[中国・深圳市、男子児童殺害事件]中国に「反日教育」はない

「私たちは中国を憎みませんし、同様に日本を憎みません」

王 景賢

 深圳で10歳の小山航平君が凶悪な犯罪者に刺され命を失いました。この悲しすぎる出来事に、まず心より遺憾の意を表しご冥福をお祈り申し上げます。日本人の父と中国人の母の間に生まれた子供がこんな無残な目に遭ったことに対して、日本だけでなく、中国社会においても深い悲しみと強い怒りに包まれ、ネット上では犯人への批判が止まりません。一日も早く真相を徹底的に究明し、厳罰を下してほしい。
 公表された情報によると、その場で捕まえた犯人は、2009年に公共通信機器破壊と15年に公共秩序違反の前科を持つ男でした。日中間の外交にも関わる重大問題であり、中国側もこれまで以上に慎重かつ徹底的な調査が必要になってくるでしょう。それまでに、結論を急いだり、誤った情報に基づき世論を作ったりするのは得策ではないでしょう。
 その中で、被害者父親の小山純平さん署名の手紙をネットで拝見しました。日中友好の商社に勤める小山さんは、中国語で「私たちは中国を憎みませんし、同様に日本を憎みません」、そして「私は、ゆがんだ考えを持つごく少数の卑劣な人々の犯罪によって、日中関係が損なわれることを望んでいません」と書かれており、毅然とした言葉で多くの落胆した人々に励ましを与えました。
 一方、このような痛ましい災いの後でも、日中関係がこれ以上損なわれないようにと考えている小山さんは、中国社会の人々に感銘を与えました。

亡くなったのは日本の子であり中国の子

 筆者もその一人であり、小山さん署名の文章を日本語に翻訳してFBに投稿したところ、たちまち239件シェアされました。シェアしてくださったのはほとんど日本人の方で、コメントは被害者を追悼すると同時に、小山さんへの賛意が主でした。なかには「日本の右翼がこの事件を利用して中国への憎悪を煽るのは恥ずべきことだ」と指摘する方もおり、私も同感です。
 確かに日本のインターネットを見ると、ただでも米中摩擦で米国側につく日本に苛立つ中国社会に対して「核汚染水」で輸入が閉ざされた日本側は、9月18日という対中侵略戦争が始まった日の出来事には、非常に不快な思いがあったかもしれません。このような元々緊迫している背景があっただけに、今まで以上に中国への批判が強かったように思います。その中で、中国政府や中国社会への憎悪を煽るような節があったかと思います。
 これに対して、私が皆さんに気づいてほしいのは、亡くなった子供が日本の子であるだけでなく、中国人の母を持つ中国の子でもあることです。失われた小さな命は、本来両国が大切にすべき未来であり、中国社会も大変胸が痛い出来事です。怒るべきは犯罪者とその暴力行為に対してであり、中国政府に対してでもなければ、中国社会に対してであってもいけません。

「反日」ではなく「歴史を肝に銘ずる」教育

 こうした中で特に中国の愛国教育や反日教育がやりすぎたから起きた出来事だと一蹴した論調がありましたが、これには私は同意できません。
 私自身は中国で大学までの教育を受けてきました。私同様、歴史教育や愛国教育を受けたからといって、日本に対して「反日思想」を持つという因果関係はまったく成り立たないということを強調しておきたいです。
 愛国教育を受けても、客観性をもって日本という国や日本社会を見ることは可能です。どの社会でも是も非もあります。侵略戦争を起こした帝国主義日本と今の戦後民主主義日本は別物だという認識もできます。52年前の日中国交正常化以来、日本人の皆さんが中国のインフラ建設を援助したり、経済発展のための資金や技術を提供してくれたりすることも忘れてはいません。愛国教育を受けてきたからといって、日本に対する見方が歪むことはありません。
 そもそも中国では「反日」という教育はありません。正直私も子供の頃には、「なぜ侵略者だった日本と中日友好をしなければならないのか?」と素朴な疑問を抱いたことがありました。しかし、メディアや学校、親からの答えは、皆同じく「日本国民も戦争の被害者であり、日本政府の侵略責任を日本国民に転嫁すべきではない」というものでした。私が中国で受けたのは、「反日教育」ではなく、客観的かつ理性的に中日友好を推進する教育でした。
 歴史問題についても、公的教育では一貫して「歴史を肝に銘じながらも未来志向」ということでした。つまり、誤った歴史が二度と起こらないようにも過去の歴史は肝に銘じますが、日本とは未来志向で友好関係を作っていくということでした。だから国交正常化もありましたし、日中友好の50年余りの歩みもありました。個人としてここで伝えたいのは、いわゆる中国に「反日教育」があるというのが、プロパガンダであり、一部のメディアの噓だと理解してほしいことです。

「中国の悪意ある影響」に対抗する米基金

 もう一つ異論があるのは、中国のナショナリズムを一方的に批判する日本のナショナリストです。確かに、中国のネット上で日本人学校に対する不理解からきた一部の攻撃的な発言や、哈爾濱観光にあった731記念館参観ブームがもたらした怒濤を目にしました。
 しかし逆に、日本はどうでしょうか。ここ数年、日本のメディアは中国へのネガティブキャンペーンをやって客観性に欠けた否定的な報道で溢れ、コメント欄には常に中国への罵詈雑言とヘイトスピーチが満ちています。今は情報がネットで瞬時に世界を駆け巡る時代で、そのような日本の対中感情をみると、中国の国民感情が高ぶるのも時間の問題です。
 「ナショナリズムの高い」中国を一方的に批判するのではなく、日本も同様、ある種の力によってナショナリズムに駆られていることを認識しなければならないと思います。この力と煽られた対抗力が、今日の日中関係の悪化を招いた側面もあるのではないでしょうか。
 最新の報道によれば米議会は、「中国の悪意ある影響」に対抗するために、米国務省などが今後5年間で16億2500万ドルを独立メディアや非政府組織の育成に充てることを認めました。注目すべきはこの巨額の広報費が可決されたのはついこの間ですが、実際、計上開始日は22年10月でした。この財政の恩恵を受けた者が、今日の米国と同盟国日本の主要メディアで活躍していることは容易に考えられることでしょう。私は「ネガティブ中国を書いてくれ」というむちゃぶりを断った日本人ジャーナリストを知っています。客観性と真実を大事にする良心的な方だと思います。しかし、かつて大変活躍していたこの方は、今はほとんどメディアから姿が消えています。これは日本の現実です。

微かな希望が見える

 石破茂首相が国会演説で、中国について「戦略的互恵関係を促し、あらゆるレベルでの交流を行い、双方の関心事について対話を行い、共通の課題について協力し、日中双方の努力によって安定した関係を構築していく」と述べました。日中関係において微かな希望が見えます。
 深圳の小山航平君の犠牲が、日中両国の大人たちが考え直す契機になることを心より願っております。

(24年10月14日。王 景賢は元中国人留学生で、日本に永住する二児の母)

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