緊急の国民的課題は二つ

貧窮化極まる生活危機打開と中国「敵視」政策の撤回

『日本の進路』編集部

 「総選挙を待ってはいられない」と、コロナ被災者支援に取り組む反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長は訴える。職も住居も失う労働者、営業困難に陥っている中小零細商工業者などの実態は厳しく緊急の支援が待ったなしだ。コロナ禍中、オリンピックどころではない。国民生活と経済が直面した危機的事態に、国と地方自治体の抜本的な対策が求められる。
 他方、7月13日発表の「防衛白書」は、台湾への干渉を鮮明にした。菅政権は4月の日米首脳会談後、中国「敵視」を公然化させ、日中関係は国交正常化後最悪の状況となっている。「中国は敵ではない」、この当たり前の世論形成を全国で進め、政府に敵視政策を即刻改め、外交で日中関係を発展させるよう強く求める。
 この二つは、即刻の課題だし、総選挙の真の争点にもしなくてはならない。諸悪の根源、菅政権打倒、政治の転換へ国民運動を発展させるとともに、総選挙でもしっかりとした審判を下せるよう努力を強めたい。

低賃金・非正規雇用激増こそ貧窮化の源

日経新聞 7月14日

 コロナ禍で貧窮に直面する人びとに少なくとも月10万円、零細な事業者にも事業維持のため必要額の給付金の、再度、かつ1回ではなく継続給付を強く求める。兵庫県が、今春から住宅を失った困窮者のために県営住宅3000戸を準備し支援している。こうした生活支援も不可欠で、全国の自治体で即刻同様の取り組みが求められる。「水際作戦」などと生活保護申請の受け付けすら拒否するような自治体の窓口対応を変えさせなくてはならない。
 だが問題の背景は、低賃金・非正規雇用労働者の激増だ。
 コロナ災害対策自治体議員の会共同代表の小椋さんは本誌5月号で、「コロナ禍で、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規労働者、なかでも女性の困窮が深刻さを増している。低賃金、不安定雇用の非正規という働き方を抜本的に見直す必要がある」と結んでいた。
 賃金の大幅引き上げと非正規雇用の廃止が必要だ。
 中央最低賃金審議会は7月16日、21年度の最低賃金を一律28円上げ、全国平均で時給930円とする目安を答申した。選挙目当てにしても、上がった方がよい。
 だが、大都市と地方の格差は変わらない。最低額の秋田や高知、沖縄など7県は820円だ。1日8時間、月20日間働いても額面で13万円、手取りはいくらになるか。どんな地方でもこの給与では生活できない。わが国の労働者賃金は低すぎるのだ。最低賃金も各国のなかで最低だ。
 即刻、「最低賃金は全国一律1500円」を実現しなくてはならない。

大幅賃上げは内需拡大でもある

 中小零細業者には賃金支払いに耐えられないところも出てくるだろう。
 だが問題はその企業にあるわけではない。大企業・独占企業に、安い下請け単価、高い仕入れ価格で搾り取られているからだ。その分が労働者にしわ寄せされている。これは政治の責任だ。
 賃上げ分は、政府が責任をもって支援する必要がある。貧困な何千万労働者の大幅賃上げは、構造的に不足する国内消費需要を拡大し、日本経済を打開する糸口となる。それはそのまま農漁家や商工業者の危機打開につながる。コロナ禍で需要が減退し、コメも肉も、蕎麦まで在庫が急増し、価格が下がり農家は大変だ。漁業者も、街の商工業者も同様だ。
 「非正規雇用」をなくす必要がある。短時間労働者にも、「生活できる」賃金を保証する必要がある。人間らしい「健康で文化的な生活」を権利として保障することは憲法にも確認されている政治の責任だ。ましてや労働者の職を減らすデジタル化に政府も号令をかける時代だ。政治として、労働者に生活できる賃金を保証することは、技術革新でロボットが人間労働に置き換わるといわれるこれから、ますます重要になる。
 立憲民主党の枝野代表は、通常国会での菅首相への不信任決議案の趣旨弁明で、まずは「公務労働」の「正規雇用が原則」を打ち出した。大賛成だ。コロナ禍で非正規雇用の問題点が広く認識されている今はチャンスだ。行動に移していただきたい。
 しかし、雇用の中心は民間企業だ。ところが枝野代表は、ここは「慎重かつ段階的に進めていくことが必要」と、まさに慎重だ。誰に気兼ねしているのか。
 期間の定めのない非正規雇用の女性の年間現金給与総額は、従業員規模5人から9人ではわずか167万円、全規模でも234万円にとどまる。正社員は全規模で316万円だ(いずれも19年、「賃金構造基本統計調査」から試算)。1985年の労働者派遣法制定に始まる「労働の規制緩和」の政治の結果だ。1984年、全雇用者の15・3%だった非正規雇用は、2019年には38・3%に拡大している(女性に限ると56・0%)。
 これをさらに加速するか、見直すか、岐路である。これはデジタル化が急で、雇用維持が問題となる今、重大な争点だ。正社員を中心とした労働組合も、存続できるか、存在意義が問われている。

中村進一(三重県議会議員)

 外国人労働者の問題も深刻だ。アメリカ国務省の「人身売買に関する年次報告書」でも、わが国技能実習生について、「強制労働」と批判した。奴隷労働だ。政党も労働組合も、外国のことを言う暇があったら、わが国のこの「奴隷労働」問題を解決すべきだ。

財源は大企業の内部留保で

 臨時の各種給付金にしても、大幅賃上げも、非正規雇用の解決も、財源は十分にある。われわれがかねて指摘している大企業の内部留保だ。政府の協力の下に大企業が労働者国民から奪った富だ。
 とくに、安倍政権時代の純利益(会社の最終利益)の増加はすごい。財務省の法人企業統計で資本金規模10億円以上の大企業(全産業)を見ると、第2次安倍政権前の7年間はリーマン・ショック後の落ち込みもあったのだろうが約85兆円だった。それが第2次安倍政権時代の7年間(13年~19年)は209兆円と3倍近い。
 この間、売り上げはほとんど増えていない。ところが、非正規雇用増による人件費圧縮、アベノミクスのマイナス金利政策で利払い圧縮、株価高騰と円安で投資収益の激増。さらに政府の法人税減税で純利益を増やしたのだ。純利益のうち半分くらいは、株主への配当増で資産家は笑いが止まらない。
 残りは内部留保で企業内にため込まれ、安倍・菅政権下の今年1︱3月期までの8年余で約102兆円、1・7倍増の総額243兆8千億円もため込んでいる。
 これは労働者国民の血と汗の結晶だ。貧窮に苦しむ労働者に、中小零細業者に還元して当然ではないか。取り返す権利が国民にはある。さしあたって政府は、せめて法人税減税分だけでも取り戻し、国民に分配したらどうか。

アジアの平和とわが国の繁栄は日中関係がカギ

 「防衛白書」は、台湾が「わが国の安全保障にとって重要」という。先だって、防衛副大臣が中国の一地域である台湾地区を「国」と表現し、麻生太郎副総理兼財務相は「日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と発言した。中国内政問題への乱暴な干渉は明白だ。中国共産党の「環球時報」は、「中国の忍耐の限界を探る行為だ」との論評を掲載した。
 自衛隊は、対中国の軍事挑発訓練に明け暮れ、米軍と共に、沖縄などの南西諸島にミサイル基地網構築を急ぐ。7月も、日本全土で米軍と共に大規模な軍事演習を繰り広げ、さらに米英豪などとオーストラリア沖で陸上自衛隊の離島防衛専門部隊「水陸機動団」が遠路参加し軍事演習。グアムでは「敵」に占領された空港奪還の自衛隊と在日米軍による空挺部隊降下訓練も。他方、茂木外務大臣は、中南米を歴訪。国内でもコロナワクチンが足りないのに、「ワクチン外交」で中国に対抗するためだという。
 菅政権は、アメリカの「同盟国」として、世界中で反中国の最前線に立つことで、「大国」として振る舞おうとしている。
 台湾が焦点だ。中国軍がすぐにも軍事作戦に出るかの発言、報道が相次ぎ、「台湾海峡危機」が煽られている。NHKは、「防衛白書」発表の報道で、わざわざデービッドソン米インド太平洋軍司令官の3月の発言、「6年で台湾の制圧を試みる可能性がある」を紹介して白書の意義を強調した。
 だが、米国はそう単純ではない。ミリー米統合参謀本部議長は6月、上院予算委員会の聴聞会にて「中国は台湾問題を重要な国益とみなしているが、現時点で(台湾を武力攻撃する)軍事的な意図や動機はほとんどない。それゆえ、当面の間は(武力攻撃が)発生する可能性はとても低い」と述べている。また、米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は7月6日、「台湾の独立は支持しない」と語り、歴代米政権が踏襲する「一つの中国政策」を堅持する立場を確認した。

日中間を争わせる米国の「帝国戦略」

 バイデン政権になって米国政府の対中政策はトランプ時代と違ってより戦略的になったが、基本線は変わらない。「6年で台湾の制圧」発言は、3月開催の日米2+2(外務・防衛閣僚会合)、そして4月の首脳会談に向けて、菅政権に「反中国」「台湾」の踏み絵を踏ませるためのフレームアップだったと言える。
 衰退著しい米国の対中国戦略の基本は「帝国戦略」で、日中両国を争わせ、両国を共倒れさせようとしている。まさに危険な策略だ。
 ところが菅政権は、米国の衰退はわが国の国際的存在感拡大のチャンスとばかりに、米戦略に乗って対中国のフロントを担い、「大国」として発言権を強めようと画策している。
 しかし、中国はすでにGDPではわが国の3倍(名目GDP)から5倍(購買力平価GDP)、しかも成長する中国と停滞する日本である。購買力平価では日米両国を合算してもまもなく凌駕される。時代錯誤も甚だしいと言わなくてはならない。
 経済同友会の報告が言うとおり、「日本が、同じアジアの一員として中国と接し、欧米諸国と中国の関係性強化、国際社会の安定に貢献することは十分可能である」(本誌22ページ)。そのためにも日本は、台湾に対する中国の立場を「十分理解し、尊重」するとした1972年の日中共同声明の基本線を守らなければならない。これが日中関係の最低限の生命線だ。外交こそが重要だ。
 日本経済を発展させる道は、国民生活を豊かにして内需を拡大することと巨大な中国などアジア諸国との連携・共生である。
 激動の転換期の世界の中で日本は、課題山積だ。国民は展望を切実に求めている。政治の根本的な転換が必要だ。そのための広範な国民的戦線の形成が急がれる。差し迫った総選挙もその闘いの重要な一環である。

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