2020年3月29日 羽場久美子
コロナウイルスが世界に急速に拡大している。アメリカが中国、イタリアを追い抜きそうになっても全くメディア報道がない中、おかしいと思っているうち、アメリカはここ1日2日で感染者が2万人ずつ幾何級数的に増えて、中国、イタリアをあっという間に追い抜き、感染者12.4万人を超え、世界第1位の最前線を走っている。もうすぐ中国の2倍に膨れ上がりそうな勢いだ。
日本も数少ないながら、この2、3日、昨日の倍々で増え始めたので、2000、3000を超すのも時間の問題かもしれない。
危険な兆候
こうした中、危惧するのは、アメリカでトランプやポンペオ国務長官が、武漢ウイルス、中国ウイルスと公式に呼ぶべきだということを言い中国批判を強調し始め、また麻生副総理も武漢ウイルスと呼ぶべきだと発言し始めていることだ。
G7の会議でもアメリカのポンペオ国務長官が、武漢ウイルスと呼ぶべきだと発言して欧州各国の反発を買い、コロナウイルスに共同して対処しようという声明が出せなかったということが起こっている。
さらに3月27日、ムニューシン米財務長官は、アメリカ2兆ドルの財政出動に対して、FOXビジネスで「これは戦争だ」と強調し始めており、不穏な空気が漂っている。
黄禍論を排する
コロナウイルスが欧州に広がる前の時期、ニューヨークでマスクをしている中国人や日本人が襲われ殴られたり、欧州でアジア人学生の登校拒否やレストラン入場が断られたりして、いわゆる「黄禍論」が広まったことがあった。今度はアメリカで爆発的に感染が広がったことに対し、アメリカ政府が再び中国起源論をあおり始めている。
感染症の地域名称を排する世界の共同・協力が重要
周知のように「スペイン風邪」は、100年前第1次世界大戦末期にアメリカ軍兵士や各国兵士に発症し全世界に広がった。にもかかわらず「スペイン風邪」と命名されたのは、スペインが中立国で、他の戦闘国のように情報が統制されておらず、悪性の感染症の情報が多かったからだといわれる。スペインの人々にはとんだ迷惑だった。当時5億人、世界人口の3分の1が感染する中(日本も39万人が死亡)、戦争の終焉に至ったともいわれる。
アメリカの自国ファースト・ナショナリズム強調の中、再び黄禍論が拡大し、心理的なパニックを起こさないことを、国際政治学者として強く望みたい。
珠玉の、贈る言葉
3月25日前後の卒業式では、オンラインを含め、慶応、早稲田、東大、東北大の各塾長、総長から学生たちに贈る言葉が発信された。――「国境を越えて流動するグローバル化の負の側面を露わに」、「独立自尊の精神を持って困難を乗り越えよ」、「自分の頭で誰も答えを知らない問題に挑戦し、その解決策を考えていく人材になってほしい」、「感染症の拡散を目の当たりにして、現代の仕組みがいかに国境を越えたものとなっているかを実感」、「国際協調を通して解決していくことが不可欠。自然科学から人文社会科学にわたる広範な知の基盤があって初めて可能」など、珠玉の言葉が、大学を巣立つ若者たちに贈られている。(3月28日付「朝日新聞」)
若者のみならず老若男女がそれぞれの場で、現在の困難に正確な情報・知識と考え抜く力、世界への共感と共同をもって立ち向かっていく必要がある。決して疑心暗鬼や対立を持ち込む場にせず、ともに問題解決に真摯に立ち向かっていきたい。特に若者たちには家族や高齢者に配慮し社会貢献をしてくれるよう、心より期待する。