パンデミックと経済危機、緊急対処が迫られる
『日本の進路』編集部
新型コロナウイルスはパンデミック(世界的な大流行)に。公衆安全上の危機にとどまらず、100年に一度といわれた2008年の金融危機を上回る世界危機が避けられないと見られる。国民の生命と安全、健康を守り、急ブレーキがかかった経済混乱、間近となったバブル崩壊と引き起こされる恐慌から国民生活を守るために全力を挙げなくてはならない。
しかし、こうした危機の時ほど、貧困層を中心に国民に犠牲がしわ寄せされ、大企業や大銀行が肥え太る。「危機対策」で覆い隠されるが、危機の時ほど利害対立は最も熾烈となる。
安倍政権の30兆円ともいわれる「経済対策」だが、企業、とりわけ強い企業、銀行が生き残るだけでは許されない。フリーランスなどといわれる労働者や非正規労働者など国民の権利を守り生活を支える政策、零細業者も中小企業も家族農業も、一つもつぶさない政策でなくてはならない。
しかも政府は、この危機を逆手にとって国民主権と民主主義を脅かす「緊急事態条項」を含む特措法改定を強行した。一部を除いて野党各党はこぞって賛成に回った。さらにその後、全野党は「政府と与野党による新たな協議会」を要求、政府自民党は即座に応じた。事実上の「政治休戦」である。
休戦ではなく、政府との闘いを今こそ強化しなくてはならない。
まずは最優先で「国民の命を守る」政治を
パンデミックを宣言したWHOのテドロス事務局長は3月16日の記者会見で、「テスト!テスト!テスト!」と3回叫びPCR検査と感染者隔離の重要さを強調した。いまだ新型コロナウイルスへのワクチンがない状況では、他にウイルスの蔓延に対抗する手段がないからだ。
ところが安倍政権はPCR検査すら実質上拒否してきた。
検査なくして、正しい感染状況は把握できず正しい対策が打てるはずはない。その結果、国民は失わなくてもよかった命を落とす。大阪の70歳代の男性は、2月17日に発熱の症状が出ていたが3月4日になってようやく感染が確認され、悲惨にも3月18日に死亡。埼玉県越谷市の家族全員の感染が確認された5人は、2月25日から高熱などが出ていたが、PCR検査は3月の12日。
検査をしなければ、感染者も患者数も増えない。政府は追及と責任を免れて、国民の命が危険にさらされる。こんな政権を一日たりとも延命させてはならない。
国民の英知と国民とともにあろうとする公務員によって最良の医療行政が可能だ。中国や韓国など近隣諸国、諸国民と協力し合って事態の打開に立ち向かうことができる。
手当てすべきは株価でなく国民の暮らし
国民の命を守ろうとしない安倍政権だが、大企業と資産家を守るための資金投入だけには熱心である。日銀と年金基金の巨額の資金が株価維持や銀行の資金繰りのために毎日に投入されている。どちらも国民が汗水たらして働いたお金だ。日銀は、株価維持のために19日にわずか1日で2000億円も投入した。それでも株価は続落。「日経新聞」は、「国内の金融機関などが3月の決算期末を前に、含み損がこれ以上膨らまないよう」株を売ったと伝えた。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、国民の年金保険料160兆円を運用し、その50%を株式に投資している。損失が出れば年金支給額が大きな影響を受ける。
手当てすべきは、国民の暮らしである。
ただでさえ「国民総貧困化」と言われる状況だ。1990年代以降、労働者の賃金は下がり続け国民の貧困化が進み、国内の需要は著しく停滞している。アベノミクスという安倍政権の7年間を通じて個人消費はわずか0・4%しか増えていない(同じ時期に設備投資は15・5%増)。そこをコロナショックが直撃した。観光客は激減、モノの動きも大幅に制約され生産も激減。国内需要が枯渇し、経済活動が停滞・ストップするのは当然だ。
すでにいくつもの企業が倒産に追い込まれ、あるいは派遣や臨時などの雇用者の雇い止めなどで職が失われている。とくに、フリーランスという安倍政権が推奨してきた個人事業主は、仕事がなくなって収入の道が閉ざされ深刻な状況に追い込まれている。
感染症に罹らなくても生きるか死ぬか問われる事態である。
「総貧困化」の国民に100万円程度の給付金を
安倍政権のあまりのひどさに、ここにきて与野党にも動きが出ている。自民党の若手議員は、「被雇用者に対しては十分な休業補償。事業者、特に中小企業及び小規模事業者(個人事業主を含む)の失われた粗利を100%補償」と要求し、さらに「消費税は当分の間軽減税率の0%」を提案した(「日本の未来を考える懇談会」安藤裕共同代表)。国民民主党の玉木雄一郎代表は、国民すべてに「10万円の給付金」を提案した(その後、党の政策に)。
こうした動きが出るのは当然である。もしこの人びとが本当に、貧困化する国民とともにあろうとするならば安倍政権と徹底して闘わなくてはならない。その覚悟が問われる。
あまりにも評判が悪いので、安倍政権すらも対応せざるを得なくなった。リーマン・ショック時の1万2千円の給付金額よりも多い給付金などの経済対策を検討しているという。トランプ米大統領は、航空機業界救済を最優先だが、「国民すべてに1000ドル給付」を2回行うと提案、イギリスのジョンソン首相は国民に最低所得を保障する「ベーシックインカム」に理解を示している。
どの国も、直接の現金給付で国民生活を無条件に支える以外にないところまで危機は深いのだ。
即刻、国民が生活危機打開、「総貧困化」から抜け出す大胆な現金給付を要求する。
定住する外国人を含むすべての人に、一人当たり10万円を、事態終息まで何回かずつ、総額100万円程度の臨時給付金を要求する。多くの国民には蓄えがほとんどないからだ。危機は長期に及ぶが、「融資」では返さなくてはならない。不安定な生活を送る人びとには返済のめどが立たない。無条件の給付以外に救われない!
富裕層にも支給するのは確かに不平等だ。だから同時に、金融を含む所得への税の累進性を大幅に強めて徴税し給付金支給分を返してもらう。それにとどまらず、国全体がこの危機から抜け出すために必要な財政面での貢献もしてもらうようにする。
需要が消えて経営危機に陥った個人事業主や農家、中小零細企業には、同時に、所得補塡、所得補償、事業継承のための思い切った助成を要求する。給付金は需要を生み出し最低限の内需経済を維持するのに役立つ。
わが国経済は、零細な個人事業主や農家、中小企業で大半が成り立っている。優れた工業製品は中小製造業の技術によって成り立っている。農家は言うに及ばず、零細の建設業者や商店なしに地域に人は住めず経済は成り立たず国土の維持もままならない。彼らの生活が成り立ち、事業活動が継続されることは国民経済にとって不可欠である。
この人びとの経営が成り立つことは内需不足もカバーし、海外依存型の経済から内需型経済に転換を促すことにもなる。
一過性でない、未曽有の危機の引き金に
すでに始まっているこの経済危機だが、コロナショックは引き金にすぎず、未曽有の経済危機の始まりである。
新型コロナウイルスにはいまだ有効なワクチンがなく感染を抑え込もうとすれば、人と物の移動を抑え込む以外ない。しかし、それは経済危機をさらに深刻化させる。経済のために人の行き来を緩めればまた感染が広がる。両立が難しい。
だから、このパンデミックは公衆安全上の脅威にとどまらず、「100年に一度の」と言われた2008年の金融危機を上回る経済的脅威の引き金となる可能性が極めて高い。
リーマン・ショックによる金融危機に始まった世界経済危機は、中国などG20の協調で各国の財政出動と中央銀行の何千兆円にも上る資金供給による株や国債などの資産バブルで辛うじて維持されてきたにすぎなかった。このバブルのなかで各国国民は搾り取られ急速に貧困化し、消費需要は急速に減退した。
財政出動で世界を支えたさしもの巨大な中国経済も限界となった。唯一、資産バブルに潤ったアメリカ経済(高株価に裏付けられた金持ち消費)だけが維持され世界の商品を吞み込んできた。それも限界が明瞭となった。
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」のコメンテーター、ラナ・フォルーハーは次のように述べている。「FRB(米連邦準備理事会)は、米国がどの国と比べても避けられない事態に追い込まれていることに気づいている。つまり、この数十年間、特に2008年以降、低金利による資産価格の高騰に依存してきた経済の崩壊を何としても回避しなければならないということだ」「株式市場によって経済が支えられているだけに、市場が暴落したら経済も崩壊することになるからだ」と。
元世界銀行幹部だったスティグリッツ氏も、同様のポール・ローマー氏も「危機は必ず起こる」「有力な経済学者たちはその点で一致している」などと語ってきたが、その時が間近に迫ったのだ。
われわれはそうした緊張の時期、恐慌に至る懸念の時期を過ごしている。
ILO(国際労働機関)は、この危機で08年の危機を上回る最大で2500万人の失業者が出て、20年末までに少なくとも8600億ドル(93兆円)、最大で3兆4000億ドルの労働賃金が失われると試算。収入減は消費を冷やし企業活動が一段と鈍る悪循環の可能性を指摘した。
根本的な対策、経済政策の大転換が必要な時代となった。まずは政府の財政出動以外にないが、大企業を支援するのではなく、国民の生活支援、最終需要を喚起する財政出動が求められる。そうした政権の転換が必要である。
国債発行ではなく内部留保を吐き出させろ
安倍政権の国民犠牲、大軍拡、大企業のための政治に反対し、国民生活危機打開を最優先にしなくてはならない。
財源は、内部留保をため込む大企業と富裕層から吐き出させれば十分にある。
野党の政策要求も財源は国債発行である。緊急だから、当座はそれが必要だろう。だが、借金は先食いであって、最後的には誰の負担で処理するかの問題が残る。問題解決の先送りにすぎない。
誰が負担すべきか。この問題を避けては最後的に国民の負担が増えるだけで、緊急対策は一時のカンフルにすぎず、結局は地獄が待っていることになる。
「大企業の内部留保を吐き出させる」、463兆円(利益剰余金。金融保険業を除く全企業)に上る内部留保を活用する。これ以外にないし、十分過ぎる根拠がある。
表を見ていただきたい(⼩栗崇資・駒沢⼤学教授「日経新聞」3月5日付)。小栗教授は、2000年代に入って急増した大企業の内部留保の毎年の増加分がどこからきたかを、1970年代からの法人企業統計を使って、時代区分し分析した。結論は、2000年代の内部留保の急拡大が労働者の人件費削減と法人税減税で賄われたことを暴き出した。しかもその使い道は、金融投機に73兆円、自社株買いに18兆円、M&Aなどに135兆円など。歴代政権は、自社株買い解禁や安倍政権がやったGPIFの株式購入枠倍増などで企業の内部留保増大を支援した。
資本金10億円以上の約5千社の内部留保は234兆円、この半分だけでも十分だ。国民一人100万円でも総額130兆円である。しかも給付は内需を維持拡大し、企業の売り上げ増にも貢献する。
「配ってもそれは貯蓄に回るだけ」との批判もあるが、日々その日の食にも事欠き、1円でも安い物を少しばかり買い求めて走り回る庶民とは違う感覚の人びとの言い分だ。
消費税(実質は売上税であり業者負担の大衆課税)については、一度ゼロに戻して再議論する、抜本的見直しが当然である。
「法人税減税は消費税増税とセットである。法人3税の累計減収額は、1990年度から2018年度までで291兆円。また、1992年度から2018年度までの所得税・住民税の累計減収額も270兆円。1989年度から2018年度までの消費税収の累計額は372兆円。消費税の増収分は、すべて法人税・所得税の減収の穴埋めに使われたといえる」(伊藤周平・鹿児島大学教授)からである。しかも、輸出については消費税還付ということで、トヨタ自動車など輸出大企業は年4兆円以上も中小企業が納めた消費税分を懐にしている。
国民は、大企業に大銀行に、政府によって何百兆円と搾り取られてきた。この危機に際して、大企業から、大銀行から返してもらおうではないか。それが政治の責任である。
大企業の法人税を消費税導入以前の水準(例えば1984年、税率43・3%)に戻し、累進制を導入するなど適切な負担を求める。租税特別措置など大企業優遇税制は廃止する。
奪われた富を奪い返す
奪われた富を奪い返す。これだけがこの未曽有の危機に際して唯一、国民が生きられる道である。
各国が自国第一主義で、保護貿易主義が強まる時代、ブロック化の傾向が発展している。こうした時代には、国民を豊かにする内需を拡大してこそ、危機を乗り切ることができる。とくに、食料と再生可能な自然エネルギーなどの自給で国民経済を再建する道が必要である。
そうでなくては、かつてのように食料や石油を求めてアジアに乗り出すような危険な動きを助長することになる。それはアジアとわが国国民にも想像に絶する惨禍をもたらす軍事大国化の道である。
国内のそれぞれの地域が自立し地域経済を再興し国民の生活を豊かにして、対米従属から脱却して真の自立した民主日本への道である。アジアの平和のためにも、日本の生きる道はこれ以外にない。