主張 ■ 変わる世界、対応できない国を示した日米会談

「自主」の政治で危機打開へ

『日本の進路』編集部

 アジア侵略戦争と日米戦争の二つの敗戦と被爆から80年。
 対米従属の自民党政治から脱却をめざす兆しが全国に広がった。
 トランプ政権で世界は身構える。そんななか石破茂首相はイスラエル首相に次いでワシントン詣でをし、「日米黄金時代」をうたい上げた。だが、米国では「ゴマスリを駆使して」(ニューヨーク・タイムズ)との見方が大方のようだ。
 こんなことでわが国はどうなる。米国は衰退し、中国はじめグローバルサウス主導へ世界は移っている。欧州も独自の動きを強める。
 いまこそ、対米自立で自主外交を進める時だ。

対米従属の矛盾の集中点

 自民党の対米従属政治は限界である。自民党は昨年、「対米自立」を自説とする首相を誕生させ生き延びを策した。それでも有権者は総選挙で自公与党に厳しい審判を下した。
 対米従属の犠牲を集中的に押しつけられた沖縄と全国の農村からは打開への烽火が上がる。
 沖縄では、中国敵視の南西諸島軍事強化や相次ぐ米兵の性暴行事件などに怒り抗議する県民の闘いが進む。玉城デニー知事は、日米地位協定抜本見直し要求を強めるとともに、地域外交推進で平和な東アジアへ「緊張緩和と信頼醸成」に取り組む。県民は12月22日の県民大会に続いて2月6―7日東京で、対政府要請行動を行った。国会内で6日、「なかったことにしないで!繰り返す米兵による性暴力を許さない市民集会」が開催され、地位協定抜本改定を求めた。とくに二人の大学生が全国での運動構築のため闘うと決意を述べて会場は大きな拍手に包まれた(本号18ページ)。
 沖縄戦とその後80年間一身に犠牲を押しつけられてきた沖縄県は怒りの声を高める。

農村からも反撃の烽火

 農村でも「令和の百姓一揆」という注目すべき動きが広がる。昨年末の島根県のトラクターデモに続いて3月30日、東京に全国からトラクターが集結する大規模デモの準備が進む。行動を呼びかけている山形県の菅野芳秀さんは「一揆は連帯へののろし」と思いを語る(本号22ページ)。
 戦後続く対米従属の自民党政治からの決別をめざす国民の要求と闘いは新たな兆しを見せている。
 烽火が沖縄から、農村から。一点の火も荒野を焼き尽くす。

金メッキの日米関係

 石破茂氏は「対米自立」をつねづね語っていた。だが、早くもその限界を見せつけられた。
 日米首脳会談についてマスコミは、「日米黄金時代は金メッキか」と揶揄した。国会では少数与党、しかも党内基盤の弱い石破首相にしてみれば日米関係は最初の難関だった。自民党で政権維持を考えれば無理ないのかもしれない。しかも、「米国第一」のトランプ大統領が相手である。米国の要求を丸吞みする以外になかった。
 読売新聞の大見出しは、「首相、国益を優先/持論封印、トランプ氏持ち上げ」だった。だが、この「国益」は真の国益ではない。トランプの米国の言うとおりになることだった。対米投資拡大も、日鉄のUSスチール買収問題もトランプの手の内だった。ガザ問題も素通りだった。
 せめて米兵の性暴力事件に抗議するくらいは最低限の責任だったろう。地位協定改定を口にする気概は見せてほしかった。
 田中角栄首相が、自民党内の根強い反対を押し切って北京に行き日中国交正常化を実現したことが想起される。国民が石破首相に求めるのはそれだ。

「台湾」の現状変更は
許されない

 トランプ政権は、「これまで直面した中で最も強力で危険な敵」(ルビオ国務長官)と、これまでの政権以上に中国を敵視する。
 石破首相は対中国関係をどうするつもりなのか。会談では、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を指摘するにとどまらず、さらにより露骨に「力または威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」「台湾の国際機関への参加を支持」などと中国内政に公然と干渉する。「南西諸島における(日米)2国間のプレゼンスの向上」も明記され、東シナ海、南シナ海問題で中国を名指しで非難した。しかも石破首相は「2027年度より後も抜本的に防衛力を強化」を約束した。いつどこで誰が「わが国が主体的に」決めたのか。
 南西諸島軍事強化を進める日米政府こそ、「力または威圧による現状変更」を試み、戦争を挑発しているのだ。
 台湾は中国の不可分の領土の一部であり内政に干渉をしてはならない。この原則は国交正常化時に田中首相が、わが国の台湾植民地支配と大陸侵略の痛切な反省に立って確認したことである。わが国政府も、与野党も、この原則に立ち戻らなくてはならない。

核禁条約参加こそ安全保障

 日米会談では米国の核で日本を守るという「拡大抑止」が強調され自民党もマスコミも安堵した。
 被爆から80年の、しかも、被団協がノーベル賞受賞で国際的に日本の核問題への態度が注目される中であった。核兵器使用の危機が高まったと言われる世界だが、他国の核兵器に頼って平和と安全を確保できるはずがない。しかもこれでは米国の「核の傘」から永遠に自由でなく核軍拡に協力する以外にない。
 核禁条約締約国会議が間もなく開催される。昨年来石破首相は、オブザーバー参加に意欲的かと見られていた。しかし、米国に配慮して見送る方針を決めた。
 「非核三原則」を堅持し、さらにそれを強化・担保するために「核兵器禁止条約」に参加することこそ、自主的で最大の核安全保障政策である。

気候危機に背を向け
LNG輸入

 今回の会談で驚くべきことの一つにLNG輸入問題がある。
 トランプ大統領はCO2削減のパリ協定から離脱を決めた。だが石破首相は「残念」も言えない。
 それどころかLNG大量購入約束である。石破首相はこれを「大きな国益」と言う。だが、日本企業のLNG総取扱量のうち、国内で消費されずに海外転売された割合は2023年度に過去最大で実に37%。しかも、燃料需要は前年度比8%減であった。
 石破政権は貿易赤字の米国に協力し、同時に日本の大手企業が東南アジアなどへのLNG販売で利益を上げるのを支援する。東アジアで日本の影響力確保を狙うのであろう。こういう「国益」はご免だ。

賞賛の野党と
落胆の沖縄県民

 野党各党の日米会談賛美には驚かされる。自公与党も野党各党も「日米同盟の枠」からしか世界が見えない。
 しかし戦後80年、世界の構図は一変した。衰退する米国。中国もインドも、欧州も、先端技術AIでも安全保障でも独自の動きを強める。BRICSもドルに代わる通貨決済を模索する。
 ここに至っても「対米自立」へ進路を定めきれぬ石破政権。何故、野党まで追随するのか。
 沖縄県は知事も県民世論も米兵の性暴行事件でも地位協定改定でも石破首相に期待したが落胆である。地元2紙は社説で「周辺地域の信頼醸成を取り持つ自立した外交」(琉球新報)、「敢然と独自の主張を堅持し、国際社会と連携する姿勢」(沖縄タイムス)を求める。沖縄の世論こそ国民の求めるものだ。
 わが国の前途は発展するアジアの中にある。そのためには中国敵視政策からの脱却が不可欠だ。
 「対等な日米関係」でアジアに生きる自主的な日本へ。自主性を貫ける政治の実現が待ったなしである。

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