軍事大国化で「強い日本」か、平和・自主外交で真の自立国をめざすのか
日本の進路編集部
トランプ政権成立から100日が過ぎた。普通は「ハネムーン期間」などと言われる安定期だが、この間はまったく違って、米軍によるシリアやアフガンでの爆撃・殺戮など戦争を含む激動となった。世界は今、緊迫の朝鮮半島情勢を息を凝らして見守っている。
貧富の国内矛盾が限界に近づき、対立激化で余裕を失って、「強いアメリカ」復活の悪夢を見るトランプ政権となった。経済・金融政策も、シリア攻撃のように安全保障政策も、まったく一方的である。世界経済の4分の1を占め、基軸通貨ドルを握る核軍事超大国である。こうしたトランプ政権の世界政治への影響は力衰えたアメリカとはいえ決定的である。
中国も、ロシアも、西欧諸国も、中小国も、世界中の国ぐにが国益をかけて身構えている。
今日、グローバル化した経済は停滞し、世界貿易は減少傾向である。その下で政権を取ったり守ろうとすれば、トランプのように他国を攻撃したり、犠牲を転嫁したりする傾向が強まることになる。
「国際協調」はますます困難となり、国家間の対立が急速に激化している。明らかに国際政治情勢は、以前とは異なった局面に入った。だが、わが国政治社会ではこの認識が極めて希薄である。
「対米従属」で、とりわけ安全保障をアメリカに任せてきたわが国は迫られる。「アメリカの国益第一」になすすべもなく翻弄されるか、それとも「わが国の国益」のために自主的に生きる道を選ぶのか。真に自立した平和な国をめざす真剣な努力が求められる。
軍備増強、治安体制強化と教育反動化。3点 セットの軍事大国化
安倍晋三首相は、なりふり構わずトランプの懐に飛び込む道を選んだ。「戦後レジームからの脱却」を唱え、独立の国をめざすかの幻想を煽っていた安倍だったが、政権を維持しようとすれば対米従属強化のほかに道はなかった。
多国籍企業のための成長戦略であるTPP(環太平洋連携協定)とアベノミクスは、トランプ政権に否定され、実質破綻した。それでも、大国として登場した中国や核武装して自立した国をめざす朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を敵視すれば、アメリカの核戦力に頼る日米同盟強化路線以外にないというのであろう。
来日したペンス・アメリカ副大統領は、原子力空母ロナルド・レーガン艦上で「朝鮮は最も危険で差し迫った最大の脅威」と煽り立て、「日本を100%支持する」などと安倍をそそのかした。
安倍政権は、呼応して危機を煽り立て、軍事大国化の策動に最大限利用している。軍備増強を進めるとともに、国内体制の反動的再編強化を狙って共謀罪など治安弾圧体制と教育の反動化策動を強引に推し進めている。
「強い国」をつくることで、戦争の危険も高まる世界を日本は生きていくという道である。この安倍路線が、保守層などの一定の支持を受けているのは間違いない。森友学園問題があろうが、閣僚などのさまざまな問題が発覚しようが、内閣支持率が急落せず一定の水準を維持しているひとつの、重要な要因がここにある。
共謀罪法案が国会に上程され、審議が始まった。これに反対する世論を盛り上げ、闘いを発展させなくてはならない。そのためにも、この「強い国をつくる」という安倍路線の全体、とりわけ対米従属路線で国益を売り渡している根本を明らかにして、真に国を守る道は何か、対抗軸をもって闘わなくては広範な世論を引き付けることはできない。
安全保障は専守防衛に徹し、自主的外交でアジア近隣諸国との関係を改善し平和な環境をつくり、アジアの共生を実現してこそわが国の生きる道である。
日米同盟は引き換えに国民の食料も命も差し出す危険な道
トランプ政権の最大の課題は、貧困層の支持を欺瞞で維持すること、とりわけ雇用を増やすことである。そのため日本への経済面の圧力は強い。日米同盟強化路線では、トランプの要求を受け入れ経済面で国益を差し出す以外にない。2月の訪米時には、アメリカのインフラ整備投資などに年金基金まで含めて国民の資産を投入、50兆円の市場をつくる手土産を持ってトランプの機嫌をとった。見返りに尖閣諸島防衛を公言してもらった。
来日時にペンス副大統領は、朝鮮半島の危機を強調し、日米FTA(自由貿易協定)の方向を示した。2国間交渉で真っ先にやり玉に挙がるのは牛肉やコメなどの農畜産物で、TPP以上の関税引き下げが迫られるとみられる。すでに、米国の生産者や貿易業者がトランプに圧力をかけている。安倍政権は、開会中の国会でアメリカ種子産業に道を開く種子法の廃止や全農解体などを導く農業競争力強化支援法の制定などを強行している。自動車産業への攻撃では、国内の下請け部品産業などが大打撃を被ると予測される。
日米間の経済の国境を取り払い一体化させるFTAとなったらどういうことになるか。日米同盟強化で「強い国」をめざす安倍路線だが、実際は国内経済をアメリカに差し出し疲弊・空洞化させ、農民や中小企業、多くの労働者を犠牲にする道である。「強い国」どころではなく、「弱い国」以外の何ものでもない。北海道のような農業地帯は崩壊させられる。今でも生活に窮する国民が大多数だが、本当に生きていくことができなくなる。
しかも、日米同盟では国民の生命・財産も守れない。安倍は、朝鮮の核ミサイルを撃ち漏らしてもアメリカの「核による反撃」があるから抑止力と言う。攻撃をされないようにして国民の生命・財産を守る安全保障ではない。国民を犠牲にさらして敵基地をたたく軍事戦略で、アメリカ本土を守るための日米同盟が明らかとなった。米軍基地を撤去することこそわが国の安全保障である。
米朝の戦争となれば、どこにあろうが米軍基地が狙われるのは軍事上は必然である。米朝が平和条約を結び朝鮮半島の平和と安全を確保する政策だけが国民の生命・財産、国の安全を確保し、朝鮮民族はじめ、アジアの人びとと共生する道である。
平和と自立の道
当面して、アメリカ軍による朝鮮半島での軍事的威嚇・緊張激化策動に反対し、わが国政府の加担に反対する闘いは文字通り緊急の課題である。また、国会で審議が続く共謀罪を廃案にさせる課題も重要である。教育勅語の道徳教材化など教育の反動化との闘いも重要である。
こうした安倍政権の進める軍事大国化の策動を打ち破るうえで、焦点となっているのが沖縄県民の闘いである。安倍は2月、首脳会談であらためて基地建設強行を約束した。他方、翁長県知事が「埋め立て承認撤回」を明言するなど沖縄県民は一歩も引かず結束を強めている。この闘いを支持し、埋め立て土砂搬出に反対するなど、全国それぞれの地域で自らの課題を闘って連帯を発展させなくてはならない。
また、農畜産物関税引き下げや全農改革などに反対する北海道をはじめとする全国農民の闘いは日米同盟路線に反対する重要な一環である。
膨張した軍事費のために社会保障は削減され、貧困層、高齢者、障がい者などにしわ寄せされている。国民の怒りと切実な生活要求を基礎に、日米同盟強化の軍事大国化路線を打ち破る広範な戦線構築が急がれる。