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『非常勤講師はいま!』 ■ ブックレットのご案内

年百から百五十万で大学支える非常勤講師

JAICOWS会長 羽場 久美子(神奈川大学教授、青山学院大学名誉教授)

 現代日本の高等教育が非常勤講師という名の非正規雇用者によって支えられていることに多くの人は気が付いていないでしよう。非常勤講師の実態については、文部科学省の「学校基本調査」や総務省の「労働力調査」にも詳しく取り上げられることがなく、ほとんど知られていません。
 このたび、「女性科学研究者の環境改善に関する懇談会(JAICOWS)」が、非常勤講師を対象とする調査を実施し、その結果を小冊子にまとめました。

 JAICOWSは、日本学術会議の会員・連携会員・元研究連絡会議のOB・OGなどからなる、女性科学研究者の組織です。1990年代、ジェンダー平等が、日本社会全体においても学術の場においてもなかなか進まず、日本学術会議の女性会員が1名に減少した折、女性の研究連絡協議会(当時)の会員を増やし、女性科学研究者の環境改善を目指して、積極的に話し合い、行動することを目的として、学術会議の外に、外郭団体として創設されました。2020年、学術会議内部では、女性研究者の会員・連携会員は3割を超えました。しかし他方で、世界女性のエンパワーメント指数における日本女性の地位は下がり続け、今やボトムから数えたほうが早いような環境の問題点が明らかになっています。
 もともと非常勤講師は、古くは常勤の職にある人がその専門を他大学でも教える兼任講師から始まったため、その報酬は小遣い程度ないし交通費程度にとどめられてきました。しかし大学数が増え、大学院修了者が増大した近年では、大学院卒で常勤職を持たない「専業非常勤講師」が増加する傾向にあります。にもかかわらずその報酬は低いままに抑えられてきており、多くの専業非常勤講師たちは、生活を維持し、研究を続けるため多くの授業を担当してきましたが、ケアは不十分なままでした。
 今日、非常勤講師は大学の講義や授業のほぼ6割を担っていただいている優秀な研究者の方々でありながら、正規の大学教員に比べて、5分の1から時に10分の1の低い給与で講義を持っていただき、博士号や修士号の取得者も多いにもかかわらず、研究条件や安定的地位もここ30年近く変わらないような状況です。加えて2019年末に始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、大学では感染防止のため対面授業からオンライン授業へという変化をもたらしました。それに対応するため、非常勤講師の多くは、自費で機器を購入し、通信環境を整え、持ち出し時間を多く使って授業をこなさざるを得なくなりました。
 この小冊子が、非常勤講師の置かれている窮状への理解を深めるだけでなく、現代日本の高等教育授業の過半数が大学院卒の非正規雇用者の労働によって成り立っていることの問題点の解決に向け、文部科学省、国や地方の議員たち、高等教育関係者、さらに国民全体が取り組む上での契機と指針となることを心より願ってやみません。