「令和の百姓一揆」実行委員会代表・菅野芳秀さんに聞く

市民皆農、国民皆農。食料自給を確立する

 「令和の百姓一揆」実行委員会代表で置賜自給圏共同代表、自らも山形県長井市で養鶏とコメ作り農業を営む菅野芳秀さんにインタビューした。文責編集部。菅野さんは、10月27日から札幌市で開催される第21回全国地方議員交流研修会に全体会合で問題提起し、2日目の分科会でも助言者を務められます。

 「令和の百姓一揆」の、この半年間の全国への広がりは目覚ましいですね。3月30日を契機に全国の20くらいの都道府県に「令和の百姓一揆」関連の行動が広がった。いま先行しているのは中国地方、九州ですよね。とくに中国地方はすごい。
 私はいま東北のネットワークをつないでいる最中です。秋田が11月10日に、山形が11月の24日に行動を準備しています。秋田の集会には山形から、山形集会には秋田からも発言してもらう。そこに青森がいま準備しています。1月になってからって言っていますけど、雪の中で大丈夫かなと思います。
 福島は3月30日青山での一揆に大挙して大型バス2台で来ましたからね。地元での行動も進むと思います。あとは宮城と岩手ですね。ここは歴史的に基礎がありますから。そうすっと東北6県みんなそろってということになるわけですね。
 やっぱり日本の農業農民運動といえば東北がないといけないですから。
 この後、全国では、12月に比較的大きなシンポジウムをやろうと「令和の百姓一揆」全国実行委員会の事務局では相談しています。さらに来年3月にどういう形になるかこれからですが、今年を上回るようなアクションを、多分デモも含めてだろうと思いますけどもこれから議論します。
 それまでの間は各県の、各地区の運動に重点を置きながら、大きなものを二つ準備したという感じでしょうか。それをつなぎながら来年度に滑り込んでいくっていう方向を考えています。

消費者と連携した農民運動

 私のいま一番の問題意識は、これはもう既に私が農民運動をやり始めた当初から、つまり45年ぐらい前からあったんですが、生協など消費者の運動、市民の運動と連携した農民運動にしなきゃならないというふうに思っていました。農民のある種の独り善がりを超え連携していく。市民運動との連携がとても大事だっていうことをずっと思ってたんです。
 そのとき生協の活動家からね、私たちは、日本の農業を守りたいと思って運動しているのであって、農民を守ろうとは思っていませんと。そういうシビアな言い方はしなかったけど。つまり食料問題という日本の問題を解決することは課題にしてますけど、それをそのまま農民の利益を実現していく方向とはなりませんよ、みたいなことを言われてたんです。

小さな農家を潰して良いか

 その問題が四十数年前からあったんです。今まさにそれが非常にリアルに露骨になってきています。いま強まっている論調は、日本の農業を守りたいから小さな農家には退場してもらう。農地が分散し小規模非効率な農業を集約し、効率的な大型農業、ドローンも使ったような農業を展開できるようにしないと、日本の農業を守り切れないみたいな傾向です。
 いやいやちょっと待てよと。それはおのずと限界があると思う。中山間地域も含めて農業・農村政策を「大規模化」に特化してしまうと、中山間地の続けられないというたくさんの農家が出てきます。いまでも成り立っていない。そうですよね。中山間地の彼らが農業から離れたがほうが良いとすれば、果たして平野部の農業だけで、日本農業は維持できるのか。単に効率、規模の論理だけで押し切るような政策には、それは違うと言わなくてはいけない。
 日本農業を守るためには「大規模化」って言うだけじゃなくて、多様な農業が求められています。もちろん大規模化は否定しない、できるところはやればいいと。だけど頑張っても大規模化できない中山間地では、それなりの所得補償など財政面も手だてを講じて、そこでも耕し暮らしていける農業というものもきちんと政策的に実現すべきだと思います。

農村をどうするかは日本をどうするかだ

 ところがいまは、町は町、中山間地は荒廃。全国では典型で東京一極集中、地方は地方。分化してますよね。大きくは日本の国、社会をどうするかという問題でもありますね。
 先日、座談会のテレビを見てたんです。島根かどっかの大規模化を進めている農業者の話です。彼は100町歩を2、3人でやっているって言っていました。そこにはもう全然、「村」という観点がないわけです。いかに安く作るかというだけ。それで勝ち抜いていくという農業経営者としての視点があるだけなんです。
 コミュニティーをどう維持するか、村をどう維持するかはない。例えば、山から流れる水なしに平場の水田はできない。誰が水路を維持管理するか。そうした視点がほぼ皆無ですね。
 逆に、例えば100町歩を100人で、みんなで1ヘクタールずつ耕す。多分兼業になると思いますけど。そうやってみんなが「農」の当事者として生きていくというやり方。100町歩を1人の人間がやり、残りの99人が農業から離れていくっていうのと、どっちが面白そうか。市民皆農、国民皆農。いろんなブランド農業から兼業か日曜日農業、退職者農民まで皆で耕し、食料自給を進める、これだと思います。

大規模農家もむしろ深刻

 大規模化を進めた農家も大変です。後継者がいない中で、果たして1000万、2000万円という機械を使って、倒れずに生きていけるかみたいな不安、かなり深刻な不安が横たわっています。彼らのお顔見てても幸せそうじゃないんですよね。自分も楽しくなければあんまり農業したくないですよ。専業農家で今回の百姓一揆の当事者として、うん、30町歩やっている農家ももうこんな農業はしたくないと。後継ぎもいないとか。そう方も山形の実行委員会には入ってきています。
 むしろそうした方のほうが大変なようですね本当に。それにみんな高齢化してますから、肉体的にもきついし、金銭的にもきつい、施設費用もきついし。そういう意味では厳しい競争関係にずっと置かれて、ストレスも高いしというような感じですよね。決して大規模経営になったからといってゴールじゃないっていうか。もういい加減にしてくれというふうには言ってました。多分それが現状だと思いますね。
 だから1人1ヘクタール、1戸1ヘクタールでいいと思うんです。国民皆農です。

新しい動きが「一揆」に

 水田農家だけじゃなく畜産農家も野菜農家も一緒に、令和の百姓一揆の農民サイドでいろんな主体がさまざまな問題点をそこで発言されて、農業全体がそういう形で落ち込んでいることに改めて考えさせられました。特に酪農経営のひどさとかは想像以上でした。これはなくなるのは当然だなって、われわれの周辺でも10軒ぐらいあった酪農家が今は2軒しか残ってないです。
 そういう中で、集まってきている農家の中に若い人も目立ちましたが、やっぱり全体的に団塊の世代という人たちが、頭にハチマキ巻いてきてましたね。農民サイドの全体的なある種の動きにくさ、なんと言ったらいいか、非活発性というか。うまい言葉出てこないけど。
 それに比べてそれを補って余りある市民の活動というか、それが目立ちましたね。動員されて連れて来られたというような方じゃなくて。みんな個人の気持ちで来ているわけです。とくに女性団体を中心として市民、市民団体は、非常にエネルギッシュでしたよね。
 農民は実は気持ちがあるけどなかなか躍動的になれないっていうか、全体的に高齢化しているもんですから。それを補ってくれて引っ張ってくれたという意味では非常に特徴的だったかなって感じはします。
 だからこそなんかねデモ自体がね、かつての男中心の「戦闘的なデモ」で拳を振り上げて、といったことじゃなくて赤ん坊を抱いたり小さい子供の手を引いたりして。これはやっぱり女性中心だったことによる非常に良い面だったなと思っています。

女性たちが先頭に

 女性が先頭に立った、これが非常に特徴的だったと思います。全国の女性の問題意識ですね。
 農家の問題意識だけでは、このままでは潰れるということ。それが潰れたら食の現場はどうなるか。台所イコール女性とはならないと思いますけども。食と命の問題は農家がきちんと農業をやっていてくれるからこそ安定しているんであって、農家が崩れたら、果たしてわれわれの食生活が心配ないと言えるだろうか。だから農家がきちんと立っていくことと、食の安定が維持されることは一つだという理解から女性たちのあの決起があったと思うんですよ。
 これが山形でもそうですね。山形実行委員会の場合、3人の共同代表なんですが2人が女性です。そのうちの1人は20代の女性ですよ。「私にやらせてください」って。もう1人は50代の専業農家なんですけど、専業農家でありかつ生活クラブの理事でもあるんです。その方も自分で手を挙げて私が共同代表の1人になりますって言ってくれた。もう1人は40代50代の若手の農家が男性として出てくるだろうなとは思いますけど。
 特徴的なのは、やっぱり手を挙げて名乗り出て、3人の代表のうちの2人が女性になったこと、しかも1人は20代です。20代の女性がもうすごいですね。彼女が言ったのはね、パソコンを私は使えますからインターネットを活用したりしてSNSなどに発信していく、そういうことを私はできますからというようなことです。   全県のネットワークを生かして準備会に20人くらい集まってもらった。ここまでが私の仕事。あとはもうそこで共同代表を決めましたから。時計見ているだけでどんどんどんどん進みますよ、素晴らしいですよ。

農家も貧困、
国民の多くが貧困

 自民党農政っていうのはずっと基調として戦後一貫して、「百姓処分」をやって農家を減らしてきた。それを止めて、小さな農家も含めて存続できるような所得補償を実現させないといけない。いわゆる「欧米並みの所得補償」って言ってきたわけです。
 つまり「時給10円」という農業所得の問題。それはいわゆる自給農業も含めて全部合わせてそうだということだったわけで、販売農家だけだともうちょっと高いと思うんす。けれども、もう少し高いにしても全体的に離農がここまで進み、若者が寄り付かないということは何よりも物語っていると思うんですよ。
 農業で暮らすにはやっぱり所得補償しかないんですよ。政策としてその方向に舵を切らない限り、離農は止めることはできないし、日本農業の没落を止めることはできない。
 しかし、農家だけではない。最近鈴木宣弘先生が、農家も貧しくなったけれども、消費者が貧しくなっている、だからあの5 キロ2000円の備蓄米放出に、今でもいっぱい並ぶという状況になる。人々がもう毎日食べる米も買えないほど国民の貧困化が進んでいると指摘していた。
 この状況全体でやっぱ変えるようなところまで進まないといけないんじゃないかなと思っています。非正規労働者が女性だと5割を超えているでしょう。青年労働者の男性でも3割超えてますよね。効率優先というような社会、効率こそご主人さまで、人々の命や暮らしは効率優先の下に位置づけられている。このように働けないやつはいらないよという社会です。
 これを変えなくてはいけない。効率優先のシステムの中で誰もが幸せになっていない。だから何のための国づくりなのか、何のための社会なのかということの根本から問われていかないといけない。どういう農業をつくるかというと問題もその一部だと思うんです。

地域を中心に自治体の役割

 10月の第21回全国地方議員交流研修会に私も期待しています。地域をどうつくるか、いま非常に重要となっています。地方議員の役割は大きいです。
 私たちは山形県置賜地域でレインボープラン、それから置賜自給圏運動をやってきました。
 それは、グローバリズムといった国づくり、その軸は、地方よりも全国にあり、一国よりも世界にあるみたいな、いわゆる多国籍企業だと思う。そうした企業と結び企業の幸せを実現するために国民国家が位置づけられる考え方、東京に向けて一極集中の一部として地域が位置づけられるみたいな考え方に、私たちの考えは対置するものでした。それを逆転しないとレインボープランも地域自給圏も成り立たない。地域の消費者と生産者がつながり地域的に自立していく。それが自給圏、地域が主役だと。
 地域の舵取り、行政の舵取りは国に依存するんじゃなしに、地域の主人公である地域住民、農民であったり、市民であったりするわけだけど、その方々が連携しながら地域の方向性を決めていく。地域における市会議員なんかを含めて巻き込みながら、そういう地域づくりに変えていかなきゃならないという観点に立ってレインボープランも、それから自給圏もやってきたんです。
 農業政策はいま国が中心になってやられている。本来ならばやっぱり地域政策として農業政策を位置づけなければならない。多様な地域の特徴に合わせて地域政策があり、そこにもちろんそこで暮らす人々の暮らしがあり、食生活があるというふうに。
 地域自治体の議員たち、職員たちは、そういうシステムをつくる役割がある。そうした地域政策を立案していく、市民に訴え市民とともにそれをつくっていく役割がある。そういう地域リーダーとしての自覚を持って、政策を立てていくんだ、この危機を突破していくんだということだと思います。

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置賜地域
 山形県の最南端の、米沢市を中核とした3市5町。米沢盆地を中心に長井盆地を含めた最上川水系と小国盆地からなる
レインボープラン
 山形県長井市で20年以上取り組まれている地域ぐるみでの循環型地域づくり事業。「循環」「ともに」「土はいのちのみなもと」を理念に、市民の台所から出る生ごみを堆肥化して市内の田畑にすき込み、その田畑で栽培された米や野菜をまた市民が消費するという食と農をつなぐ循環の輪を回す運動
一般社団法人置賜自給圏推進機構
 山形県の南部に位置する置賜地域で3市5町を一つの「自給圏」ととらえ、圏内にある豊富な地域資源を基礎に産業や雇用を生み出し、地域経済の好循環を目指して2014年8月設立