いよいよアメリカから自立する時期に
伊波 洋一 参議院議員
昨年は高江で米軍ヘリパッド建設反対の闘いが盛り上がるなかでも、強行的、強権的にヘリパッドは完成させられてしまいました。そして、同じようなことが辺野古新基地建設でも行われようとしています。今年も「血みどろの闘い」が続くのかという感じをもっています。
こうした状況のなかで、私も、一国会議員としてどのような闘いを日米政府に対して取り組めるかが問われていると思っています。そういうことを胸に秘めながら、参議院で糸数慶子議員と会派「沖縄の風」を発足させました。今年こそ、がんばっていきたいと思っています。
■トランプ政権の下、問われる日本の姿勢
トランプ政権はこれまでの政権とは価値観がまったく違う政権です。
そのことはアメリカでも批判されていて、支持率より不支持率の方が高い状況です。これまで、アメリカ大統領選は一つのセレモニーで、それを通して国民の意思一致をつくり上げていったのですが、今回は、国民を分断したように見えます。
この状況に、私たち日本の政権の姿勢が試されていると思います。つまり、日本はアメリカがどんな政権になっても、追従していくのかどうかということです。ドイツのメルケル首相などはトランプ氏の発言などについて毅然として強く意見し、たしなめています。しかし、日本の安倍首相には、あくまでトランプ政権にもついていこうという姿勢しか見えません。こうした安倍首相の姿勢に対し国民の責任として本当にそれでいいのかと、問いを発していかなければいけないのではないかと思います。
トランプ政権が中国をめぐって、これまでの「一つの中国」政策ではなくて、台湾も認めるような動きも示し、米中間に緊張が走っています。極めて危険な動きであるということを認識しなければなりません。
そういうなかで、トランプ政権はこれまで以上に基地負担などを日本に負わせようという思惑を隠していません。こうした動きを見極めながら、日米安保で、本当に日本の安全が確保できるのかが問われるようになると思います。国民もそこに目を向けて、しっかりと問いかけなくてはいけないのではないかと思います。
「アメリカ第一主義」のためには戦争もいとわないような政権です。こんなアメリカが日本にとって本当にパートナーと言えるのでしょうか。ところが、アメリカの対中政策を支えるために、安倍首相は、今年1月にフィリピンやベトナムに行って、おカネをばらまいています。これは日本のためというより日米同盟とアメリカのためです。
フィリピンでは「ミサイルを供与する」という話まで出ました。ベトナムには新造巡視船6隻を供与することを決めました。フィリピンには昨年6月に大型巡視船2隻を供与しています。まるで日本は率先して軍事的緊張をつくり出すようなことをやっています。「平和国家・日本」を捨て去ろうという意図がとても強いと感じています。
■モノ言えない仕組みが地位協定で
昨年、沖縄県うるま市で起きた20歳女性への強姦殺人事件は戦後沖縄で起こった米軍犯罪のなかでも最も残虐な事件の一つでした。
この事件でも日米地位協定がクローズアップされ、その抜本改定を求める声は大きく高まりました。
それを受けて、日米地位協定で保護される米軍属の範囲を限定する補足協定が発効しました。この問題について安倍政権は、これまで曖昧だった「軍属の範囲の問題」を整理したとしていますが、そういう問題ではありません。国土の0・6%にすぎない狭い沖縄に70%以上の在日米軍基地があるという過重負担が是正されないまま、その現状を存続させていることが大きな問題なのです。いつでも同様な事件・事故が起きる状況が継続させているということです。
沖縄の基地負担の根本的な軽減を実現しなければならないはずです。
また、沖縄の米軍基地では、どれだけの兵力を置くかなどはすべてアメリカ軍が決めていて、日本の安全保障にどう寄与しているのか、何ら議論されないまま、アメリカの思うがままに運用されている現状があります。環境問題などでアメリカ国内ではできない訓練でも、沖縄の米軍基地では集中してできるということになっています。
このように沖縄に対する差別政策はアメリカ側、そして日本側のダブル構造です。それが沖縄県民の憤りの原因にもなっているわけです。
昨年12月に起きた名護市でのオスプレイの墜落事故でも、アメリカ側が「不時着だ」と言い張りました。在沖米4軍調整官に至っては、住宅地に落ちなかったことを理由に「感謝せよ」と言い放ちました。このことにも怒りを覚えるのですが、さらに問題なのはアメリカ側のこうした姿勢に何ら抗議しないで、そのまま認めていく日本政府の態度です。さらに、事故原因も解明されないままオスプレイの飛行再開を認めていく日本政府の姿勢は本当に情けないと思います。
この情けない政府の姿勢について、国民も「仕方がない」とあきらめさせてしまう仕組みが今の日米地位協定です。日米地位協定では基本的に米軍の管理運営に関して何も言えないことになっています。さらに在日米軍基地に関しても、管理権がアメリカ側に委ねられ、あたかも治外法権のようになっています。
しかし、私が外交防衛委員会で取り上げて明らかにしたように、管理権はアメリカ側にあったとしても、米軍基地内に国内法は適用されているし、アメリカ軍には「国内法の遵守義務」が課せられています。この点を日本政府としてしっかり主張すれば、アメリカ側も応えざるを得なくなります。こうした大事なことを求めない日本政府と、求めない方便として地位協定があるわけです。
アメリカ側によるルール無視に沖縄から抗議の声を上げても、その声がアメリカ政府には届かない仕組みになっているのです。日本政府の段階で止まってしまうのです。
日本政府の意思として、アメリカ軍基地にも国内法を適用させていく流れをつくっていくことが大事です。治外法権のようになってる地位協定の抜本改定を求めるとともに、日本政府に国内法の適用を求める課題が重要です。
それから、米軍基地にも国内法の適用を求める取り組みを自治体含めて行っていくことが求められていると思います。
地位協定で米軍基地は治外法権という間違った前提に立つのではなくて、国内法も適用されるということを踏まえながら取り組んでいくことが必要です。これは米軍基地に風穴をあけることにもなります。
■トランプ政権と「価値観」共有できるのか
日本のありようが本当に問われています。安倍首相は憲法改正に動きだしていますが、これもアメリカの要求に応える形で進めようとしています。つまり、日本のための憲法改正ではなくて、日米同盟のための憲法改正に見えてなりません。私たち国民自身がそのことを本格的に考える時期にきているのではないでしょうか。
今までの通り、日米同盟の下、ただアメリカに追随すればいいのかということです。
陸上自衛隊の「陸戦研究」2014年2月号に「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」という論文があります。このなかには「南西諸島の地対艦ミサイルや航空自衛隊基地や民間空港に展開する航空自衛隊及び米空軍部隊へ弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃を中国が繰り返しても、中国本土のミサイル基地や航空基地を米軍が打撃しないとするのは、日米同盟の信頼性を揺るがすことになりかねない」と<やられっ放しの日本>を揶揄する表現があります。これは中国に対して日米同盟が取り組んでいる「オフショア・コントロール戦略」への指摘です。
アメリカの対中国敵視政策が本格化するなかで、南西諸島や日本列島が中国に対する「盾」の役割を担わされるということで、自衛隊内で日米同盟は「私たちの国を本当に防衛しているのか」という疑問も出始めています。
私は、11年頃から中国に対するアメリカの軍事戦略に注目してきました。自衛隊のウェブサイトなどで、アメリカの対中国戦略の変遷を知ることができます。1997年にアメリカ連邦議会が設置した国防委員会は、10年から20年の間に中国の軍事力の台頭で周辺諸国に前方展開している米軍基地は中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルの射程距離に入るようになり容易に無力化されると指摘し、前方展開に代わる打撃力の研究を勧告しました。
当初、アメリカは前方展開基地が攻撃されても中国に勝利するための「エアシー・バトル戦略」を論じていましたが、2001年に米国同時テロが起こり、アフガニスタン戦争、イラク戦争と対テロ戦争が続く中で、08年にリーマン・ショックによる世界的金融危機が起きてアメリカ経済が停滞するなか、中国では10%台の経済成長が続き、経済力も軍事力も拡大しました。
その結果、アメリカは「エアシー・バトル戦略」で中国に勝利することは困難との認識をもつようになり、米中の衝突は全面戦争や核戦争にエスカレートする恐れもあることから米中戦争を回避する方向に転換するようになり、「エアシー・バトル」の表現も廃止されました。代わりに登場しているのが「オフショア・コントロール戦略」です。
日本列島から続く奄美諸島や沖縄本島などの南西諸島、台湾、フィリピン・ルソン島を第1列島線と位置づけて中国艦船の太平洋通過を許さないために地対艦ミサイル基地などを島々に配備して第1列島線上で中国軍を阻止します。中国軍が地対艦ミサイル部隊を攻撃することに備えて地対空ミサイル部隊や有事即応部隊も配備します。現在、防衛省が進める第1列島線上の南西諸島―奄美大島、沖縄本島、宮古島や石垣島への地対艦ミサイル部隊配備のための自衛隊基地建設はこれにあたります。
海上自衛隊幹部学校のウェブサイトコラムの記述では――
☆「中国の領域に対する縦深攻撃は実施しないが、これは核の応酬へとエスカレートする可能性を低減し、戦争の終結を容易にするための配慮である」
☆「この戦略における米軍の戦争目的は、敵対行為を終了させ、戦争開始前の境界線へ回帰すること、すなわち『旧に復する』ことにある。中国が『敵に教訓を与えた』と宣言して戦争を終わらせることを狙いとしているのである」
としています。すなわち、第1列島線にある南西諸島などを戦場にすることで中国が「敵に教訓を与えた」とする敵役を日本が引き受ける構図になっているのです。さらに、
☆「オフショア・コントロールは、中国のインフラを破壊しないことにより、紛争後の世界貿易の回復は促進される。経済的な現実として、グローバルな繁栄は、中国の繁栄に多く依存するということである」
と説明し、中国の周辺地域での戦闘に限定することによって米中の経済的不利益を最小限にしていく意図が見えます。
このような戦場の提供を求めるアメリカの戦略を積極的に受け入れようとしているのは安倍政権だけであり、アセアン諸国は受け入れず、フィリピンのドゥテルテ大統領も安倍首相の「ミサイル提供」を拒否したとフィリピンで報じられました。
先に紹介した「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」は、現在の前方展開戦略から同盟重視のオフショア・コントロール、駐留なき安保のオフショア・バランシングまでを論じていますが、「中国が世界第1位の経済・軍事大国になる25年の世界に向け、オフショア・バランシングの戦略に舵を切ったとする論調もある」としています。
アジア太平洋地域における陸・空軍、海兵隊部隊の前方展開戦力の撤退も論じられており、その先には、アジア太平洋の覇権を中国と分け合う時期が想定されます。
アメリカでは、「アメリカ第一主義」を前面に打ち出したトランプ政権が誕生しました。そして、同盟国や近隣諸国・アジア諸国との信頼より「アメリカの雇用や利益」を最優先する姿勢を打ち出しています。
今後、トランプ政権がアメリカ軍への協力などについて日本政府に何と言ってくるか分かりません。すでに基地負担を増やせとも言っています。日米貿易は不公正だとも言っています。日米安保に依存する安倍政権は大きな矛盾を抱えています。安倍首相は「共有する価値観」と言いますが、はたしてトランプ大統領と価値観が「共有」できるかどうか。そもそも「自由、民主主義、人権、法の支配」を共有する価値としているかにも疑問があります。中国の習近平主席がダボス会議で自由貿易を説き、トランプ大統領は、逆に報復関税を主張しています。
もう、アメリカに頼らず、独自に中国とも対話するべきです。
いよいよアメリカから自立する時期がきたのではないでしょうか。
今年は、日中国交回復45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年です。沖縄など国内に多くの犠牲と負担を強いてきた日米同盟は、72年前の沖縄戦を再現させる南西諸島の戦場化まで準備しだしました。
アメリカを追い抜き世界一の経済力になることが確実視される隣国の中国を敵に回して戦争を準備するのではなく、日本と中国が友好関係を取り戻して互いに平和的に発展していくことこそが求められています。
今の日本が進もうとしている方向性を示す「リトマス試験紙」が沖縄で起きていることではないでしょうか。それは中国との戦争への道です。
沖縄県民は翁長知事を先頭に「オール沖縄」「島ぐるみ」という形で、新たな基地負担ノーの意思を明らかにしています。私が勝利した昨年の参院選挙でも明らかです。沖縄県民が求める方向は、日本が戦争への道を歩むのではなく、中国を含めて近隣諸国との平和をめざすものです。こうした沖縄県民の総意が通らないのは本当におかしいです。日本は本当に民主主義国家としての対応が国民に求められています。私は、国会での活動を通して、戦争への道ではなく、皆さまとともに平和への道を追求していきたいと思います。【文責編集部】