食料自給の確立へ

農業・農村・食料を守る政策実現に機運高まる

東京大学特任教授・名誉教授、食料安全保障推進財団理事長 鈴木 宣弘

 「広範な国民連合第26回全国総会」のご成功に心からお祝い申し上げます。
 今、「住むのが非効率な」農業・農村の崩壊を加速させ、人口の拠点都市への集中と一部企業の利益さえ確保すれば「効率的」だとする動きも強まっているなか、文字通り「広範な国民連合」が全国各地の政治・行政と市民・農民の力を結集し、日本の地域社会と子どもたちの未来を守る最大の使命を担っております。
 現に、国民連合による食料自給率向上の自治体議員連盟の尽力は、農業・農村を守り、食料を守ることの重要性を超党派の国民運動として盛り上げる原動力となっております。
 私自身も、国政レベルでも、ほぼ全政党でお話をし、食料安全保障推進法(仮称)に基づく①農地を守る基礎支払い、②生産者・消費者の双方を支援するコストと販売価格との不足払い、③備蓄・援助のための政府買い入れの拡大、などの必要性について、党派をまたいだ強い賛同を得ております。
 今まさに、広範な国民連合による日本の地域社会を守る政策提案が、国政レベルでも喫緊の政策として実現できる機運が党派を超えて高まっております。食料自給確立の自治体議員連盟による全国津々浦々からのうねりづくりが国政を動かす最大の原動力になります。この機を逃すことなく、さらなる結集と活動の強化に取り組んでまいりましょう。

国家観なき歳出削減からの脱却
政策実現へ超党派の国民運動を

鈴木 宣弘

 最近、財政当局の農業予算に対する考え方が示された。その骨格は、①農業予算が多過ぎる、②飼料米補助をやめよ、③低米価に耐えられる構造転換、④備蓄米を減らせ、⑤食料自給率を重視するな、といったものである。そこには、歳出削減しか念頭になく、現状認識、大局的見地の欠如が懸念される。
 1970年の段階で1兆円近くで防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、国家予算比で12%近くから2%弱までに減らされてきた。10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
 軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱ともいわれるが、なかでも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。その予算が減らされ続け、かつ、世界的食料争奪戦の激化と国内農業の疲弊の深刻化の下で、まだ高水準だという認識は国家戦略の欠如だ。
 中国は14億の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。世界情勢悪化のなか、1・5カ月分程度のコメ備蓄で、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。今こそ総力を挙げて増産し備蓄も増やすのが不可欠なときに備蓄を減らせという話がなぜ出てくるのか。
 「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代は終わった。今こそ、国民の食料は国内で賄う「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、危機認識力と国民の命を守る視点の欠如だ。
 そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。
 この状況は絶望的にも見える。

農業・農村を守る政策
実現に新たな展望

 しかし、この局面を打開できる希望の光も見えてきている。
 かつて2009年、当時の石破茂農水大臣は、筆者が08年に刊行した『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ』(創森社)を三度熟読され、この本を論拠にして農政改革を実行したいと表明された。
 拙著での提案、および09年9月15日に石破大臣が発表した「米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向」の政策案の骨子は、
 「生産調整を廃止に向けて緩和していき、農家に必要な生産費をカバーできる米価(努力目標)水準と市場米価の差額を全額補てんする。それに必要な費用は3500~4000億円で、生産者と消費者の双方を助けて、食料安全保障に資する政策は可能である」
 というものだった。これは、その直後に起こった政権交代で、民主党政権が提案していた「戸別所得補償制度」に引き継がれることになった。

食料安保確立基礎支払いと食料安全保障推進法(仮称)

 そして筆者は、スイスの農業政策体系に着目した。食料安全保障のための土台部分になる「供給補償支払い」の充実(農家への直接支払いの1/3を基礎支払いに集約)と、それを補完する直接支払い(景観、環境、生物多様性への配慮などのレベルに応じた加算)の組み合わせだ。
 それを基にして、「食料安全保障確立基礎支払い」として、普段から、耕種作物には農地10a当たり、畜産には家畜単位当たりの「基礎支払い」を行うことを提案した。その上に多面的機能支払いなどを加算するとともに、生産費上昇や価格低下による赤字幅に応じた加算メカニズムを組み込む。
 かつ、食料需給調整の最終調整弁は政府の役割とし、下限価格を下回った場合には、穀物や乳製品の政府買い入れを発動し、備蓄積み増しや国内外の人道支援物資として活用する仕組みを整備することも加えた。こうしてこれらをまとめた超党派の議員立法「食料安全保障推進法」(仮称)の可能性を提起した。
 農家だけを助ける直接支払いではなく、消費者も助け、国民全体の食料安全保障のための支払いであることを理解しやすくする意味で「食料安全保障確立基礎支払い」というネーミングも重要と考えた。
 筆者が理事長を務める食料安全保障推進財団も活用し、各方面に働きかけてきた。

超党派で政策実現の機運

 全国各地での月20回前後の講演に加え、ほぼ全ての政党から勉強会の要請があったので、各党で話をさせていただいた。国民民主党の勉強会では、この考え方を取り入れて政策を組み立てたいとの賛同をいただいた。自民党(積極財政議員連盟)、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、日本維新の会、社民党、参政党など、ほぼ全ての政党から基本的な方向性に強い賛同をいただいたと理解している。
 こうしたなかで超党派の協同組合振興研究議員連盟がこれに着目してくれた。事務局長の小山展弘議員(立憲民主党)を中心に内閣法制局とも打ち合わせを重ね、自民党の積極財政議員連盟の支柱である城内実議員(現・経済安全保障大臣)も賛同してくれ、議員連盟会長の森山裕議員(現・党幹事長)にも話をさせていただいた。
 以上からわかるように、農業・農村を守る政策の方向性は与野党を問わず収斂してきている。09年に石破大臣が発表した農政プラン、戸別所得補償制度、食料安保確立基礎支払いの基本概念には共通項がある。
 与野党が拮抗する政治情勢下で、こうした政策を超党派の国民運動で実現できる機運が高まっていると思われる。期待したい。

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