日中不再戦のために ■ 楊 伯江

「一つの中国」という立場を否認?

日本政府は地域対立の「パンドラの箱」を開けようとしている

中国社会科学院日本研究所所長 楊 伯江

 7月26日にラオスで開いた中日外相会談での上川外相の発言をめぐり、台湾について中国側の事後発表で「『一つの中国』を堅持する立場は何も変わっていない」としたことについて、上川外相は8月2日に「中国側の発表は日本側の発言を必ずしも正確に示すものではなく、日本側の立場を申し入れた」と明らかにした。これをも含めて、最近のさまざまな動きから見受けられるように、日本政府は1972年以来の台湾政策を公然と修正しようとしている。本当にそのようなことになれば、アジア太平洋地域対立の「パンドラの箱」を開けてしまうこととなろう。

日本の台湾政策はいったいどういうものなのか?

 1972年の中日共同声明では台湾問題について、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し」と明記されている。
 中国側から見れば、近年、日本側は当初の合意を徐々に破棄しようとしているから、両国間の「信用を重んじ合意を守ろう」と、重ねて強調するわけである。
 重要なのは、中日共同声明を全体的に理解すべきである。「十分理解し、尊重し」に続いている、「『ポツダム宣言』第八項に基づく立場を堅持する」を特に見落としてはいけない。「ポツダム宣言」第八項とは何か。それは「『カイロ宣言』ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」ということである。「カイロ宣言」の条項とは何か。それは、「日本国ガ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剝奪スルコト並ニ満州、台湾及澎湖島ノ如キ日本国ガ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」である。
 「ポツダム宣言」および「カイロ宣言」は、日本が一貫して受け入れているものである。
 中日共同声明が発表された後、72年10月28日に大平正芳外相は第70回日本国会での外交演説で、「カイロ宣言、ポツダム宣言の経緯に照らせば、台湾は、これらの両宣言が意図したところに従い中国に返還されるべきものであるというのが、ポツダム宣言を受諾した政府の変わらない見解であります。共同声明に明らかにされておる『ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する』との政府の立場は、このような見解をあらわしたものであります」と台湾問題に対する立場を明確に示した。

日本政府はなぜその立場を今わざと曖昧にしようとするのか?

 台湾問題における日本の立場は、その後の三つの政治文書および日本の指導者の談話の中で何度も再確認され、しかも次第に具体化されてきた。1998年の「中日共同宣言」では、「改めて中国は一つであるとの認識を表明する。日本は、引き続き台湾と民間及び地域的な往来を維持する」とあり、初めて「中国は一つである」と明文化して、日本と台湾との関係を明確に位置づけしている。
 2007年12月28日に、福田康夫首相は北京で温家宝総理との会談で台湾問題での立場をもっと明確に表した。すなわち、「二つの中国」あるいは「一中一台」をやらないこと、「台独」を支持しないこと、台湾の国連加入を支持しないこと、台湾当局の「国連加入公民投票」を支持しないこと。
 しかし、近年、台湾問題における日本の立場は明らかに後退してしまい、「日本は、引き続き台湾と民間及び地域的な往来を維持する」という合意、当初の政策からますますかけ離れている。
 その背景には、まず米国から日増しに強まる戦略縛りによるものがあろう。
 1969年11月に、佐藤栄作首相が米国を訪問した際の佐藤・ニクソン共同声明では、「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとつてきわめて重要な要素である」と述べた。2024年5月28日の台湾『中国時報』によると、この共同声明の裏には、「台湾安保協力」で密約が結ばれているそうである。すなわち、いざ台湾海峡で戦争が起きた場合、日本は、米軍が日本で前方攻撃基地の設立を同意すること、これによって、日本は台湾海峡での戦争から抜けられなくなっている。
 また、日本の一部は米国と協力して台湾問題に介入することを「普通の国」に回帰するチャンスだと捉えていると見える。22年以来、性質の異なるウクライナ問題と台湾問題を混同させて、「台湾有事は日本有事だ」と騒ぎ、地域の緊張を煽り、「南西諸島」の軍事配置を強化し、「軍事要塞」化を推進してきている。
 日本の外から見れば、これらの戦略的な動きと言行は、荒唐無稽で、論理的でない。ただ、「普通の国」化戦略から考えれば、割合理解しやすくなる。
 今、日本の国家戦略は戦後で最も大きな転換期に差し掛かっている。軍事能力の強化はその中の一番肝心なところである。その転換をいかにも筋が通っているように見せるために、外部からの契機を必要としているわけである。

「パンドラの箱」を開けようとしている?

 一部から見れば、日本政府の動きは中国の「非平和的統一」を阻止するための、「抑止戦略」であるかもしれない。だが、中国の立場や戦略文化などを本当に理解している人なら皆わかっているように、このようないわゆる「抑止」は明らかに無効だけではなく、むしろ逆効果である。
 アジア太平洋地域では、戦後ずっと、地域秩序およびその法的根拠について深刻な認識の相違と対立が存在している。日本と米国は「サンフランシスコ平和条約」をもって、中国やソビエト(ロシア)は「カイロ宣言」「ポツダム宣言」をもって地域秩序およびその法的根拠としている。
 中国はその条約にサインしていないし、その法的効力を認めたこともない。当該条約は手続き上対日本戦後処理における各国一致の原則に背き、内容的には「カイロ宣言」「ポツダム宣言」における台湾、琉球等の一連の問題に関する処理政策を変えてしまい、対立矛盾をつくってしまった。
 日本は、もし台湾問題に対する立場を変えてしまうなら、アジア太平洋地域の秩序争いを過激化させてしまうだけではなく、戦後国際秩序観における対立の過激化まで引き起こしかねない。上述上川外相の発言をめぐり、日本側の立場を申し入れたという新聞報道が出た途端に、ロシアのペスコフ大統領報道官は「ロシアは日本の非友好的な態度に対応するため国連憲章第107条(敵国条項)を研究している」と報道陣に述べたという。
 この報道の出たタイミングは偶然だと見えるが、実に意味深いであろう。戦後日本はサンフランシスコ講和を通じて現実利益を獲得したが、より長い目で見れば、それによって失ったものはむしろ多かった。つまり、隣国と民族和解を実現して本当の意味でアジアに回帰し溶け込む歴史的なチャンスを失ってしまったかもしれない。
 数々の試練に直面している中日関係を改善するために、正しい対応方法は戦略対話を行い、誠実なコミュニケーションを通じて相互不信を取り除くべきであって、いわゆる「抑止」を一方的に強化するのは結局通らないものである。

否认“一个中国”立场?日本政府将打开地区对抗的“潘多拉盒子”

(中国社会科学院日本研究所所长 杨伯江