日中を戦争させる米国の策動

全国に130カ所ものミサイル弾薬庫建設

沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表 具志堅 隆松

 今回、私が本稿で訴えたいことは一言で言えば「日本を戦場にさせない」です。
 私も含め本誌読者の方であればここ数年の日米関係の動向で日本は戦争に向かっているのではないだろうか、という不安を感じていると思いますが、そのおぼろげな不安を生み出している事柄を列挙してみます。

・憲法改悪の動き
・集団的自衛権の行使容認による専守防衛の放棄
・安保関連3文書改定
・「存立危機事態」により他国の戦争に参加
・政府、マスコミによる台湾有事の喧伝
・台湾有事に依拠する日米両軍の中国攻撃訓練の強化(全国の日米両軍基地を使用)
・南西諸島のミサイル基地化(戦争の引き金は自衛隊がミサイルを発射すること)
・長距離射程ミサイルの国産化(中国本土を直接攻撃できる)
・全国130カ所のミサイル弾薬庫の建設(長射程ミサイルの全国配備網、逆に攻撃目標の全国化)
・全国約300の自衛隊基地の司令部機能の地下移動による強靭化(核攻撃にも耐えられる)
・全国の空港、港湾の軍事利用可能化(攻撃目標の全国化)
・土地利用規制法(基地周辺での抗議行動制限)
・重要経済安保情報保護法(実質は旧治安維持法)
 私が思いつくだけでも、これだけありますが、なんといっても極め付きは43兆円もの軍事費予算の決定です。これは国の内外に「日本は本気で戦争の準備をします」と公言したに等しいのです。列挙した各項目の一つ一つが重要でその背景と全体のつながりを考えると、その指し示す方向は戦争になることを示していると思います。
 これらは日本政府による立案政策に見えますが、政府が顔色をうかがい指示を請うている相手は米国です。「日本を戦場にしない」を考えるとき避けて通れないのは米国との関係です。かつて湾岸戦争の時、日本は米国に膨大な戦費協力をしていたにもかかわらず評価されなかった。2001年の9.11同時テロ報復戦争の時、戦闘参加を意味する「ショー・ザ・フラッグ(戦闘現場で日の丸を見せろ)」を当時のアーミテージ国務副長官から詰問され、当時の小泉政権は戦争ができる国への変貌を目指します。そしてその変貌は安倍政権を経て岸田政権へ引き継がれ、さらに戦争できる国づくりが進みました。
 岸田首相は国内では自民党議員の裏金問題で批判が高まっているさなかの4月8日から14日まで、米国から国賓待遇の招待を受け米国議会でも戦争協力を披瀝するありさまでした。首相の心中には戦争になれば国民がどれだけ苦しむのか思い描くことはできないのでしょうか。メディアを通じてウクライナやガザの住民の悲惨な状況が可視化されているにもかかわらず、この時の首相は米国にノーと言えないを通り越して米国の気に入られようと振る舞っているようでした。
 湾岸戦争当時の米国による「ショー・ザ・フラッグ」は、「日本も戦闘現場に出てきて協力しろ」だったのでしょうが、現在の米国の台湾防衛にかこつけた戦争への誘導の意図は、はるかに邪悪なものを感じます。米国は現在、軍事的にも経済的にも世界のナンバーワンです。しかし、近い将来中国にその座を奪われる可能性が指摘されています。現にバイデン大統領は中国を経済力、軍事力、技術力を備えた世界で唯一の競争相手と指摘しています。
 米国の思惑は米国のナンバーワンの地位を脅かすナンバー2の中国にナンバー3の日本をぶつけて戦争させれば、中国も日本もともに国力を消耗してナンバーワンの地位は安泰です。
 ここまでの説明を人に話すとよく次のような質問をされます。「日米安全保障条約は有事の際に米国が日本を守るための条約で、米国が中国から日本を守るのですよね?」
 残念ながら違うと思います。「2015年日米防衛協力のための指針」の中で有事の兆候があれば在日米軍はグアムの東側まで撤収するとなっているそうです。つまり台湾有事から始まる日中戦争で米軍は日本から引き揚げて、自衛隊が戦わなければならないのです。そのため自衛隊の中にはいくつかの新しい米軍海兵隊のような部隊も新設されています。米軍の撤退で言えば、沖縄嘉手納空軍基地に配備されていたF15ジェット戦闘機50機ももう撤退しました。
 沖縄では、これまで家族を伴って赴任していた兵士の家族は沖縄から引き揚げているようです。私も注意して見ていたわけではないですが、考えてみると、これまで沖縄で返還された米軍基地のほとんどが戦闘部隊の基地ではなくハウジングエリアと呼ばれる米軍専用住宅地です。

全国130カ所が最前線の沖縄と同列に

 ひるがえって本土の立場で考えると、沖縄の基地の重圧に対して同情していたのが、戦争の危機という点では最前線の沖縄と同列になってしまったような気がします。
 さらに今、全国に130カ所ものミサイル弾薬庫(一部別表)が建設されるということは、敵からの130カ所の攻撃目標が造られるということです。現代の戦争はミサイル戦です。しかしミサイルの発射基地は造りません。ミサイルを専用の発射車両に載せて移動先で発射するのです。発射したらその場所には敵の反撃ミサイルが飛んでくるので、5分以内にその場所から離脱して別の場所からの発射・移動を繰り返します。
 ミサイル攻撃を受ける敵の立場からすれば、動き回る発射車両を攻撃するよりは固定化されているミサイル弾薬庫を壊滅するのが常道です。全国のミサイル弾薬庫は確実に攻撃目標になります。これから全国に造られる130カ所のミサイル弾薬庫はその地域の人にとっては不安要因です。不安は全国に130カ所もあるのです。
 しかし130もの地域住民が不安解決のため連帯すれば力になります。連帯して不安を抗議へ、抗議を行動へ変えれば国民行動です。政府を動かすこと、戦争を止めることはできます。戦争を止めることは保守・革新も貧富も超えた国民共通の最低限の利益であり権利です。主権は私たち国民にあります。国が決めたことに国民が従わされるのではなく、国民が国の進む方向を決めることができるのです。私たちが主権者です。
 そもそも日本は中国と戦争する必要があるのでしょうか。中国は同じアジア人で古い友人であり、大事な経済パートナーです。今の状況を一言で言えば「米国のために日本が中国と戦争しようとしている」です。米国の国勢を守るために日本の自衛隊員が死ぬ必要はありません。首相が米国にノーと言えないにも程があります。今必要なのは政府の動きを見守るとかでなく、戦争を止めるため私たちが声を上げることです。主権者として。

令和5年度および同6年度予算での火薬庫整備について