県民が飢えない政策支援を
JAおきなわ代表理事・専務 嵩原 義信
右肩下がりの沖縄の農業
沖縄県は亜熱帯の地域ですので、本土の農業と若干違うところもあります。地域の特性として台風や干ばつに悩まされて農業をやっているという地域でもあります。また、沖縄本島の中部、南部の2割のエリアに人口の8割が住んでおり、農業は主に周辺の過疎地域で営まれています。県内でも非常に人口バランスの悪さがあり、しかも離島も抱えて沖縄県は成り立っております。
沖縄の産業は本土復帰の1972年以降、いろんな政策のおかげもあって観光業を中心に大きく成長しています。今は4兆円台のGDPです。コロナ後、インバウンドを中心とした観光客は年間1000万人近いところまで戻ってきております。産業としては3次産業のウエートが非常に高くなっています。
1次産業である農業のウエートは全体からみると取り残されているぐらいの成長力しかなく、全産業の2%ぐらいの割合にとどまっています。農業産出額も90年代の初めには1000億円までいきましたが、2023年は879億円でした。農業者数も20年に1万5000人を割るところまで右肩下がりで減少し、平均年齢も上がっています。
R5ショック
コロナ後の資材高騰が追い打ちをかけて、農家がさらに減っています。2023年は令和5年なのでR5ショックと言っていますが、具体的な数字ではまだ出ていないんですけど、農業は相当な落ち込みになっているはずです。これは沖縄だけじゃなくて日本中がこういう状況だと思います。
とりわけ小規模零細農家の減り方が大きい。高齢農家は体力的な問題もありますが、資材高騰の中でいくら作っても儲からないのでやめる方がいるわけです。ですが中規模以上の中核的な農家は、簡単にやめることもできませんし、経営規模が大きいところほど踏ん張ってこらえているのが今の農家の実態です。
離農した農家の農地を中核農家にどうやって引き継ぐのかというのが最大の課題です。農地バンクが制度としてありますが、沖縄では土地は先祖から受け取った財産だという価値観が非常に根強い。いずれ子供たちや孫たちが住宅を造れるんじゃないかということで、他人に貸すよりはそのまま放置している農地があったりするわけです。いろんな歴史的な背景もある中で、なかなか農地の集約が進まないのが現実です。
さらに農業の生産現場は人手が足りない。新規就農したいけど他で働いた方が儲かるから他で働こうとなり、なかなか増えない。農業の構造が著しく縮小される傾向を、大変懸念しているところであります。
台風で食品がなくなる沖縄
沖縄の農業はサトウキビと畜産が盛んです。全国のカロリーベースの食料自給率は2022年の概算で38%、沖縄は34%です。沖縄はカロリーの高いサトウキビが数字を押し上げているので、それを除けば実態はおそらく10%ぐらいだと思います。安全保障という観点から見ると、沖縄は食料に関しても非常に安全じゃない地域なんです。
大きな台風が襲来したときに、いちばん社会問題になるのはスーパーの棚から食料品がなくなることです。沖縄本島でさえそうですから、離島ではさらに深刻です。安全保障という面から見て、沖縄にとって必要なのは備蓄です。例えば台風が何回か来て物流が止まったときに、県民が飢えないような政策をぜひ県にもやっていただきたい。
沖縄の農業で140万人の県民の胃袋を満たすことはとてもできません。わかりやすく言えば、沖縄の食料安全保障は、農業団体じゃなくて物流業界が担っているということでもあります。備蓄をしっかりと手当てするのが沖縄の食料安全保障だと思います。
農業にもっと予算を
つぎ込むべき
沖縄は離島であり生産コストも輸送コストも非常にかかります。市場が小さいので本土の大消費地に送って利益を上げるというのがビジネスモデルです。輸送コストで政策的な支援をいただいているんですけど、その補助がないとやっていけない地域でもあります。
地域の振興あるいは国民の安全保障のためにも、安定生産できる政策支援というのが重要です。これは農業団体だけの訴えではどうしようもないところもあります。だから国会議員の先生にもお願いするわけですけど、やはり現場から声を上げていかないと変わらないと思っています。
今の政策のもとでは、農業予算の増大はあまり見込めないのですが、この流れを変えていく必要があると思います。日本の人口減少がより加速して農業生産が減ってしまうと、日本に人が住めなくなります。国の魅力も落ちていくわけですので、そういうことにならないよう、自治体議員の皆さんとも連携できればと思っています。
沖縄に限らず日本の農業は今まさに危機的状況にあると思っています。1次産業の振興にもっと予算をつぎ込んでいただきたいと強く思います。力のある中堅若手の農家は現場で頑張っているわけですので、彼らを後押しする政策が不可欠です。
今までJAグループもそうですが、高齢農家を守るための農政になりがちだったんですが、もうそろそろ見直しをしないといけないんじゃないか。次の世代につなげる農業、若い子供や孫の世代に対して安定的に食料を供給できるような生産基盤をどうやってつないでいくか。政策をしっかりと確立するべきだと強く思っております。
地元の食材を使う
取り組みを
地産地消の取り組みですが、沖縄でも地産地消の協議会があって、そこで関係者が集まって議論しています。生産者の側からぜひ地元の食材を学校給食にもっと使ってくれという要望を提案するのですが、学部給食側は「予算がない。安いものを年間通して安定的に供給してくれるのか。これが条件だ」と言って、そこで折り合いがつかないわけです。作物には旬があり、自然災害とかもあるわけで「年間通して安定的な供給」というのは絶対的に不可能なんです。スポットで使ってくれることはあるんですが、安定的に使ってもらえることは実現できていません。
給食費の無償化の話はもちろん大歓迎です。しかし、無償になったからといって、それにかかる予算の制約のもとで安い原料だけを使って給食の供給がされることは結果的にどうなのかと思います。ですから地元の食材を使うための指標というか目標値を定めた上でしっかりと供給する体系をつくる必要があると思っています。
学校給食だけじゃなくて、高齢者施設や病院でも地元の食材を使ってほしい。地元の食材が認知症の予防になるという事例も出ています。例えば沖縄では野菜として食べるパパイヤがあります。これは病院食としてとても人気で、栄養価も高いスーパーフードです。そういったものをしっかりと供給できるような連携を確立する必要があります。これも地産地消の一つのモデルになるので、そういう地道な取り組みをしっかりやっていきたいと思います。