わが国は再び近隣諸国の脅威となってはならない

「敵基地攻撃能力」は戦後の反省と「非軍事」路線からの根本的転換

自主・平和・民主のための広範な国民連合

 安倍政権は、コロナ感染症対策さえ満足でないにもかかわらず、「敵基地攻撃能力保有」の新たな安全保障政策の検討に入った。
 自民党の提言は、「憲法の範囲内で、国際法を遵守しつつ、専守防衛の考え方の下」という条件をつけてはいる。だが、どう取り繕っても実態を変えることはできない。
 わが国の自衛隊という軍隊が、米軍とともに相手国領域内に攻め込む軍事力を保有する。日本は明らかに一線を越える。
 戦後日本は自民党政権の下であっても、アジア諸国の軍事的脅威とならぬことを決意し、「平和国家」を国是としてきた。実際には、アメリカの要請で自衛隊が警察予備隊として発足し再軍備が始まり、次々と強化され、海外派兵もさまざまな理由をつけて強行。戦争のための法体制準備も進み、米軍との対中国、対朝鮮の共同作戦も日常化している。
 それでも建前としてはあくまでも「専守防衛」で、「攻撃力は米軍」という役割分担が言われてきた。
 今回、その建前も取り払って、攻撃力保持の「軍隊」に転換する。アジアの国々は、当然にも対応する。
 「敵基地攻撃能力」保有に反対し、広範な国民運動を巻き起こさなくてはならない。どの国も敵にしない、わが国を攻撃する意志を持たせない、平和外交こそ最大の安全保障である。自主・平和外交を進めるアジアの非戦・共生の政府をめざそうではないか。

好んで近隣国軍事力をわが国の「脅威」に変える愚

 数千キロ先の相手国領域に入り込みミサイルなどを破壊する攻撃力を保持し、中距離核ミサイルを配備する計画の米軍とともに中国の基地や北京など都市を狙う。
 「敵基地攻撃能力」は明白な憲法違反である。歴代自民党政府は、専守防衛の自衛力は許されるという憲法解釈をとってきた。国民の中にも、自国防衛のため専守防衛の自衛隊は必要という認識が定着している。
 その専守防衛政策を安倍政権は公式に転換させようとしている。
 この決定は、東アジアの安全保障環境を激変させる。
 日本が「専守防衛」で攻撃力を十分に持たなかったからこそ、朝鮮も中国もわが国を「脅威」と受け止めず、「敵」として扱ってこなかった。日本から見ると彼らが軍事力を強化しているのは事実だが、それはそのままわが国の脅威ではなかった。
 「脅威」とは、「攻撃能力」と「攻撃意志」の掛け算だから、「意志がゼロなら脅威はゼロ」である。安全保障担当の内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏が本誌でも繰り返し述べている通りである(例えば本誌、2019年8月号)。相手が、能力を強めたとしても、わが国にとっての脅威となるかは別問題だ。
 日本と中国とは1972年の国交正常化後、若干の波風はあっても友好協力関係を発展させてきた。最近まで安倍首相も「完全な関係正常化」を繰り返し口にし、「習近平国家主席国賓来日」を準備していた。両国関係の基本は今も良好である。朝鮮とも諸懸案はあるが、安倍晋三氏も参加した2002年小泉訪朝団での日朝平壌宣言で、「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認」している。両国ともにわが国の「脅威」ではありえない。
 だが、周辺諸国が日本の戦略転換と見なすのは当然である。日本は「意志」をもって「能力」を準備し始めたと判断し、わが国を「脅威」と戦略的に定めることになる。
 わが国の平和と安全にとって最も重要なことは、これらの国々の「攻撃意志」をなくす外交努力である。もしも「脅威」があったとしても小さくする、ゼロにすることもできるからである。

背景はアメリカの対中攻撃エスカレート

 なぜ今、「敵基地攻撃能力」確保なのか?
 河野防衛大臣が陸上イージス・アショア断念を表明して、突如、「敵基地攻撃能力」保持が代案として浮上したようになっている。コロナ感染症対策で国民運動が困難な時期という邪悪な策略もあろう。
 最も決定的だったのはアメリカの対中国軍事戦略である。
 衰退を深めるアメリカは新技術開発競争で中国に大きく立ち遅れ、金融危機切迫で基軸通貨ドル覇権が維持できるか瀬戸際となりつつある。覇権の維持に窮している。
 選挙を控えたトランプ大統領は、中国攻撃を強めることで苦境を抜け出そうと画策している。ポンペオ国務長官は「中国共産党から自由を守ることは現代の使命」だと打ち上げ、反中国の「新たな(国際的)同盟構築」を呼びかけた。
 アメリカは、香港問題に続いて台湾問題を激化させる策動を強めている。台湾海峡は波高くなっている。中距離核ミサイルのアジア配備を進め、海兵隊の抜本的改革に乗り出し、日本を含む第1列島線に中国軍の活動を抑え込み、制海権維持をめざしている。柳澤氏が本誌で詳しく論述している。
 わが国が「敵基地攻撃能力」保有を急ぐのはこうした米軍の対中国軍事戦略と深くかかわっている。
 中谷元元防衛相は、「『第1列島線』を突破されないように全力を挙げる」と、この時期の安保戦略見直しの狙いを明言する(日経新聞8月13日)。
 日米同盟に縛られて対中軍事戦略の一端を担う日本はどうなる。

米中対峙から距離を置く日本に

 中国の技術と経済発展はますますテンポを速める。それに伴った政治的発言力と軍事力の強まりは必然的でもある。長期に米中の対立激化は避けられない。東アジアでは一触即発の局面となっている。
 わが国が選択すべきは、米中対峙の間で、日米同盟強化ではなく、もちろん日中同盟でもない。自主的にアジアの平和を積極的に実現する道を選択しなくてはならない。
 外交や経済協力関係で、国民間の友好で、アジア近隣諸国と友好的関係を築くことが何より重要である。平和のうちに自立の国をつくろうとしたら、どんなに難しかろうがこの道以外にない。
 わが国経済は、中国をはじめアジアの中で成り立つ。近隣諸国を敵視しては破綻する。対米関係で発展してきたわが国財界だが、多くの企業家がアメリカに追随し中国と敵対する道を黙って選択するとは思えない。
 国民大多数の生活は軍拡予算にさらに押しつぶされる。敵基地攻撃能力保有は、途方もない軍事費負担となる。しかも、戦争となれば標的となり国民は命を奪われ、国土は破壊される。
 わが国は、二度と再び、アジアに戦争を起こさせてはならない。「東アジアの不戦」の提言(本誌4ページ)のように東アジア不戦と共生は国民の願いである。
 だから、自民党も長い間、「専守防衛」の原則を守ってきた。いまアメリカは、わが国財界と政界の動きを注視している。最近も、自民党二階幹事長と安倍首相最側近を名指して「親中派」として攻撃し、孤立させようと試みた。自民党内では、習訪日問題も激しい綱引きとなっている。自民党のある議員は、「日本はアジアの国である。アジアにおいて、諸国の信頼を得られずして日本に未来はない」と堂々と正論を述べている。
 広範な勢力は連携して「敵基地攻撃能力」保有に断固反対し国民運動を起こすとともに、自主・平和外交を進める不戦・アジア共生の政府をめざそうではないか。

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