政策決定の場に女性がいないことが危機を生む
女性の一歩踏み出す勇気が
社会を変える
沖縄女性新春座談会
親川 裕子(大学非常勤講師)
仲宗根 由美(北谷町議会議員)
司会 山内 末子(沖縄県会議員)
山内 はじめに自己紹介をお願いします。
親川 大学で非常勤講師をしており、平和論や人権、ジェンダーについての科目を担当しています。自分自身の研究テーマは沖縄戦後女性史における複合差別研究です。2000年くらいから沖縄の基地問題から派生する人権侵害を、国際人権法にのっとって国連の人権機関に訴えるというアプローチを続けています。
山内 2000年から。すごい!
仲宗根 職業は北谷町議会議員で、7歳、5歳、3歳の3人の子供を育てる母親でもあります。私がPFAS(有機フッ素化合物)の活動を始めたのは、2020年に伊波義安先生の勉強会に参加したのがきっかけです。勉強会の夜、あまりのショックで泣いて眠れなくなり、今まで自分が過ごしてきた日常から色が消えたような感覚に陥りました。怒りと不安でいっぱいになりましたが、このまま途方に暮れるだけの母親にはなりたくない。自分にできることは全部やろうと決めて活動を始めました。
22年4月のPFASの県民大会でジョン・ミッチェルさんというジャーナリストが「基地から派生する環境汚染の中でPFASが最も深刻で、問題が広範囲だ」というお話をされました。私はPFASの深刻な被害を本当に伝えることができていたんだろうかと、すごく後悔しました。議員になって議会で訴えることも選択肢の一つかなと思い、9月の北谷町議会選挙に挑戦しました。
私自身この社会にすごい不満があり、女性として母親として生きづらさを感じていた部分があって、そのもとをたどっていく中で政治に行き着いたんですね。社会を変えるには選挙のあり方も変えていく必要があるんじゃないかと思い、身の丈に合った選挙で、これからお母さんたちが挑戦しやすいような選挙を私が体現していくと決めました。なので結果を求める選挙というよりも、今までのやり方に一石を投じることを意識して臨みました。そして当選させていただいて今に至っています。
山内 仲宗根さんは生活の不安は政治家になって解決しようと選挙に挑戦した。しかも新しい選挙のやり方でね。画期的です! 私は沖縄で一人でも多くの女性と若い人たちに政治家になっていただくというのが夢なんですけれども、実践されていることに心から敬意を表したいと思います。
女性差別撤廃委員会でのロビー活動
山内 お二人は24年10月、国連の女性差別撤廃委員会の条約審査に合わせてジュネーブに行き、ロビー活動をしました。委員会とはどのようなものですか?
親川 女性差別撤廃条約を批准している国は、自国の施策が順調にいっているかどうかを定期的に審査委員会に報告する必要があります。日本は1985年に条約を批准してから、これまで3年から5年に1回ぐらい報告書を出しています。しかしコロナ禍で委員会がなかなか開けなくなって、前回の2016年から8年ぶりの審査という形になりました。
この条約審査は委員と政府が直接対話します。国連側は建設的対話と位置づけており、締約国のできていない部分を糾弾する場ではありません。今回の審査にあたっても、強姦罪からの刑法改正については非常に評価されました。しかしずっと指摘されてきた選択的夫婦別姓や慰安婦問題は改善が見られないため、今回も非常に厳しい勧告が出されています。
山内 沖縄の性被害の問題についてはどうでしたか?
親川 24年6月に米軍からの16歳未満の少女に対しての性暴力事件が発覚しましたね。仲間と共に7月に「Be the Change Okinawa」を立ち上げて、それに関してのNGOレポートも作成しました。私たちのほかにも「アクション沖縄」と県外の5団体から「沖縄での性暴力は人権侵害であり女性に対する差別である」とのレポートが出されたことが、勧告に大きくつながったと考えています。
仲宗根 私も沖縄でどれぐらい性暴力が発生しているかというチラシを作って持っていきました。各NGOのチラシを置くデスクがあるんですね。多くの方が手にしてくれたので、それはすごく良かったかなと思っています。
山内 米国ではPFASの規制は厳しいのに、沖縄では調査もさせない不条理な状況が続いていることに対して、反応はどうでしたか?
仲宗根 私は3日間ジュネーブにいたんですが、5人の国連特別報告者のアシスタントにPFAS問題をプレゼンテーションすることができました。このアシスタントは特別報告書に問題をインプットする重要な役割を持っているので、大きな意義があったと思います。非公式のスピーチでは「PFAS汚染が女性や少女に与える健康権の侵害について日本政府に対する勧告に盛り込んでください」と訴えました。海外のNGOの方々から「すごくいい訴えだった」と声をかけてもらったり、日本のNGOの方からも「PFASは本土でも問題になっているから連携して一緒にやっていけたらうれしいです」と声をかけてもらったりしました。NGOの方々の反応がすごく心に残っています。
若い人は差別に気づいていない
山内 大学で議会のジェンダー問題を話したときに、今の若い子は男性優位だとかジェンダーとか、あまりピンときてないような気がしたんですね。
親川 学生時代はあまり女性差別とか感じたことがないと言いますが、社会に出てから初めて女性差別に気づきます。そもそも女性差別が何かということがわかってない。だから私は授業の最初にアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)のクイズをやります。例えば「医者、弁護士、裁判官と聞くと、皆さんは男性をイメージしませんか? 逆に看護師、保育士、介護士は女性をイメージしませんか? それが無意識の偏見なんですよ」と。
無意識の中でジェンダーバイアス(偏見)を植えつけられているという気づきから、女性差別っていったいどういうことなのか、なぜそれを勉強しなければいけないのかということを考えてもらいます。育児や介護、教育、性暴力、最終的には沖縄の話をして、こういったことが差別だという気づきを喚起します。併せて、生きづらいという人たちが声を上げてきたから社会が変わってきたんだということを、女性差別や人権の問題として教えていくことを大事にしています。
山内 とても大事なことですよね。若い人たちが気づくためには早いうちからの教育が大事。当たり前になっている風習とかも徹底して見直してやっていかないといけない。教育と政治と社会がみんな一つになって、ようやく自分が求める生きやすい社会になるんですね。
仲宗根 選択的夫婦別姓でいうと、私は仲宗根が旧姓なんですね。結婚したときに働いていた会社が外資系ホテルだったので、私は「旧姓のままでいきます」って言ったらOKとなり、給与明細以外は旧姓のままで、違和感なくやってきました。議員になってからも初めての旧姓使用の議員です。議会側がすごく配慮してくれて、私の初めての一般質問に間に合うように、名札などを旧姓に変えてくれました。これも次から入ってくる女性たちに向けていい道がつくれたんじゃないかと思っています。
平和構築に女性の参画が不可欠
山内 今年は戦後80年です。沖縄にいる女性としていちばん心配なのは、日本がどんどん戦争への道に行っているということ。戦争や平和についての思いをお聞かせください。
仲宗根 国連から帰ってくるとき、ドイツから韓国までの飛行時間がたったの15時間でした。そのとき、なんてこの地球は小さい場所なんだって思ったんですよ。こんな小さい地球で争っている状態はあるべき姿じゃないなと思ったし、私たちはこの星に生きる共同体であり仲間であるっていうことも実感しました。
ドイツでは市民団体の方ととても濃い交流ができたんですが、人は言葉だけじゃなくて心でも通じ合えると感じました。海外に出て人と人との触れ合いをすると、自分と他国の人たちは同じだっていうことがわかるんです。「中国が攻めてくる」とかいう話も、私は中国の方と一緒に働いたことがありますが、その人たちが攻めてくるなんて想像もできないですよ。他者と自分との関係は共に生きている家族であり仲間だという感覚を、多くの人が感じる必要があるんじゃないかな。
私もそうだし他者も不完全なんですね。自国もそうだし他国も不完全で、お互いに間違えることもあるという前提に立つこと。もし自分たちの国が間違ったらそのことを認めてしっかり謝る。その基本的なことができれば、争いや戦争をする必要がなくなるのではないかなって私は思っています。
親川 国際的に見ればWPS(女性・平和・安全保障)アジェンダという概念があるんですね。紛争や平和構築、また復興のプロセス、平和構築の段階で女性の参画が不可欠だということです。現在のガザに対するイスラエルの侵攻やロシアのウクライナ侵攻などを見ていると、リーダーが男性で女性が見えないですよね。
沖縄でも平和構築や紛争予防に女性の参画が不可欠だと思います。市民活動の中では多くの女性たちが体を張っている姿は見えますが、それが政治の場では非常に少なく、限られていると思います。
私も今後は市民活動の一環として、WPSを授業の中で学生さんに伝えていくこともしかりですけれども、市民の方たちにも勉強会などといった形でこの概念を広めていけるような活動ができたらなというふうに思います。
仲宗根 私は沖縄に来ている観光客を歓迎することも外交の一つだと思っています。出会った人たちに「沖縄に来てくれてありがとう」と声をかけたり、子供とも交流させたり。意識して沖縄県民が観光客にウエルカムすれば、その一つでさえも平和をつくるきっかけになるのではないかなって思うんです。
20世紀は戦争が続きました。どこかの時代で人々がもう武器はいらないと覚悟して武器を下ろす必要がある。その時代っていうのはこの今を生きている私たち、そして沖縄の人々じゃないかと私は思っています。そのぐらいの大きな責任が、この沖縄を生きる私たちに託されていると思うし、沖縄に生きている意味っていうのは、それだと思っています。
山内 その通りね。私も子供たちに「喧嘩しないでね」って言いますが、意地悪することが喧嘩のもとにもなる。これは子供も大人も同じだと思うし、国と国とも同じだと思いますね。ウエルカムの気持ちがあれば平和はそんなに難しいことではないよね。
仲宗根 やっぱり謝るっていうのがすごく大事だなって思っています。間違えたら謝る。
山内 これがなかなかできない。
仲宗根 意固地になってしまう。でも自分も完璧じゃないことを受け入れたうえで付き合っていく。だって人間そうじゃないですか。
山内 ほんと! 仲宗根さんに外務大臣になってもらいたい!(笑)
政策決定の場に多様性が必要
仲宗根 政策決定の場に女性がいないことが今、国家の危機を招いていると思うんです。例えば保育所の配置基準一つとっても、0歳児3人に対して一人の保育士ですよね。私からするとこれは信じられない数値です。私の場合は0歳児一人見るのに大人二人必要だったんですから。結局やったことない人たちが的外れな政策を決めることで、国家の危機にまでなっている。この恐ろしさを政治に関わる人たちは自覚すべき。だからこの社会を変えるためには、当事者である現役世代や女性を入れていくことが必要なんです。
男性にも政策決定の場になぜ女性が必要なのかということをしっかり伝えていく。例えば議員を勇退されるときには自分の後継に女性を充てるとか、力を使って女性を押し上げるようなことをしないと、自然発生的に女性議員は増えないと思います。
親川 仲宗根さんのお話を聞いていて、もっともでうなずくことばかりです。政治に女性が参画してくださっているのはとてもありがたいです。組織でもどこでも女性が30%を超えると多様性が生まれるクリティカルマス理論と呼ばれます。
仲宗根 そうなんだ、知らなかった。
親川 多様性がある社会の方が強くなり、困難に立ち向かいやすいんですよ。旧態依然としたいわゆるオールド・ボーイズ・ネットワークと言いますが、古いおじさんたちで物事が決まってきたから進まない。現役世代の女性たちがどんどん当事者として政治に参画していくのが非常に大事なことです。
今回の勧告でも国会議員に女性が立候補しにくいのは300万円の供託金があるからで、それを削減することという勧告が出されています。ジェンダーギャップ指数がまだまだ低いというのは、日本では政治に女性が参画しにくい状況があるからなんです。
そのうえであえて言うと、単なる女性ではいけない。ジェンダー的な感覚を持った人じゃないとこれからの社会はやっていけないだろうと思います。また今後はLGBTQ+も性の多様性もそうですけれども、そういった当事者の方たちが入っていくことが望まれると思います。世代も年代も性も、生い立ちなども含めて多様な人材が政治に参画していく必要があるというふうに思います。
山内 今われわれが求めていることに対して壁があるのは、男性中心でやっているから。女性が入ったりいろんな方々が入ったりしてくると、視界が開けて明るくなって解決策も見えてくるってことですよね。
親川 そうなんですよね。
仲宗根 国連に行くお話が来たとき、子供たちがまだ小さいこともあり、迷いがあったんですね。でも多くの方から、母親だからという理由で諦めてはいけない、すぐに成果を出さなくてもいい、100年後の女性たちを励ますことになるからと背中を押してもらいました。行ってみて自分の人生の価値観が一新されました。私の周りで良い社会をつくりたいという人が新しい行動を起こすときに、私も背中を押せるような人になりたい。行動することに価値があることを伝えられるようになりたいですね。
山内 今、仲宗根さんや親川さんみたいな人がどんどん出てきていることは素晴らしいこと。一歩踏み出した女性たちの勇気に感謝したい。これからも沖縄だけにとどまらずに、全国に、世界に向けてネットワークを広げることがとても大事。沖縄にいる価値、沖縄にいる意義を確認して、また今年も元気に頑張っていきましょうね。