『安保三文書』で進む自衛隊軍事強化による戦争準備の危険性

戦争が始まるには1発のミサイル発射でよい

参議院議員(会派「沖縄の風」) 伊波 洋一

 安倍政権下の2016年に始まった6年計画で南西諸島の島々への陸自ミサイル基地建設が行われ、実戦部隊のなかった奄美大島や沖縄本島より以西の宮古島・石垣島・与那国島にミサイル基地や弾薬庫を建設した。この南西シフトで南西諸島防衛に向けた九州各地の自衛隊基地の強化も進められた。19部隊が各基地に新たに配備された。
 その6年計画が完了する直前の22年12月16日に岸田政権が閣議決定したのが「安保三文書の改定と5年間43兆円の大軍拡」である。「防衛力整備計画」は5年計画で敵国基地を攻撃できる長射程ミサイルを開発・生産して全国の自衛隊ミサイル基地と海上自衛隊のイージス艦に配備し、航空機に搭載して戦争に備える計画である。これまでGDP比1%の年間5兆円台だった防衛費が28年度からGDP比2%の約11兆円になる。
 来年26年3月には地上発射型ミサイルの配備とイージス艦へのトマホークミサイルの配備が開始される。さらに長射程ミサイルの大型弾薬庫を10年間で130棟増設する。北海道から沖縄本島までの全国各地に建設される。
 建設地域では敵国の標的になるとして反対運動が起きている。奄美諸島や石垣島、与那国島の島々では自衛隊の大規模な戦争演習が頻繁に行われ、県民に再び戦争の不安を与えている。

「安保三文書」の決定前に南西諸島の「台湾有事」攻撃拠点化を日米が合意

 日米両政府は22年1月の日米外務・防衛閣僚協議で「台湾有事」での日米共同作戦の概要を合意した。報道によると、①中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合、②台湾有事の初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く、③軍事拠点候補は、陸自ミサイル部隊がある奄美大島、宮古島や配備予定の石垣島を含む約40の有人島、④対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置。自衛隊に輸送や爆薬の提供。燃料補給のなど後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。
 こうした合意は、極めて重大な憲法違反と言うべき。現に住民が住む地域を台湾有事の攻撃拠点に計画することなどあってはならない。

内閣官房主導で策定される先島5市町村の全住民・県外避難計画

 日米政府が合意した奄美大島諸島および先島5市町村(宮古島市・多良間村・石垣市・竹富町・与那国町)の「台湾有事」における攻撃用軍事拠点化は、住民を戦争に巻き込むことを禁じたジュネーブ条約および追加議定書に違反することから内閣官房では先島5市町村全住民12万人を県外移転させる取り組みを策定している。
 住民避難時期は民間航空機が運航している間に増便して行い、1日あたり2万人を避難させ6日間で行うという。避難は1人10㎏以内の機内持ち込み制限で九州・山口の指定された地域の宿泊施設に避難する。1カ月間の宿泊後のことは明らかにされていない。学校も仕事もなくなる。先島地域は黒毛和牛の子牛生産地であり、家畜は多数の子牛の他にヤギもいるが放置される。
 このような避難計画を果たして国民保護計画と言うことができるのか疑問だ。

安保三文書の「我が国の防衛目標」

 国家防衛戦略の「我が国の防衛目標」として、第一の目標は「力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出することである」とし、第二の目標は「我が国として同盟国・同志国等と協力・連携して抑止することである」としている。22年ごろから頻繁に繰り返されているのが、日米共同統合演習などの外国軍隊も入った統合演習である。
 第三の目標は「万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除する」とされ、実際の戦争では自衛隊が責任をもって防衛を取り組むことが明確にされている。防衛力の抜本的強化の項では「侵攻を抑止する上で鍵はスタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力とし、質・量ともに不断に強化していく」とし、併せて、集団的自衛権の行使でも使用できるとした。すなわちウクライナのような状況を想定している。
 そのために全国約300の自衛隊基地および施設の継戦能力の確保のために弾薬・ミサイルおよび装備の積み増しと基地施設の強靭化に43兆円のうち15兆円が充てられる。長射程ミサイルや迎撃ミサイル等の生産・配備には9兆円が充てられる。結果的に全国がミサイル戦場になる可能性がある。

防衛力整備計画の基になったと考える防衛研究所の令和3年度特別研究報告書

 『将来の戦闘様相を踏まえた我が国の戦闘構想』は、中国の軍事力を評価し、日本の戦略目標を次のように設定している。
 ●中国は急速に軍事力を質量ともに強化し、現在では戦域レベルにおいて米軍に対して一定の軍事的優位に立った。地上発射型の短中距離ミサイルで、戦域レベルでの打撃力のバランスにおいて中国が優位に立っている。日本の戦略目標として膠着状態に持ち込み、米軍のグローバルな戦力集中までの時間を稼ぐことを基本的な目標として設定する。
 ●第1の柱は宇宙・サイバー・電磁波の能力の強化。第2の柱は海洋縦深ミサイル態勢の整備。海中・水上・航空・地上からの対艦ミサイル飽和攻撃能力の整備。第3の柱は航空相殺攻撃能力の確保。日米として中国の航空基地を撃破することが必要で弾頭ミサイルや超音速兵器のようなハードターゲットをも破壊しうる装備の開発が必要。
 
 以上の記述は、中国に対等に対峙できると読むことはできない。
 米国ですら中国と戦うことはしないと決めていることは、米国の国際戦略研究所(CSIS)の「台湾有事」シミュレーション報告書でシミュレーションの前提が「中国本土を攻撃する計画を立ててはならない」としていることでも明らか。
 「我が国の戦闘構想」のように中国本土への縦深攻撃を行えば、容赦ない反撃ミサイルが日本全国の基地に降り注ぐことになりかねない。隣国の北朝鮮やロシアも同様であり、自衛隊が責任を持って対処することは困難。我が国は攻撃を耐え忍ぶことになる。同盟国の米国がグローバルな戦力を集中することもない。

米軍は日本を守らない

 すでに05年10月の日米再編合意「日米同盟:未来のための変革と再編」で在沖米海兵隊のグアム移転が合意されると同時に、「日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略等の新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する」と合意された。
 さらに15年の日米新ガイドラインでは、「打撃力の使用を伴う作戦」が米軍の役割から消え、「支援と補完する作戦」に変わった。自衛隊は、離島奪還作戦のために米海兵隊の遠征部隊をモデルに3000人規模の「水陸機動団」を18年3月に創設し、オスプレイ17機と水陸両用車52両を購入した。05年以来、自衛隊はカリフォルニア州の米海兵隊基地に毎年部隊を派遣して米海兵隊や米陸軍から戦闘訓練を受けてきた。
 実際の有事においては自衛隊が戦うことになっている。「安保三文書」に基づく戦争計画のリアルな日米共同統合演習「キーン・ソード25」の内容も明らかになっている。新聞報道の図でも、対艦戦闘や対空戦闘を行うのは自衛隊である。在沖米軍基地が使用される場合も滑走路被害復旧・宿営・指揮所・CBERN対処や医療施設運営・治療後送の利用である。本土の陸上訓練の多くは基地警備である。地上で対空攻撃や対艦攻撃を行うのも自衛隊である。

「安保三文書」に欠けている「対話外交」、「国民生活」、「国民経済」の視点

 「安保三文書」の最大の欠陥は、「戦争する準備」しかないこと。「戦争を避ける」という選択肢がない。
 それは米国が策定した国家防衛戦略と戦略すり合わせをして日米同盟による共同抑止・対処を目標にしているからである。
 本来なら国が違えば、国益も違い、外交や国民生活、国民経済も違うのが当たり前だが、岸田政権の「安保三文書」は、アメリカ仕様のままなのだ。
 日中関係は、米中関係とは違う。
 日本の侵略戦争によって中国に大勢の犠牲を生み出し、その反省に基づいて1972年の日中共同声明によって国交を回復した。日中共同声明では「中国は台湾が中国の領土の不可分の一部であることを表明し、日本政府は、中国の立場を十分理解し、尊重する」と明記した。また、78年に締結した日中平和友好条約には、(日中は)「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」としている。国会で批准した共同声明と条約を、行政文書で否定することがあってはならない。

 日中関係が重要であることは、日中貿易が全貿易に占める割合でも明らか。
 日中戦争がどれほどの困難を日本にもたらすものなのか、日本政府は評価したのか。日中戦争となれば、2国間貿易は止まる。日本と中国は経済的に相互依存しており、コロナ前の香港を含めた全輸出入貿易総量の26・5%を占め、米国は14%台。中国に進出している日本企業は3万社を超え、中国での在留邦人は10万人を超える。日本における中長期在留外国人も中国が一番多く90万人を超えている(25年6月末)。
 日中貿易の停止は我が国の国内経済や食料調達などに甚大な影響が起きることは明らか。さらにアメリカの戦略は、長期的に中国を封じ込めるもので、我が国総貿易の50%を超える東アジア内の貿易は大きく阻害される。日本国内の物流は阻害され、日常品や食料品などが枯渇する事態になる可能性すらある。

「台湾防衛」で日本全国を戦場にする「安保三文書」は是か非か

 安倍政権の南西諸島防衛で始まり、岸田政権の「安保三文書」の敵基地攻撃ミサイルの全国配備に行きついた安倍~岸田政権の安全保障政策を、高市新政権は日本維新の会との連立でさらなる高みに上げようとしている。尖閣防衛から始まったものが日本国土を戦場にする「台湾防衛」に変わってしまった。報道された24年2月実施の日米指揮所演習「キーン・エッジ24」のシナリオでは、存立危機事態を認定し集団的自衛権の行使として米側の要請を受けて、航空自衛隊の戦闘機が空対艦ミサイルで台湾に向かう中国軍輸送艦を攻撃する。つまり、日中戦争が始まる。その際には、全国のミサイル基地や配備された場所は一斉に攻撃されることになりかねない。
 戦争が始まるには1発のミサイル発射でよい。日中の間に再び盧溝橋事件のような戦争を起こしてはならない。
 危険な「安保三文書」による敵基地攻撃ミサイルの全国配備や憲法違反「集団的自衛権の行使」を国民の声で止めましょう。