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[各界新春メッセージ]全日農書記長 鎌谷 一也

新年を迎え、新たな局面に立つ!

2018年12月30日TPP11が発効となった。日欧EPAは2月だ。畜産物をはじめ、怒濤の如く輸入農畜産物が増加し、国内農畜産物の価格が下落するなどの懸念が大きい。まさに、いよいよ恐れていた情勢を迎えることになる。国内自給率が4割を切っている国内生産の状況の中で、食料の安全保障を考慮せず、グローバル企業の利益優先の政策だ。今や、日本農業の将来ばかりでなく、日本国民の食料の行く末さえ心配される。
新年を迎え、どういった局面となるのか。これまで、食料と国土を支えてきた中小農民・家族農業者・第一次産業従事者が切り捨てられ、地域で守ってきたものを奪い去られる時代に突入してくるのではないか。

食べ物や暮らし、民を無視する一次産業政策

現在の政策では、兼業農家・家族農業の位置づけはほとんどなく、無視だ。これまで農業を担ってきた兼業農家や小規模農家の存在は、もはや消えている。ドローン、スマート農業等、企業経営や技術革新、生産性の向上のみに目を向けた政策のオンパレードである。
技術革新や生産性の向上を決して軽視するつもりはないが、食料・農業・農村基本法で唱えていた、自給率の向上への取り組みや、多様な担い手の位置づけはない。国際的には、家族農業や小規模農業を大切にし持続的な農業・農村社会を重視する流れだが、日本は、全く逆行している。
農業ばかりでなく、漁業も、林業もしかりである。厳しい環境の中で、地域や沿岸漁業、山林を守ってきた多くの一次産業従事者だが、高齢化や担い手不足という情勢に直面している。しかし、政府は、そうなった政策の失敗を棚に上げ、もはや兼業農家や中小漁業林業家はいらないとばかりの、否消滅させてしまうが如き政策対応である。
兼業農家からの農地の取り上げにつながりかねない農地中間管理機構による農地集積事業、企業へ山林経営を任せ食い物にされかねない森林経営管理法、沿岸漁業権の企業への譲渡など、外国企業の参入の前に、国内の企業へ一次産業従事者が守ってきたものを明け渡せんとする政策がまかり通っている。
果たしてこれで、国民の食料や環境、代々受け継いできた歴史的資産が守れるのかどうか。

現場では……

昨年の秋、設立から10年経過した農業生産法人の集落座談会を20集落で開いた。「これからの5年、10年先の我が家の農業、集落の農業、地域の農業を考える」というテーマである。法人は253ヘクタール、構成員を530人有するが、集落単位でみると、構成員の高齢化もあって3割から6割近くの水田が法人の直接管理水田となっている集落も増えた。約90ヘクタールが急・緩傾斜の中山間地域直接支払い制度の対象となる完全な中山間地域の農業地帯だ。どういう問題があり、10年先はどうなるのか、考えようというものである。
生産調整が昨年廃止され、米価の下落は当然のごとく予想される。しかし、水田を守るにはやはり水稲である。高齢化で、農業・農村の担い人口が急速に減少するが、担い手確保以外にも課題は多い。どの集落でも出てくる意見は、鳥獣害対策だ。
また水利・治水対策もその一つだ。近年の自然災害は、上流の河床の浸食、下流への土砂の流出が激しい。その度に土砂の除去、堰の修復を行い、水路と河川との段差が生じた所ではポンプアップなどの対策を講じている。これも高齢化等、いつまで続けられるか、という意見である。
10年というスパンで考えれば、鳥獣害対策も治水対策も、米をつくり農地を守るための基本的な条件整備、インフラ問題である。食べていくことのできる農業、地域の農業や集落機能を維持しうる農業・地域政策が問われる。

農林業の多面的価値を確認すべき

東大の鈴木宣弘教授が現在の社会の風潮を「今だけ、金だけ、自分だけ」と批評されている。(企業が儲かればよい)という、グローバリズムの風潮の中で、地域から、暮らしと農業の再生、社会の再生の動きとして、価値観を対峙しながら、取り組んでいかなければ、と思う。
座談会に出席した元町長が言う。「食料の安全は一体どうなっているのか。自給率は40%を切っている。いつまでも輸入できる状態でない。ストップされたらどうするのか。軍事兵器に膨大な予算を使うよりも、もっと農業の生産に使うべきではないか。自民党の農政は一体どうなっているのか」という意見だ。80歳にもなる、普段は出席されない元町長が座談会に出て言うのだから、本当に心配で、かつ現状の自民党農政への不満があるのだと思う。
兼業・専業問わず地域の農家が歴代、脈々と受け継ぎ持続させてきた地域農業、暮らしの空間である農村。そこに暮らし、生産に携わり、農業者が地域を守ってきたからこそ、国土保全や環境保全もできていたのである。
家族農業者、小規模農業者を農業分野から排除し、土地等生産手段を取り上げる。一部の担い手や企業へとシフトさせている政策は、本当に危うい。
集落では、もう一度、集落の農地は集落で守る。そのためにはどうするか。農業があることへの感謝、集落での共同作業の大切さ、そして相互扶助による暮らし・生活の在り方を時間がかかっても共通認識としていくことが求められている。そして、政策的には、戸別所得補償政策、地域政策および多様な担い手による持続可能な農畜産業政策、生産費の保証・再生産可能とする政策こそ求められる。

消費者都市との連帯!

現状の政策が持続するはずがない。必ず破綻する。課題や問題、不安要素をあぶりだしながら、地域での連帯とネットワークを形成し、自らの生活・活動領域を守り拡大し、包囲していくしかない。
自給圏構想、産直連携、都市と農村の連携、独立圏の構想。道州制ではなく、地域の主体性を生かした共和国的な自治体づくり。仮想通貨ではなく、地域経済や地域社会に裏付けされる地域通貨圏。まさに、小さな国家づくりに踏み出すべきである。それぐらいしないと、政治的な対峙ができない。国政・政治に対するトータルな反撃や批判ができない。
そして、一体誰が、誰のために農業を続け、食料を生産し、何を守っていくのか。この柱をしっかり見定めなければ、やがて嵐の大海にさまよう船の如く、進路を見誤ることになりかねない。
同時に大切なのは、地域や消費者との連携した取り組みである。
日本の農村の原風景のある谷々や山々。水源である上流の山・里山を守り、景観保全する営み、いざという時の国民の食料確保、農林業の持つ多面的機能、消費者と共有できる認識は多い。
安全で安心できる食べ物を安定的に生産する。それを供給し、食することで、生産も支える。その循環により、農業者・関連業者と消費者の暮らしが成り立ち、大切な地域文化や消費文化も成り立つのである。農業者というよりも、消費者が自らの問題として、農業や食料を考えなければならない時代となっている。
新たな局面で、挑戦的に取り組んでいきたいものである。