食料自給の確立をめざして

農業の衰退を食い止めるための手だて

JA常陸組合長 秋山 豊

 編集部は、北海道、鹿児島県に次ぐ農業生産県である茨城県の主力JA(農業協同組合)であるJA常陸の秋山豊組合長に、農業の現状と課題、改定農業基本法について、熱心に取り組まれているオーガニック給食支援などについて伺った。(見出しとも文責編集部)

 とにかく現場の農業の衰退が激しいんです。
 水田農業で言いますと、例えば私の集落は水田40‌haですが、その7割くらいが受託で4人の担い手がやっています。残り3割は高齢者とか兼業農家がやっています。基盤整備を今からやるんですけど「担い手」は60~67歳、規模拡大しているんですけど、彼らが今後の農業生産を維持していけるかは疑問です。集団化や法人化をやるにも年齢的に時間がない。
 そこで、農協が出資して、子会社をつくり、施設もつくってやっています。しかし、人を雇った瞬間に経営は大変になります。昨年の肥料高、人件費アップで最もダメージを受けたのはJAの子会社です。田んぼを260haも受託していますが、分散しており肥料だって化成肥料で効率的に機械でやらないとできない。
 家族経営の方は、安い鶏糞なんかを買ってきて手で撒く、節約できるんです。除草剤だって節約して量を減らし補完で手で取る。1~2haぐらいだったら何とかコストダウンできるんです。
 ところが大規模だと、化成肥料や除草剤を大量に買って機械で撒かないと間に合わないですから。高速のトラクターでやる。
 そしたら去年、うちの子会社、赤字になっちゃったんですよ。生産資材、労賃が上がったときは、家族経営のほうが対応力はずっとある。

メガファームは解決策か

 個人で大規模化しようとすると、どうしても過剰投資になってしまう。農業機械、きりがないですから。米価が下がったり、肥料などが上がったりすれば返済できなくなる。
 農水省が推奨した100ha以上のメガファームがいくつかありますが、意外ともろい。今後はメガファームが日本農業の8割を担うという計画を見たが、経営環境の変化に対応できるのか、どうも実感がありません。
 いろんなサポートを国はすると言うけれど、やっぱりこの経済の中で、規模を拡大して、労働者を雇い、安定して利益を上げていくのは農業では難しいですよ。特に土地利用型の水田や酪農では。
 トマトなどのハウス型は、回転が速い。小松菜、水菜、ホウレンソウなどは年3回栽培する。小松菜の売値が安いとなると、次の野菜にさっさと切り替える。最近はコンピューター管理になっている。
 ところが土地利用型のメガファームは、回転が遅くこの気候変動とか、肥料や燃料代の高騰に対応力がきわめて弱いですね。
 去年は高温と水不足で、うちも一等米比率が8割から5割へ、高温障害です。
 家族経営の農家は土づくりとかけ流しの水管理で乗り切ろうとしてますが、大規模は特に水管理が追いつかない。

スマート農業に期待するが

 スマート農業といっても、機械が高すぎますよ。ドローンにしても、普及台数が少ないから高くて、補助金の補助率を上げてもらわないと。高齢化で今後はスマートも含めて機械化に期待せざるを得ないです。残った若い衆が、植えつけでも脱穀でも収穫でも大型機械に頼らざるを得なくなっている。安価で、省力化できるものを期待しています。
 サツマイモの斜め植えがロボットじゃできなくて手植えなんです。これがものすごく労力がかかって、労働力不足。白菜の斜め切り収穫も同じで機械化できない。栗でも手間がかかるのは栗拾いなんですよ。自動収穫の機械を農協で思い切って買ったんですが、5割ぐらいしか拾わない。結局、二度手間になる。現場でのスマート化は国やメーカーから見落とされているものが多いです。

改正農業基本法について

 日本の食料、肥料、種子を外国に委ねるということで、日本の農民は古代生物のように地下に眠ってください、必要になったらお呼びしますから、という印象ですね。前の基本法で、自給率や自給力の目標を立てましたが見事に失敗した。農水省は、また失敗しそうなので食料自給率目標の明記を避けたんじゃないかな。
 それだけでなく最近思っているのは、すでに国会の専門委員会の審議にかかっている昆虫食とか石油をバクテリア分解する人工タンパク質のような人工食の問題です。
 大手資本が大学とタイアップして研究開発を進め特許を取って人工肉を作り販売する。昆虫食も含めて金儲けには最高なんですよ。だから日本の米とか大豆、麦はほったらかしにして、自給率10%ぐらいにしても平気。コオロギ入りの固形化食品や石油由来の豚肉、牛肉を出して、「これを食べるのがいちばんバランスがいいんですよ」と宣伝すればぼろ儲けでしょう。食料が財界や外国資本の金儲けの対象として動いている。

いちばんの不安は
コメ備蓄がないこと

 今回の基本法改正で国民の期待が強かったのは食料安全保障でした。私はその本命の対策はコメの備蓄制度だと思っていました。日本農業の基盤、食料の基盤はコメ作りです。
 使い道は主食だけでない。いい製粉機を使えば米粉でいいパンも作れます。畜産の飼料としてエサ米を2割くらい混ぜる。他方、余力のある酪農で脱脂粉乳を保管したんぱく質を取る。モミ米と脱脂粉乳の在庫で災害時、紛争時に備えるべきです。
 供給困難時の供出法はできるけど生産増までの1~2年をしのぐ備蓄が足りない。国民の期待は食料安全保障だと議論しているとき、備蓄拡充論抜きに何が安全保障だと言いたい。防衛省や総務省の予算で備蓄を確保してほしい。

コメの価格が高騰し始めて

 農水省の方が現地に来た時、今年は備蓄を放出してはどうか、政府米100万トンの備蓄は機能していないのでは、と発言しました。しかし返事はない。
 今の制度は、玄米で20万トンずつ5年間、回転備蓄する。5年たったら玄米は酸化してボロボロになりますから、エサ米にしかならない。ということは食用米にならないわけで備蓄の意味がない。
 民間備蓄、市場で200万トンあると言っても、不作だと売り惜しみ、買い占めが出る。平成の大凶作の年に「反社勢力」が資金を入れコメを買い占めた。60キロ2万5千円とか、最高3万2千円までいった。民間備蓄米は株価みたいにあてにならない。
 頼りになるのは政府備蓄米100万トンですが、今年のような不足時に市場に出せないとしたら、在庫なしで対応しているようなものです。
 今年も去年のように高温干ばつ、豪雨が来て、一等米が5割なんてことになれば、煎餅屋さんは倒産するし、米価が2万円を超せば大変な問題になります。高値になれば農家はその年、1年はいいんですが、米価が上がれば必ず反動でコメ離れが加速する。うどん、ラーメン、パスタに行っちゃうんですよ。冷凍食、下手したら人工食でいいやとなっちゃうんですよ。そういう気がしてしょうがない。

オーガニック学校給食を支援する

 昔、小学校3、4年のころ、学校給食が嫌いでね、カサカサのパンと脱脂粉乳でした。後で聞いたらアメリカの過剰小麦を無理やり買わされたとか、意図的な洋食化とか。
 今の給食は昔と全然違う。食味もいいし、食育もやっている。特にオーガニック給食をやっているところは精米10キロ7000円(直送でコストは変わらない)のコメを使っている。
 子どもの現状と教育を考えると日本の将来が危うい。そもそも子どもがいなくなってきた。少人数で刺激もない、中学の部活も成り立たなくなる。国にも教育重視の思想がない。若者が恋愛し結ばれ子どもをつくろうとする社会。子を育て、将来、世界とも調和できて、自然も守るし、家族も守るような、そういう人間に育てようっていう考え方がない。経済優先から人間優先への転換が必要だ。
 オーガニックの学校給食は、常陸大宮市でなんとか成功させたいと思っています。
 けっこう困難な問題があるんです。有機食材の生産・供給です。コメは今年で50%、来年で100%実現の見通し。さらに野菜と卵と肉とだんだん拡張していかなくちゃなんないんです。市長は牛乳もやってくれと。市営の牧場があるんですよ。1‌haの牧草で乳牛が1頭飼える。15頭だと15‌haで、2700人の子どもの牛乳を賄えるかどうか。市長は豆乳でもいいと言っています。それで有機大豆を昨年60aやりましたが、高温で失敗しました。有機大豆を搾って豆乳を確保して、その残ったカスを畜産のエサにする。量が足りないので市内の食物残渣を選別して畜産のエサにするエコフィードまで行けば到達点に近い。
 昭和30年代まで、日本はほとんど有機農業だった。これ以上自然環境を壊すと国民に必要な食料供給もできなくなります。国は当てにならないので、地方の人間で「自然と調和した循環型の社会」を目指そうと思います。そういう意味で、オーガニック給食の実現は第一歩なのです。