日中時事交流フォーラム第1回開催

中国のTPP参加申請問題で相互理解進む

広範な国民連合と中国の華語シンクタンクとの間で、率直な意見交換で相互理解の深化をめざす研究者・知識人を中心とする「日中時事交流フォーラム」設立が進んでいる。準備の第1回の交流が昨年12月22日、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、以下TPP)への中国の加盟申請問題をテーマに開催された。日本側は羽場久美子青山学院大学名誉教授、丸川知雄東京大学教授、山本正治事務局長ほか広範な国民連合の賛同会員などが、中国側は龔剣事務局長、湯重南教授・中国日本史学会会長、周永生教授・中華日本学会理事ほかが参加した。仲介役の凌星光教授も参加、杜世鑫氏が通訳を担当した。以下、その概要。

 日本側世話人代表の羽場教授が、「来年は日中国交正常化50周年ということもあり、日本と中国の交流をさらに活発化し、安定的で発展的な関係をつくるために本フォーラムが発足することになった」とあいさつした。事務局を担う広範な国民連合山本事務局長は、「日中双方の相互理解が進むようにしたい。50周年を迎えるというのに、残念ながら逆流が目立っている。そうしたなかで、日中両国がもう一度国交正常化の原点に戻って、これからの50年間の在り方を考えなくてはならない。本フォーラムがいくらかでも貢献できればと思っている」と発言。
 中国側から湯教授が、「日本の複雑な政治状況のなかで、国民連合は勇気ある主張をしており尊敬している。日本が軍国主義にまで走るとは考えていないが、日米同盟が日本外交の基礎だとしても、外交と軍事の問題について今後の交流で話したい」とあいさつした。周教授は「丸川先生のTPPについてのパワーポイントのレジュメを読ませていただき、共感するところがとても多くあった。日本の協力を得て、中国のTPP加入をぜひ実現させたいと思っている。岸田政権については、経済政策に大きな関心を払っている。ただ、外交と安全保障面では、対敵基地攻撃能力などが語られており、東アジアの不安の要因の一つにならないかと懸念している。このフォーラムでの交流に期待している」とあいさつした。

日本は中国の参加申請を歓迎すべき(丸川教授)

 丸川教授が、「中国のTPP加盟申請と日中経済関係」というテーマで次のような内容の報告をした。
 ①当初は日本で多くの反対があったが、幸か不幸かアメリカが抜けて衝撃力がやや弱まった。今年に入って新たな展開があり、まずイギリスが加盟を申請し、続いて中国が、その1週間後に台湾(中国台北)が加盟を申請した。
 ②中国の加盟申請については、日本では、積極支持派と消極慎重派の二派に分かれている。
 積極的な議論として、「すべての既存ルールの順守・履行、最も高水準の市場アクセスという条件のもとで加盟国が増えることは日本にとって望ましい」(伊藤信悟、日本経済新聞)、「前向きに検討すべきだ」(野田聖子自民党衆議院議員)、「中国にとって加盟に向けて改革を進めるメリットは大きい。日本にとっても中国にさまざまな要求を出す好機」(丸川知雄、北海道新聞)などがある。
 反対論としては、「アメリカの復帰の道筋をつけることが先決。TPPは中国をにらんだ『ルール同盟』である。中国が先に入ればアメリカ復帰に拒否権を行使できる」(秋田浩之、日本経済新聞)、「日本がまず取り組むべきはアメリカの復帰。多くの国が中国になびかないようにするために、TPPの加盟条件を柔軟化し、新興国をもっと受け入れるべき」(木内登英、北海道新聞)などがある。
 ③中国の加入に当たっては、国有企業問題や電子商取引に関する問題もある。労働問題では、TPPでは、「各国は自国法において、結社の自由、あらゆる形態の強制労働の撤廃等を採用し、維持する」となっている。中国も憲法で結社の自由とか、人身の自由とか保証しているが、もう一歩進んだより具体的な法律をつくることが求められるだろう。政府調達問題もある。
 ④中国が加われば、TPPの世界GDPに占める割合は13%から29%に、世界人口に占める割合は7%から25%に高まる。経済効果は日本にとってそれほど大きくないかもしれないが、その政治的意義は大きい。アメリカが中国を孤立させようとしているとき、中国がすでに存在している貿易自由化の輪に入ろう、ほかの友達の輪に入っていこうとしていること、これは非常に歓迎すべきことだ。
 日本としては交渉を積極的に進めるべきだというのが私の考えである。

中国の加入は国内改革を加速させる(周教授)

 周教授が、中国がなぜTPP加入に積極的か、考えを述べた。
 中国は対外開放政策で大きな発展を遂げたが、特に、WTO加盟によって2000余の法律を改正し、国内の改革を推進することができた。同様な効果を得ることができる。
 第二に、日中友好関係を促進できる。政治的に日本と団結することは難しいが、経済的に団結することはやりやすい。
 第三に、中国の経済社会は今ボトルネックに直面している。労働力人口が急激に減少する高齢化社会に入っており、この困難を克服する上で、国際社会との協力関係が極めて重要である。
 第四に米中対立は避けられず、長期戦となる。米国からの圧力にどうやって抵抗するか。地域経済協力が有効だと考える。RCEPやTPPなどの地域経済協力の発展によって圧力をかわすことができる。
 第五に、法制度の健全化が促進される。中国は加入する時、TPPの規定する取り決めを守る必要がある。それが中国の改革をさらに推し進め、世界とのドッキングが進められる。
 最後に、中国の需要を拡大させる。中国の労働組合は福祉中心で賃金交渉をすることはない。そのため賃金は低く、需要を制約している。加入によって、関連法規が見直され、賃金引き上げ、需要拡大が見込まれる。
 この周教授のコメントに、丸川教授は、「聞いて力強く思った。二つある。一つは世界に溶け込む、二つ目が世界にドッキングする。中国がこのような姿勢で取り組んでくれれば、大変期待できる。日本の役割を評価してくれたこともうれしいことだ」と感想を述べた。

安倍政権評価をめぐって中国の教授たちに見解の相違も

 周教授はここで、「安倍政権において、TPPとEPA(日欧経済連携協定)を実現させたことは大きな成果だと見ている。安倍の政治姿勢は批判すべきだが、経済的成果、経済外交成果は評価されるべきだ」といった自説を展開。
 これに対して湯教授は、「周教授の観点と異なる見解があることを指摘したい。安倍元首相に対する一般の評価はよくない。経済政策についても失敗という見方が多い。日中経済交流について期待していることはもちろんだが、一部のやり方には受け入れ難いものがある。例えば日本企業の撤退などである。日中関係の前途については楽観視できない。中国が国際社会とドッキングすることは間違いないことだ。ただし、既存の国際機関、CPTPPルールも含めて、果たして問題はないのであろうか。改善すべき点、修正すべき点が全くないと言えるであろうか。政治と経済は分離できない。安倍元首相の台湾問題に対する干渉、台湾カードを使うことは由々しき問題だ」などと述べた。
 最後に羽場教授が、「最初のことであり、準備不足で至らないところが多々ありましたが、成功裏に終えることができました。皆さんありがとうございました」と謝辞を述べて終了した。

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