戦後79年 沖縄戦、広島・長崎の原爆
戦争回避・東アジア不戦共同体の実現
青山学院大学名誉教授 羽場 久美子
戦後79年の暑過ぎた夏。沖縄戦、広島・長崎の原爆、終戦の日を迎えるたびに、なぜ政府も、国民も、戦争を止められなかったのか、と深く自問します。さらになによりも、遅過ぎたのが終戦宣言です。なぜすべてを失うまで、戦争をやめることができなかったのか。
イスラエルによるガザのジェノサイド戦争と、沖縄・広島・長崎の民衆の悲劇がダブって見えます。それは始まったら止められない東アジアの戦争の予兆でもあります。
いま防衛費43兆円、「日米2+2」による「専守防衛」の盾から「先制攻撃」の矛へ、核抑止、統合司令部の設置、ミサイル・地下司令部に加えAI(人工知能)兵器の導入などによる戦争準備が着々と進んでいます。
広島の被爆二世として、沖縄をはじめ全土に拡大する危険な戦争準備を止めて平和を守ることはミッションと考えています。
始まったら止められない
第2次大戦で日本は、中国戦線で敗退し、さらに8倍の戦闘能力を持つアメリカに真珠湾攻撃を仕掛け、敗戦しました。いま日本は、5倍のGDP、11倍の人口、7倍の軍事力を持つまでになった中国に向けミサイルを配備し、勝てる見通しもない戦争に突入しようとしています。
歴史にも現実にも何も学んでいません。80年前の戦争末期、停戦遅延の結果、何が起こったか? 意図的に忘れられた事実を掘り起こしてみましょう。
終戦の半年前、1945年2月、停戦を求める「近衛上奏文」が昭和天皇に建言されました。天皇と軍部はこれを却下しました。以後、戦争は急速に残虐の度合いを増し国民の犠牲は極度に拡大しました。
3月26日、米軍が沖縄に上陸、地上戦が始まります。8月15日の終戦宣言後も、沖縄では9月7日まで続きました。また神風特攻隊が編成され、終戦を目前にして10代20代の若者が米艦への突撃と爆死を余儀なくされました。沖縄戦でも凄惨な犠牲が続きました。日本全土への絨毯爆撃、広島・長崎の原爆による何十万人の死者と被爆……。
2月に停戦が実行されていれば起こらなかった国民の残虐な犠牲の数々。国体護持を目指す天皇と軍部の停戦の却下と戦争継続ゆえに、国民の、特に若者の多大な犠牲が、最後の半年間に集中したのです。
同じことがウクライナ、ガザで繰り返されています。国連の8割、153カ国が停戦を何度も決議する中、拒否権を行使し武器を送り続けた米英、今も子どもを殺害し続けているのはイスラエルです。
昨年の広島サミットでは、原爆資料館にバイデンは核のボタンを入れたアタッシェケースを持ったまま入りました。今年広島での核廃絶宣言の日に、ガザで3万9千人超の民間人を殺害し国際刑事裁判所(ICC)からジェノサイド認定を受けたイスラエル代表が参加しました。長崎ではイスラエルを呼ばなかったため、米英など、G7とEUが大使の出席を取り消しました。原爆廃絶と平和祈念の思いを踏みにじる行為です。
停戦によりガザ市民の命の犠牲は止まるにもかかわらず、武器を送り民間の犠牲を拡大しているのは誰か。原爆を落としたのは誰か。
戦争は始まったら止められない。ウクライナ、ガザに続く東アジアの報道のおかしさも認識し、東アジアでは二度と戦争しない、アジアの国々と結び、地域の経済発展と核廃絶を進めることを表明していかねば日本が危ういのです。
戦後80年を前に、東アジアでの戦争の犠牲を二度と国民に強いてはならない。それを実現できる政府を、と誓わなければならないと思います。
ではどうすればよいのか?
台湾問題は中国の国内問題
まず台湾問題は中国の国内問題であると認め、緊張を挑発しないことです。これは日中平和友好条約でも、米中間でも実際には承認済みです。それを国際問題にして煽っているのは、アメリカの戦略であり、これをしっかり分析しなければならないということです。
アメリカは、「一つの中国」を認めているにもかかわらず台湾に武器を送り、人を送って煽っています。なぜならアメリカの世界戦略は、覇権の維持、そのため自国をしのごうとする中国の発展、その力を抑えることにあるからです。
バイデンは就任後の最初のG7サミットで「民主主義対専制主義」を掲げました。中国とロシアを専制主義と位置づけ、これらを封じ込めることをアメリカの最大の世界戦略にしています。今秋の大統領選挙でトランプ、ハリスどちらが勝とうとも、中国封じ込めと弱体化の戦略は変わらないと思っています。中国を抑えることは、アメリカの国益だからです。
米国の戦略は日中分断
アメリカがたくらむ東アジアの緊張と戦争を阻止するために、日本は米英の「漁夫の利」戦略、つまり自らは戦争せずに武器を送って近隣国同士を戦争させるという戦略から抜けるべきです。犠牲になるのは日本国民だからです。
そのためには日本政府を東アジアで戦争をしない政権へと変えていかなければならない。総裁選でも、近く行われるであろう総選挙でも、この問題こそが争点とならなくてはならないと考えます。
日中両国国民の友好交流の継続発展が重要です。
日中関係、そして日本とアジアの経済関係はすでに切っても切れない関係に強まっています。
今、日本国民の多くはアジア、中国に対して親近感と愛着と尊敬を抱いていること、経済界においても経団連も中小企業も、中国と結ばなければ日本の発展、回復はないと考えていることを、日本国内そして世界に発信していく必要があります。
第3はウクライナ戦争、ガザ戦争と東アジアの戦争との関係です。関係ないと思っておられる方も多いかもしれませんが、21世紀は戦争の時代、各地域で戦争が勃発しています。
これもアメリカの戦略です。ウクライナ戦争、ガザ戦争は東アジアの戦争と直結しており、アメリカはウクライナやイスラエルに武器や弾薬、パトリオットなどを送り続けて戦争を煽っています。
東アジアを戦場にしてはならない
世界戦略の観点からすると、沖縄、台湾で始まった戦争は、日本全土、東アジア全土に広がる可能性があります。
ミサイルと司令塔は、今や沖縄だけではなく、大分、青森、北海道など全国に配備され始めているからです。青森、北海道のミサイルは中国に向けてではありません。ロシアに向かっています。「ロシア、北朝鮮、中国に向けてミサイルを配備している日本は怖くないか」と中国の記者団が私に質問しました。われわれは戦争を阻止すること、そして戦争が起こったときどうするかということを、本気で考えていかなければなりません。
東アジアの戦争はAI戦争となります。AI兵器はすでにウクライナでもガザで使われています。イスラエルに行ったパランティア・テクノロジーズというアメリカのAI企業の幹部が「東アジアの戦争は巨大なものになる、AI兵器を使わないとやっていけない」と言っています。
日本が、中国やアジア周辺隣国と手を結べば、東アジアと国民の平和を必ず実現できます。力を合わせ、日中不再戦、ガザ、ウクライナの戦争を止め、平和をつくっていきましょう。