「ざる経済」の沖縄は基地の重圧下で困難に
沖縄県議会議員 当山 勝利
「3人に1人の子どもが貧困である」という全国の約2倍の高さの調査結果に、行政をはじめ沖縄県民は衝撃を受けた。約6年前のことである。
当時、子どもの貧困率を調べていた都道府県は全国の中で1県しかなく、翁長雄志県政下の沖縄県のみだった。全国平均の貧困率は16・3%、それに対し沖縄県は29・9%であった。県は「沖縄県子どもの貧困対策計画」を策定し、基金30億円をつくり、さらに「沖縄子ども未来会議」を発足させて行政と民間団体とが一体的に子どもの貧困問題解決に向けた体制がつくられた。
今年の5月末に沖縄県から子どもの貧困に係る調査結果が報告された(沖縄子ども調査報告書)。この2年間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響が心配されたが、やはりそれは数字に表れていた。
小中学生を対象とした調査において、2018年の子どもの貧困率は25・0%と15年と比べ4・9ポイント改善していた。ところが21年の貧困率は28・9%と3・9ポイント悪化していた。
新型コロナウイルス感染症による世帯収入への影響は低所得世帯ほど大きくなっている。困窮世帯の60%以上の世帯で1割以上収入が減少したと回答している。低所得収入で生活に余裕がもてない家庭において、さらにその収入が減少することで、より苦しい生活を強いられていることは想像に難くない。
就業形態別に見ると、正社員・正規職員など以外の就業形態ほど収入が減った割合が高く、特に自営業で収入の減少幅が大きくなっている。新型コロナウイルス感染症は、発生当時より社会的弱者に対して大きな影響を与えていると言われていたが、この調査でより鮮明にそのことが明らかとなり、子どもたちに大きな影響を与えていることが分かった。
悪い結果ばかりではない。今回の調査で、「がんばれば、むくわれる」、「自分は家族に大事にされている」、「不安に感じることはない」、「孤独を感じることはない」などの自己肯定感に関する調査も行われており、どの項目においても「とてもそう思う」の割合が高くなっていた。「自分は家族に大切にされている」においては、小中学生とも10ポイント以上高いという結果であった。新型コロナウイルス感染症による経済的な影響とは裏腹に、精神的な面における改善は6年間続けてきた子どもの貧困対策事業の大きな成果であると考えられる。
子どもの貧困は親の貧困
子どもの貧困は親の所得の低さに起因していることは否めない。したがって、沖縄県の所得向上が求められることは当然である。2020年度の沖縄県民所得は214万円で、全国平均所得の7割となっており、まだその差は大きい。観光業が沖縄県の経済の柱となっており、新型コロナウイルス感染症により打撃を受け、県経済に大きな影響を与えている。このことは、ひとつの産業で経済を支えることがいかに危ういかを示している。過去にアメリカ合衆国で起きた9・11同時多発テロにより、米軍基地が多く存在する沖縄は、多くの修学旅行がキャンセルされるなど観光控えが起こり、観光業が大きな打撃を受けたことを経験している。
今回の感染症においても発生する直前において観光客が年間1千万人を超え、観光業は好調だったが、感染拡大により次の年は観光客がほぼ来ない状態となった。さらに、2年以上新型コロナウイルス感染症の影響が続いている。つまり、ひとつの柱だけで県経済を支えていると、いざというとき途端に経済が立ち行かなくなるリスクが大きい。リスクヘッジの意味においても、別の産業を振興させることで安定した経済と安定した所得を県民が得られる。
沖縄県は、今年5月15日で復帰50年を迎えた。沖縄の特殊事情に鑑み過去に5次にわたる沖縄振興計画が策定され、実施されてきたところである。
しかし、国発注工事において本土大手企業が受注し、結果として国の財政支出は県内で回らず県外に流れ出るいわゆる「ザル経済」と言われて久しいが、いまだに改善できていない。また、沖縄県の製造業の割合は全国の約4分の1しかないために経済自給率が低く、これも問題となっている。
さらには、日本の国土の約0・6%しかない沖縄県に米軍専用施設が70・3%も存在し、広大な面積の土地が米軍基地に占有されていることも沖縄県の経済発展の阻害要因になっている。普天間基地やキャンプ・キンザーは市内の中心あったり、海に面する平坦な土地であったりと利用価値が高い。そのような土地を返還させて県民が利用することで、さらに県経済が発展することは、那覇市新都心や北谷町ハンビーが実証している。
ところが日本政府は、辺野古新基地に固執している。沖縄県の米軍基地負担軽減というのであれば、造ったとしても軟弱地盤の存在で護岸が崩壊する可能性がある辺野古新基地建設を断念し、普天間基地は即時閉鎖、返還をするべきである。そうすることで米軍基地負担軽減と県経済向上につながる。
誰一人取り残さない優しい社会へ
沖縄県は今後10年間の振興計画である「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」を策定した。その計画を実施することで、県民所得を36%向上させ291万円にするという展望を描いている。
子どもの貧困対策は、経済対策だけでなく多方面の制度や支援が必要である。今年、玉城デニー県政の下、基金がこれまでの2倍にあたる60億円に積み増しされ、また3月には「第2期沖縄県子どもの貧困対策計画」が策定された。ライフステージに合わせた子どもたちの支援や保護者への支援などが盛り込まれており、市町村と連携し子どもの貧困対策の充実を図るとしている。
日頃より玉城デニー知事は「誰一人取り残さない優しい社会の実現」を言葉にし、目指している。子どもの貧困率が全国と比べ高い沖縄だからこそ求められている理念であると思う。教育・福祉そして経済的な支援に加え、県経済の発展など総合的な取り組みが必要であると考える。子どもの貧困は子どもに責任があるわけではない。だからこそ、今必要な支援をすることと、根本的な解決をするために、現県政を支え、問題解決を目指さなければならない。