米国は「台湾カード」で中国を挑発し中国脅威論の国際世論形成を策動
軍事要塞化――南西諸島から九州・日本全体に
軍事ジャーナリスト 小西 誠
日本を覆い尽くすような歴史的大軍拡が急速に始まっている今日、自衛隊の深刻な不祥事が次々に噴出し始めた。これは必然的な「戦争の宿痾」か!
海自・潜水艦隊で起きた川崎重工との金銭癒着は、三菱重工にまで広がりつつある。「特定秘密」不正取り扱いは、海自から空自や統幕、内局に拡大。さらに海自隊員の潜水手当の数千万円の不正受給、防衛省内局のパワハラ等も多数が明るみなった。
7月12日、防衛省は、海幕長ら218人の処分を行った。だがこの処分は起こった事態の一部に過ぎない。最大の問題は、海自・潜水艦隊員多数の十数億円という収賄事件だ(特別監察中)。
この不祥事の原因は明らかだ。2022年安保関連3文書策定による防衛費の2倍化という天井知らずの拡大、それに伴う防衛利権をもつ軍需企業の一挙拡大である。日本の戦争態勢が急ピッチで進行する中、必然的に腐敗が生じつつあるのだ。
進行しつつある戦争態勢は、どのようなものか。これは軍拡一般ではない。明らかに、対中国戦争態勢づくりであり、そのための琉球列島(第1列島線)のミサイル基地化、攻撃基地化だ。これがここ数年、メディアの報道規制下に本格化しつつある。
要塞化された琉球列島の島々
16年3月基地開設の与那国島は、陸自沿岸監視隊に加え、電子戦隊(23年末約70人)、空自移動警戒隊(22年末約20人)が配備、これに加え陸自地対空ミサイル部隊配備が決定(400人以上へ増強)、与那国空港の拡張も予定されている。また、琉球列島最大級の湿地帯・樽舞湿原には、約1・2キロにも及ぶ軍港建設を発表。この急激に進む島の軍事化に、従来自衛隊配備に賛成してきた住民多数からも反対の声が噴出し始めた。
23年3月開設の地対艦・空ミサイル部隊を軸とする石垣駐屯地では、駐屯地の相当部分が未建設にもかかわらず、駐屯地西の民間用地に米軍との共同演習場を建設する計画が発表された。この間、米海兵隊と陸自の共同演習「レゾリュート・ドラゴン」などでも、石垣島は米軍との共同演習の拠点化し始めた。安保関連3文書では、沖縄島の陸自師団昇格、司令部の地下化とともに、石垣駐屯地司令部の地下化が決定、石垣島の南西シフト下の日米軍事拠点化が明確になりつつある。
19年3月開設の宮古島駐屯地では、翌年地対艦・空ミサイル部隊が配備、21年には保良地区にミサイル弾薬庫を増設。また新たに電子戦部隊配備が決定。宮古島と伊良部大橋でつながる下地島空港は、3千メートル滑走路を有する空港として「特定重要拠点空港」指定が発表されている。
24年3月開設の沖縄島・陸自勝連分屯地には、地対艦ミサイル中隊が配備、琉球列島全体の地対艦ミサイル部隊を指揮する第7ミサイル連隊が新編された。
そして、宮古島と同年開設の奄美大島では、北部大熊地区に地対空ミサイル部隊、南部瀬戸内町に地対艦ミサイル部隊等が配備され、さらに陸自電子戦部隊、空自通信基地、移動警戒隊配備も決定。
また、奄美大島北の馬毛島(種子島)は、自衛隊の航空・海上拠点として、23年1月に着工、4年後の完成を目指し、急ピッチで大工事を行われている。馬毛島は、メディアでは米軍のFCLP基地(空母離着陸)として意図的に誤った宣伝がなされているが、主には南西シフトの自衛隊の訓練・機動展開拠点―全自衛隊初の統合基地として建設が進められている。
九州・西日本へ広がる
軍事化の波
琉球列島のミサイル基地をはじめ、増強される沖縄島の師団を指揮するのは、陸自西部方面隊だ。従来、九州の部隊は、南西シフトの前線作戦司令部とされてきた。
だが、ここにきて陸自は、九州に長射程ミサイル部隊配備を決定。24年3月、大分・湯布院駐屯地に第8地対艦ミサイル連隊の新編発表(24年度内)。同時に湯布院に第2特科団を急遽、新編した。第2特科団は、文字通り琉球列島―九州の地対艦ミサイル部隊全てを統括し、一元的に指揮する部隊だ。
唯一、北海道配備の特科団を九州に新編したのは、地対艦ミサイルの長射程化に伴う、作戦の大変化である。つまり、地対艦ミサイルの1千キロ以上の長射程化、さらには数千キロ射程の極超音速ミサイル等の配備態勢づくりだ。湯布院から上海まで約900キロ、台湾まで約1300キロで、極超音速ミサイル等の九州配備によって、まさに九州も対中国戦争の攻撃基地になりつつある。
九州の攻撃基地化に伴い、他方で九州全体の軍事化・兵站化が一挙に進み始めた。安保3文書で決定した弾薬大量備蓄だ。23年11月、陸自大分分屯地では、2棟の大型弾薬庫建設が着工。そして12月、住民説明会を完全に無視し、さらに7棟の追加増設が決定。防衛省は、全国130棟の弾薬庫増設を発表したが、大型弾薬庫増設は、湯布院に配備する第8ミサイル連隊、第2特科団新編と一体化したものだ。
九州では、この他日米共同基地として空自築城基地、同新田原基地の滑走路延長、米軍弾薬庫の増設が進んでいる。新田原基地は、新たにF-35B基地として同機の40機配備が予定され、九州の攻撃基地化が急速に進行している。
さらに九州では昨年から、水陸機動団のオスプレイ基地として佐賀空港での新設工事が始まり、水陸機動団の1個連隊増強(3個連隊に)が始まっている。
加えて九州では、大分・鹿児島・宮崎空港、博多港・熊本港・高知港・高松港など港湾などの軍民共用が計画されているが、これも南西シフトの一環としての軍事化である。
「特定重要拠点空港・
港湾」による民間空港・
港湾の軍事化
23年8月、政府は「特定重要拠点空港・港湾」を決定(上図参照)。「総合的な防衛体制の強化に資する取組について」という文書である。しかし政府は、1年もたたぬうちにこれを言い換え始めた。重要拠点を削除し「特定利用空港・港湾」、「空港等のデュアルユース(軍民両用)」を「民生利用」と。卑劣極まりない。
政府が「軍民両用」を隠すのは、発表以来、沖縄を中心に全国に反対が広がったからだ。政府は、24年度予算に必要経費として10道県33カ所の民間空港・港湾を指定(14空港・19港湾)したが、そのうち16施設が琉球列島、九州、四国だ。なおこの指定について実際の施設数を政府は公表しておらず、マスコミによっては40施設と報じている。
いずれの報道でも、指定空港は、与那国、新石垣、宮古、下地島、那覇、鹿児島、宮崎、高知などがリストに入り、台湾有事の際、自衛隊部隊が展開、補給拠点として使用するとしている。
さらに与那国には、護衛艦などが接岸可能な新港を造り、石垣港、宮古島平良港、那覇港、熊本港、博多港、高松港、敦賀港、室蘭港、苫小牧港などについては、岸壁を改修し護衛艦の接岸に備えるとしている。
重要なのは、民間空港・港湾の使用目的について、先の閣議決定は有事には「航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開」と露骨に記していることだ。
つまり、デュアルユースという名目の軍民共用の目的は、自衛隊が琉球列島・西日本の民間空港・港湾を、平時から演習などで活用するだけでなく、戦時には制海・制空権を確保し施設を軍管理下に置くということだ。そして戦時において、陸自全師団の南西諸島への動員、機動展開のために空港・港湾を確保するということである。
なおこの閣議決定は、22年12月「国家防衛戦略」(NDS)に基づく。この文書では、閣議決定とほぼ同文の海上優勢・航空優勢などが謳われている。
自衛隊の南西シフトは、従来、琉球列島のミサイル基地化を軸に進められてきたが、今や新たな、本格的な戦争態勢構築に移行しつつある。本土から南西諸島への全自衛隊の大動員(全師団等の機動展開)、弾薬など継戦能力・兵站の強化、司令部等の地下化、この上に琉球列島・西日本の主要な民間空港・港湾の軍民共用化が決定。つまり、台湾有事のために、沖縄から九州―日本全土への戦時態勢づくりが、文字通り実戦を想定しながら本格化し始めたのだ。
この閣議決定直後の23年11月、自衛隊統合演習では、琉球列島から九州・岡山に至り民間空港を使用した戦闘機のタッチ・アンド・ゴーが行われた。徳之島、奄美、大分、岡山空港では、民間空港に突然戦闘機が現れ、轟音を立てて離着陸を繰り返し、地元では驚きの声が広がった。民間空港での大演習は、地元では大きく報じられ、反対運動も起きているが、全国紙は全く報じていない。
台湾有事とは何か?
日本版NDSが発表される2カ月前の10月、米国は国家防衛戦略(NDS)を発表。NDSの核心は、中国を「最も重要な戦略的競争相手」とし、ロシアよりも優先課題と位置付けたことだ。「米国の安全保障に対する最も包括的で深刻な挑戦は……中国の強圧的でますます攻撃的になる努力である」と。
日本版NDSでも同様の文言を明記したが、日米の公式文書として新冷戦の宣言だ。このNDSによる日米の政治目的は何か。これは中国のアジア太平洋の覇権阻止であり、政治目標は、中国共産党政権の瓦解、軍事目標は、中国海軍の壊滅(海洋限定戦争)だ。この歴史的現実性は、旧ソ連を軍拡競争で崩壊させた冷戦戦略が証明する。
つまり、日米の台湾有事論は、中国との軍拡競争が主目的だ。だが、この対中緊張政策は、いずれ米日中の軍事衝突へ行き着く。米国は、そのために「台湾カード」で中国を挑発し追い込み、中国脅威論という国際世論を形成しようとしている。対して中国は「尖閣カード」で日本を牽制し、日米は「南中国海カード」=「航行の自由作戦」を常態化し、中国を封じ込めようとしている。
この瀬戸際政策では、軍事衝突は南中国海・東中国海か、台湾海峡か、あるいは尖閣か、どこからでも起こり得る。まさに戦争が唸りをあげ近づきつつある。
重要なのは、日米の南西シフトが、「海洋限定」戦争を想定することをリアルに認識することだ。事態は、まずは小衝突・局地戦として始まる。つまり戦争の敷居は低い。中国との戦争は核戦争になる(世界絶滅)、中国とは経済的相互依存関係にあるから(世界恐慌)、戦争などはあり得ない、というのは現代戦争生起のリアリティーを見ていない。ウクライナ戦争に見るように、現代戦は小衝突、局地戦、限定戦争として勃発する。
だがこの戦争が局地戦として限定されることはない。中長期的には、琉球列島から日本全国―アジア太平洋全域を巻き込む戦争へと行き着く。だからこそ、この戦争を止めるためには、今進行する琉球列島の軍事化を正確に見据えることが重要だ。そして重要なのが、1978年の日中平和友好条約に基づく平和外交の強化である。両国は、この条約によって不戦を誓い、再び戦火を交えないことを宣言した。今なら、まだこの戦争は、止められる!
(こにし・まこと 最新の著作は『ミサイル攻撃基地と化す琉球列島』『最新データ&情報2024 日米の南西シフト』=社会批評社刊など)