新年に際して 髙良 鉄美

沖縄の進路と日本の進路、そして平和憲法

沖縄社会大衆党委員長・参議院議員 髙良 鉄美

国民のくらしと命
 ―軍拡と災害

 2024年の年明けは能登半島地震から始まりました。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたします。また、被災された方々にお見舞い申し上げます。
 夥しい数の家屋の倒壊や道路の寸断、大規模な火事の発生を含む震災の映像に、信じられない、間違いであってほしいとの願いと、13年前の東日本大震災の光景とが脳裏で交差した方も多かったのではないかと思います。

 近年の日本を取り巻く状況について、政府は、二言目には、戦後最も厳しい安全保障環境にあると、国民をあおり、軍拡、軍事強国への道を進み始めています。一方では、災害大国と言われるほどの日本にありながら、世界の見本となるような高度な災害対策と費用を提示・拠出しているわけではなく、対応の不備、遅滞、費用の不足を露呈している状態にあります。
 主権者国民の目にも、戦争のための空港・港湾整備やミサイル基地建設、高価な戦闘機やミサイル、弾薬購入などに予算を倍増させるのではなく、被災者支援を優先する財政編成をすべきだということは、明瞭に映っています。苦難が続く避難所での生活、中学生の共同移住の状態を見るだけで、政府が何を優先すべきか、国民は何を選択すべきか、選択したその先には、どのような未来が待っているのか、正念場を迎える年になりました。まさに日本の進路が問われていると言えます。

ロシアによるウクライナ
軍事侵攻―沖縄の基地強化

 2022年2月にロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まりました。ウクライナでの戦闘はロシアに対する米国の代理戦争の様を呈し、無垢のウクライナの人々が犠牲となっている状態を今も生み出し続けています。
 この状況に対して日本政府のとった行動は、ウクライナとともにありとして、軍事的支援をも行っています。仲介でも、仲裁でも、調停でも、和解でも、考え得る平和的手段を講じるわけではなく、戦争継続のベクトルに向けた外交姿勢をとっています。
 問題はそれだけにとどまるものではありません。対岸の火事ではないとして、以前から防衛の空白地を埋めるとして計画していた宮古、石垣、与那国など、先島地域での自衛隊基地や弾薬庫建設、ミサイル配備、そして、沖縄本島の米軍基地と自衛隊基地の共同使用、ミサイル配備等、沖縄全体、日本全体の軍事基地強化をしたのです。
 22年3月2日の「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」(参議院)に対して、筆者が棄権退場した理由、「この決議の主旨は、むしろ南西諸島の軍事化の口実にすることにある」という危惧した通りに進んでいきました。
 また、沖縄復帰50年の記念すべきその年の暮れには、「平和憲法の下への復帰」をスローガンにしていた沖縄県民の願いを打ち砕くかのように閣議決定された安保3文書によって、名指しをしていない彼岸の国、敵基地攻撃の対象国がどこの国なのか、明らかになりました。

軍拡国会と国際情勢
 ―日本の外交姿勢

 23年の通常国会は安保3文書の実現のための予算審議や防衛費倍増へ向けた「軍拡国会」となりました。異次元の子育て対策は消え、国家予算の立て方が、完全に防衛費を中心に回る考え方へシフトしてしまいました。
 防衛中心の国会運営は、あらゆる関連法案を実質的な強行可決によって成立させていきました。たとえば、途上国を中心とした国々に対してなされるODA(政府開発援助)ならぬOSA(政府安全保障援助)によって、日本国内軍需産業の武器支援供与に関する予算・法案や国内軍需産業へ政府が積極的に発注、購入する軍需産業支援法案、また日米安保条約・地位協定に倣った日豪、日英との軍事協力に関する法案などが、次々と安保3文書の周縁を固めるように可決成立していきました。
 昨年、10月7日にハマスによるイスラエルの奇襲攻撃が行われ、さらに、現在はイスラエルによるジェノサイドと言われるほどの報復攻撃がガザ地区で展開されています。連日子どもを含む多くの犠牲者が出ている悲惨な状況にあることは、国際社会のニュースで周知のとおりです。
 昨年10月以降、国連総会で、人道回廊の設置や「人道的休戦」、人道的停戦、人質の即時無条件の解放、民間人の保護に関する国際法上の義務の順守などを求める決議案が数度にわたって採択されてきました(日本が棄権したものを含む)。しかし、有効な手は打てておらず、今この瞬間も、ガザ地区では犠牲者が増えています(本稿掲載時には2万5千人を超えるのではないかと思われます)。
 世界でも稀な徹底した平和を求める憲法を持つ日本が、決議案の文言に拘泥し、棄権する「普通の国」であっては、世界から信頼される国になりたいという政府のナルシシズム的希望は、実体を伴わない夢と終わってしまいます。最後の世界大戦の戦争責任を自省せず、信頼されていると思い込んでいる国・政府が軍事力・軍事費を倍増させ、力による外交を公言してはばからない姿は、国際社会の目にどう映るのでしょうか。
 ロシア、ウクライナ、イスラエル、パレスチナ、いずれの軍事衝突も突発的に起こったように見えますが、鬱積された歴史があり、そこをきちんと紐解かなければ、解決の道も閉ざされたままになるのは言うまでもありません。日米中の関係においても、歴史的に最も差別を受けてきた国はどこなのか、相互理解を醸成した上で、3国が国際社会における政治経済の大国としての役割、「職分」を果たすことが肝要だと言えます。

沖縄と日本の進路
 ―平和憲法の教示

 沖縄の復帰運動は「平和憲法の下への復帰」がエネルギーでした。「ありったけの地獄」と形容される沖縄戦の後も、実質的な米軍統治による住民自治・自己決定権の大幅な制限、各種の人権侵害や朝鮮戦争、ベトナム戦争への直接的参戦などを受け、憲法の柱である「主権・人権・平和」を求める運動が生成されていくのは自明のことと言ってもよいかもしれません。
 一方、日本の政治は、学界では否定的な「押し付け憲法論」に固執する政党等が幅を利かせながら、9条をターゲットにした改憲の動きを進めています。憲法改正手続法の制定や(国会法改正による)憲法審査会の設置などによって憲法の外堀を埋めてきました。積極的平和主義の曲解や集団的自衛権を認める解釈改憲、安保法制等によって平和憲法を大きく揺るがせています。
 主権者である国民は憲法の内堀です。平和憲法制定の意義は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように」主権在民を宣言しているところにもあります。政府が平和憲法を変質させようと強行していることに対して、今、沖縄は辺野古代執行訴訟をはじめ、民主主義、地方自治など憲法の原理に基づいて抗っています。主権者国民の意思も試されているといっても過言ではありません。今後も「日本国憲法の精神を堅持する」という沖縄社会大衆党の結党理念をしっかり示してまいります。