「アジアの平和と共生をめざして―日中不再戦―」講演会
元防衛省・内閣で安全保障危機管理担当 柳澤 協 二さん講演

さいたま市で「アジアの平和と共生をめざして―日中不再戦―」講演会が10月25日、100人を近い参加者のもと実行委員会主催で開かれた。最初に主催者を代表して橋本清一さんが「悠久の友好の歴史のある隣国中国と二度と戦争をしない。戦争を拒否する民意を社会に反映させることが大切だ」と開会あいさつした。
元防衛省幹部で内閣官房副長官補として安全保障・危機管理を担当した柳澤協二さんが要旨以下のような講演をおこなった。――
高市政権は危険な政権だが、話し方が上手で支持率が70%。長持ちする可能性がある。だが、平和の道を諦めないことだ。防衛省では憲法9条をどう守るか、そのために「米軍と自衛隊が一体化しない」ようにと心がけてきたが、岸田元首相は「アメリカと共にある」と専守防衛から逸脱した。
ウクライナ戦争の誤りはウクライナをNATOに加わらせないという努力をしてこなかったことだ。台湾問題では、台湾を有事にしない政治が必要だ。
トランプ政権は自国の利益を優先し、強い国が弱い国を虐げることが平和だと言っている。
日本がトランプの言うままに防衛費を増大すれば財政破綻することは明らかだ。日本は専守防衛を守るべきだ――と講演を締めくくった。
質疑応答の時間では、学生さんから「地域限定の戦術核兵器が出てきて核が使われる可能性がある。どう対応すべきか」と問われて、柳澤さんは「核を使わせないための国際的な包囲網を作る必要がある」と答えるなど率直な意見交換が続いた。
その後、訪中した学生さんから報告があった(別掲)。最後に主催者を代表して金子彰さんから「大軍拡を止めなければならない。日中の民間交流を進めながら戦争をさせない運動を広めていきたい」とあいさつがあり講演会を締めくくった。
(広範な国民連合・埼玉事務局)
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訪中報告 過去と未来をどう結ぶか
明治大学生 佐藤 翔(仮名)
「アジアの平和と共生をめざして―日中不再戦―」講演会で柳澤さんの講演に続いて、「若者の目で見た日中の平和」と題して訪中報告をおこなった。戦争を知る世代から若い学生まで、幅広い層が熱心に耳を傾けてくださった。自分の体験を通して日中関係や平和の重要性を語るという貴重な機会をいただき、改めて日中友好の意義を実感した。
今回の報告では、8月に参加した若者訪中団の経験を中心に話をした。訪中の目的は、日中間の相互理解を深め、歴史と現在を学び、未来の交流の礎を築くことだった。北京大学紅楼や抗日戦争紀念館では、歴史を「国家の原点」として語る中国の姿勢に触れ、日本との歴史認識の違いを肌で感じた。第七三一部隊罪証陳列館では、加害の歴史を直視することの重みを痛感し、戦争の記憶をどう次世代につなぐかを考えさせられた。一方、ロボット企業や自動運転技術の現場では、中国の急速な技術革新を目の当たりにし、歴史と近代化を同時に進めるエネルギーを感じた。訪中全体を通じて、過去と未来をどう結ぶかという課題を強く意識した。
特に「歴史を学ぶことは現在を理解する鍵である」という点を強調した。今の日本社会では、加害の歴史を語ることが少なくなり、台湾有事などの報道が緊張を高めている。しかし、中国側の視点から見ると、それは「再び侵略の兆し」とも受け取られかねない。だからこそ、若い世代が歴史を正しく学び、互いの立場を理解し合う努力が欠かせないと感じた。
過去を鑑として
未来を創造する努力を
報告後には多くの方が声をかけてくださり、「若い人がこうした視点を持っているのは希望だ」「自分たちの世代が伝えきれなかったことを次に引き継いでほしい」と励ましの言葉をいただいた。また、「中国の若者は日本をどう見ていたか」「歴史問題をどう話し合ったのか」といった質問も多く、日中関係への関心の高さを改めて感じた。会場全体に、「もう二度と戦争をしてはならない」という共通の思いが静かに共有されていたように思う。
今回の報告を通じて、私は「平和を語る」という行為の責任と重みを学んだ。平和は抽象的な理想ではなく、一人ひとりの小さな理解と行動の積み重ねの上にしか成り立たない。柳澤さんが講演で語られたように、「安全保障とは戦わないための知恵」であるならば、私たち若い世代もその知恵を磨き、過去を鑑として未来を創造する努力を続けなければならない。日中の歴史を学び、同時に未来の協力を描くこと――その両立こそが、真の友好の道だと思う。
訪中団で得た経験を伝えるこの報告会は、終わりではなく新たな出発点である。これからも中国の若者たちとの交流を続け、学びを広げながら、両国の橋渡し役となれるよう努めていきたい。そして、私自身の世代が「不再戦」という言葉を行動で示す世代となるよう、一歩ずつ歩んでいきたい。
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講演会で司会も担当させていただいて
明治大学生 藤野 悠真(仮名)
今回で3回目の開催となった「アジアの平和と共生をめざして―日中不再戦―」講演会には、第1回から参加させていただき、毎回貴重なお話を聞くことができています。近年の世界情勢が不安定となっていることを踏まえると、80年続いた平和を今後も続けていくために多くの人に参加していただきたい講演会です。
第1回と第2回では、日本と諸外国との関係性や日本政府の動きについて専門家の視点でお話を聞きました。今回の講演者である柳澤協二さんは、元防衛官僚という立場から現在の防衛政策の危うさについて語られていました。改めて、柳澤さんは平和のためには「外交」が鍵を握るとおっしゃっていました。戦争が起きない・巻き込まれないということを一つの外交の最重要事項と考え、米中という大国の間にある日本が時代に沿った外交戦略が求められる難しい情勢であることを常に考えなければならないと感じました。
私は昨年と今年の司会も務めさせていただきました。司会は成長できる好機と捉え、進行役として冷静に状況を把握し、講演者と参加者の繫ぎ役として務めることを意識しています。そして、司会という講演会における重要な役割に選んでいただいた実行委員会の皆さまに感謝します。
継続して取り組んでいるこの講演会を通して、学ぶこと・考えることの大切さを感じていただきたいと思います。現代はニュースやSNSから得た情報を常に精査することが求められる時代です。パーソナライズされたネット上から離れ、中立な視点を手に入れるために自ら会場に足を運び、新たな人との繫がりを築いてほしいと思います。
