけにはいきません。
 ところが政府は、安全保障の面で「自由で開かれたインド太平洋」と称し、中国を包囲するような同盟関係を強めている。米豪印と連帯しようと言う。そこでは日本がある意味で指導的な立場というか役割を果たしてしまっています。
 これは日本にとって、決して良いことではないと思います。日本には、これから中国とアメリカの狭間の中で一方の側に立つのでなくて、自主的、自己決定力を示す道が必要です。両国の強みを生かしながら協力し、日本の発展を創っていくというように役割を果たすべきではないかと思います。
 しかし、菅総理には期待できません。所信表明を含めて、全て役人の方の書いたものをそのままお読みになっている。多分、外交あるいは安全保障に関しては、対米関係一辺倒の外務省や防衛省の域を超えるような方向は打ち出せないでしょう。となると今年は、対米依存の日本の姿は安倍総理のとき以上に強まる懸念すらあるのではないか。これは決して日本の将来にとってプラスではありません。
 感染症対策についても、本来なら今は、日中韓を核に東アジアの諸国が協力をしてワクチン開発を含めて協力し合うことが重要です。けれども、日本はどうしてもアメリカの方向だけを向いてしまう。だから東アジア地域には協力し合う防疫体制ができません。
 新しい年ではありますが、菅総理の対外政策、日米関係を含めて安全保障面にはあまり期待ができないというか、むしろ私の考えている方向と逆に向かってしまうのではないかということを強く懸念しています。
しっかりした世界観、日本のあるべき姿を示すべき野党が必要
 菅内閣の体制に対し、野党はどうやって「倒閣運動」を展開していくのか。しかし、そちらの方もあまり明確なメッセージが伝わってきていない気がします。
 昨年、立憲民主党と国民民主党が当然合流するのだと思っていましたら、結果として新立憲民主党はできたが国民民主党が残った。国民の皆さんの期待が両党とも下がってしまっている。
 私は、選挙が近いから政策を超えて一つになろうという発想そのものが、国民にはアピールしていないと思います。大事なことは、リーダー不在の日本において、世界観とか日本のあるべき姿をはっきり指し示すことです。
 菅総理からは世界観は見えないし、期待するべくもない。だとしたら野党がしっかりとした方向を指し示す必要があるのではないか。それを国民の皆さんに示さず、国会の議論でも、どちらかというと揚げ足取りにほとんどの時間を費やしてしまう。
 国民の皆さんからすれば、コロナで苦しいこういうときこそ、明るい日本の姿というものを指し示してほしい。どうしたらそうなるかという道筋を提示してもらいたいのではないでしょうか。
 実際そのようなものは政府・自民党からも出ないし、かといって野党からも出ない。そうならば、政治そのものに対して失望感だけがますます強まってしまうのではないか。
 こういうときこそ、野党は政策の柱をしっかりと示して、この指止まれというか、この政策に賛同する者は党の垣根を越えて集まってこいよと呼びかける必要があるのではないでしょうか。あるいは、新しい政治の流れを創ろうではないかと希望を持った人たちが集ってこられるような、そういう柱を創り上げることが必要じゃないかと思っております。
 それを今示すことができれば、国民にとって大きな展望になる。国民の皆さんも、政治に失望するだけでなく、自分たちが政治を変えていくんだ、創っていくんだというくらいの気概を持って政治に参加をしていただく年にしてもらいたいなと申し上げたい。
米中対立の中で日本はどうするか
 外交政策の柱の重要な一つが、国の自立であり、東アジア政策になると思います。米中対立の中で、この日本はどうするべきかという問題です。一般の国民も、経済界も、そこへの展望を求めている。
 ところがその問題に野党は全く触れていない。むしろ、それに対しては自民党政権と違いがあまりない。野党の指導者たちも米国追随です。ある野党党首が、日米安保、米軍で尖閣諸島を守ってもらうみたいな話をしていました。
 「嫌中感」とかそういうのが国民の中に広がっていて、尖閣は日本の固有の領土だから守らなくてはと皆さんが思っている。領土を守るのは当然にしても、微妙なところにアメリカは介入してきません。バイデン元副大統領も菅首相に、「安保条約第5条」を適用するといった発言をしていると思いますが、それは戦うには米議会の承認が必要ということです。尖閣で米国が中国と戦うことはあり得ません。
 なぜ野党までこんな考え方をするのですかね。国民の多くが、「嫌中」に引きずられているとしても、冷静に事実をキチンと訴えることができる政治家、政党が必要ですね。野党指導者は歴史をきちんと正しく見なくてはいけないと思います。感情論で国民を煽ってはいけません。
 「対米従属」から抜け出さなければ、と考える政党や広範な人びとの連合を促し、国民的な力に発展させる必要があります。そうした勢力や政党を基盤にした政権交代をめざす。普天間基地移設問題できちんとした態度を貫けなかった民主党政権の最大の反省はそこです。
 ある時、細川護熙元総理が、「自分は総理として米国に対抗する力を十分持っていなかった。もう一度政権交代するときには、米国からいかに自立した日本を創れるか、そのための覚悟を持った人材が何人いるかだ」と述べておられました。この話を伺ったときに細川さんが私と全く同じ認識であったことに驚いた記憶があります。
 細川さんのような経験に基づく見識者たちが、正しい認識で旗を振ってくれることは非常に重要です。
 その点で、『日本の進路』に載った福田康夫さんの、日米同盟と中国や東アジアについての提言、非常にいいですね。分かりやすいし。ああいう方がおっしゃってくださるということは大きいですね。
 アメリカは自分が覇権主義国ですから、それが中国の台頭で危うくなると、中国を覇権主義だと叩き、抑え込もうとする。歴史的には、日本もかつて覇権主義を前面に出し、アジアを侵略した。ところが、そんな日本の歴史を誰も今は語らないし、教えもしない。
 むしろ歴史を重んじるアジアの国々、特に中国、韓国は日本人の怖さを歴史を通じて知っているし、いまだに抗日教育があります。だから日本の指導者による靖国神社参拝などには、「反省していないのでは」「再び侵略行動に」などと強い懸念を発するわけですね。中国は繰り返し、覇権主義にはならない、他国を侵略したりしないと、習近平主席など指導者が繰り返し言ってきています。中国への必要以上の心配は要らないと私は思います。
 逆に日本の政治リーダーたちは、怖さや懸念があればあるほど、中国の中に飛び込んでいく必要があります。そして一緒に考えようと、一緒に行動し、問題を解決するために一緒に努力することが重要になる。仮に意見が違っても、最終的に争う要素はどんどん減っていく。友人になる、近隣周辺諸国すべてと信頼できる友人関係になることが重要です。
 そうすれば「敵基地攻撃能力」などというのは全く意味を持たなくなる。日本を攻める「意図」を持たせない、外交の基本はそこでなくてはいけない。政治が、その努力をしないで、野党の指導者までが喧嘩を売るというのは、意味のないことです。近隣諸国に、日本を攻撃する『意図』を持たせないこと、これを政治家はまず第一に考え実行しなくてはならない。
 年末に、私の東アジア共同体研究所が発信しているインターネット放送(UIチャンネル)で、石破茂さんと対談をしました。そこで、石破さんは、「脅威は『能力』と『意図』だ」と言って、「意図」を持たせない重要さを語っておられました。安全保障観について良い話をしてくれました。対米従属から脱却し、自主的で平和な日本をめざす方向では、かなり一致する部分もあるなと思いました。1時間ほどの対談でしたが、私も違和感なく、お話を聞く前と後ではずいぶんと印象が変わりました。安全保障観など大きく違うと思っていたのですがね。
外国軍隊が駐留しない独立国日本に
 わが国が「独立国」と言うのであれば、外国軍隊が居座っていて、国民がこれを不思議に思わなくなっている、これは大問題です。世界でも異常なことです。私はかつて「常時駐留なき安保」政策を唱えました。安全保障政策で、いざというときにどこかの国と同盟関係を結び協力を求めるくらいのことはあるでしょう。それとこれとは別です。
 普天間基地の移設先も、国内、日本の領土の中に置く必要は全くない。
 沖縄の米軍基地、特に海兵隊は日本の安全保障には全く関係がない。普天間基地は、海兵隊が東アジアや中東など米軍が全世界に展開していく出撃拠点、中継基地になっているだけです。米軍にとってその役割は大きいし、しかも日本国民の膨大な血税をつぎ込んで、彼らの住宅から福利厚生まで面倒を見ているわけですから、米国にとってはきわめて安上がりで、こんな都合の良い同盟関係はないのです。
 嘉手納基地でさえあまりに近すぎる。「一朝有事」となったときには全く役立たない。むしろ格好の攻撃対象になるだけです。
 だから、沖縄のため、日本のためにも、さらにはアメリカのためにも「沖縄からの米軍撤退」を日本は求めるべきだと思うのです。
 ところが多くの国民は米軍が日本の安全をすべて守ってくれていると思っている、思い込まされている。かつての自民党政権、リーダーたちは、いつかは米軍を撤退させて完全な独立国にするんだと考えていた。今は違う。どうやって米軍にいてもらうか、「出ていかないでー」といった調子です。独立国をめざす気概もない。
 私は日米安保が不要だと申し上げるつもりはない。今後とも日米関係は最も重要な二国間関係であると思う。ただ、米国への依存度を減らし、中国をはじめとするアジア諸国との協力関係をもっと強めていくべきだと考えているのです。
 先ほど感染症対策で日中韓、東アジアの協力関係を申しました。さらに、共通農業政策とか自然エネルギー活用での協力とか、夢のある東アジア連携の動きを共同体めざして今年は頑張っていきたいですね。