6/13 食料自給の確立を求める自治体議員連盟 学習講演会

基本法改定後の食料自給確立の方向を探る

食料自給の確立を求める自治体議員連盟事務局

 食料自給の確立を求める自治体議員連盟は6月13日、顧問を務めてもらっている鈴木宣弘東京大学教授を講師にオンライン学習講演会を開催した。食料・農業・農村基本法改定が成立したのを受けて、今後の方向を探り、運動を共有するためだった。折から地方議会6月定例会の最中だったが、賛同会員議員50人弱が参加した。近く改めてオンライン会議を開催し、方向を定め、議員連盟の運営体制なども整備し、運動を強化することを確認した。

鈴木宣弘先生「食料・農業・農村基本法改定の問題点と今後の課題」

 食料・農業・農村の「憲法」たる基本法が25年ぶりに改定された意義は、世界的な食料需給情勢の悪化と国内農業の疲弊を踏まえ、不測の事態にも国民の命を守れるように国内生産への支援を早急に強化し、食料安全保障の確立へ食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すことだと、誰もが期待した。
 ところが改正原案には食料自給率という言葉すらなかった。与党の要請で「食料自給率向上」という文言は加わった。
自給率の意味が理解されて
いるか
 3月21日の皆さん方「議員連盟」の要請行動で、農水省の代表は「自給率という『一本足打法』ではだめだ」と発言。食料自給率を重要な指標にすることは間違いで、その根拠は、農地や労働力や肥料などの生産要素・資材の確保状況などが、食料自給率とは別の指標として必要だと説明した。
 この見解は間違いである。農地や肥料などの生産要素・資材と食料自給率は一体的な指標だ。生産要素・資材がなかったら生産ができないから、食料自給率はゼロになる。今も、飼料の自給率が勘案されて38%という食料自給率が計算されている。ほぼ100%輸入に頼っている化学肥料を考慮すると実質自給率は22%、さらに野菜やコメなどの種子の自給率も入れると実質自給率は9・2%という計算になる。
 つまり農地や肥料や種などの生産要素・資材の確保状況が、食料自給率の構成要素であることが理解されていない。戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物を受け入れて食料自給率を下げていくレールに乗せられたわが国は、これまでも「基本計画」に基づき自給率目標を5年ごとに定めても、その実現のための工程表も予算も一度も付いたことがなかった。
 今回、少なくとも年1回、自給率目標などの達成の進捗状況を公表することが追加されたのは一定の前進だが、食料自給率向上の必要性とその具体的な施策の方向性についての言及はないままであり、自給率低下を容認する内容と言える。
政策が十分ならなぜ農村現場が苦しんでいるのか
 そして、議員連盟の皆さんが提起した窮地にある農村現場を助け自給率を向上させるための政策(要請項目)に対して、農水省代表は、現状の施策で十分だ、新たな施策は必要ないと説明した。
 しかし、現行の政策でも農業の疲弊が加速しているのはどう説明するのか。政策が不十分だから農業危機に陥っているのは明白で、だから抜本的な政策が求められていたのではないか。
 現状の政策であるナラシ(コメなどの収入変動緩和対策のナラシ政策)も収入保険も過去の価格・売り上げの平均より減った分の一部を補塡するだけなので、農家にとって必要な所得水準が確保されるセーフティーネットではないし、コスト上昇は考慮されないから今回のようなコスト高にはまったく役に立たない。中山間地・多面的機能支払いはよい仕組みだが、集団活動への支援が主で個別経営の所得補塡機能は十分ではない――これが現場の切実な声だ。
「食料有事」立法だけ強化
 今苦しむ農家を支える政策は提示されないまま、一方で、有事になったら慌ててカロリーを取りやすい作物への転換、増産命令と供出を義務付け、増産計画を示さないと罰金を科すような有事立法(食料供給困難事態対策法)だけは強化した。
 普段から食料自給率を高め、備蓄しておくことが食料安全保障だ。それをせずに罰金を科しても作物転換を強制する発想は農村現場としても受け入れられるものではない。
 中国は今、有事に備えて14億の人口が1年半食べられるだけの穀物を備蓄すると世界中から買い占め始めた。片や日本の備蓄は、コメを中心にせいぜい1・5カ月。全くレベルが違う。
 日本はコメの生産力も十分あるんだからもうちょっと増産して備蓄すればいいはずだ。そうすればみんなが困ったときに食料を国内でちゃんと確保することができる。コメは今800万トン弱しか作っていないが、日本の水田をフル活用すれば1200万トン作れる。そうすれば1年半とは言わなくても日本人がしっかりとしばらく食べられるだけの備蓄をコメ中心にできる。
水田維持が食料安全保障の要
 ところが水田の畑作化推進が打ち出された。麦や大豆の増産も重要であるが、加工用米や飼料米も含めて、水田を水田として維持することが、有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティー、伝統文化の維持、洪水防止機能などの大きな多面的機能もある。
 政府がめざした価格転嫁は挫折した。なぜならコスト高で赤字の農家も、他方で消費者負担も限界である。それを埋めるのが国の役割と思うが、それはやらずに、民間に委ねようとする姿勢では無理である。欧米は「価格支持+直接支払い」を堅持しているのに、日本だけ「丸裸」だ。欧米並みの直接支払いによる所得維持と政府買い上げによる需要創出政策を早急に導入すべきではないか。
 日本の農家1戸当たりの直接支払額は欧米の半分程度だ。農家1人当たりの農業予算は米国の1/10、ヨーロッパの1/2~1/3、農家1戸当たりでは、米国の1/5、ヨーロッパの1/2~1/3しかない(篠原孝議員事務所)。
 「そんなカネがどこにある」と財務省が言えばおしまいだが、よく考えてほしい。トマホークなどを買うのに43兆円も使うお金があるというなら、まず命を守る食料を国内で確保するために、仮に何兆円使ってでもそっちの方が先だ。命を守る予算は捻出しなくてはならないのである。
種子自給の重要性の認識欠如
 種の問題も深刻だ。日本の野菜の自給率は80%と言われるが、その種の9割が海外の畑で種取りをしている。酪農などの牧草の種も同様の状況だ。種子が止まったら自給率はさらに落ち込む。
 だから、自分たちの大事な種を国内で循環させる仕組みをきちんとつくらなければ、日本はもたない。食料は命の源だが、その源は種だ。
 輸入が止まったときに命を守れないという計り知れないコストを勘案したら、国内生産のコストが少々高くとも食料や種は国内で自給することこそが安全保障で、長期的・総合的には安心で一番安い。
 中国の野菜の種が90%以上輸入だということに愕然とした習近平国家主席は国民に檄を飛ばした。「種はわが国の食料安全保障のカギだ。自分の手で種を握ってこそ、中国の食料事情を安定させることができる」「中国の国家戦略としてすべてを国内で完結させ、国際情勢に左右されない国づくりを目指す」と。これこそが真っ当な思考だ。
 また、基本法改定に先んじて、有機農業の大幅なシェア拡大(0・6%→25%、面積で100万㏊へ)を進めるという画期的な大方針が「みどり戦略」で今後の日本農業の方向性として出された。しかし、基本法改定においては、有機農業という文言がどこにもなく、みどり戦略との整合性が大きく問われる。
規模拡大、輸出、スマート農業―農家がつぶれることを前提にした議論
 農家の平均年齢が68・7歳という数字は、あと10年したら、日本の農業・農村が崩壊しかねない、ということを示している。今、コスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。
 しかし基本法の方向である規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業。さらに海外農業生産投資、企業の農業参入条件の緩和の政策が、どれだけ農家の支援につながるのか。
 農業就業人口が減る、つまり、農家がつぶれていくから、一部の企業などに任せていくしかないような議論は、そもそもの前提が根本的に間違っている。頑張っている農家がつぶれないように支える政策を強化することが不可欠で、そうすれば事態は変えられるのに、それを放棄した暴論である。
 最終的には、多様な農業者に配慮する文言は追加されたが、効率的かつ安定的な農業経営に対しては「施策を講じる」とする一方で、多様な農業者については「配慮する」という表現で施策の対象ではないと位置付けている。
 一部の大規模・企業的経営という効率的経営では、農村現場は崩壊する。定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティーが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持されることが求められている。短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。

食料自給の確立(国消
国産)が急がれる

 改定基本法は成立したが、輸入途絶リスクは一段と高まり、「国民が必要とし消費する食料はできるだけ国内で生産すること」(国消国産)が今こそ重要になっている。
 まずは、コスト高で疲弊が強まる農村現場を支え、早急に食料自給率を高める政策が必要である。
 本来、関連法の一番に追加されるべきは、現在、農村現場で苦闘している農業の多様な担い手を支えて自給率向上を実現するための直接支払いなどの拡充を図る法案ではないか。生産コスト高に対応した総合政策がないから農家の廃業が止まらないという政策の欠陥を直視すべきだ。
 今、議員立法で、国内農業支援を実現できないかという動きがある。協同組合振興研究議員連盟(森山裕会長、小山展弘事務局長)の動きである。3つの柱を盛り込んだ概要をつくっている。
所得補償制度が鍵
 その柱は、①農地が維持されることによる安全保障や多面的機能の発揮への面積当たりの基礎支払い。②生産コストと販売価格の差額を補塡する。当面は水田と酪農で、水田は面積当たり、酪農は乳牛1頭当たりで補塡する仕組み。③需給調整機能を国が持つ。米を中心に一定価格で国が買い取り備蓄および内外の援助として使う。今回のように米が不足すれば在庫を放出する――など。
 先日、日本農業新聞大会が行われ各党の先生があいさつされた。自民党の石破茂先生が、「今の農業の疲弊を放置してはいかん。赤字を補償する所得補償制度を入れるべきだ。財政出動で生産者のコストを補塡して、消費者の皆さんは価格が上がらなくて安く買える。そうすれば生産者と消費者がともにプラスになる」と言われた。実は石破先生が農水大臣の時、直接お話をしたことがあり、アメリカ型の不足払い制度を検討されていた。
 予算拡充で農業・農村は大きく「復活」し、日本の地域経済に好循環が生まれる。
農業の疲弊は国全体の
命の問題だ
 このままだと日本の豊かな農村コミュニティーは崩壊するままに放置され、都市部が過密化し、国民はいざというときに食べる物がなくなる。農業の疲弊は農家の問題をはるかに超えて、消費者、国民全体の命の問題だと認識する必要がある。
 防衛費に毎年10兆円規模の予算が確保されているのに対して、農水予算が2兆円程度で頭打ちにされているのは大きくバランスを欠いている。もともと、農水予算(物価を考慮した実質額)は5兆円以上あった。以前に戻すだけだ。関連法に代替する超党派の議員立法でこれらを実現する検討も進行中である。「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」の活動にも期待したい。
 財源がないからできないというのはおかしい。必要なら財源は確保するのが筋である。いざというときに国民の命を守るのを「国防」というなら、食料・農業・農村を守ることこそが一番の国防だ。
 今こそ、農林水産省予算の枠を超えて、安全保障予算という大枠で捉え、国民の食料と農業・農村を守るために抜本的な政策と予算が不可欠である。農業・農村のおかげで国民の命が守られていることを今こそ認識しないと手遅れになる。今が正念場だ。今後の議論に期待したい。
茨城県では県条例で
食料安全保障推進
 茨城県では県会議員の皆さんが主導して、「茨城県食と農を守るための条例」という食料安全保障推進条例に近いような条例を成立させた。山梨県でも同様の動きがあるようだ。
 自治体レベルで農業支援の政策導入、国を動かすための誘導戦略。以前これをやられたのは新潟県の泉田知事だ。国のコメ政策は不十分であると新潟県として800万円の稲作所得が得られるように、その差額を補塡するという仕組みを進めた。
 こうした自治体レベルの取り組みが大事で、皆さんの自治体議員連盟に期待する。

自治体で何ができるか、しなくてはならないか

 鈴木先生の提起を受けて、北口雄幸議員連盟発起人(北海道議)の司会で質疑、討論が行われ、これからについて活発な意見が出された。
 「手を打たなければ農業者は減少、農業資材関係者もつぶれていく。そうさせないためにも国はきちんとすべきだし、自治体でもやるべきことを提案していきたい。県のモデルを全国に広げていきたいと思っている」(熊本)、「もうどうやって闘うかしかないと思う。こうなったああなったと話をしていてもしょうがない。地域でできることを頑張りたい」(長野)、「基本法の見直しに伴って、基本計画が作られる。自治体議会として基本計画に対する意見書を国に上げるというのも一つの方法ではないか」(北海道)、「森林環境税などは人頭税のような形で1人当たり1000円徴収される。これは目的税なのに森林がない大都市ばかりに配分されている。この配分の是正も必要だ」(福岡)、「正直、政権交代しかないと思う。しかし、政権交代をしたからといって、例えば立憲がもし取ったとしたらアメリカに対抗できるのかというと心もとない。それでもやはり政権交代の機運が高まっている」(兵庫)、「国会の議員への提言というか呼びかけもやるべきだ」(山口)
 こうした意見を踏まえて、北口発起人は次のように述べて閉会した。
 「今後議員連盟として何をするかについては、まだ十分には議論できなかった。それぞれの自治体でどう具体的に進めるか、検討してほしい。やれることはそれぞれで進めてほしい。今、議会の定例会の時期だが、少し落ち着いた段階で、次の会議をやりたい。今後どうするのか。鈴木先生にもまたアドバイスをいただきながら、また全体会議をやりたいと思います。いかがでしょうか。今日は鈴木先生、いろんなアドバイスをいただきありがとうございました」

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