アジアの平和と未来をひらく若者訪中団

学問と軍事のはざまで考える日中友好

団員 東京工業大学卒業生

七三一部隊跡地で感じた学問と軍事の結びつきの恐ろしさ

 私は本訪中団における学習を通して、学問と軍事が緊密に結びつくことの恐ろしさを認識しました。七三一部隊の存在およびその大まかな概要については以前から承知していましたが、本訪中団に関する事前の学習活動を通して、七三一部隊がもたらした加害の歴史は、医学と軍事が緊密に結びついたことで起こってしまったということに気がつきました。
 侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館の見学では、七三一部隊の実際の跡地および遺留品ならびに人体実験の様子の模型を観察することで、中国人をはじめとする犠牲者の方々に思いを馳せることができました。とりわけ、冬は氷点下30度にも達するハルビンで行われていた凍傷実験に関する模型については、私が以前冬のハルビンを訪れたことがあるだけに、胸がとても痛みました。

学問の平和利用と人類の幸福への貢献

 私の研究分野についても例外ではありません。現在、私は公的研究機関で博士研究員として、与えられた制約の下で、ある目的を最適に達成する解を数学的に求める技術である「数理最適化」に関する研究に従事しています。この数理最適化は「オペレーションズ・リサーチ」と呼ばれる学問の一分野に属していますが、オペレーションズ・リサーチは第1次世界大戦以来、軍事作戦の立案に資するための学問として発展してきたという歴史があります。この事実は、自身の研究が軍事分野に応用されかねない可能性があることを示唆しています。
 私の研究分野であるオペレーションズ・リサーチが軍事との強い緊張関係を孕んでいることは上で述べた通りですが、本学問を発展させることで人類の幸福に資することももちろん可能です。本訪中団における北京市内の自動運転モデル地区の見学を通して、渋滞を考慮した上で最適な青信号継続時間を決定したり、車両の最適な経路計画を決定したりする問題を解くことが、自動運転を実現するために必要であることを知りました。これらの問題を解くために、数理最適化をはじめとするオペレーションズ・リサーチの手法が寄与できる余地は大きいはずです。

科学者として、加害の
歴史と向き合う意義

 これまで私は主に文化的な側面から日中友好運動に携わってきましたが、今後は自然科学分野の研究者として、学問と軍事という側面からも日中友好に関わっていきたいと考えています。私自身も現時点では学問と軍事との関係について知識が十分とは言えず、定見を持っているわけでもありません。しかし、自然科学分野における研究者である私が、学問と軍事との関係について考えを深めたり、何らかの活動に携わったりすることには意味があるのではないかということを、今回の訪中を通して感じました。七三一部隊が中国で犯した加害の歴史は、学問が軍事に協力したことで生じてしまいました。
 日本人の研究者である私がこの歴史を踏まえて学術研究に臨むことが、日中友好の第一歩であると考えています。