世界の大転換、先進国危機と戦争

誰が平和をつくるのか

広範な国民連合代表世話人
青山学院大学名誉教授、世界国際関係学会(ISA)元副会長 羽場 久美子

高市氏訪米が示したこと

 高市氏は訪米し、トランプとの親密度を示した。日本国内では「よくやった」という声は大きい。しかし国際社会の反応を見ると、欧州、中東ともに、高市氏はトランプにゴマすりに行っただけだ、との声も強い。87兆円の投資を手土産にアメリカに行って「忠誠の踏み絵」とし、「世界の平和と繁栄を実現するのはドナルドだけだ」と持ち上げたと、日本に対する蔑みと落胆の声しか聞こえてこない。
 これまで日本は国益のためとはいえ、中東に対してもバランスの取れた外交をしてきた。それを高市氏は「強い日本、強いアメリカ、豊かな日本、豊かなアメリカ。ジャパン・イズ・バック!」と高らかに叫んだ。アメリカでは沸いても世界では日本のへつらいは幻滅を呼んだと言えよう。

世界の大転換―2026年の戦争

 世界はいまや200年に1度の大転換の時代に入った。
 19世紀以来、世界を植民地化することによって栄えた欧米資本主義世界が今や危機と衰退を迎えつつある。既に資本主義経済でも、中印新興国に負け始めているという現実である。
 そうした中、今や理念・モラル・国際法を捨てて、むき出しの暴力によって世界を再支配しようとしているのが、アメリカのMAGA(アメリカを再び偉大に!)である。
 そしてアメリカの「国際法蹂躙」を非難できないばかりか、むしろ国際法違反のアメリカを支援せざるを得ない、日本、G7のモラルの低下でもある。
 19世紀の軍事力による植民地主義が、21世紀に再来している。
 では誰が平和をつくるのか。
 グローバルサウス、BRICS諸国であろう。

世界のチョークポイントの再編

 世界のチョークポイントは、パナマ運河、ホルムズ海峡、ボスポラス海峡、スエズ運河、マラッカ海峡、新しく氷が解け始めた北極海などである(図)。かつては英米が支配していたが、今やその多くは新興国のもとにある。既に米欧の支配下にはないのである。
 26年1月2日、トランプ米大統領は、突然ベネズエラを空爆し、マドゥロ大統領を拘束しアメリカに連れ去った。明確な国際法違反である。
 トランプは次いで5日、グリーンランドも「西半球の一部」と規定し、その購入を要求した。それは温暖化によって氷が解け始めた北極海への、ロシア・中国の軍事的経済的影響の強まりに対し、アメリカの覇権の再獲得を目指すものだった。が、グリーンランドとデンマーク、欧州NATO諸国の強い反発を招いた。ドイツ、フランスは軍隊の派遣すら行った。
 さらにトランプとイスラエルは、2月末、イランを突然爆撃して学校を爆破、175人の女児と14人の教師を殺害し、ハメネイ師ら最高指導者らを虐殺し、無条件降伏を迫った。これも明白な国際法違反だ。イランは徹底抗戦に入り、ホルムズ海峡を封鎖し、周辺国の米軍施設や石油施設、イスラエルの核施設周辺を報復空爆し、戦線は広がった。
 トランプは3月中旬には、キューバも攻撃し崩壊させると主張している。
 いずれもすべて世界のチョークポイントの再獲得のための軍事行動である。
 アメリカは知らぬ間に、世界のチョークポイントへの影響力を失っていたのである。

「ドンロー主義」と
アメリカの勢力圏

 トランプは、「私に国際法は必要ない」と豪語し、19世紀に孤立主義を掲げて西半球への欧州の介入を禁じたモンロー主義をもじった「ドンロー主義」を掲げて、「西半球における米国の優位性」を主張、西半球は米国の「勢力圏」だとして、「米主導の世界で生きるのか、地球の反対側の国々(中国やロシア)が影響力を及ぼす世界で生きるのか」と選択を迫った。中国・ロシア、BRICSを敵とする行動だ。
 モンロー主義も実際には、西半球に欧州は手を出すな、自分たちの取り分であると言う植民地主義だ。続くセオドア・ルーズベルトは「棍棒外交」を掲げ、西半球はアメリカの勢力圏、裏庭であると主張した。トランプはさらに、法制化された主権国家体系を無視し、国家主権と国際法を踏みにじって、「ドンロー主義」を世界に迫った。

何が起こっているのか?

 背景にあるのは、先進国の衰退と、新興国の成長への「恐れ」である。ハーバード大学の教授は、戦争の原因の一つとして、「恐れ」があると述べている。
 戦後の「ポスト植民地主義」の広がりの中で、欧米の植民地主義、白人至上主義こそが、歴史的に現地のカラード(有色人種)の文明と社会を抹殺していった、という研究が示されてきた。
 その米欧の覇権が今や脅かされていることの恐怖が、MAGAの根源にある。
 アメリカに本部のある世界国際関係学会(ISA)では、近年、新興国・グローバルサウスの成長の中で、「カラード」の重視や多民族・多文化共存の重要性が指摘される中、逆に、「白人至上主義」が再び強まっていることへの警戒が語られている。
 日本でも一橋大学の学長を務めた山内進氏は、「正義の法」の議論の中で、国際法の父と呼ばれるグロティウスが、「自然法に基づく正戦論」として、「捕獲法」を書いたこと、そこで「正当な権利に基づいて行われる戦争は法的に許容される」とし、「正しい戦争」の勝者は、「敗者から捕獲物を取得する権利がある」として、「戦利品としての宝物や財産の没収が正当化された」と説明している。
 また「文明化の段階論と植民地主義」として、当時の欧米列強の国際法観では「文明国」と「非文明国」を分け、文明国間の国際法秩序が及ばない地域では、強者が弱者を支配・強奪する行為(植民地化)が正しく自然な行為として容認された。
 西半球はアメリカの支配下にあると言い放ったトランプの「ドンロー主義」はまさに19世紀の欧米にさかのぼる「正義の法」という無法であった。

戦争大国アメリカ

 トランプは「戦争を終わらせる」と言って登場した。これは民主党バイデン政権が続けた戦争を終わらせる、という民主党政権批判であったことを忘れてはならない。
 ブッシュⅠ、クリントン、ブッシュⅡ、オバマ、バイデン、これらはいずれも「民主主義、自由主義」を掲げ、NATO・EUを東に拡大していった。それはまず社会主義国を、次いでイスラム圏を、さらに世界の「専制主義」国家群を、民主化していく「価値の戦い」でもあった。
 トランプは当初、そうした民主化による世界制覇と国際秩序の維持がアメリカのコストを拡大させ、貿易赤字を拡大したとして、グローバル世界からの撤退と戦争支援の中止、世界中特に同盟国への高関税、「ノーベル平和賞」獲得を掲げて、アメリカファースト、MAGAを実現しようとした。
 これに対し米連邦最高裁は26年2月20日、トランプ政権の「相互関税」を大統領の権限逸脱として「違憲」とする判決を下した。またトランプは、数度の暗殺未遂や、イスラエルによる中東戦争への参加要請から、戦争を終結させる立場を180度転換させ、軍事力による敵対国への戦争によってチョークポイントの覇権を奪還する方向に転換した。
 それはまさに、19世紀以来の軍事力による新植民地主義の再来であった。

新興国・グローバル
サウスの成長

 代わって成長しているのが、19世紀20世紀のポスト植民地諸国である。中国・インド、ASEAN、BRICS諸国、そして中東諸国が、21世紀に入り急成長している。何より強力なのはIT/AI人口である。
 中国のIT人口は13億、インドは、9億5千万だ。アメリカは3億5千万に過ぎない。世界のIT技術者の数は今や3千万人突破、アジアが1280万、インドが500万、アメリカが440万、中国が340万でアメリカに迫りつつある。アメリカのIT技術者の半分はアジア系といわれる。日本は4位154万だが、今やドイツ、ブラジル、ロシアに迫られつつある。
 アメリカのゴールドマンサックスという世界最大の投資銀行が22年末に出した統計が興味深い。
 2075年、50年後には欧州・日本をしのいで、トップ8をグローバルサウスの国々が占めることが予測されている。今や科学技術も経済も、アメリカ・欧州・日本をしのぎ、中、印、インドネシア、ナイジェリア、エジプト、ブラジルがトップを占めつつある。

戦後80年の「加害」と「被害」

 戦後81年を迎え、現在最も危惧すべきは、日本の政治家、メディアが、80年前まで続いた日清・日露戦争から50年間の「加害」の歴史を「自虐史観」と無視し、小中学校でも25年間近代史を教えずにきたことだ。また欧米の「植民地主義」にも触れることなく、民主主義や平和を語ってきたことだ。
 「二度と過ちは繰り返しませぬから」は、原爆、全国絨毯爆撃、沖縄戦など市民の被害には触れているが、日本政府の植民地主義の「加害」については触れずにきた。
 故に、戦後、解放された被植民地国の側から出された、世界的な「植民地主義の弊害」や、グローバルサウスの成長、翻って戦勝国アメリカや欧州の植民地主義、白人中心主義、有色人種蔑視、キリスト教が植民地主義を正当化してきたことなどが反省されないまま現在に至っている。その結果、戦後秩序を形作ったアメリカの覇権による80年間の平和と繁栄が普遍主義的な平和論として評価されてきた。アメリカ大陸の入植がいかに現地の人々を虐殺し追い出し抑圧してきたか。イスラエルは時代を超えたその再現である。
 それが戦後、原爆を落としたアメリカに追随する日本を作った。
 またドイツと異なり戦前の軍国主義と植民地主義を遂行した「戦犯」を少数のA級戦犯のみに限ったことで、市民の間にも軍国主義や植民地主義の反省は忘れられた。
 その後中国共産党政権の樹立と朝鮮戦争の中で、サンフランシスコ条約においては、日本を西側の砦とする戦略の中で、「加害」は忘れ去られてきた。
 これが2月の総選挙で、70%に及ぶ高市支持と相まって、日本の保守層右翼層が復活、衆議院の3分の2を自民党が単独で占める安定政権が実現するきっかけとなった。さらに、SNSを通じて、左派、中道などリベラルが壊滅状況となる中、日本政治は短期間で大きく右旋回していった。

誰が平和をつくるのか。われわれはどうすべきか

 高市氏は首相就任に際して、「世界に咲き誇る日本外交」「黄金の日米同盟」を宣言し訪米では「ジャパン・イズ・バック」を叫んだが、到底日本の現状と未来を見据えているとはいえない。軍事力で南米、中東、北極海を抑え込もうとするトランプの戦略に追随して、「世界の平和と繁栄をもたらすドナルド」と称賛する高市氏は、世界の尊敬を得られない。
 今や日本の貿易の4分の1は中国が占め、日本の貿易相手国の1位から10位のうち8カ国がアジアだ。
 重要なのは、国家間の戦争に関与するのでなく、戦争の最大の犠牲者、市民、若者、子供、乳幼児を守ることだ。これが平和を維持する基本であろう。
 平和を守るのは政府や防衛省ではない。国民の、誕生から教育、医療健康、介護社会保障などを管理する自治体であり、市民自身であり、さらに戦争が起これば最初に徴兵される若者だ。
 今日本国民のほとんどは、戦争がもし東アジアで起こっても、戦争に関与するのは台湾、沖縄であり、日本本土の国民が戦争に参加するとは考えていない。
 しかし既に沖縄から北海道まで、日本全土に基地と2000基のミサイル、弾薬格納庫が存在し、54基の原発がある日本、日本海の向かいには、数十基から数千基の核弾頭を抱える北朝鮮、中国、ロシアが目の前にある。
 それらに対して「存立危機事態」を唱え、憲法を改正し、移民を排斥し、スパイ防止法を通して近隣国の危険をあおることが平和を守る保証だろうか。核を持つ3カ国の真正面で戦争を始めて、勝ち目があるはずはない。日本はアメリカ大陸に飛んでいくミサイルを打ち落とす先兵として、最初にハチの巣になる。
 日本は唯一の被爆国として、国民の過半数が憲法9条と平和を維持したいと望んできた。しかし今やSNSに集う若者の多くは改憲や戦争をやむなしとする層も増えてきている。

戦争を知らない世代が多数を占めるとき、戦争が起こる

 これは、欧州で第1次世界大戦の時に言われた言葉である。今後戦争を知らない若者が、中国の成長に脅威を感じ、戦争を支持していく可能性がある。
 しかし世界を見れば、ロシア・ウクライナ戦争を見ても、イスラエル・ガザ戦争を見ても、国連の150カ国が戦争に反対し平和を望んでいる。そのほとんどが新興国とグローバルサウスだ。
 グローバルサウスの多くは、中国・インド・ブラジルなどBRICS諸国の経済成長により恩恵を受ける国々だ。中国の一帯一路への参加国は150カ国以上、アジア開発投資銀行への参加国も100カ国以上だ。
 これらは冷戦期、バンドン会議に集った非同盟諸国であり、被植民地からの解放と、平和、発展を望む国々でもある。
 トランプのチョークポイントへの攻撃はまさにこうした、グローバルサウス、非同盟、元社会主義の国々への攻撃でもある。
 21世紀後半の世界平和をつくるのは誰か?
 それは、欧米の植民地主義と戦争によって被害を受けた、貧困や搾取からの脱却、平和と繁栄を望む国々である。
 また日本においては、広島、長崎、戦争で多大な被害に遭った沖縄、各地の自治体や、被爆3世4世として平和活動を引き継ぐ若者である。
 アメリカでも、多くの大学でガザへの戦闘を続ける政府に反対してデモやストが行われている。ロンドンではイスラム教徒でパキスタン系イギリス人カーンが市長になり10年、ニューヨークでは今年、イスラム教徒ウガンダ生まれのマムダニが、34歳で市長に選出された。アメリカの多くの地で、弾圧されながらも、移民排斥反対、ガザの戦争、イランの戦争に反対する若者のデモが広がっている。
 日本でも沖縄をはじめ全国各地で、戦争反対と平和を掲げた自治体と市民、若者の動きが広がっている。
 第3次世界大戦に向かうのでなく、新興国とグローバルサウスから、広島・長崎・沖縄、市民、若者から、ニューヨークやロンドンのイスラム、ヒンドゥーの市長や市民とも結んで、われわれは、ともに、平和をつくることができる!

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