高市政権が続く限り国民は不幸になる
元自民党副総裁 山崎 拓 さんに聞く

高市首相はオーバーランを認めるべき
高市首相の、「台湾有事は(わが国の)存立危機事態」発言はオーバーラン的な発言です。歴代政権はこの問題については曖昧政策をとってきたわけですね。アメリカもそうなんですよ。それをはっきり言ってしまった。
習近平政権はみぞおちにアッパーカットを食らったような反応をしているわけですから、「曖昧政策」に戻したらいいと思うんですよ。
1972年の日中共同声明のときに中華人民共和国が唯一の政権であるということを認めて、かつ台湾が中国の不可分の領土の一部であるということについても「理解し、尊重」した。台湾が中国に帰属するというポツダム宣言第8項をそこに書き入れた。そのうえで台湾と国交を断絶したんですよ。そういう経緯がありますから、そこに戻るしかないです。
高市発言はそのまま聞けば、台湾が危ないから日本は自衛隊を送るという話ですよね。後で訂正して、そんなことは考えてないと言っているけど。
集団的自衛権の行使は密接な関係のある「国」と行うわけですから。台湾は日本にとって「国」じゃありませんからね。日本は断交したんです。国交がないんですから大使館もない。仮にそこに存立危機事態が来たとしても、集団的自衛権の行使はできないわけよ。いずれにしてもあれは完全にオーバーランです。
台湾問題は中国の内政問題だから下手に干渉できない。
私は台湾が独立できれば理想だと思います。
しかし私は日中国交正常化の時の歴史的な経緯をよく知っているから、それは無理だということもわかっているわけですよ。曖昧政策でどこまでいけるかというだけですよ。時間は1世紀も2世紀もかかると思う。時間はかかっても戦争にならずに済めばいちばんいいんです。
ですから、高市首相が発言を撤回したらいいんですよ。でも高市首相は撤回したら自分の首が飛ぶと思っているわけですよ。自分の失言だということであれば、失言を材料におまえ辞めろということになるから。高市首相は外交については勉強不足ですよ。外交経験がないからですよ。外交問題・安保問題について勉強したことがないから、岡田氏の挑発に乗っちゃったが、存立危機事態が集団的自衛権の行使を意味することをわかっていなかったのかもしれない。
集団的自衛権は
行使できない
存立危機事態という用語は2014年まで使われてなかったんです。それを無理やり使ったのは高村正彦氏(元衆議院議員。外務大臣、防衛大臣など歴任)ですよ。高村氏は外交問題に詳しいから、安倍氏が高村氏に投げたんですね。高村氏がいろいろ憲法学者と相談しながら、「存立危機事態」という言葉を作ったんですよ。
あの文章では要するに集団的自衛権は多分行使できないんです。「密接な国」が攻撃されて、その結果日本の存立が脅かされて国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態となっています。あれは憲法13条をそっくり写してあるんです。「国民の権利が根底から覆される」なんてことはまず起こらんのです。
そして「密接な国」というのは同盟関係のアメリカしかない。ところが日本にある米軍基地が攻撃を受けたときには自動的に日本の存立危機になる。しかし、それは日本国領土の中での問題だから、武力攻撃事態対処として個別的自衛権で対応できる。必ずしも集団的自衛権の発動と言う必要はないんですよ。アメリカ本土が攻撃された時はこの規定で集団的自衛権を発動して自衛隊を派遣することはできない。
安倍首相は喜んで閣議決定したわけです。集団的自衛権の行使はまずありえない限定的な条件の規定を閣議決定したことに、国民は気がついてないわけですよ。
アメリカの本土が攻撃されることはまずないでしょう。将来あるかもしれないけど、アメリカ本土がやられたって自衛隊がわざわざ行ってアメリカを一緒に守ることはできない。日本は専守防衛ですからできませんね。集団的自衛権の行使はまずできないことを高市首相はわかってないのではないか。
放置すれば緊張状態が続く
高市首相発言の台湾問題、この問題だけに絞って言えば日本は誠意ある態度をとっていないですよ。日本のサイドから中国に対して、軌道修正を行っていくという姿勢でいかないとね。関係修復のためには日中首脳会談をやるということがベストですけど、中国が受け入れないと思いますので、総理親書を持って使者を出したらいいと思う。外野で官房長官が「伝統的な回答を踏み外しているつもりはない」というような発言をしていますよね。だから、その通りのことを書いて、使者を出したらいいと思いますね。向こうが外務大臣なら日本の外務大臣が行けばいいし、誰かしかるべき者が行って、向こうのカウンターパートを決めてもらって、総理親書を持たしたらいいと思う。
トランプ大統領が率先して中に入ってくれたんだけど、トランプは習近平に説得されて、逆に高市首相をたしなめたのではないか。米中の関係は意外に密接だからその手は通じなかった。今更トランプ頼みもないわけです。
中国は高市発言を撤回しろと言っているわけですから、事実上の撤回をしたらいいと思う。放置するのがいちばんまずいですよ。このまま放置したらいつまでも続きますよ。それこそ対立がエンドレスになる。
高市政権内には外交的判断できる人がいないんですよ。これは外交上の問題なんです。外務省の局長が一回行ったけど、相手にされなかったわけですよ。総理の親書も持って行ってない。外務大臣も何か言っているけど、本人が行動しているわけじゃないんですよ。高市首相が外務大臣を呼んで、親書を書くから中国の外務大臣を通じてその親書を提出してくれと頼めばいいんです。高市首相はメンツにこだわっているように見えるから、それをなかなかしないと思う。そうだとこのままの緊張状態が続くでしょうね。
中国が向こうから折れてくることはないです。向こうにも大国のメンツがあるからね。むしろ喜んでケチを付けたと思いますよ。「よくぞ言ってくれた。これで武力解放できる」というふうに思ったと思いますよ。習近平政権に対してサポートしたような格好になったんです。
大阪の総領事が余計なこと言って、非常に国民世論を刺激してますね。官房長官がペルソナ・ノン・グラータ(国外退去措置をする)とか言って喧嘩状態です。それはそれで中国側に善処を求めながら応急手当てをするしかない。だから使者を出したらいいんですよ。八方ふさがりだけど、やってみるしかないでしょう。そこまでやれば、さすがに中国は折れてきますよ。
高市政権の弱さが
外交で露呈
高市首相は外交経験に乏しいから、事態をまだ甘く見ており、時間が解決すると思っていると思う。外務省もおそらく直言できないでいると思う。外務省の下っ端役人じゃできないから、外務大臣がやらなきゃいけない。茂木外務大臣の発言を見てみると、人ごとのように言っているんですよ。高市首相にこうこうしなさいということを言えない状況。今の高市政権の弱さですよ。
また野党も高市首相をこの問題ではむしろ支持している。それに維新が何も言わない。維新が与党に入っているんだから維新が言わなきゃ駄目ですよ。公明党が政権にいたら言ったんだけど、離脱したからね。維新が言わなきゃいけないのに、逆に中国が悪いというふうに煽っているわけですよ。この問題に関する限り中国が悪いということは成り立たない。
高市首相は国会答弁で修正する手があったんだけど、党首討論でも修正しなかった。立憲の野田党首も悪い。政治献金の問題に途中で切り替えてしまったから。野党も高市首相を責めるということよりも、国民世論を警戒しているわけですよ。国民世論が中国嫌いで「フレーフレー高市」になっているからね。若い政治家たちは存立危機事態の意味すらわかっていない。
右派は「台湾有事は日本有事」と言っておきながら、事態を放置している。公の立場で首相が「私がオーバーランした」と言わないから、ズルズル続くんです。それは最悪な事態ですよ。中国側にとってもあんまり良くない。双方とも何のメリットもない。
台湾独立に加担すれば戦争
日本としては、日中共同声明を破棄し、その後締結した日中平和友好条約も破棄して台湾の独立に加担するという手もあるけど、それをやれば戦争になる。その度胸は高市首相にはないと思う。いくら右派でもそこまではできない。台湾独立に加担するという度胸があれば、やってみたらいいですよ。そのかわり戦争になりますよ。
習近平主席が、トランプ大統領は軍事介入しないとみて軍事侵攻すれば、米軍が日本の基地から必ず応戦するでしょう。グアムから軍を派遣するときは日本は関係ないですが、嘉手納、普天間、横須賀、岩国から米軍が出動すれば、日本は巻き込まれます。
台湾には同情するけど、日本人は今1万6000人も台湾にいるけど、結局彼らは引き揚げる方法もない。下手すると中国にいる日本人も片っ端からやられる。
トランプ大統領も甘いですよ。G2とか言って太平洋を二つに分けると。歴代のアメリカ政権は太平洋を二つに分けることは絶対に拒否してきたわけだから。米国にとって太平洋はわがものだったんだけど、今はわがもんじゃなくなっているっていうことをトランプ大統領は内心認めているのではないか。アメリカ大陸の安全と繁栄だけでいいという感じですね。中国もロシアも好きなようにやれというふうになってしまっている。そんなトランプ大統領をアメリカ国民が選んだんだよね。われわれにはどうしようもない。内政不干渉です。
全ては成り行きだけど、こういうちょっとした石につまずくようなことから戦争は始まるんですよね。下手すると第3次世界大戦になっていくんですよ。
日中関係悪化で
経済がおかしくなる
高市首相がいつまで首相をやるかということは、結局選挙で決まる。維新と別居条件で結婚したし、結婚してすぐ別れ話はできないから、すぐに選挙はできないんじゃないですか。選挙がなければ高市政権が続きますよ。その代わり日中関係はその間ずっと悪くなって、日本の経済がおかしくなって、中国の経済もおかしくなるでしょうね。結果として政権の寿命はじわじわと短くなると思います。国民生活もこれから悪くなってきますよ。
高市首相自身が積極財政で経済が良くなると思っているから、もう自信満々ですよ。自分のやっていることの結果が予測できないから、強気の国会答弁をしているんですよ。アベノミクスの再来でますます良くなると思っているわけですよ。国会答弁は実に能弁にやっていますよ。自信を喪失したような感は全くないね。働いて、働いて、働いて、3時に起きて役人を苦しめていますよ。
だからこの政権は長く続かないと思いますが、そのあいだ日中問題も解決しないということですね。日本経済と安保への悪影響は計り知れません。
