第4回「日中国交回復50周年とアメリカの東アジア戦略」
羽場久美子教授が報告
4回目の「日中時事交流フォーラム」は6月19日に開催された。フォーラムでは、日本側から羽場久美子先生(青山学院大学名誉教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長)が「日中国交回復50周年とアメリカの東アジア戦略」をテーマに報告した。羽場先生の報告に対して、沖縄から我部政明先生(琉球大学名誉教授、沖縄対外問題研究会代表)と、中国側から華語シンクタンク執行理事長の徐長銀先生がコメントした。また、彭光謙先生(華語シンクタンク理事長)が最後にあいさつとコメントを述べた。以下、概略。 (文責:フォーラム事務局)
羽場久美子先生の報告
バイデンは、普遍的価値というよりは民主主義対専制主義ということで世界を二分していっている。
しかし世界は、G7の時代からG20の時代へ、中国、ロシアなどBRICSなどが中心になる時代になりつつあるということを意識する必要がある。アフリカやアジアなど成長する国々と連携してグローバルサウスを重視していく必要がある。他方、グローバリゼーションと新自由主義は世界に競争と格差を生み、とくに先進国のなかに格差を拡大させ中間層を没落させた。一方、中国は、2010年に日本のGDPを追い越し、14年にはアメリカをPPPベースのGDPで追い越した。
こうした中でアメリカはロシアに対してNATO拡大で圧力をかけ、ウクライナには多数の武器供与によって強化して、戦争が続き多数の犠牲者が出ている。
アメリカのジョセフ・ナイは、「ロシア・ウクライナ戦争は、アメリカと西側諸国を決定的に有利にした」と言っている。重要なことは、ロシア・ウクライナ戦争を停戦に向かわせ、これ以上戦争を東アジアに飛び火させないことだ。クアッド(米日豪印)あるいはクアッドプラス(韓国、ベトナム、ニュージーランド、台湾を含む)やオーカス(米英豪)による中国の封じ込めは東アジアに緊張を生み、日本と中国は対立する構図を生み出すことになる。
日本列島はアジア大陸を3千キロの長さで、太平洋に出るのを封じ込めるような自然の要塞の形になっている。対立となれば、北はロシア、真ん中は朝鮮半島、南は中国の軍事行動に対応しなければならない。核の問題もある。
アジアでは軍事的な対立関係ではなく、経済的な協力によって21世紀の新しい社会をつくっていく必要がある。
何をなすべきか。経済共同によって、平和と繁栄の地域とするということ。もう一つは、アジア版のCSCE(全欧安保協力会議)のような平和を維持する仕組みをつくっていくことだ。NGO、沖縄の自治体、台湾の平和を願い経済発展を願う企業や市民、可能なら経済界やメディア、若者も巻き込んで、東アジアの平和と安定、そして経済発展を図るような話し合いの場を恒常的に設けていくことが、まさに日中国交回復の50年、そして沖縄の復帰50年にふさわしいことではないかと思う。
沖縄でも「台湾をめぐっての戦争に巻き込まれる」不安感が強まる
我部政明先生のコメント
私はリアリズム(現実主義)に基づいて、東アジアの歴史をまず概観したい。アメリカと中国が関係回復、日本と中国との国交が結ばれて50年目だが、当初、米中、日中の両国関係は急速に緊密化した。だが、現在は米中対立が厳しくなり、日中関係も悪化している。
それは中国とアメリカが、それぞれの立場から相手を見ていることに起因している。特に2008年の金融危機の前後から中国の力が目立つようになってきた。中国がその他の国々にとって不可欠な存在になり、特に経済的には中国なしにはやっていけないほどになった。同時に軍事的にも中国の増強が目立つようになった。
こうした流れで、アメリカと中国との関係というのは接近をしたり、対立をしたりする。この揺れのちょっと後から日本がついていく。沖縄もその日本の中にあって、日中間が平和で交流が高まっていくときに、沖縄も中国との関係が大変うまくいき経済的な交流もあった。
最近沖縄で、中国に対してどう思っているかという世論調査(琉球新報、朝日新聞共同)がやられている。3月の調査ではウクライナ戦争が始まっていることもあり、戦争に巻き込まれるかもしれないという不安が、特に台湾をめぐっての戦争に巻き込まれるのではないかと不安に感じる人が85%となった。また沖縄の自衛隊の増強について57%の人が賛成となっている。
2010年以前まで、日本と中国との友好が進んでいたころ、沖縄では、中国に親しみがあるという人は、アメリカに親しみがあるという人とほぼ並ぶぐらいだった。沖縄では中国に対する親しみを覚える人は日本の中で高かった。その背景には中国と沖縄との文化的な近さ、歴史的な関係があったことを沖縄の人が認識していたからだ。
今は沖縄の利益と中国の利益が背反するような形になってきているのではないか。この70年以上にわたってアメリカ軍基地が沖縄にあるということについて、沖縄の人たちはこれは異常だと考え、沖縄の利益は、このアメリカ軍基地が減ることだ。だから日中の平和、友好ということに対して沖縄の人々が支持をしてきた。東アジアに平和な環境ができることを模索していた。それにもかかわらず、現在は中国に対する脅威を強く感じる人が増えたということは何なのかというふうに考える必要があると思う。
沖縄からすると、アメリカの軍事力によって平和は維持できないということ、これは70年間主張してきたこと。このことはまた同時に中国に対しても力、武力による平和や安定というものは望んでいないんだということ。その点で中国から日本や沖縄の人々に、武力でないような平和をつくるという努力をしているんだということを見せてくれることが大事だと思う。
最後に、米中間の、大国同士の対等な変化こそがこの地域の平和的な安定につながることもつけ加えておきたい。
戦争を引き起こすのは
中国ではなく米国
徐長銀先生のコメント
国際情勢と日本がすべきことに対する羽場先生の見解は非常に深く、観点が非常によく、賛成する。世界は多極的になっていること、先進国において中間層の没落、格差が拡大していること、またロシア・ウクライナ戦争が拡大していることが東アジアの情勢に何らかの影響を及ぼしていること、アメリカと中国は三つのところで衝突するかもしれないこと、最後に日本がすべきことは、経済的な協力、安全保障対話のメカニズムの構成など、以上の論点に非常に共感した。
三つのところで対立が起きるかもしれないという論点に対して、私は南シナ海、釣魚島(尖閣諸島)よりは台湾問題について問題が起きやすいのではないかと考えている。ただこれにはわれわれは慎重な考えを持っている。中国・台湾の問題はウクライナの問題と違い中国の内政の問題であり、中国の不可分の一部である。アメリカは公にはこの問題をあいまいにして陰で台湾独立の推進をしている模様だ。アメリカは台湾をもって中国の発展を抑止しようとしているのではないかと私は思う。仕掛けをすることによって中国の経済にダメージを与えようとしている。
台湾は中国に統一される、これは必然的に行わなければならない道だ。中国としては平和的に祖国を統一したいと考えている。しかし、もしもアメリカが何らかの形でそれを阻害し、何らかの障害を設けたりするとなると、必ず祖国を統一しなければならないということで、われわれがとても見たくない事態が起きる可能性はゼロではない。
日本が何をすべきかということでの羽場先生の論点は私はおおむね賛成だが、いかに戦争を避けるかということについて、それは中国によるものではなく、アメリカによって決められるのではないかと思う。
我部先生が言われた米中間、日中間の平和な時期、発展については、2000年までの発展の原因は、中国の改革開放政策ではないかと思う。改革開放というのは西側だけでなく世界に対しての開放で、今においてもその政策は変わっていない。西側諸国に対して開放する意図は、西側の一員になるという意味ではなく、むしろ中国の経済を強めるための合意であることを強調しておきたい。
われわれは西側に対して、またアメリカに対して、見方を変えることは過去においても未来においてもない。にもかかわらず中米関係はあまりよくなっていない。それはなぜか。それは羽場先生の報告で触れられたように、中国は成長していて、アメリカはそれを阻止しようとする。その結果、中米の間で衝突が生じた。軍事的にみると、軍事費対GDP比では中国はアメリカにはるかに及ばない。我部先生は、中国の軍事的な発展は周辺諸国にとって脅威になるのではないかという心配を述べられたが、中国の軍事的発展は近隣諸国に不安を抱かせるものではない。
我部先生が言われるように米中の友好、日中の友好があれば基地の問題は解決していくと私は理解している。沖縄はすでにアメリカの基地になったのではないか。アメリカと日本の政府は決して安易に沖縄における米軍基地を撤退させることはないと思う。やや大胆に言ってみると、もし万が一アメリカと中国が衝突すると、おそらく沖縄は安全を保てないだろう。もちろんこのシナリオは非常に不幸なシナリオだが。
ただし、中国とアメリカが衝突する可能性は小さいのではないか。アメリカはおそらく本気で武力を投入することはないだろうと思う。東アジアの平和問題を考える際にキーとなったのはおそらくアメリカのほうだ。中国は武力によらないように一生懸命努力している。ただアメリカの脅威、アメリカの挑発に対して臆病になることはないということも一つのポイントになる。この東アジアの平和の問題において、中国よりはアメリカがいかに行動するかが非常に大事になるのではないか。
あくまで平和的に。沖縄を巻き込んではならない
羽場久美子先生の再コメント
先ほど徐先生はウクライナと台湾は違うと言われたが、年数で見たとき、台湾が中国から離れて国民党が島に移ってから70年、沖縄が本土復帰になって50年、ウクライナがロシアから独立したのはたった30年。ロシアから見たときにウクライナはつい30年前まで、つまり沖縄の復帰よりもその半分に近い年数までロシアだった。ウクライナ東部にはロシア人が住んでいて、ロシアの一部だと思っていたところがある。アメリカは中国が台湾に万が一武力介入をしたとしてもそれを認めるだろうと言われたが、私は絶対に認めないと思う。なので、香港のように、法で解決する、あるいは文化と話し合いで解決するということをぜひ中国は守っていただきたい。アメリカがいかに挑発しても台湾を武力で抑えれば、ウクライナと同じことになる可能性が非常にある。
もちろん私たちは、台湾は中国の一部であることをよく理解している。だからこそ台湾を平和的に統一することがきわめて大切で、もし武力統一をしてしまったら東アジアで戦争が始まる。東アジアで戦争が始まると1億人以上が死ぬと言われている。ロシア・ウクライナ戦争の比ではない。沖縄が戦場になる。それを絶対許してはならない。
だからこそ、話し合いで、この地域の経済と平和と安全保障の問題を共に考えていくことが東アジアで戦争を起こさない最大の方向だと思っている。
(なお、第3回フォーラムは4月17日に開催された。誌面の関係上、内容は略)