東アジアが一つの不戦共同体になる努力を
㈳東アジア共同体研究所理事長(元内閣総理大臣) 鳩山 由紀夫
広範な国民連合の第26回の総会にお招きいただきまして、大変感謝をしております。と同時に先ほど山本さんから「問題は分かった。問題をどうやって解決するのか、その道筋を示せるのか」という話もいただきました。それはなかなか難しい話だなということを考えながら、少し違う角度から自分の話を申し上げたいと思っております。
野党が政権を握る
チャンスだった
まず私は、総選挙の後、野党はなぜもっと共闘できなかったのかというところから申し上げたいと思います。
総選挙で自公政権は、与党過半数割れをいたしました。与党が215に対して、野党が250でした。本来ならば政権を明け渡さなければならない数字です。もちろん無所属で保守系の方々もおられます。しかしそれらの方を除いたとして、さらに共産党をどうするかということもありますがその8議席をマイナスしても、私は過半数を超える野党が政権を握るチャンスは十分にあったと考えております。
しかし、どうも最初からそのような状況ではありませんでした。一説に、事実かどうかはわかりませんが、選挙が終わったその深夜に立憲の最高幹部が自民党の責任者に「大連立はどうか」という話をされたということを聞きました。石破総理は首を縦には振らなかったようですが。
今回の選挙において、ここは一つ思い切って野党が結集して政権を奪取しようじゃないかという話になぜならなかったのか。
かつて1993年、細川政権が樹立した時には、細川護熙さんの日本新党の議席はたかだか38議席でした。この38議席の政党から総理を生み出したのです。当時の最大野党の社会党も75議席にとどまっていたわけですし、自民党は224議席でした。自民党分裂によりギリギリで野党が過半数を超えていたという状況にあり、そのときは7党・1会派が連立して政権を奪取したわけでございます。
あのときは細川ブームというものがあり、全国的に細川さんが総理にふさわしい人物として評価されていたということがあったと思います。それに比べて今回は必ずしも「野党だけどこの方に任せれば素晴らしい日本に変わるぞ」という期待感がそこまで高まっていなかった、カリスマ的な指導者が不在だったからなのではと思います。本来ならばもっと国民の中にも「野党が結集して」という声が高まって良いはずだったがそうはならなかった。野党が結集するリーダーがいなかったということが理由の一つではないか、という思いがいたしております。
野党結集で政権交代の
パワーをつくる
しかし、細川政権も8党派連立の運営が難しく、政党間で確執があったりして8カ月程度で終焉を迎えたわけです。またそのあと短命の羽田政権を経て、今度は村山政権が誕生し、さらにはその後、橋本政権になっていく。これは新党さきがけの策略的なものもあったと思いますが、結果として自民党と組むことで、自民党を政権に復帰させるということになりました。
自社さ政権というのを聞き覚えがあろうかと思いますが、私はその自社さ政権をつくった時にそこにいましたが、その自社さ政権は結果として自民党を復権させて、社会党、さきがけは彼らの補完勢力に成り下がってしまった。結局は自民党の政策を追認する機関になってしまったのではないかと反省しています。自民党と組むという形でこれから政権が新しい形になっていくとしたら、そこには不安があり、自民党が立ち直るのに手助けすることになるのではないかと感じております。
やはりここはもう一度、野党全体で、政権を交代するために新しい政権を本気でめざすような仕組みをどうやってつくっていくかということに力を注がなければいけないのではないかと思っております。山崎拓先生の前で、自民党に対するこういう否定的なことを申し上げて恐縮ではございますが、現在のような金銭で腐敗してしまったような長期政権に対して、それをひっくり返すパワーを、本来ならば野党が結集して持つように成長させなきゃいけないのではないかと思っております。
次の参議院選、あるいは同時選挙という話もないわけではなく、野党にとっても大事な戦いになります。今回は自民党の敵失による状況で、自民は今がいちばん厳しい状況です。しかし、底力がありますから、これからまた力を盛り返していくのではないかと。野党は今から今回のようなことでいいのかをもっと真剣に検証されたほうがよろしいのではないか、ということを申し上げたいのでございます。
真の自立実現へトランプ登場を生かせるか?
先ほど山崎先生が台湾有事を日本有事にさせてはならないという、大変重要な話をされました。私も別の角度から、今いちばん大事なことは何なのかということを申し上げなければならないと思います。
真に自立した独立国日本を創り出すことを真剣に進めなくてはならないということを申し上げなければならない。いわゆる対米従属的な政権から対米自立した政権をどうやって創り上げていくかということです。
とくに安倍政権で集団的自衛権行使を限定的であっても容認しました。さらに岸田政権において対米従属がいちだんと進んでしまい、敵基地攻撃能力を保有できるようにもなりました。また防衛力の増強のために5年間で43兆円という巨額の軍事費、GDP比で2%にまで高めることが認められてしまったわけです。その中ではトマホークという巡航ミサイルも数百発購入するわけです。私は軍事の専門家ではありませんが、これは飛行機の速度程度で飛ぶミサイルで、容易に撃ち落とされる代物です。それを防衛費のつじつま合わせのような形で大量に買わせられるということはいかがなものかなと思っております。
石破政権は日米地位協定改定に真剣に取り組め
石破さんが総裁選でも触れていた日米地位協定の改定はぜひ本気で取り組んでもらいたいと期待しております。私が総理時代にも、外務省の役人に「地位協定は見直さなければならないから、うまくアメリカと交渉してくれ」ということを言いましたが、私の力不足でした。しばらくたって役人がきて「やろうとしても全く歯が立ちません。運用の見直しでいこうと思います」みたいなことでした。結局、8カ月で退陣したため、そのままになってしまい、大変申し訳ないと思っております。
石破さんは核共有ということも一時お話をされておりました。これは自民党の中で議論が始まったようですし、アジア版NATOをつくるという議論もございます。私が主宰するユーチューブ番組に石破さんに出ていただいたことがありますが、その時に「アジア版NATOを自分は考えたい」ということをおっしゃっていました。その時に私は「ならば中国もその中に入れられたらどうですか」と申し上げたら、「うん、うん」という感じで、あまりはっきりしたことはおっしゃいませんでした。最近は中国も入れてもいいみたいな話もありますが。
NATOという構造は集団的な安全保障ですので、私は日本がこの中に入るべきではないと思っております。一国が襲われたときに、日本は襲った方を攻めることになるのですから、それは憲法違反ではないかと思うわけです。
石破さんとトランプ氏はまだ面会ができてないようでありますが、日米地位協定改定も難関だと思います。アジア版NATOという議論もトランプ氏がNATOをあまり好ましく思っていないようですので、「それをアジアにつくってどうするんだ」という話になるのではないかと感じております。
トランプ氏が大統領に就任した後、日本に対しては「防衛費や思いやり予算を増やせ」とまず言ってくるのではないかと思います。トランプ氏の関心は軍事よりも経済ですし、彼の外交手法はディールです。「金をよこせ。そうでなければ米軍基地を日本から撤退させるぞ」と前回のように言いかねないわけであります。
そのときには「どうぞ基地をお引き取りください」と言うチャンスだなと私は思うわけであります。しかし、果たしてそういう話になるのかどうか。
石破政権はウクライナ
停戦に動け!
そのトランプ氏はウクライナに対しても支援をやめると公言されています。バイデン大統領は、辞める前にウクライナを支援しようということで、聞くところによると、ロシア領内への攻撃も許可したと言います。また、さらに1年間戦闘を継続できる能力を持つぐらいの武器を供与し、その中にはロシア領内にも届く射程が300㎞の長距離のミサイルが含まれております。
既にイギリス製の巡航ミサイルが数発ロシア領内に発射されています。それを受けてプーチン大統領は「これはNATOがロシアに対して参戦したことを意味する。したがって自分も核兵器を使用する基準を引き下げるぞ」と言ったということです。まさにいよいよ核戦争へエスカレートするのではないかという懸念を感じる、かなり瀬戸際に来ているのではないかと思っております。
こういう状況の中で、トランプ氏が大統領になった後、ウクライナ戦争をやめろということを強く言い切れるのかどうか、注目したいと思います。
日本はロシアがウクライナに侵攻した直後から日本中がウクライナ支援という方向になり、今でもウクライナ支援を続けている状況であります。果たしてロシアとウクライナの関係は、単純にウクライナを支援するだけで良いのか、もっと真剣に考えなければならない話ではないかと思っております。
石破政権の下でも岩屋外務大臣がウクライナに行って、復興支援のために凍結したロシアの資産を担保に30億ドルの借款供与をゼレンスキー大統領に約束したと伝えられております。戦争をやっているときに復興支援とは何だという話でございます。これは復興支援という名のもとで戦争を支援するために使われるということに間違いないわけです。
こういうウクライナ支援を一方的に続けていると、ロシアとの関係がどこまで悪くなるかということをわれわれは考えなければなりませんし、そうなったときに北方領土問題などは完全に飛んでしまいます。議論することさえできなくなっている現状を私は大変憂慮しております。私は石破首相がウクライナ戦争の停戦に向けて働きかけを行うことが大事ではないかと思っております。
イスラエル・パレスチナの
2国家解決へ行動すべき
またイスラエルとレバノンのヒズボラの停戦をバイデン大統領が仲介したと言われており、停戦が合意されたことを歓迎したいと思っておりました。しかし、既にそれが破られているという話も出ています。しかもこれは60日間の期限付きでありまして、イスラエルにとっては次の衝突までの時間稼ぎのような気もいたします。ヒズボラはハマスとは違って準軍隊であり大変強いですから、イスラエル側に相当大きな被害が出ているようです。ハマスを孤立化させるための策略ではないかとも思うわけです。トランプ氏はイスラエル支援に凝り固まっていますから、中東全体へ戦争が大きく波及されていくのではないかということを、大変私は憂慮しています。
日本政府としてはイスラエルと独立したパレスチナ国家とが平和で安全に暮らしていけるようにする、「共存する2国家解決」というものを支持し、周辺諸国や中国などとも協力して行動していかなければならないのではないかと思っております。
「平和五原則」を基礎に東アジア共同体をめざす
時間が相当過ぎておりますので、台湾問題はもう既に山崎先生からお話がありましたので、省略させていただきます。私が申し上げたい最後の視点は、武力によって平和を築くということは基本的には無理だということです。そうではなく対話を通じて平和を築く努力を日本はもっとしていかなければいけないということです。そのために私は東アジア共同体というものを構想して、その実現に向けて一歩でも二歩でも前進できるように努力するのが日本の政府の役割ではないかと思っています。
私は中国には今年も7、8回、また韓国にも2、3回訪問していますが、中国や韓国の皆さんのほうが東アジア共同体という発想に対して共感を持ってくださっております。私は勢いを得たなという感じがいたしておりますが、日本側があまり積極的ではないというところが残念でございます。
対米自立の政党を育てる
ただ先ほど山崎先生もお話しされましたように、平和五原則というのがあります。私は6月28日、中国の「平和共存五原則」70周年記念大会に呼ばれて行ってまいりました。習近平主席にお会いしたときに、領土保全と主権の相互尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存の五原則を日本も守るべきだと言って、中国はそれを70年間守ってきたんだという言い方をされていました。検証が必要だとは思います。しかし、その方向でこれからもやっていきたいという話をされて、友情、友愛というものが何より大事なんだという話もされていたわけでございます。
私はこのような中国ともっと信頼できる関係を築いていきながら、東アジアが一つの不戦共同体になっていくような努力というものをしていかなければならないと考えております。
そういう対米自立、平和、東アジアの共同といった方向をめざす政党というものをつくり上げていかなくちゃいけないと思っているわけであります。今の野党は必ずしもこの問題に対して本気で行動しているとは思えません。対米自立の政党を私どもは大きく育て上げていかなきゃいけない使命があるのではないかということを申し上げて、私からの皆さんへの問題提起とさせていただきます。
ありがとうございました。