公的責任で社会保障の確立を
出席者
森 あやこさん(福岡市議)
河内 ひとみさん(静岡県西伊豆町議)
高江洲 みどりさん(沖縄市議)
10月末、札幌で開催される第21回全国地方議員交流研修会の第3、第4分科会の共通テーマは「公的責任で社会保障の確立」である。
第20回交流研修会で分科会「地域のケアをどう支えるか」での運営や事例報告をした森あやこさん(福岡市議)、河内ひとみさん(静岡県西伊豆町議)と、子育て世代を代表して高江洲みどりさん(沖縄市議)に加わってもらい、10月の交流研修会に向けて問題意識を出し合うオンライン座談会を行った。
厳しさ極まる住民の生活
森あやこ(以下、森) いやもう、社会保障は本当に問題だらけです。どっからでもメスを入れなきゃいけないというふうには思うんですけど。まずは実態をもっとあからさまにしていかないと、政治がまともに進まないと思います。この前の参議院選挙の結果を見ても、これまで社会保障をどんどん削ってきたなかで、国民の不満が相当高まっていたというふうに思うんですよね。

森あやこさん
前回の沖縄で行った全国地方議員交流研修会では、社会保障の確立をめざす議員ネットワークのようなものが作れないかと提起がありました。10月の交流研修会では全国の各自治体での課題や先進例などを共有するために、問題をより深められるようにできたらいいなと思っています。
高江洲みどり(以下、高江洲) これまで学校給食費の負担軽減を求める署名と請願活動をしてきました。最初、給食費の400円の値上がりに対してせめてそれを市の方で負担してほしいという運動から始まったのですが、私たちが提出した請願書は小学生、中学生の半額助成を求めました。結局、沖縄市の方は4月から県による中学生の半額助成は始まったんですが、小学生については補助がないということで、これは沖縄県内の市町村の中で唯一沖縄市だけが小学生に対する補助がないという状況になってしまっています。沖縄市の遅れた姿勢が表れているかなと思っています。

高江洲みどりさん
私は1月に議員となり、引き続きそのことを訴えています。沖縄県は全国の中でも県民所得が最下位、その中でも沖縄市は県内でも所得が低い下位の方に位置しています。そういった中で、社会保障の法的な責任で、学校給食費に限らず、義務教育の本当の意味での無償化を実現したいという思いです。
周りの保護者は、非課税世帯ですとか、生活保護世帯ですとか、その保護を受けている方たちももちろん大変っていう状況は変わりないとは思うんですが、この非課税世帯のラインの少し上の方たちの状況というのが給食費の支払いにすごく苦しさを感じている、そういった世帯かなと感じています。
同じ子育てをしている親の中でも分断が起きていて、すごく不愉快な感情というか、蔑視というか、私たちは納税しているのにとか、支援策のあるなしでこの分断が起きているなというのを痛感しています。
非課税世帯や保護世帯、その支援策はもちろん十分必要ですし、今でも十分ではないとは感じるんですが、その支援の対象になってない世帯に対してどういうふうに、支えるかというのは行政の役割なのかなと感じています。
所得によっていろいろ感じ方はさまざまだとは思うんですが、今の物価高の中でどの世帯も大変という状況は、困窮世帯に限らず、共働き世帯でも給食費を払うのが苦しいという声もある。高齢者も含めて全世代が大変っていうのが今、生活実感なのかなと思います。
介護保険制度は崩壊
放置される人々
河内ひとみ(以下、河内) 西伊豆町は静岡県内トップの高齢化率が何十年も続いています。出生数は昨年は5人。ですが町政のお金の使い方は、高齢者に対してのお金よりもその少人数の子どもたちの支援にすごいお金が使われています。移住者に対しては1人につき100万円、これも他の市町村の中でトップ。ふるさと納税で結構お金がたまっていたっていうのがある。

河内ひとみさん
介護保険に関しては、介護報酬が切り下げられて、要するに給与が上がらない。地方ではヘルパーさんたちは移動距離が長く、辞めるヘルパーさんが出て、町内では7月の末で今年三つ目の介護事業所がなくなっちゃった。
わが家もようやく朝のデイサービスの見送りのヘルパーさんが週に2回だけ30分来てくれることになりましたが、それも1年待ちでした。とにかくヘルパーがいない。依頼が来ても受けられない。隣の松崎町と西伊豆町の両方でヘルパーを養成する研修、講習会を開いたらどうかと言ってきましたが西伊豆町の当局は時間を選ばなければヘルパーは足りていると。増やそうという考えが全然ない。介護労働者に何も支援しなければ、年間10万6千人の介護離職者どころか、11万、12万、どんどん離職者が増えて、結局働く層がいなくなる。
これに対して行政は危機感が全然ありません。
介護保険制度は何のためにやったのかって私は問いただしたい。住民が介護保険サービスを使うほど保険料が跳ね上がる。高齢者が増えていずれ2040年がピークになり、そこまでは要介護者はどうしても増える。サービスを受けられなければ施設に入所するしかない。お年寄りが要介護になった時に、生き方として自分の住み慣れた地域で暮らせない、そういった人はもうみんな施設に行くしかない。そういう雰囲気がすごく醸し出されている。
行政がそのサービスを整備しなければいけないという、あるべき姿が忘れられている。民間任せになって、亡くなったら亡くなったで自分たちは責任ない、そんな感じ、そういう雰囲気ですよ。
森 訪問介護の介護報酬カットがありましたよね。カットされた分、自治体が少し補塡をしているのか政令市を全部調査をしました。しかし、検討すらしていません。処遇改善加算などでどうにかなるというのが国の考えで、政令市自体もそういう考えだから必要がないという話でした。
施設の方でも年々、いいヘルパーさんは辞め、介護の質が悪くなっている。ある施設は東京が本社で、その本社から来た方と私、話したんですよ。その経営者は元銀行マンなんです。要は銀行を退職して何か事業を始めようと。だから人助けというよりも事業ですよ。サービスのサの字も知らない、介護のカの字も知らないような方でした。このような施設に対して市は指導できていない。そして現場はどんどん疲弊していっている。だから人を育てるために、ちゃんとお金をかけなきゃいけないし、そういう制度にならないと続けられないですよね。
それに思いがあって働いた方でもやっぱり介護は嫁の仕事みたいな。女性は働け、働けと言いながら、介護離職につながる。これ保育も一緒ですよね。保育、子育て、教育の場面でもやっぱりそうなんですよね。
だからそういう意識を変える、制度を具体的に提案していかないと変わらない。現場の声を反映して国の制度にもしなきゃいけないし、自治体でもきめの細かな制度を作って対応できるような形にしないと。そういう問題意識をもった人が首長にならないとダメだなっていうのを感じます。
私はお年寄りやハンディを持った方々が大切にされている社会を見ることで、子どもたちは将来に夢や希望を描けるというふうに思っています。今は、年金が削られたり、何か失敗して生活保護になって、本当に苦しい状況になったりした時に、今まで頑張ってきた人たちがはじかれるような放置状態ですよね。
河内 施設だと1カ所で、隣の部屋に移るので移動時間がほとんどなく効率がいいんですよ。地方はそんなサ高住(サービス付き高齢者住宅)などになってないから、例えば40分かかって在宅介護に行くわけじゃないですか。それでケアを20分未満でやって帰ってきて、また行くと。その移動の時間には賃金が払われてないわけじゃないですか。ガソリン代だってかかる。ところが行政はいくらか加算をしているから大丈夫と思っている。
それと報酬が本当にちゃんとヘルパーさんに払われているのかっていうのも、これはもう細かく事業所単位で見ていかないといけない。
森 しかし、行政の監査って単年度でしか見ないんですよね。やっぱり経年で見て、あのヘルパーさんとか職員が辞めている、入れ替わりが多いところについては注意して見るように行政にお願いしたりしています。
だから今に始まった話ではないんですけど、もっとちゃんと支えないと、ほんと、働きたい人も働き続けられない。
介護保障の確立へ向けて、どこから始めるか?
河内 私は措置制度の時代を知っているので、その時には措置という言葉に嫌悪感を持つ人が多かったんですよね。それに対して介護保険制度はみんな一律1割だから公平だという論調になった。でも、本当は措置制度ってすごくいい制度で、お金がなくても税金で社会保障を賄える。それは最低、生活保障ができるものであるし、生活保護もあるわけだから、私はやっぱり元に戻すべきだと思うんです。
ただ、すぐにはできないと思うので、認知症があったり、性格的に、あるいは精神的に困難がある、年金だけで食べられない、生活保護だけは嫌だとか、そういった問題を抱えたりしている人に特化して、そういった人に対してまずは公務員のヘルパーさんが取りかかるべきだと思う。そうした困難事例はすごく増えてきているわけだから。
公務員の立場だったら、移動時間関係なく、月給制なので、利用者の数が減ったとか増えたとかじゃなくて済むじゃないですか。
安心して働けるし、余裕があるからいいケアができますよね。
それとあと一つ、老健施設とか有料老人ホーム、特養ホームの施設基準で3人の利用者さんに対して職員1人だったのが、3対0・9になるんですよね。この間フェイスブックに載っていたけど、大手企業が見守りのセンサーをそれぞれ各部屋に設置する。それで職員数が少なくてもいいと。
でも、本当のケアをするのは1対1ぐらいがちょうどいいと言ってる施設だってあるわけです。30人に対して10人の職員だったところが、30人に対して9人になっちゃうってことは、早番、遅番、日勤、それとあと泊まり。これのシフトがすごい大変になります。人がいないってことは、おむつ交換が必要な人、食事介助が必要な人などヘルパーさんがそっちばっかり見て、あまり手のかからない人たちが置き去りになっちゃうんです。
だから、前よりも着替えはさせてくれない。なんかゴミだらけとかね、そういう実態が生まれてくる。もうそういう介護の実態にすでに突入してしまった。だから基準は下げちゃいけないと思いますよ。
森 私は、何年か前にデンマークに視察に行ったんですけど、介護は本当に素晴らしいですね。
税金は高いんですけど将来への投資との認識で、年取って施設に入っても、「いや昔からこれ私の家です」って答えられるんですよね。認知症の方なんですけどね。
12キロ以上はヘルパーさんが抱えないような介護のしやすいレイアウトだったり、リフト使ったりとか、意識がやっぱ違いますね。そういう施設に入っても本当に自分たちがしたいことをやる。映画とかお買い物に行きたいとかって言ったら、そのための時間を自由に使える仕組みがあるんです。そこまではなかなか、日本では行き着かないかもしれないけど、そういうサービスというか、介護が当然なんだよっていう思いに変わらないといけなくて、その人の尊厳をちゃんと大切にするべきです。
介護士、保育士、公務非正規の女性労働者の権利に目を向けて
高江洲 私は昔ヘルパー2級の資格を取って働き始めました。私はホームヘルパーが本当に楽しくて、その時のことを思い出すと本当にやりがいのある仕事だったなと思うんです。その後介護福祉士になって働いたんですけど、沖縄に帰ってきたら介護士の給料があまりにも低く、これではもう生きていけないと思って、なんとか30代後半で准看護師の免許を取り、少しは給料が上がりますので、看護師になったっていう経過です。
介護士の雇用の不安定さ、これではなかなか生活できていけないという将来不安も、30代になってくるとこの仕事を続けていいのかなっていうのを感じる人が増えてくると思うんですよね。
出産した後、仕事を休み、復職したのが病院ではなくて、保育園の病児保育の仕事をしたんですが、そこで初めて保育士さんと一緒に働くことが多くて、その中で保育士さんたちの仕事の本当に素晴らしさとやりがいと、また大変さも感じつつ、保育士さんたちが置かれている待遇の低さというものを改めて痛感しています。介護士と本当に構造が似ているなというのも感じています。
女性が家庭で担ってきたケア労働も含めてこんなにも格差が重ねられている。介護士、保育士共通の問題もある。やっぱり女性の労働が日本社会の中であまりにも低く、認められてない、きちんとした専門職として認められてないというのがあります。何か女性のユニオンみたいなのができたらいいなというのは以前から感じてはいます。
女性自身がバラバラになって働いている保育士にしても、介護士にしてもそうですけども、なかなかまとまって声を上げるとかがないですね。
当事者が声を上げて、自分たちの権利として、自分たちの待遇改善のために動いていくような動きっていうのは、何か沖縄でもできないかなと思っています。
森 非正規の公務労働者も大変ですね。会計年度任用職員という働き方は日本をつぶします。同一労働同一賃金がちゃんと守られるべきです。
非正規だったら時給は高くないとおかしいですよね、保障がない分。やっぱり働く側もそういう意識を持って声を上げる。その声を上げる場所も必要ですね。
河内 そうですね。ホームヘルパー国賠訴訟の運動などをもう少し前面に掲げたような形でやったらうまく連携できるんじゃないかなと思います。労働者としてのそういう立場とか、ちょっとした組織のことがわかっている人と、本当に主婦、パートとか、給食の無償化問題、自分たちの暮らしのところにいる方たちの問題を取り上げて、発信できる時間帯も工夫して連携していくことが必要だと思うんですよね。
森 今度の地方議員交流会の二つの分科会に共通するのは、社会保障や人を育てる、人を支えるのは国の責任、公的責任ということですね。
どういうふうにやるか、方向性、かなり広い分野だけども、だいたい根本問題はどこなのかっていうことははっきりしていると思います。これから伊藤周平先生の学習会も予定しています(第1回は8月26日、9月にも2回目を開催予定)ので、それを通じて問題点を整理しながら議員同士がつながっていけるといいですね。