いかに安定と繁栄をつくるか? 夢は必ずかなう、もしあきらめなければ!
羽場 久美子 青山学院大学教授
羽場久美子青山学院大学教授が「東アジアで戦争をさせない!戦争を避けるには?」との問題意識で、広範な国民連合・東京総会記念講演で熱弁をふるわれた。本稿はそれを基にしている。講演直後の1月24日、「世界終末時計」はさらに20秒進んで、「終末1分40秒前」となったと報じられた。羽場さんの問題提起は、日本の進路を考える上できわめて重要である。誌面の都合で2回に分けて掲載する。見出しも含めて文責は編集部。
[本論の構成]
世界史の転換点で
今、世界とアジアで何が起こっているか(今回、ここまで)
背景に何があるか
どうすればよいのか?
結論と提言
世界史の転換点で
今日は、「世界の中の東アジアと日本」というお題のなか、「力の転換は必然的に戦争を呼ぶ」という米欧の政治学者が最近言っていることから、話を始めたいと思います。現在、「世界の転換点」という状況のなかにあって、近隣諸国と仲良くしていくことが、戦争を起こさない最大の要因でもあるということを今日は確認しておきたいと思います。
お正月早々、イランの司令官が殺害されるという大事件がありました。けれども、アメリカがやることについてはメディアもわが国政府も強い批判ができません。
そうしたなかでトランプ政権が、これまでアメリカがつくってきた国際秩序すら崩し、韓国や日本に多大な軍事費を要求し、近隣国の互いの軍事力を対立させようとしているやり方をぜひ見抜かなくてはなりません。私たちはそれを超えて共存する、共同するということをやっていかなければならない、と思います。
もう一つは、香港のデモです。「民主化」を要求するデモということですが、その過激化は何かおかしいのではと、見守っておりました。条例で禁止された「マスク」をご存じですか。マスクは風邪をひいたときのマスクではないんです。催涙弾をシャットアウトするような防毒マスク、たぶん普通の学生では到底買えないようなマスクの重装備で警官隊と鉄パイプで殴り合う、あるいは議会議場をメチャクチャに壊す。普通ではできないような破壊行動です。こういうことも含めて、その背景に何があるのかをあわせて考えなければなりません。
今日の講演ですけれども、「夢は必ずかなう、もしあきらめなければ!」というドリカムみたいなことを書いてしまっていますが(笑)、これは単に個人的な夢に限られないと思います。東アジアを平和にする、あるいは世界を平和と繁栄で結びつけるというのは、もはや夢ではなくなっています。これを実行しなければ、今のイランのように、中東のように対立が容易に起こるという状況にあるのだという緊張関係のなかで、いかに安定と平和をつくっていくかというお話をさせていただきたいと思います。
18年、19年は歴史的な戦争の節目
そのため、今日はすこし広いスパンで、歴史的にも若干広く、それから物理的にも広い世界の中のアジアということを考えてみたいと思います。
2018年、19年というのは、実は歴史的な戦争の節目の年でした。ご存じのように、18年は第一次世界大戦終焉100年、それから明治維新150周年、そしてさらに19年は第二次世界大戦の開始80年、冷戦終焉30年でした。
20世紀がいかに大戦争の時代であったかということが分かると思います。近代化のなかで多くの若者たちが殺され、体制が音を立てて転換していった20世紀でした。
日本は幸か不幸か、その近代化の過程で日清・日露戦争で勝利し、第一次世界大戦でも勝利して、アジアで唯一、近代国家が軍事的に成立していく道を歩んでいきました。そのなかで朝鮮半島や中国の一部を植民地化しながら力を拡大し、そしてそのまま第二次世界大戦へ突入して、第二次世界大戦では手痛い敗北を被ることになります。
こうして考えると、私たちの日本は、20世紀の100年の歴史のなかで戦争を積み重ねてきた歴史でした。
21世紀は今のところ、とても平和な時代に見えます。けれども、ご存じでしょうか。第一次世界大戦は、その前に長い平和の時代が続き、戦争のことを知らない世代が多数になったときに、勃発しました。それも非常に偶然のような形で。ご存じのようにハプスブルク帝国の次期皇位継承者であるフランツ・フェルディナント大公がボスニアのナショナリストに殺され、そこから始まった戦争でした。
各国の若者たちはその時、遠足にでも行くように手を振って笑いながら戦争に出かけていくんですね。写真に残っています。しかし1週間、あるいは半年で終わると言われていた戦争がクリスマスになっても終わらず、4年4カ月続き、そしてヨーロッパの4つの大帝国がすべて崩れていく事態となります。崩れたのは、セルビア、ボスニアのナショナリストの側ではなくて、4大帝国、ロシア帝国、ドイツ帝国、ハプスブルク帝国、そして、オスマントルコ帝国です。数世紀にわたって続いた大帝国が、小さな一つの事件から始まった戦争によって崩れ去るのです。
新しい力が古い体制を壊していく
これをハーバード大学のグレアム・アリソンという教授は、「体制転換のときに必ず戦争が起こる。そして、通常負けるのはそれまでの先進国である」ということを言っています。必然的に新しい力が、最初は小さなものであっても、古い体制を崩していく。そういう歴史的な転換点にあって、私たちはもう一度、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と、20世紀の三つの戦争がどうして起こったか、そしてその結果どうなったのか考える必要があります。
戦争は、常に新しいシステムへの転換を促すのです。
日本は今、戦争したいという若い国会議員などが出てきていますが、それで戦争を始めたとき、日本が勝てる保証はありません。
今、「ジャパナイゼーション(日本化)」という言葉がアメリカやイギリスで言われているのをご存じですか。それは、「衰退する先進国」という意味だそうです。そんなことをアメリカやイギリスの人がよく言うなと日本人は思うのですが、彼らに言わせるとジャパナイゼーションは、日本のように衰退していくということである、と。
確かに、中国や韓国、周辺国と比べるとそうです。また日本は先進国中、経済成長率が最低です。われわれが頭打ちになっている先進国ということ、そういう先進国の一員であることを意識し、先進国だけでなく、成長する新興国とも手を携え、いかに平和と繁栄をつくっていくかを今こそ考えていかねばならないと思います。
第一次大戦、第二次大戦は日本にも大きな爪痕を残しました。特に第二次大戦ではアメリカが広島と長崎に原爆を投下し、合わせて20万人を超える方々が亡くなりました。本土の空襲でも56万人、東京大空襲では10万人以上が死亡して、100万人を超える方々が被災しました。
私も父が広島で被爆しました。少年の時だったのですが、奇跡的に助かり、人生を全うしましたが、最後はガンで亡くなりました。
私はそうしたなかで幼いころから戦争と平和に関心をもって、国際政治学者になりました。国際政治学は、平和を考える人たちと、戦争を考える人たちと、両方いるような気がしますが(笑)、私たちとしては平和をつくっていく国際政治学者でありたいと思っています。
戦争は隣国との間で始まる
戦争を避けるためにいちばん重要なことは、隣国と仲良くすることです。これはとても簡単でつまらないことに見えますが、戦争は隣国との間で起こります。そして、隣国同士が侵略していくことで、偶発的な対立が本格的な戦争につながっていきます。なので、何があっても隣国と仲良くし続ける、対話し続ける、誤解を解いていく。
今日、例えば中国のハッカーが三菱電機の軍事機密をハッキングしたということが報道に出ていました。本当に中国なのか、ほとんど調べないまま、こういうことを新聞の一面で書いていいのかとも思います。また、たとえそうであっても、お互いに話し合う、「本当にそうなのか」「その裏に何があるのか」「実はそれはフェイクニュースではないのか」ということを含めて、対話といういちばん単純かもしれませんが、最も重要なことを私たちは続けていかなければならないと思います。
私たちは、東アジアで今、非常にきな臭い動きが起こっているとき、安倍首相流でなく、平和論の創始者ヨハン・ガルトゥンクの言う「積極的平和主義」で、対話を重ね、近隣国と戦争をしない、対立しない国の姿勢が重要になります。戦争は隣国との境界線の争いから起こります。尖閣、竹島、北方領土にあまり拘泥しすぎないということがきわめて重要ということを、まず頭に置いておきたいと思います。
核兵器をめぐるダブルスタンダード 局地戦争をたくらむアメリカ
次に、北朝鮮の核ミサイルの開発についてです。
日本では脅威は言われましたが戦争の危機とは結びついていなかった。しかし、16年、17年、18年のころアメリカやヨーロッパに行くと、「すわ、戦争か」と受け止められていました。北朝鮮の核ミサイル開発が明らかになったとき、「世界終末時計」は「危機2分前」を指したのです。
これまで「危機2分前」まで行ったのは2回しかなかった。その1回目は何だったかご存じですか?ソ連の水爆実験です。ソ連の水爆開発と北朝鮮の核ミサイルの開発、これは非常に西側目線ですが、西側から見たとき、東側の国、社会主義国が核ミサイルを開発すると「戦争と地球の危機前状況」なのです。
イスラエルが核を持っていても何も言わない、アメリカが大量に持っていても何も言わない。けれども、北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾)を開発すると「危機2分前」になる。そしてヨーロッパやアメリカでは「もう戦争がいつ起こってもおかしくない」と言われていたのです。
それをいろんな講演で話していたのですが、あまりピンと受け止められなかった。ところが昨日(2020年1月19日)の新聞に出ていましたが、17年に韓国にいたビンセント・ブルックスという在韓米軍司令官の証言です。北朝鮮の核ミサイルが開発・実験されたとき、アメリカは「北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」と、数十万人の在韓米軍の家族たちに撤退命令を出そうとした、つまり戦争を起こそうとした。それを止めたのがこの司令官だったということです。
日本には知らされていなかったかもしれませんが、ヨーロッパやアメリカではこの北朝鮮の核ミサイルをめぐって、東アジアで核戦争が始まるかもしれない、そんな受け止めだった。この直前、17年の10月末には米軍と韓国軍が共同の軍事演習をしました。まさに北朝鮮に対して大きな圧力をかけていた。
ですから、私たちはそれこそ第一次世界大戦が始まる前の若者たちのように、「絶対、日本では戦争なんか起こりっこない」と思っているかもしれませんが、いつでも起こる可能性があるわけです。
「一触即発」の世界
それは今年1月のように、他国の軍司令官を殺害するような出来事がアメリカの手によって起こされるかもしれない。この殺害はすごく大きな事件です。つい先週、ハーバード大学のOB・OGの集まりがあったとき、軍幹部の方が言われていました。逆の国の軍司令官、例えばアメリカの同盟国の司令官を殺害するというようなこと、それを例えば中国がやったということになったら、もう戦争前状況ですよ、と。
アメリカだったから、それがイランに対してだったから、あれで終わった。終わらざるを得なかった。イランの報復ミサイルの爆撃もよく分からないのですが、ウクライナの旅客機を間違って爆撃して百数十人の方々が亡くなられるという痛ましい犠牲を生んで中断しましたが、それがなければ何らかの中東紛争が起こっていたかもしれません。
今、日本は平和ですけれども、世界74億人のなかの23億が紛争状態にあるということをご存じでしょうか? 世界の3分の1が紛争状態にあり、89カ国で数十人以上の人が紛争で亡くなっているという状況にあります。
「一触即発」という状況が各地で起こっており、北朝鮮や韓国や中国でもそうした状況が現れている、香港もそうですね。日本だけ平和ということはあり得ません。
そういう意味で、私たちは近隣国と仲良くし続けるという最大のテーゼを守っていかねばならないと思います。
今、世界とアジアで何が起こっているか
「力の転換」「格差拡大」「東アジアの不安定化」
今、世界で、アジアで何が起こっているか。
三つの重要な、そして単純な出来事は、アメリカの経済的な衰退、中国の経済的な成長、そして、その2国のパワー転換のなかでの新たな戦争の危機があるということです。
ご存じだと思いますが、人の心理というのはすごく複雑で、今自分が頂点にあっても落ちていくかもしれないというとき、ものすごい不安感に襲われます。他方、戦後直後で国と社会が完全に崩壊していても、これから新しい国をつくっていくというとき、人びとは希望に燃えます。
EU(欧州連合)というのは、そういうなかでつくられてきた。ヨーロッパ中が崩壊し、2千年間も戦争し続けてきたヨーロッパ、特にドイツとフランスが、これ以上戦争が続くともうヨーロッパはどうしようもなくなるという状況のなかで、歴史的和解を行います。「敵との和解」「不戦共同体」というのは、そうしてできるものです。しかし戦争をしないとそうした状態をつくれないのでしょうか。今、むしろ衰退のなかで、日本も、中国に対する不満、韓国に対する不満、新興国に対する不安が広がり攻撃的になっています。それはとても危険なことです。
先進国の危機、格差拡大、「自国ファースト」
そうしたなかで、21世紀、まだたった20年ですが、この間、いろんなことがありました。第1に、21世紀に入ってすぐ、同時多発テロ、「9・11」があり、アメリカの中枢が攻撃されて、そこからムスリムに対する戦いが始まります。第2に、リーマン・ショック、ユーロ危機が起こり、先進国の金融危機が始まってくることになります。第3は、東日本大震災・原発事故です。これは自然災害が引き金ですが、たとえ先進国で技術がトップであっても、たった1回の地震や津波で大災害が起こる。そして海のそばにある原発が被害を受けると、それが時に数万年に及ぶ被害を世界中に拡大するという、いわば近代科学技術と先進国の神話を崩していくという意味で、「3・11」は世界的に大きな意味をもちます。
このような形で先進国危機が始まり、そしてさらに具体的には移民・難民危機、トランプのアメリカ大統領選出、そしてトランプもイギリスも「自国ファースト」で、周りの国を単に敵国だけではなく、同盟国さえ自国の利害を侵していると攻撃し始める。こういう状況が起こってきています。
こうしたなかで、朝鮮戦争以来、安定して発展を遂げてきたアジアでも、北朝鮮のミサイル危機があり、その後一転して、韓朝、米朝会談に入りますが、この変化の過程で、非常に危ない戦争が勃発するかもしれない危機があったということを、昨日の新聞は明らかにしていると思います。
われわれにとって、どんな小さな事件も、それを戦争に転化させないための努力がきわめて重要だと思います。今、新興国の急成長のなかで、先進国の格差の拡大があります。日本でも「老後には年金以外に2千万円必要」ということが問題になりました。だが、2千万円以上持っている人はほとんどいません。定年後、6割近い方々は、500万円以下の貯蓄、27%が100万未満という統計が出ています。定年後も格差が広がっています。そうしたなかで、周りの新興国に対するナショナリズムが広がっていきます。
今、まさに100年、200年に一度の転換期というなかで起こっていることを注視し、自分の頭で考えることがこれほど大事な時期はないのではないかと思います。
メディアも最近あまり信用できない状況になっています。日本のメディアは、民主党政権が倒れてから、メディア・リテラシー(批判的に分析する能力)がどんどん下がって、世界の報道自由度ランキングでは、2017年現在180カ国中72位というG7中最下位にあります。
その意味では、私たちはいろんな情報を集めながら自分の頭で考え、そして周りの国と手を携えて、絶対に近隣国と紛争を起こさないということをやっていかなければならないと思います。
北朝鮮のミサイル危機と、アメリカの望む局地戦争
昨年、一昨年は日韓関係が非常に悪化しましたが、その発端となったのが北朝鮮のミサイル危機です。北朝鮮が、1万キロに到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、実験に成功したことが明らかになりました。1万キロというと、北朝鮮からロサンゼルスまで届く、そして、ワシントンはちょっと先ですけれども、ニューヨークやワシントンを脅かすという距離です。
このとき、アメリカは何をしたか。北朝鮮を説得するのではなくて、これに対して、先制攻撃と、それから金正恩を暗殺する、という二つのオプションを出したのです。今回のイランのソレイマニ司令官暗殺のようにです。しかし、先制攻撃というのは、向こうから届く距離のミサイル開発を行っている以上、反撃されれば危なすぎる。アメリカは自国を攻撃されることを極端に恐れます。実はアメリカは、9・11まで、一度も本土が攻撃されたことがない。第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、最初は戦争の外にいることによって戦勝国となり、戦争の被害を最小限にとどめることで急速な発展を遂げていく。だから、「パールハーバー」が怖いのです。パールハーバーは唯一、アメリカが本土ではないが攻撃された事件です。
日本が非常に怖い、信頼できないからこそ、憲法9条を明記させたという側面もあります。日本に対して、あるいは東アジアに対して、アメリカは信頼していないからこそ分断統治をしているということは念頭に置いておいた方がいいと思います。
この北朝鮮の弾道ミサイル、北朝鮮では「火星14号」と呼ばれていますが、これに対し先制攻撃も暗殺もできないという状況になったときに、破壊させるという第3の道に進みます。歴史上初、アメリカの大統領が北朝鮮の金正恩委員長に会ってしたことは、長距離弾道ミサイルを爆破させ破棄させる約束だった。
これも皆さん、覚えておいてください。中距離、短距離ミサイルの開発と実験をトランプは北朝鮮に対して禁じてない。許しているんですね。
しかもあわせて、アメリカ自体が「弱い核」を開発する指令を出している。また「中距離核戦力全廃条約」の破棄をロシアに通告した。
このことが何を意味するか。大陸間弾道弾による世界戦争は、地球を滅ぼしてしまいます。けれども、中東で、中央アジアで、場合によっては東アジアでの小さな局地戦争であれば、アメリカに核ミサイルは届かない。ですから、局地戦争はあっても、遠くであれば超大国にとってはかまわないということになります。
歴史の教訓とアメリカの策略
私は国際政治の研究者ですが、第二次世界大戦のときに、同じようなことを大戦が勃発する前に英仏がドイツに対して行いました。それは英仏伊独4カ国のミュンヘン会談ですが、そこでチェコスロバキアのズデーテン地域をドイツに割譲することで合意し(チェコへの了解もなく!)、英仏がドイツと宥和したと言われます。しかしそれは単にチェコの領土を与えることでドイツを宥和しただけではなく、ドイツの軍隊を東側・ソ連に向けさせた。それが狙いだった。もともとドイツ軍はフランスとの間のアルザス・ロレーヌを取り返そうとしていた。フランスと領土回復のための戦争をしようとしていたドイツの攻撃の矛先を、「ソ連があるよ」と東側に向かわせることで、独ソ戦が開始されていくわけです。
今も同じですね。中東で戦争する、アメリカから遠いです。中央アジアで戦争させる、アメリカから遠いです。アメリカやヨーロッパの大国は、自分たちの国民は絶対に殺したくない。「自国の国民の命を守る」ことはもちろん民主主義の基本ですが、自分の国の国民は絶対に殺さないけれども、そのために他の地域で戦争をするということが、これまでやってきたことです。
もう一つの例ですが、1999年にコソボで空爆がありました。このときに、バルカン半島にいちばん近いイタリア軍の軍人が被曝した。イタリア軍はアメリカに対してものすごく怒った。ヨーロッパで「弱い核」、劣化ウラン弾を使うとは何ごとかということで、EU全体がアメリカに対して抗議して、アメリカは謝罪しました。でも、たぶん同じようなことが中東や中央アジア、シリアで行われているかもしれませんが、それに対しては何も言わないというような問題があります。明らかにここには、米欧とそれ以外の地域における差別があると思います。
東アジアで戦争はあり得る。トランプも考えていた
こうしてみると、あまり明るい話題でなくて申し訳ないのですが、トランプは戦争も考えていた。そして、東アジアの戦争はあり得るということです。なぜか。
今、中国がアメリカを経済的に抜こうとしています。軍事的にもそうだともいわれますが、まだ軍事的には難しいと思います。だからアメリカはそうなる前に中国を抑え込もうとしている。
そうしたなかで、東アジアでもし小さな核戦争があれば、あるいは福島事故のような核爆発が何発かあれば、東アジア経済圏は少なくとも100年ぐらいは停滞しアメリカのリーダーシップは安泰、という状況があります。
こうしたなかで、北朝鮮のミサイル危機があり、そして戦争の危機から一転して北朝鮮と韓国の南北会談があり、そしてトランプと金正恩との会談がありました。そのとき日本のメディアは非常に文在寅政権を批判して、「北がすごく好きな左翼政権、反日政権」という情報が流れました。けれども文さんも単に理想主義で北朝鮮に近づいたのではなくて、「朝鮮半島死なばもろとも」という危機感だったと思います。戦争が起こったら、北だけではすまない、朝鮮戦争の二の舞いは二度と演じたくないというところから、まさに頭の上を核ミサイルが飛び交うような危機的状況、「ダモクレスの剣」の下での和平だったと考えることができます。
その間、日本は何をしたでしょうか。何にもしていません。蚊帳の外と言われました。あるいは北朝鮮のミサイルが飛んできたら座布団をかぶって机の下にもぐる、という避難訓練が行われたともいわれます。アメリカ軍が上陸してきたとき竹やりで戦えという以上の、国民を守るつもりのない訓練だと思います。それより重要なことは手をつなぐこと、対話をすることです。中国も2度、習近平主席が金正恩委員長に会いました。ロシアのプーチン大統領も何回もホットラインで北朝鮮と話し、批判されながら石油や食料を送っていました。
経済封鎖してギリギリになったところで北朝鮮が何をするか。そっちの方がずっと怖いです。だから、周りの国々は接近することで、戦争を防ぐ。まさに敵となっている近隣国と結ぶことで和平をつくるというギリギリの行動です。韓国の側が最後のギリギリのところで抑えた。
日本がいちばん危険なのは、北朝鮮との間でホットラインを持っていないということです。北朝鮮の周りの国は日本以外すべて北朝鮮とのホットラインを持っていることが判明しました。日本だけが蚊帳の外です。そして、同盟国であるアメリカと結び、韓国との間でさえ、疑心暗鬼が非常に強くて、何かあると批判し続ける、あるいは反韓国本、反中国本が大量に出回る。書店に行くと、近隣国批判の本ばかりです。
こうした行動が日本の疑心暗鬼を生み、韓国との対立、もともとは従軍慰安婦とか、徴用工問題の判決ということですが、これに対し日本は、けしからんということで韓国を「ホワイト国」(輸出管理における優遇措置対象国)から締め出す、そして韓国はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の情報を日本に渡さない、というようにお互いにエスカレートする対立合戦に発展することになります。
それが何を意味するか。それは結局、互いの対立をあおり、東アジアの不安定化を自ら作り出していることを私たちは認識しなければならないと思います。重要なことは、対立と緊張ではなく、共同なのです。
(つづく)
【関連記事】力の転換は必然的に戦争を呼ぶ(下)