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特集■「自立日本の総合安全保障を考える」軍事化ではなく、中国や韓国・朝鮮との関係正常化こそ国益

伊波 洋一 参議院議員

 安倍政権は、2014年の解釈改憲による「集団的自衛権の行使容認」の閣議決定を契機として、15年9月、平和安全法制整備法(〝戦争法〟)を成立させ、日本の軍事化を急速に進めてきた。
 自衛隊の「南西シフト」、すなわち島嶼防衛を名目に南西諸島での戦争を想定した長崎県佐世保市相浦駐屯地への島嶼奪還部隊・水陸機動団3000人の創設、戦闘機(F35A)6機、新空中給油・輸送機(KC46A)、オスプレイ17機と水陸両用車52両等の米国からの購入、南西諸島の島々へ陸上自衛隊駐屯地を建設して対艦ミサイル部隊・対空ミサイル部隊および警備部隊を配備、等々である。
 F35戦闘機は、すでに購入し国内で組み立ててきた42機に加えて、18年末の閣議決定で新たに42機の空母用の垂直離着陸機F35Bを含む105機(総額約1兆2600億円)の完成品をFMS(前払い方式)で購入することを決定した。
 また、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を秋田県と山口県に配備する計画で、総額6000億円以上の費用となるとみられる。東京新聞の18年末の推計によると、米国から購入する高額兵器の「後年度負担」の残高は、18年度で5兆円を突破し、19年度には5兆3000億円に達する見込みである。105機のF35もイージス・アショアの関連装備、迎撃ミサイルなどは入っていないから、今後どれほど膨れ上がるか。

自民党「防衛議員」からも反発が

 このように米国に言われるがまま高額兵器を購入する安倍政権の対応には、自民党の防衛議員からの反発もある。F35の大量購入で、F2後継機としての次期戦闘機開発計画が滞る可能性が高くなった。F35戦闘機105機は完成品輸入であり、国内の戦闘機製造ラインがストップすることになりかねないからである。
 日本は米国の同盟国として最大のF35保有国となる。一方、米国防総省は、F35ではなく、40年前に開発されたF15EXを新たに80機購入する。維持管理費でF35の半分以下、機体寿命がF35の2倍以上というのが理由だ。米会計検査院(GAO)は19年3月、F35が深刻な欠陥を抱えていると指摘した。ドイツ政府も19年2月に、このようなF35を次期戦闘機として選定しないことを決めた。自衛隊が17機購入するオスプレイも火災事故等がやまず、欠陥機と指摘されている。購入決定していたイスラエルは14年に購入を中止した。
 安倍政権の高額兵器購入は、対米貿易対策の一環でもある。米国のトランプ大統領は、対日貿易赤字を理由に日本からの輸入車へ25%関税や輸入数量制限を課すなどとぶち上げ、高額な武器購入をするよう安倍首相に迫った。500億円分の米国産トウモロコシの買い取りも同様である。
 その場しのぎのトランプ大統領への忖度は、大統領に安倍首相へのディールを繰り返す意欲を増大させるだけだろう。米国にとって都合よく利用され続けているのが安倍政権ではないか。

イージス・アショア設置で第一標的に

 秋田と山口のイージス・アショアは、本州や四国、九州、北海道を狙う弾道ミサイル迎撃に有効ではなく、グアムやハワイ、北米大陸へ向かう弾道ミサイルを迎撃するために配備地が選定されたのではないかとの指摘もある。イージス・ミサイルは対抗して撃墜するより、後方から追いついて撃墜する方が成功率は高いと指摘されている。秋田・山口に設置されれば、敵の第一標的とされることは間違いないだろう。

日本国土が戦場になることを前提とした米国の戦略

 トランプ政権のピーター・ナバロ国家通商会議委員長は、著書『米中もし戦わば』の中で「①在日米軍基地の強化戦略、すなわちコンクリートと鉄筋による要塞化、燃料タンクや兵器庫の地下深部への移動、格納庫の強化、迅速な修復訓練、②分散と多様化、すなわち基地や艦船など高価値資産を日本列島全体に再配置すれば、中国にとってターゲットを絞り込むことが遥かに困難になる。琉球諸島の南西の島々にまで軍を分散して配置することができれば中国にとってターゲットを絞り込むことは非常に困難になるだろう」と指摘している。米軍再編による全国各地の自衛隊基地(築城、鹿屋、新田原)等への米軍航空機部隊の分散駐留や、南西諸島への自衛隊の地対艦ミサイル部隊・地対空ミサイル部隊の配備、経ヶ岬へのXバンドレーダー配備、秋田と山口へのイージス・アショアの設置などは米軍分散戦略の一環なのではないか。
 『米中もし戦わば』に出てくる米海軍学校の「ヨシハラ教授」は、自衛隊の「南西シフト」や南西諸島へのミサイル部隊配置の戦略を理論づけている論文「アメリカ流非対称戦争」の共同執筆者、トシ・ヨシハラ氏のことである。南西諸島へのミサイル配備を主張する「アメリカ流非対称戦争」は米海軍戦略誌“Proceeding〟2012年5月号に掲載され、海上自衛隊幹部学校の戦略誌「海幹校戦略研究(同年5月、翻訳論文増刊号)」に掲載された(http://t.co/FWmGtIadvd)。

南西諸島ミサイル部隊配置で自衛隊と中国を戦わせる

 論文は「中国海軍は、台湾の脆弱な東海岸に脅威を与え、かつ戦域に集中しようとする米軍に対処するためには、琉球諸島間の狭隘な海峡を通り抜けざるを得ない」、「琉球諸島海域を適切にカバーするように誘導弾部隊を配備することにより、東シナ海の多くの部分を中国水上艦部隊にとっての行動不能海域とすることができる。発射し回避する、機動可能な発射装置は分散配備と夜間移動、あるいは隠蔽により、敵の攻撃を回避できる。トンネル、強化掩体壕、偽装弾薬集積所、囮の配置等により、誘導弾部隊を識別、目標指示、破壊しようとする人民解放軍の能力を減殺することが可能である」としている。「アメリカ流非対称戦争」に「尖閣諸島」の文字は見当たらない。ミサイル部隊配備は、南西諸島や尖閣諸島などの島嶼防衛のためではなく、南西諸島を戦場にして自衛隊と中国海軍を戦わせ、台湾を武力で奪取する中国の意図をくじくのが目的であると言えよう。

日本が戦場になって「日本が守られる?」

 海上自衛隊幹部学校が戦略誌「海幹校戦略研究」を2011年5月に創刊して以来、それまで表に出てこなかった日米防衛戦略の詳細が各種論文で示されるようになった。特に、戦略研究会の「コラム」には、米軍戦略の最新のトピックスが要約されて掲げられている。その中に米軍の対中国戦略が数多く載っており、共通しているのは日本国土が戦場になることを前提としていることだ。
 多くの国民は日米安保で米国によって日本は守られていると思っているが、米国の対中国戦争は日本国土を戦場にする戦争である。代表的なものに10年に公表された「エアシー・バトル構想」がある。第一段階では、中国の最初のミサイル攻撃の兆候を察知して空軍機を在日米軍基地から中国のミサイル圏外に退避させて、中国の先制攻撃に耐える。第二段階で北海道から地対空ミサイル部隊や航空機部隊を入れて、日本の制空権を拡大して、琉球列島ラインをバリアに主導権を奪回し、維持する。その後、米軍の空軍力と海軍力を総動員して中国を縦深攻撃して勝利するというもので、その過程では日本が戦場になる想定だ。

中国を攻撃しない封鎖戦略 反撃は日本に

 しかし、このような戦争は米中全面核戦争へエスカレーションし、中国が大陸間弾道ミサイルを米国に打ち込む可能性が懸念された。そこで、全面核戦争にエスカレーションさせない代案として「オフショア・コントロール戦略」が提案された。
 防衛省は「エアシー・バトル構想」と「オフショア・コントロール戦略」を否定も肯定もしていないが、海上自衛隊幹部学校のウェブサイトの戦略研究会「コラム」や戦略誌「海幹校戦略研究」で頻繁に取り上げている。
 米国防大学のハメス氏が提唱する「オフショア・コントロール戦略」は、中国の領域に対する攻撃はせず、①中国による第一列島線(日本列島、南西諸島、台湾、フィリピン結ぶ線)内側の使用を潜水艦や機雷および少数の部隊を用いて「拒否」する、②第一列島線上の海と空を「防衛」する、③第一列島線の外側の空と海を「支配」する。中国との海上交易上のチョークポイントで通航を阻止する遠距離封鎖を含む。「オフショア・コントロール戦略」はこのように長期にわたり中国を経済的に疲弊させる封鎖戦略であり、同盟国に依存せず、米国単独で実行可能であるとしている。(「オフショア・コントロール戦略を論ずる」「海幹校戦略研究」14年6月)
 ハメスは、次のようにも言っている。
 ●オフショア・コントロールは、中国のインフラを破壊しないことにより、紛争後の世界貿易の回復は促進される。経済的な現実として、グローバルな繁栄は、中国の繁栄に多く依存するということである。(「オフショア・コントロールが答えである」コラム046 13/06/12)
 ●オフショア・コントロール戦略は、中国共産党が過去の戦争(中印国境紛争、朝鮮戦争、中ソ国境紛争、中越戦争)を終結させた時のように、中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらせることを狙いとしているのである。(「2つのオフショア戦略」コラム049 13/12/19)
 米国にとっては、攻撃しないことで中国にある米国資産を保全できるが、日本にとっては、経済封鎖の対象に日中海上交易も含まれるため、すでに対中貿易が対米貿易を超えている日本経済は、破綻する可能性もある。
 さらに、中国が「敵に教訓を与えた」として戦争を終結させる相手として、日本と台湾が想定されているとみられる。中国が第一列島線を攻撃するのは、台湾が独立を公然化した場合と考えられるが、日本政府は尖閣諸島を含む南西諸島の領土防衛として南西諸島の島々に地対艦ミサイルを配備する陸上自衛隊基地を造り続けており、攻撃を誘発するおそれがある。また、米軍の要請と日本政府の解釈次第では、〝戦争法〟における「米国等に対する武器等防護」「重要影響事態」「存立危機事態」などの自衛隊による武力行使に至る危険性も否定できない。
 中国がミサイルで南西諸島のミサイル部隊を攻撃しても、米国は中国領内の発射基地を攻撃しない。南西諸島に一定の攻撃を済ませた後に、中国が「敵に教訓を与えた」として戦争を終結させるシナリオを想定しているとしてもおかしくない。
 高額兵器の爆買いや「9条改憲」まで進めようとする安倍政権による軍事化は、米国の中国に対する軍事戦略に呼応するものに違いない。しかし、国土を戦場にすることが日本の安全保障政策と言えるだろうか。

自衛隊の中にも疑問が

 自衛隊の中にも疑問が生まれている。陸上自衛隊研究本部・中澤剛一等陸佐(当時)の報告「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」(13年9月26日 https://bit.ly/32GBAAG)では、オフショア・コントロール戦略について「中国は、海域・空域支配のために南西諸島に展開する地対艦ミサイル・対空ミサイル及び九州から南西諸島の航空自衛隊基地や民間空港に展開する航空自衛隊や米空軍部隊に対し、弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃を繰り返すであろう。中国の攻撃に対し中国本土のミサイル基地や航空基地を米軍が打撃しないとするのは、従来、日米同盟の役割分担を『盾』と『矛』になぞらえてきたことにも矛盾し、日米同盟の信頼性を揺るがすことになりかねない」と指摘している。
 日本政府は、この指摘に答えることなく、日米同盟が基軸と言い続けて対米追従を続けている。

日中、日韓・日朝の正常な関係、平和な東アジアを発展させることが国益

 では、別の道はないのだろうか。日本は、満州事変から太平洋戦争終結までの〝15年戦争〟でアジア・太平洋を戦争に巻き込み、国内で約300万人、中国で約2千万人の戦死者を出したと言われている。戦後の日本は、その反省に立ち日本国憲法9条「戦争放棄」を国是として平和主義を貫き、「専守防衛」を基本に安全保障政策を取り組んできた。
 しかし、安倍政権はアメリカの側から世界を見るようになった。沖縄では74年前の沖縄戦で米軍に占領された広大な土地が、いまだに米軍基地のまま存在し続けている。しかも今、貴重なサンゴ礁の美ら海を埋め立てて米軍のために辺野古新基地建設を強行している。米軍に活動の自由を与え、低空飛行訓練や訓練空域外での飛行訓練を黙認して、「日米地位協定」の改定を求めようとせず、普天間飛行場周辺の学校・保育園の児童生徒の危険性を放置し続けているのが安倍政権である。安倍政権の進める戦争のできる日本への軍事強化は、日本国土と国民をアメリカの中国との戦争に巻き込む道でしかない。

日本が中国と戦争する理由は何もない

 日本が中国と戦争する理由は全くない。アメリカのシナリオにあるからというのが唯一の理由だろう。それは覇権を守るための「アメリカの戦争」であって、日本国民の生命財産を守るという意味での「日本の戦争」ではない。
 日本と中国は、両国間の恒久的平和友好関係を確立することを合意した国交回復の「日中共同声明」(1972年9月29日)、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する「日中平和友好条約」(78年8月12日)、さらに、98年「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」、2008年「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を合意している。
 この4つは「日中友好の4つの基本文書」とされ、日本と中国の紛争について、平和的手段で解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを2国間で合意しており、日中首脳会談等で繰り返し確認してきた。中国は取り換えることのできない隣国であり、二国間貿易、進出企業数、来日観光客数、在留滞在外国人数のどれをとっても中国がダントツに一番である。
 片や米国は、オバマ大統領が「米国は世界の警察官ではない」と認めて経済的軍事的な関与を後退させ、ついにはトランプ大統領のディール外交で〝自由と民主主義〟という価値観までも放棄しようとしている。これにより、在韓米軍の撤退、朝鮮半島の統一ないし連邦化の可能性も現実化してきている。このような北東アジアの安全保障環境の変化から目を背け、ひたすら「日米同盟が基軸」と言い続けて、「アメリカの戦争準備」を手伝い、日本を戦場にする危険を呼び込んでいるのが安倍政権である。
 それより、「日中友好の4つの基本文書」を発展させて日中両国関係を正常な軌道に戻し、日韓・日朝の正常な関係を構築し、平和に東アジアを発展させることが日本の国益にも合致する。より近いアジアの国々との関係を正常な軌道に戻す政府になるよう取り組んでいきたい。(見出しは編集部)