「すべての道はTPPへ」か?
官邸主導の強引な農業「改革」反対
札幌公聴会で陳述する山居忠彰書記長
昨日10月26日、札幌市で行われた環太平洋経済連携協定(TPP)批准に向けた衆議院特別委員会の地方公聴会に陳述人として参加してきました。
とにかく強行採決に向けての環境整備というか、強引なものでした。質問する側は日本維新の会まで含めて賛成派が3人で、反対は2人(民進と共産の推薦)ですから、発言の機会は賛成派の方が多い。それでも酪農学園大学の中原准一名誉教授と2人で、断固反対の立場から、「承認ありきではなく、本質的な議論に時間をかけて審議しろ」ということを訴えました。
賛成の陳述人として、全自動イカ釣り機を製造・輸出する企業やホタテなどの輸出に関わっている人が、輸出手続きの簡素化や知財保護の観点からTPP推進を発言した。その方に、「どこへ輸出しているのですか」と質問があった。返答は「台湾や中国です」と。台湾も中国もTPPには加わっておらず関係ないわけで、笑い話ですね。とにかくTPPありきで、具体的な検討など全くしていない実態がこんなところにも出ているわけです。許しがたいことです。
北海道農業のへの影響は甚大
安倍首相は「国家百年の計だ」と言って強引に進めていますが、国論を二分しているTPPです。きちんとした情報開示、丁寧な議論が求められているのに今の進め方はあまりに拙速で議論なしで強行採決のような雰囲気で、言語道断です。そもそも国会決議にも違反です。
及ぼす影響も、試算は過小評価でいい加減。影響金額は次々減って、最初は4兆円ぐらいの影響があると言っていたが、最近はほとんど影響がないような話に。さらに、逆に、経済に良い影響を与えるから経済全体は相乗効果で大きくなるんだと。
農業への影響も負の部分も正しくきちんと説明して、こういう対策をとるのでこのくらいになるという説明ではない。ただ「安心して下さい」「万全の対策をしていますから」というだけです。では本当に安心できるのか、影響はないのかと問い詰めると、「影響はある」「でも、限定的です」と。
効果もあるかもしれないが、当然、負の効果もあるわけです。相互マイナス効果(アナジー効果)の部分を直視していない。
たとえば、北海道では、食品など農業関連の製造業が重要な産業で、雇用も大きい。また、北海道は馬鈴薯など畑作が大きな比重を占め、水田と違って輪作で障害を避けているわけですが、その一角が輸入で崩れると輪作体系の全体が崩壊するわけです。こうしたことは予測がつかないわけです。
北海道は、日本の農業生産高8兆5千億円の中で1兆1千億円で断トツです。2位の茨城以下は4千億円そこそこですから倍以上です。北海道がいちばん影響が出るのはハッキリしている。コメにしても、新潟県についで北海道が2位ですが、その影響はゼロですと。このようにして、全部影響がないように言う。そこに生産者の方がたは不安を持つわけです。当然にも対策も不十分だから、不満もある。
北海道農業が甚大な影響を受けるのは間違いありません。それは日本農業の崩壊です。
いまのすべての農政はTPPに通ず
ですから、8月31日に、旭川市でTPP批准への抗議行動を行いました。
農協中央会が、TPP反対はやめたわけではないが、「静観」となっています。農協法でがんじがらめにさせられて、動けないという部分もあります。その上、これまではその法律で協同組合だから儲けてはいけないとなっていたところを、これからは儲けろと。こうして動けなくなっている。
農民連盟は、それと違がって法律もないし、補助金ももらっていない。農家が自ら分担金を出してやっている。自分たちの運動として、自分たちの現場の声を国に届けようということでやっていますから、TPP反対の運動も大いにできるわけです。断固阻止ということでこれまでもやってきたし、これからも揺るぎなく頑張っていきます。
旭川集会では、8月に台風が続いていて、31日も台風の接近の中でした。そこで、台風被害対策要求が第1番の決議になりました。
4つ決議を上げましたが、2番目はTPP国会承認断固反対と基本農政に関わることです。すべての道はローマに通ず、ではありませんが、いまのすべての農政はTPPに通じています。農協法改正や農業委員会法改正など、官邸主導の農政改革に反対する決議です。
3つ目が、コメ政策改革です。生産調整配分をなくすにしても、国はコメ生産にどの程度関わるのか。まったく国民の食料に責任を放棄してしまうのか。
決議を、道内全市町村議会や首長に届けています。道議会や知事にも、国にも届けて申し入れています。その中で国は、「コメ政策はまったく変わりません、従来通りです」という。変わるところは、生産調整の配分を国がしないことと、コメの直接支払(民主党政権時に戸別所得補償で10㌃1万5千円を、自公政権は7千5百円に減額)を廃止する、「この2点だけです、後はこれまで通りです」というわけです。「ちょっと待て」ですね。この2点が変わるというのは本当に大きなことで、この2つが変われば、農家のコメ生産は成り立たなくなります。
もうひとつ、4つ目は、酪農の関係で指定生乳生産者団体制度です。これを廃止しようという。これもおかしな話で、毎日の食卓に上がる生乳の需要に対して、生産と供給で責任を持たないアウトサイダー業者の要求です。高いところに売って儲けようということです。良いとこ取りです。現在は全国で10の指定団体が需要に対応した供給に責任を持っている。北海道の指定団体は農協系統の団体です。それを潰そうとしている。
これまでの日本農業を最低限のところで支えてきた制度を完全に解体し、TPPに沿った新しい仕組みをつくる。そうした攻撃だとみています。4つの点はつながっていて、そこのところをしっかりと訴えて、道や国に対して働きかけて運動を進めているところです。
専業で頑張る農家
北海道の農家はいま、ほとんどが専業農家です。みな頑張っていますよ。それでも農家戸数がどんどん減っていくという問題はあります。
戦後すぐは、「外地」からの引き上げなどもあり、開拓農民などでどんどん戸数が増えた。多分、25、6万戸まで増えました。その後10万戸くらいの時が長くて、その後、減って、昨年の農林業センサスでは3万8千戸くらい、4万戸を切った。隣近所の辞めていく農地を残った農家が買えば済むという状況ではなくなってきた。それでも皆、規模を拡大しながら頑張っている。
でも、本州と違って北海道は、厳しい状況がある。これから雪が降り、1年のうち、半分は動けないという厳しさがある。短い夏の間に最大限効率よく生産する、機械化して能率よくやっていかないといけない。しかも、本州のようにすぐ近くに大きな町があり、働く場所があるわけでないので、兼業というのがほとんど不可能です。ですから、必然的に専業ということで頑張らざるを得ない。
頑張っているのだが、農産物の価格が低迷しほとんど上がらない。価格を決めるシステムはほぼ市場に任されて、以前のように国が価格支持政策をしない。いわば人災です。政治のもたらした人災です。
それでも頑張ってやっているところに、台風という天災がやってきた。ダブルパンチです。さらにTPPが強行されようとしている。トリプルパンチです。
政府は、これからは意欲と能力のある農家に絞って、限定して、選択と集中でやるんだという。
北海道で見ると、ちょっと前までずっと8万から10万戸くらいできた。そこから一生懸命やる人がたくさん出てきた一方で、経営がずさんで、借金がかさんで農業を辞めた人もたくさん出て、4万戸台にまでなりました。
そこから先が、4万戸から減り始めた部分はちょっと違いがあります。TPPとかいろいろなことを考えて、足元が明るいうちに辞めた方がいいと、農業を辞める人が出て来ています。要するに、意欲と能力のある人から辞めているのです。これはちょっと大変な事態だなと思っています。選択と集中というが、国の政策が間違っているのではないか。
日本の農業にとっては重大な事態ではないでしょうか。長期的に日本の農業はどうするのか、北海道はどうするのか、見えなくなる。食料安全保障という視点で考えると重大問題です。食料安保は突き詰めると食料主権、国民主権の問題です。TPPでその主権も放棄される。
甚大な台風被害、でもまた「頑張ろう」と
とくに今年は台風が4つも来たわけで過去になく大変です。被害総額も2800億円ともいわれ史上最高です。農業に限っては、農地で約3万8千ヘクタール、被害額にして543億円。大きいのは馬鈴薯、玉ねぎ、スイートコーン、それにビートも。農作物だけではなくて共同施設など農業関連設備も流されたりで被害を受けた。農地そのものが水でえぐられて流されたというようなところもあります。3代4代にわたって毎年堆肥を入れて作ってきた良い土壌が失われ、途方に暮れている方もいます。
十勝から札幌に行くところなど、線路が流され、道路も、高速道路も流された地域もあります。農産物は、ダメージは受けたが何とかなった地域でも、輸送手段がない。
また、今回の水害は、これまでと違って広い範囲に被害が及んだ。北海道は広いですから、これまでは災害があっても部分的、一部にとどまった。ところが、今回は北海道179市町村のうち140が被害を受けた。ほとんど全部の市町村です。観測史上初めてのことだそうです。北海道直撃の台風も観測史上初めてだそうです。言葉にならないくらい衝撃でした。
それでも、農家はこれまでも、早めに雪が来てしまって雪の下から農産物を収穫したりしたこともあるなど、自然災害と闘ってきた強さがあります。冬になって全部抑えつけられるが、雪が解けて周りが見えてくると、また何とかしなくちゃと始める、希望をもって始める強さが備わっています。
いまも、結構すごい被害受けているのに、前向きにやろうという人が多い。日本の食糧基地としての北海道のこの天災、もっと注目し、政府も対策を進めてほしい。
農協なくして家族農業と地域生活は成り立たない
農協改革、農協解体ですが、これは政府の産業競争力会議だとか、規制改革推進会議などが強引に進めています。
そこの企業家の民間委員が、「不連続の農政改革」だと。不連続ということは、過去とは関係ない、ぶった切って農政改革をやるよということですね。「農業を知らない。知らないから改革できるのだ」と言っている。知らないでやる改革は、「改革」ではなくて「ぶっ潰し」でしょう。
もともと官邸が進める農業改革は、農業者を入れない改革です。要するにアウトサイダーだけの改革です。自分たちだけが儲かればよいという人たち、企業のための「改革」です。
そうした改革ですから、本来の日本農業をどうするかが忘れられています。農協が戦後農業発展に果たしてきた役割など無視しています。地方創生などというが、農協の果たす役割を考えなくてやれるのか。
ほとんどのところは、農協が金融機関であったり、生産資材を売ってくれるところであり、農作物を買ってくれるところなんです。生活物資の販売店舗でもあり、ガソリンスタンドも農協しかない町村がいくつもある。農協がなければ、生活も成り立たないのです。
北海道には108の農協があります。農業生産高全国1ということは、農業が盛んで、農協は農業指導もしていて、農協本来の役割を果たしているということです。農協の本来の機能を果たしていないと攻撃されるが、少なくとも北海道では果たしています。
農協改革のポイントは、JA全中を解体する、全農を株式会社化する、それと信共(信用事業と共済事業)分離です。最終的には、准組合員をなくすことでしょう。
農協の組合員は全国で1000万人ですが、正組合員は450万人、准組合員が550万人。准組合員は、農協の預金とか保険とか共済に入るから、これを全部引っ張ってきたいということでしょう。それに農協のカネでしょう。アメリカも狙っているのでしょうか。
農協の全国的な販売網、これも欲しい。また、穀物などの輸入も手掛けているが、いまは遺伝子組み換え農産物は扱わない。それがアメリカには面白くない。株式会社化すれば、どうにでもなるということでしょう。
いま農協攻撃で、全農が扱う農業資材が高いと、韓国と比較していう。ところが価格の問題は言うが、質の問題は出さない。日本の農業に適合した質の高い資材とは違う。韓国の生産者米価は日本の価格の半分だ。資材費が安いのには根拠がある。労働者の賃金も違うし、物価も違う、違って当然です。また、韓国だけが海外ではない。
負けない闘いを連携して
闘いの手は緩めない。勝利を収めようとは思わないが、孫子の兵法に習い、負けない闘い、撤退しない闘いをしたい。
農協には組合員が1千万人います。さらに、北海道農協も、いま、550万人の全道民を味方につけてという運動をしている。もっと大きいのは、同じ協同組合の生活協同組合がある。組合員は全国に6千万人いる。
いまだけではなく、将来のことを考えた多様性、持続性ある社会をめざす運動を考えたい。同じ志を持った全国の皆さんと連帯して頑張りたい。(文責編集部)