自主・平和・民主のための広範な国民連合
安倍首相は10月18日、国家安全保障会議(NSC)で「中東への自衛隊派兵」を指示した。
防衛省設置法の「調査・研究」の規定に基づき、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機を早ければ年内にも派遣する。「調査・研究」とは東シナ海などで自衛隊が警戒監視活動を行っている規定で、正当防衛や緊急避難ということで武器使用も想定される。今度は、日本を遠く離れたインド洋から中東地域である。しかも、「事態が緊迫」となれば自衛隊法の「海上警備行動」の発令も見込まれる。中東の海上輸送を確保するため旭日旗を掲げた海自艦船を遊弋させる。イランをはじめ中東諸国、アジア諸国はどう受け取るか。
どこから見てもわが国憲法も否定する「国権の発動たる武力による威嚇」である。しかも、「調査・研究」ということで、「国権の最高機関」としての国会承認も一切なしで進めようとしている。断じて許せない。
中東の緊張をあおるだけであり、わが国が中東の戦争の当事者となる危険極まりない決定である。原油の安定確保どころではない。
中東への自衛隊派兵に反対し、アジアの平和・共生へ広範な勢力の共同を呼びかける。
確かに、日本は原油輸入の9割近くを中東に依存する。今年6月に日本の海運会社のタンカーが攻撃された。政府は「中東地域の平和と安定、わが国の船舶の安全の確保のために独自の取り組みを行う」と言う。
だが根本問題は、誰が地域の「平和と安定」を崩したか、である。
中東地域、すなわち西アジアだけでなく、アジアは300年近くにわたり、欧米大国に蹂躙されて多くの国が植民地支配され「平和と安定」が損なわれてきた。とりわけ原油が出ることがわかって以後の争奪は戦争の歴史だった。だが今、そのことは問うまい。
アメリカの傀儡だったパーレビ王朝を倒したイランは、その後、朝鮮と同じように核保有で自国の存立を確保しようとした。アメリカはこれを阻止しようとした。長い交渉の末、米英仏独中露との間で2015年7月、イランが核開発の大幅な制限を受け入れ、見返りに「制裁」解除の合意が成立し、合意はその後、国連安全保障理事会の決議となった。
ところが米国トランプ大統領が18年5月、一方的に合意からの「離脱」を発表した。地域情勢は一気に緊張した。
こうした経過からも明らかだが、誰が緊張をつくり地域対立をあおったかは明白である。
自衛隊の中東派兵では、地域の平和と安定を守れるはずがなく、むしろわが国船舶はますます攻撃の対象となるだけである。わが国が中東の対立の当事者となる。アメリカはそれを望んでいる。
安倍政権の大国づらした「仲介」外交ではなく、まず、トランプ大統領に「核合意に戻れ!」と要求すべきである。さらに、イランなど中東諸国との友好協力関係を発展させることこそ、自力でわが国船舶の安全と原油を確保する道である。
アメリカの不当極まりない干渉と軍事圧迫に対して、イランはじめアジア諸国と一緒に闘ってこそ地域の平和と安定、わが国の安全も実現できる。
読売新聞は社説で、「日本が中東地域の安定に主体的に関わるのは当然だ」と安倍首相の決定を評価した。首相の胸中をよく理解しているのではないだろうか。
衰退するアメリカはドル支配維持のために露骨な「自国第一主義」を進めている。この事態に直面して、対米従属路線を進めてきた支配層は「見捨てられる」と動揺している。日本の支配層は、アジアの問題に「より主体的に関わる」路線を強めている。今回の中東派兵決定で、また一歩進めた。「戦後外交の総決算」の「強い日本」路線である。
わが国がアジア諸国と対立して喜ぶのはアメリカである。本誌で羽場久美子青山学院大学教授は、日韓などアジアの「対立を期待しあおっているアメリカという国の存在がある」と論じている。
アメリカは軍事力でアジアに介入するには衰退し過ぎている。オバマ前大統領も、「もはや世界の警察官ではない」と力の限界を認めていた。
トランプ政権の「自国で守れ」は、アジア人同士で戦え、戦費負担で消耗しろ、アメリカ製の武器を買え、という策略である。
安倍政権が進めている自衛隊中東派兵など軍事大国化の道は、アジアに戦争をもたらし、アメリカのアジア支配の策略に役立つだけである。
「アジアの共生」だけがわが国の平和の活路である。