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日本の食と農の未来を考えるシンポジウム開催

飢えるか、それとも植えるか

 シンポジウム「日本の食と農の未来を考える~飢えるか、それとも植えるか」を福岡市で11月30日、開催した。この催しは、広範な国民連合・福岡が呼びかけ、グリーンコープ生協ふくおかや県教職員組合などの団体、この課題に心を寄せるグループ・個人などが参加した「日本の食と農の未来を考える実行委員会」が主催した。34団体からのプログラム広告の協力と、210人を超える人たちが賛同した。会場の県弁護士会館のホールは定員に近い220人を超える人たちで埋められた。
 川口樹里筑後市議が司会し、中村元氣実行委員長(広範な国民連合全国世話人、県代表世話人)が開会あいさつした。続いて、来賓と参加された自治体議員が紹介され、来賓を代表して県教職員組合書記長の中山幸則氏があいさつした。氏は1本の大根を持参され、「この大根を教材として、理科も、社会科も、家庭科も、国語科も……と、さまざまなことを子どもたちに伝えることができる」と、小学校の先生らしいユニークなあいさつをされて、会場を沸かせた。
 第1部では、東京大学大学院の鈴木宣弘特任教授が「飢えるか、植えるか~皆で作って皆で食べる自給圏をめざして」との基調講演をされた。食料安全保障が崩壊していることの本質、日本は独立国たりえているか、コメ騒動の本当の原因、食の安全性に忍び寄る危機等々の深刻な課題について、軽快なユーモアを交えながら警鐘を鳴らされた。最後に、頑張っている農家の踏ん張りが希望の光であり、「ホンモノ」こそが生産者と消費者をつなぐ架け橋であると強調して話を結んだ。

農家の努力だけでは
限界、政治の力が必要

 第2部の実践報告、第3部の意見交換はコーディネーターの森あやこ福岡市議、報告者4人、それに鈴木教授の6人が壇上に並ぶ形式で進められた。
 最初に、筑紫野市で「緑の大地・中川農園」を営む中川富士雄氏が報告。中山間地で有機栽培を実践しているが、最大の課題はイノシシなどの鳥獣被害。ミミズを狙って畑を掘り返すなどの被害の状況を画像で紹介した。氏は猟友会に参加しているが、駆除はなかなか困難で苦闘している。こうした困難な中で続けられている中山間地の農業が、日本の農業の一端を支えていて、一方で消費者の多くは食べ物を買うことに苦労している。これを解決するのは政治の力で所得補償をするしかないのではないかと、話された。
 2番目の報告者は、グリーンコープ生協ふくおか・北九州地域理事長の安部百々氏と、㈱鳥越ネットワークの鳥越耕輔氏。田川郡赤村もまた中山間地だがそこでは有機栽培も盛んで、グリーンコープの北九州地域の消費者とは40年来の交流を続けてきたが、この交流を集約し事業化するために2024年に始めたのが「赤村プロジェクト」。農産物の購入だけでなく、トマトやイチゴ、セロリなどを加工品として商品化する。農業体験などの行事も事業化していく。こうした試み全体を赤村プロジェクトとして位置付ける報告を安部氏がおこなった。
 鳥越氏からは、生産者の側からの報告。その中で注目を集めたのが、飼料用トウモロコシの栽培だった。耕作放棄地を活用して、グリーンコープの牧場に出荷する飼料用コーンを栽培する。栽培に必要なコンバインなどの農業機械を生協が投資する。また新規就農者の立ち上げについても生協が援助するなどの取り組みが報告された。最後に鳥越氏は、「中山間地の農業を守るため気合と根性で頑張ってきたが、農家の努力だけでは限界にきている。政治の力が必要だ」と締めくくった。
 最後の報告は糸島市のNPO法人田縁プロジェクトの川口進氏。農業改良普及員の経験を通して、耕作されない棚田を都市の消費者が耕作する仕組みができないかと22年前に始めたのが、この田縁プロジェクト。25年度は170世帯の会員がいて、種まきから、田植え、畦草刈り、稲刈り、天日干し、脱穀、次年度に向けての蓮華の種まきと、一連の米作作業に参加してもらう。収穫したコメは会員に予約制で買い取ってもらい、そこから棚田の地主に借地料を払う。年間に70日ほどの農作業の日があるが、最低1回は農作業に参加してもらい、参加した大人には、「ぎっとん券」という地域通貨を渡す。1日に1枚、ほぼ500円相当で、市内には4軒ほど使える店があるとのこと。体制としては事務局員が2人、農作業の指導に当たる田縁隊が今年は16人と、組織的にも大変整備された取り組みが報告された。

生産者と消費者が出会い共に学ぶことの力強さ

 報告の後、鈴木教授がコメント。 「中山間地農業の大変さの一つにイノシシとの闘いがあることを改めて理解した。これについても行政の支援が必要だと思う。グリーンコープが酪農自給圏形成の一環として飼料用コーンの栽培を支援し、コンバインにまで投資していること、新規就農者にとって高いハードルである初期投資と販路を保証しているということ、生協がここまでやれるのかとの思いを強くした。田縁プロジェクトの取り組みは、消費者が耕作に参加するという取り組みの理想形ではないかと感じた。こうした取り組みに学んで、皆で作り皆で食べるための一歩を踏み出してほしいと思います」と述べた。
 第2部の時間が長引いたため、会場からの発言を十分に保障することができなかった。それでも原竹岩海福岡県議からは、食料供給困難事態対策法のもつ危うさを指摘するとともに、「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」の活動が紹介された。また障害をもつ者にとって、安全な食べ物を食べることがとても大切だという切実な声も出された。
 閉会のあいさつでグリーンコープの安部氏は、「生産者と消費者が出会い共に学ぶことの力強さを感じた。日本の農業を発展させるためには、作る人と食べる人が互いに支え合うことが大切。今日の出会いが、農業に新しい風を吹き込む第一歩になることを願っている」と述べた。
 最後に事務局から、時間の関係で議論できなかったが、会場で配布された大木町など3市町議会の意見書なども参考にして、それぞれの自治体の12月議会で食料自給の確保のための意見書採択の取り組みをお願いしたいとの要望が出された。
 実行委員会の別動隊は、会場近くの六本松駅前で、「令和の百姓一揆」の街頭行動を1時間ほど実施し、終了後シンポジウムに合流した。
 今回のシンポジウムを通して、消費者と生産者の新たな出会いがあり、すでに「赤村視察ツアー」を計画するとか、報告者を囲んで地域で懇談会を開くとか、具体的な動きが始まろうとしている。新たな動きの出発点になり得る取り組みであった。

(広範な国民連合・福岡事務局 樋口茂敏)