地域に食料安全保障推進議員連盟をつくり政府を動かす
東京大学大学院教授 鈴木 宣弘
広範な国民連合第25回全国総会(昨年11月20日)で鈴木宣弘東京大学教授は、食料・農業危機打開、食料安全保障確立の政策を提起され、地域に食料安全保障推進議員連盟をつくり、政府を動かす運動を提唱された。統一地方選への重要な問題提起である。(見出しとも文責編集部)
国内農業はコスト高で価格が上がらないから倒産しそうだと言われています。危機に瀕している国内の農業を支える赤字補塡をやらない限り、国民の命を守れないということが政府はなぜ分からないのかと思います。
政府は、農業基本法の見直しもやると言っていますが、自給率より自給力だとか、いざというときには日本中に芋を植えて、それで飢えをしのげば何とかなるというような議論をしてみたり、輸出力の強化だ、デジタル農業で頑張るぞとか、そういう空虚なアドバルーンを揚げたりしています。
アメリカの大学の試算では局地的な核戦争が起きたら、直接的な被爆による死者は2700万人ですが、物流停止で2年後には餓死者が2億5500万人も出る。その約3割、7200万人が日本人という衝撃的な計算が出ています。
私は12年前から、食料とその生産資材の自給率が低い日本はいざというときに命を守れないから、早く対策をしなければいけないと言い続けてきました。「有事」が始まっているとき、日本がどれだけ脆弱な構造の上にあるかは考えてみたら当たり前です。
今農家は、肥料は2倍、餌は2倍、燃料は3割高でコストが上がっているのに、農産物価格は低いままで、本当に倒産の危機にいます。これを皆の力でなんとか支えない限り、日本と地域の未来はないというのが今の状況だと思います。
乳製品と米のミニマム輸入をやめるべき
東北地方では、米の10アール当たり収量は数年前と比べて減っているが、支出は肥料などが上がって1・5倍に増え、数年前はなんとか10アール当たり3万円くらい残せたのが、今は残らず赤字で、ただ働きという状況です。
酪農畜産は7重苦(生産資材暴騰、農産物販売価格の低迷、副産物収入の激減、強制的な減産要請、乳製品在庫処理の多額の農家負担金、大量の乳製品輸入、他国で当たり前の政策が発動されない)とも言われる困難を抱え、深刻な事態が進んでいます。本当は今しっかり増産して危機に備えなければいけないときに「搾るな、牛殺せ」という異常事態です。しかも、乳製品在庫の処理を酪農家になんと牛乳1キロ当たり、去年でも2円、今年は2円70銭も負担させて、北海道だけで去年で100億円、今やむなく廃業するかもしれないという農家に負担させています。
原因は大量の輸入です。世界でもこんなに輸入している国はありません。日本は1993年のウルグアイラウンド合意で、コメを77万トン(うちアメリカから36万トン)、乳製品13・7万トン(生乳換算)をミニマムアクセス枠として毎年輸入し続けています。日本以外にそんなことをしている国はありません。背景には、アメリカとの密約があります。
農家が廃業の危機に直面している今、意味のない輸入をやめればかなり解決できます。アメリカから無理やり買わされ、そのために無駄な税金を使っています。
財政での補塡が不可欠
その税金を農家への対策として使うべきです。
具体的に計算してみると、米1俵(60キログラム)の米価が9000円くらいになってしまっている現状と必要とされる米価1万2000円との差額を700万トンに補塡すると、3500億円くらいになります。酪農家さんの場合は、生乳キログラム当たり少なくとも30円は足りないということで全酪農家にそれを補塡するとすれば1800億円です。
これは一つの例です。具体的にどれくらい必要かを計算して、しっかり支払えるようにしなければいけない。農水省予算は、財務省が2・3兆円から微調整しかできないと決めています。それでは話が進みません。
私は超党派の議員立法で、食料安全保障推進法(仮称)というようなものを早急に成立させて、年数兆円規模の予算措置を早急に発動できるようにすることが重要ではないかと考えます。
食料安全保障推進法(仮称)を
食料安全保障を確立するため普段から、耕種作物には10アール当たりいくら、家畜単位当たりいくらという形の基礎支払いを行う。スイスは基礎部分として供給補償支払いという形で皆に払う、その上で条件に応じて例えば中山間地になるとその支払い額を上乗せしていくという考え方です。日本でもこういう国を参考に制度設計するといいのではないかと思います。
それからもう一つは、政府が需給の最終調整弁の役割を果たす。ある下限価格を下回った場合に政府の介入が発動される。そして、国内外に人道支援物資として買い上げた農畜産物を活用する、そういう仕組みを取り入れる。さらに今回のように赤字が非常に激しく大きくなってしまうときには、発動条件をしっかりと明確にした上でさらなる赤字補塡措置や上乗せできるような仕組みにしておく。
他国と比べて日本で食料安全保障に対して関心が薄いのは、教育の差も大きいと思います。かつての食糧難の経験についての記述も日本では教科書から消されてきたという問題もあります。今井和夫宍粟市議会議員から重要なことではないかとご提案もありました。22年8月に川崎市で開催された全国地方議員交流研修会で、福島県喜多方市の小学校で「副読本に基づく必修授業」といういい事例報告がありました。しっかりと子どもたちに食料や農業の重要性を考えてもらう授業をするというのは非常に重要なポイントだと思います。
早くしないと間に合いません。国会議員の中でも重要だから食料安全保障議員連盟をつくっていこうという声も出てきています。それぞれの地域の地方議員の皆さんがリーダーになって食料安全保障推進議員連盟という形を地域ごとにつくっていただいて、それで国政にも呼びかけをしていく。このような考え方で皆さんが動いていただけると大きな流れになるのではないかという提案です。
私も食料安全保障推進財団を立ち上げて、こういうような動きをバックアップすることを考えております。先日、講演で宮城県大崎市におじゃましましたが、そこでは超党派で農山村振興議員連盟をつくって頑張っておられました。(別掲関連記事)
広範な国民連合に結集する皆さんが食料安全保障推進法(仮称)の中身をできる限り具体化し、それに基づいてつながりも広げていただきたいと思います。