新型コロナ災害 押し寄せる生活の危機
支援現場からの報告と提言
一般社団法人反貧困ネットワーク事務局長 瀬戸 大作
反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんが、2月4日の衆議院予算委員会で参考人として発言した。本稿は、その発言に、瀬戸さんが準備した資料から補足したものである。見出しとも文責編集部。
拡大する貧困問題を協働して解決するために、私が事務局を担当する反貧困ネットワークが呼びかけを行い、「新型コロナ災害緊急アクション」を2020年3月に設立、現在まで41団体の参画で活動を進めてきました。
「緊急アクション」はホームページに相談フォームを設けており、ここにいろいろな現場からSOSのメールが次々に入ってきます。「所持金がもう100円もない。このままでは死んでしまう。死のうと考えている。最後に連絡したんです」。コロナ禍で仕事を失うなどして寮やネットカフェから出ざるを得なくなり、今夜安心して眠るところがない、そういうSOSが入ってきます。なぜメールなのか。過半数を超える相談者がすでに料金滞納で携帯電話が止まっていて、公的支援機関などへ相談したくとも身動きが取れなくなってしまっているからです。
今日もこれが終わったら現場の駆けつけ支援が入っています。駆けつけとはどういうことかというと、相談者のもとまで支援スタッフが駆けつけるという相談体制です。「緊急アクション」設立から2年近く、ほぼ休むことなく路上からのSOSに向き合う日々が続いています。
食料配布に長い列
年末年始の相談会だけでなく、生活に行き詰まった人を支える食料支援などの取り組みが都内各所で毎週実施されています。新宿都庁下での「新宿ごはんプラス」、池袋中央公園での「TENOHASHI(てのはし)」の食料配布では毎回500人前後が長い列をつくっています。仕事があっても収入減で苦境に陥っている人、20~30代の若い世代、女性や子ども連れが多くなっており、先週開催された「新宿ごはんプラス」の食料配布では72人が女性でした。
コロナ災害が始まり2年近くがたち、私たちが現場で目にする困窮者の増大は目を覆う状態になっています。コロナ感染による就職への影響と以前からあった貧困問題が重なり、要するに底が抜けた状態が続いています。まさに野戦病院の状態です。
反貧困ネットワークでは「新型コロナウイルス災害:緊急ささえあい基金」を20年4月にスタートさせました。現段階で、市民からのカンパ約1億5千万円が集まり、延べ2900人に8千万円以上を給付しています。「緊急ささえあい基金」は、生活困窮者が「公助」にアクセスするまでのつなぎの役割を想定しています。
15年に生活困窮者自立支援制度が始まりましたが、相談支援機関はたくさんあっても、短期間で金銭的な支援を得られる場はほとんどありません。社会福祉協議会が窓口となっている生活福祉基金も、実際には活用しづらい。公的な貸付制度でも救えないコロナ災害の受け皿として、「緊急ささえあい基金」から給付支援をおこなって、いのちをつないでいます。緊急相談に対応し、当日の宿泊費支援や翌日以降の生活保護申請同行、その後のアパート入居までのフォローアップと就労支援や通院同行を実施しています。
相談者の8割は家がない
その中で見えてくるのが居住貧困の問題です。相談者の83%は住む家がありません。この問題が今の社会の中で非常に大きな問題だということです。なぜこれだけ多くの仲間たちに家がないのかということです。東京都の17年のネットカフェの調査によれば62・8%の人たちがアパートを借りる初期費用がないわけです。
02年の小泉・竹中構造改革は派遣労働と非正規雇用を増やし、多くの人が低賃金で不安定な立場に押し込まれました。働く人の4割が非正規雇用で平均年収は179万円、貯蓄ゼロが単身世帯で38%、ネットカフェで暮らす人々の平均月収は11・4万円。アパート等の入居に必要な敷金などの初期費用を貯蓄できずに「ネットカフェ難民」になってしまった人たち、飲食店や派遣会社の寮から退去させられた人たちのSOSも多くなっています。携帯電話が止まり、さらに仕事探しが困難になり、職探しの間にわずかな貯金が尽きてしまっているのです。最初から非正規や派遣の仕事しかなくて、そもそもお金を貯蓄することができない。そのことが今も進行しているということです。
今こそ、新自由主義的な住宅政策を転換すべきです。
その第一歩として住居確保給付金制度を抜本的に拡充し、だれもが困ったときに利用しやすい無期限の「公的な住宅手当」を導入することを求めます。住居を持たない方の入居費用支援も求めます。東京都の場合、公営住宅に60歳未満単身の人たちが入居できない。公的住宅の活用も必要です。
行政に相談しても追い返された
福祉制度による支援については、東京都内においても自治体間の格差が広がっています。困って福祉の窓口に行った時に冷たく追い返されることが日常的に起きています。所持金が1000円を切り、家もない相談者にも容赦ない。いちばん苦しい時に助けてもらうことも許されない。そのような福祉事務所の対応が、時には「死に至らしめる」ことを私自身も言い続けてきました。コロナ感染拡大から2年、福祉事務所の対応問題は根本的に改善されていません。
生活保護申請については、国会でも話題になりましたが、扶養照会については改善のための厚労省の通知が出ていますけれども、福祉事務所ではあいかわらず追い返しが頻発しています。僕らの支援団体が生活保護申請に同行しないと、「若いんだから、あなたは働けるんだから」ということで追い返されてしまう。
八王子市の30代のケースワーカーの男性職員が、精神障害がある男性から相談を受けた際、「自殺未遂したからって容赦しねえぞ。知能が足んない」などと発言し、凶悪犯罪者と男性を結びつけるような発言もあったということでした。職員は生活保護受給をめぐる収入認定についても「自殺未遂しようと何しようと変わんない」として、誤った解釈を押し通したということでした。
多くの福祉事務所において、無料低額宿泊所、自立支援施設入所が生活保護申請受理の条件とされ、路上にいただけで差別的な運用につながり、アパート転宅が阻まれる状況が頻発しています。いつまで僕らが同行を続けなければならないんでしょうか?
相談しても追い返されるということで、この間いろんな犯罪も起きています。福祉事務所が丁寧に対応してくれれば起きなかったかもしれない。大阪市北区の雑居ビル内のクリニックで25人が犠牲になった放火殺人事件の容疑者が昨年春、生活保護の申請について区役所に相談していたが、受給は実現しなかったことが捜査関係者らへの取材でわかったということです。
そして私たち都内の支援団体として悲しい事件も起こりました。代々木・焼き肉店立てこもり監禁容疑で逮捕された28歳の男性は「生きる意味が見えず、死にたかった」と語ったそうです。親はなく、ペンキ屋をやっていたが会社がつぶれて借金ができ、新宿中央公園で路上生活をしていたとのことでした。年末年始の支援につながっていればと思わざるを得ない事件でした。
クリスマスの夕方には相談フォームに悲鳴のようなSOSが届きました。「2人の子供がいる母子家庭です。8円しかなくてもう何もできず、もう生活できません。灯油がなくなってしまいます…トイレットペーパーも買えません。…電話が止められてしまいます…ちゃんと身分証を見せますので、どうか現金を貸していただけませんでしょうか」
この女性は12月初旬に生活保護を申請しましたが、福祉事務所の相談員は「保護決定まで1カ月かかるかもしれない」と応えたそうです。生活保護を申請する意思が示された場合、福祉事務所は原則として2週間以内に生活保護の適用の可否を判断し、本人に文書で通知しなくてはならないと決められています。家族は待ち続けたがクリスマスの夜に力尽きる状態でした。
ニュースでカップヌードルが値上げで210円になると出ていました。一部の公共料金をはじめ食料品の値上げラッシュが予想されていますが、生活保護基準金額は切り下げられています。見逃せないのは、食料配布の列に生活保護を利用している方も多く並んでいることです。生活保護費の特別加算を検討していかないと、いちばんつらい立場にいる人たちがますます苦しんでいきます。そういう現実を含めてぜひ国会議員の皆さんには認識をしていただきたいと思っています。
機能してない求職者支援制度
コロナの影響で仕事も見つかりにくい状況です。支援してきた相談者はアパートに入居しても、人とのかかわりがないために孤立を深めてしまい、突然連絡が取れなくなる事例が増えています。相談者からの嘆きが電話やメールで相次いで届く。共通していることは独りぼっちのアパートやビジネスホテルで「死にたくなるような寂しさ」「1週間だれとも会話していない。以前のように仕事が見つからず、友だちもいない。部屋の天井を見上げるだけ」。若い人たちの抱えている困難は深刻です。仕事が見つかっても再度、雇止めされたとの報告も続いています。
第2のセーフティネットとして「求職者支援制度による職業訓練」がスタートし、「雇用保険を受給できない求職者が、職業訓練によるスキルアップを通じて早期就職を目指す制度」として位置づけられ、給付金(毎月10万円、最長1年間)が受講生に支給されます。
しかし、要件が厳しく機能していないとの指摘が多くされています。求職者支援制度を、仕事の職種の範囲拡大と弾力的運用の中でより使いやすい制度にしていただきたい。短期的な就労を繰り返す人や失業給付を受けられない人々を支えるという趣旨から、長期失業者や就労困難者をハローワークが特定求職者として認め、支援指示が行われ、数多くの就労困難者や生活保護受給者が訓練から排除されないようにしてください。施行後3年度の見直しを待たずに、雇用保険制度から独立分離した制度として、全額一般会計で負担する制度への移行を要請したい。
コロナ急拡大が困窮者を襲う
オミクロン感染急拡大の中、住宅を失った人がコロナに感染する例が発生しています。相談者がいる場所に駆けつけた時にコロナの症状であることがわかり、とりあえず支援団体が宿泊費と食費を渡し、ビジネスホテルに宿泊いただき回復を待っている状態です。多くのホームレスの方を支援している団体も、コロナ禍で生活保護申請の同行など当事者の支援を行えない状態が発生しています。
家があっても経済的困窮状態にあり、コロナに感染しても自治体から満足な支援が受けられず、家の中に食べる物がなくなり餓死の恐怖におびえる相談が続きました。発熱相談センターなどに連絡してもつながらない。保健所に連絡しても5日たっても食料支援が届かないなどの声も届いています。
支援団体が直接の接触を避けながら、相談者の自宅前まで赴き、自宅療養期間中の食料や生活用品を届け、回復後に相談者と一緒に生活保護申請同行や必要な福祉制度につないでいます。僕らもオミクロンが急拡大する中で駆けつけ支援だけではなくて、食料品の配達に行かざるを得ない状況になっています。感染の疑いがある家庭に民間の支援団体が食料を運んでいるという状態です。ほんとうにたいへんな状況です。
住まいがあっても経済的困窮状態にある自宅療養者や濃厚接触者、同居家族等の支援を受けることが困難な方には、生活必需品等の支援を自治体が迅速に行うことを徹底してください。
家のない人たち、健康保険証も所持金もない人たちに対しても、ちゃんとした医療が受けられるようにしていただきたい。福祉事務所の判断を待たず、直接、発熱外来を受診できるようにしてください。検査の結果が陰性でも、宿泊場所を確保してください。路上やネットカフェに帰すことは、決してあってはならないことです。
公助がない入管仮放免者
コロナ感染拡大は、在留資格を持たない外国人に大きな影響を及ぼしました。入管収容施設内での感染拡大を避けるために、多くの仮放免許可が出たからです。結果として、19年末には約3000人だった仮放免者が、20年末には約6400人にまで増えました。地域に出ていっても住む家もない、働くことも許されない、医療を受けることもできない。
市民の寄付による緊急支援金は、生活保護の支給までの一時的な生活費のはずでした。ところが活動支出した支援金の7割超が外国人に支給されました。シェルター利用者も6~7割が外国人です。仮放免者は公助から排除されているため、「公助」という出口がない。緊急支援金もシェルターも一時的なつなぎではなく、最後の頼みの綱となっています。市民の共感だけで仮放免者の全生活を支えることは不可能です。
入管に長く入っている人は非常に体調が悪いんです。そうした人を僕らのところでお金を出して病院に連れていきます。大村入管でネパールの方の足が壊死状態になり、仮放免でいいから出してくれと言っても出してくれません。きょうは入管行政の話をするところではありませんから、それにふれませんけれども、その人たちは生きているわけです。生存し続けるための最低限の生活保障として居住場所の提供、国民健康保険への加入資格の保障、最低限の生活費の支給をしていただきたい。切迫した状態をぜひ国会議員の皆さんに認識していただきたい。
きょうは岸田総理はいませんけれども、車座会議で支援者の話だけを聞くのでなく、困窮している当事者の現場に来て、直接に声を聞いてください。国会議員の皆さんにも現場の当事者の話を聞いてほしいと思います。
どんな状態でお母さんたちがガス、水道を止められて、ほんとうに厳しい思いをしているのか、そのことに応えていくのは公助としての国会の役割だと思います。よろしくお願いします。
政策提言(項目)
①居住貧困をなくし、無期限の「公的な住宅手当」導入を求めます。
②生活困窮者自立支援制度の窓口で即日少額貸付できるようにしてください。
③生活保護は権利 扶養照会の廃止と要件緩和、施設入所前提の申請受理をなくし追い返しをやめてください。
④値上げラッシュから困窮者を守るために「生活保護費」の特別加算を緊急に取り組んでください。
⑤求職者支援制度の要件緩和をさらに進め、認定、資格取得と専門分野の技能・実務に特化したカリキュラム内容から柔軟な制度に変えてください。
⑥新型コロナウイルスオミクロン株の感染急拡大に伴う住居喪失者や経済的困窮者への宿泊療養などの支援に取り組んでください。
⑦仮放免など在留資格を持たない外国人への「生存し続けるための最低限の生活保障」の適用を求めます。